日本において、2019年は「キャッシュレス元年」とされ、クレジットカードやQRコード決済のような、各種キャッシュレス決済の利用が進みました。
それからそれなりの時間が経過しましたが、キャッシュレス決済は「使っている人はとても使っているけれど、使っていない人はまったく使っていない」という状態で落ち着いているように思います。
キャッシュレス決済が普及している中国では、6割以上の決済がキャッシュレスで行われていますが、日本では2割未満程度の利用だそうです。現金がいまだに使われている理由や、背景を考察してみましょう。
□現金の歴史
歴史上、先に生まれた現金は硬貨の方でした。硬貨といっても現在のような金属ではなく、貝や石、塩など保存がきくものが硬貨として使われていたようです。破損や変形がしにくい金属の硬貨は、かなりあとになってに発明されています。
10世紀になると、最初の紙幣が誕生します。紙幣にしても硬貨にしても、現金は「偽造」との闘いだったと言っても過言ではないでしょう。印刷技術や鋳造技術で偽造そのものを防いだり、強い罰則を設けることによって偽造を抑えようとしてきました。
□現金のデメリット
しかし、現金の偽造を完全に防ぐことはできませんでした。その結果として、高額紙幣を作らない/使わないようにしたり、表示額以上のコストをかけて製造したりなど、不便を強いられていました。また、当然のことですが現金はどれも同じ見た目ですので、紛失したり盗まれたりした際に、自分のものであることを証明する術がないのも問題でした。
□初期のキャッシュレス決済
「クレジットカード」は、所有者の支払い能力に応じて、「ツケ」で買い物をすることができる仕組みです。クレジットカードは上述の現金が抱える問題をいくつか解決しましたが、不正利用など別の問題も生みました。
また「プリペイドカード」は現金を有価証券の形に変えて利用できるキャッシュレス決済ですが、こちらもカードの破損や紛失、盗難には対応できておらず、現金の完全な代替にはなりえませんでした。
□QRコード決済と仮想通貨
インターネットを利用した「QRコード決済」は、サーバー上に記録された残高をもとに取引ができるため、紛失や悪用のリスクが少ない決済方法です。
現金のように真贋判定する必要もなく、クレジットカードのように信用の査定も必要ないので、現金やクレジットカードの運用に自信がない地域で爆発的に普及しました。
「仮想通貨」はその進化のスピードが凄まじく、定義が難しくなっていますが、インターネットを利用した決済のうち、よりセキュリティが担保されたもの、という認識で良さそうです。
□現金は増減しない
別の視点で現金を見てみましょう。現金を手元に持っているだけでは増えることはありません。株式や債権などの有価証券に変換することで初めて、評価額として増加する可能性があります。もちろん、減少する可能性もあるのですが。
□キャッシュレスの問題点
このようにみてみると、キャッシュレス決済はいずれも良くできており、現金の利用が少なくなっていくのは必然のような気もします。しかし、多くの人が現金の利用をやめない理由はなんでしょうか。
ひとつは、キャッシュレスの概念がややこしい、ということにありそうです。価値を有している「何か」がどこにあって、現在いくらで、どのようにすれば使えるのか。実際に使っている人であっても完璧に理解するのは難しそうです。
□現金が活きる場面
また、災害が多い日本ですが、被災経験者が口を揃えて言うのは、災害時にあらゆるキャッシュレス決済が使えなくなった、ということです。電気が止まった状態では、インターネットも決済端末も安定して使うことができません。その場合は現金が役に立った、ということです。
□現金が使える文化
筆者としては、現金が使える世の中であることを興味深く思います。貨幣制度は歴史によって磨かれた、人類の知恵の一つです。価値のないものに価値を与え、何億もの人がそれを守って使っている、というのは信じがたいけれど事実です。その暗黙の了解が愛おしくさえ思えます。
【吉田貴之】info@nowebnolife.com
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兵庫県神戸市在住。Webサイトの企画や制作、運営を生業としながら、情報の整理や表現について研究しています。