[5185] 立つタオルの巻/オープンな場でのコミュニケーション

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《同じ情報を共有していることを共有する》

■わが逃走[276]
 立つタオルの巻
 斎藤 浩

■crossroads[101]
 オープンな場でのコミュニケーション
 若林健一
 



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■わが逃走[276]
立つタオルの巻

斎藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20210311110200.html

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高級なバスタオルを使っている。もちろんいただきものである。

安物と違って穴があいたり破れたりしない。なので10年以上使っている。

10年も使っていると、やわらかかった感触も徐々にゴワゴワしてくる。

私は柔軟剤が嫌いで、いただきものはありがたく使う主義なものだから、新聞契約時にもらった安い粉の洗剤でそのタオルを洗い続けた結果ゴワゴワしてきたのではないかと推測した。

ごく親しい間柄の年上の女性Aさん(年齢非公開)は、「あなたの体からゴワ汁が分泌されて、それがタオルに染み込むからゴワゴワするのよ」と推測する。まあ、それも原因のひとつなのかもしれない。

そうこうしているうちに、タオルはゴワゴワを通り越してガチガチになってきた。

ある日、あまりに硬いので、試みに立たせてみた。すると、あっさり自立したのだ。

タオルが立った!!

立ったことはそれなりに驚きであり、なんとなく嬉しくもあったが、バスタオルとしての機能を考えると、このままにしておくのもどうかという気になった。

イメージとして、180番くらいの紙ヤスリの感触に近い。怪我をするレベルだ。

これはいかん。

というわけで、洗剤を粉から現在主流とされる液体に変えてみた。当初、際立つような効果は感じなかったが、半年もすると、徐々に柔らかくなってきたのが体感的にわかるようになる。

さらに半年経過したところ、かつての姿からは想像もできないほど普通のタオルになってしまった。それはそれで正しい在り方なのだろうが、個性が失われ、面白みがなくなったようにも思えてくる。

タオルに面白みが必要かといえば必ずしも必要ではないが、しかし、そこにあるはずもない“人となり”のようなものがあったのなら、10年かけて構築された人格がゆっくりと初期化されてしまったような印象をおぼえる。

これにはある種の寂しさを感じずにはいられないのだった。

誠にもって、どうでもいい話である。今回、“立つタオル”の写真掲載も考えたが、あまりの珍妙さゆえに、読者にショックを与えてはいけないと判断し、見送ることとした。


【さいとう・ひろし】
saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/


1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。


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■crossroads[101]
オープンな場でのコミュニケーション

若林健一
https://bn.dgcr.com/archives/20210311110100.html

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こんにちは、若林です。

みなさん、確定申告は終わりましたか? 私は終わりました(ドヤ顔)。

今年から青色申告にすることもあり、知り合いの税理士さんに手伝っていただいたのですが、やっぱり専門家にやっていただくと安心感が全然違いました。

私ぐらいの収入と支出であれば、会計サービスを使えば自分でもできるのかもしれませんし、その方が出費は少なくて済むのかもしれません。

しかし、税務処理以外にも仕事を紹介していただくようなこともありましたし、トータルで考えればそれ以上のメリットがあったと思います。

確定申告に苦戦しているみなさま、今年分は税理士さんにお願いすることを検討してみてはいかがでしょうか。

■同じ情報を共有する

私が非常勤で担当している学生のみなさんには、「これからの時代、オープンな場でのコミュニケーションができるマインドセットが重要」と伝えています。「オープンな場」というのは、みんなが見ている、みんなが聞いているところという意味です。

講演会などで、最後に質疑応答の時間を設けられることがありますね。しかし、質疑応答の時間に手は挙がらず、終わってから登壇者のところに名刺を持って押し寄せて質問する。

登壇者の前に長い行列、こんな光景を見たことがありませんか? このパターン、日本人に多いそうです。

設けられた質疑応答の時間に質問し回答を得る、こうすることで同じ疑問や質問を持っている人にも情報が共有されるし、登壇者も個別に同じ質問に答えなくて済む。

でも、みんなの前で質問するのが恥ずかしいと思う人が多いようです。

「こんなこと聞いたらバカだと思われるかもしれない」
「講演の中で話されてたのを自分が聴きのがしていたのかもしない」
「自分だけが理解できていないのかもしれない」

こんな風に感じたことがある方は多いのではないでしょうか?

これに加えて、会社の会議などでは「この質問したら仕事を増やして同僚に迷惑をかけるかもしれない」「会議の時間を長引かせてしまうかもしれない」といったこともよくありますよね。

私は少なからずありました。こういう気持ちが「オープンな場」での発言を躊躇させます。

講演会の質疑ぐらいならまだマシなんですが、仕事やプロジェクトの中だと適切なタイミングでコミュニケーションをしなければ、情報に偏りがあったり認識にズレが生まれます。

だから、できる限り関係者が揃っている時に疑問を投げかけ解決し、情報を共有した方がいいんですね。

■同じ情報を共有していることを共有する

情報そのものではなく、同じ情報を持っていることを、コミュニケーションする相手と共有することも重要です。ややこしいですね。

私が知っているこのことを相手も知っている、ということをお互いに知っている、ということです。さらにややこしいかな。

相手が自分と同じ情報を与えられているのか? がわからないと、自分がどこまで情報を開示していいのか、判断に困ります。

また、何を基準に話をすればいいのかがわからないので、説明が回りくどくなり、コミュニケーションにかかる時間的コストが上がります。

したがって、同じ情報を持っていることを、あらかじめ認識しておく必要があります。

方法としては、文書などのまとまった情報をそれぞれに渡すというのが考えられますが、これだけでも漏れが生まれる。その情報を元に交換した意見交換が個別に行われると、その部分に認識のズレや偏りが生まれる。

これらを解消するには、みんなが見ているところ、聞いているところ、「オープンな場」でのコミュニケーション」が必要ということです。

自分が管理しているチャットグループでも、みんなが見ているグループ内ではなく、個別にメッセージが送られてくるケースも多くあります。それをまた全員に展開するのが一苦労。

情報を流通させる手段が増え、そこに関わる人が増えているいま、「オープンな場でのコミュニケーション」は間違いなく重要になってきます。

今から、ダイレクトメッセージをやめ、個別の電話もやめて、「オープンな場でのコミュニケーション」を実践してみてください。


【若林健一 / kwaka1208】
https://crssrds.jp/aboutme/


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編集後記(03/11)

あの日、東日本大震災から10年……月日の経つのは早いものですね

2011年03月14日のデジクリ
https://bn.dgcr.com/archives/20110314140000.html


◎2011.3.14の編集後記(柴田)

・日を追って東日本大震災の被害状況の凄まじさがあらわになってきた。

当日は多少揺れたが(生まれて初めて体験した恐ろしい大揺れだった)実害はなく、計画停電などで生活が多少不便になっても(今日は市内のスーパー、コンビニすべてにすごい人出。ミニパニック状態か?)被災地のことを思うと申し訳ないくらい平穏な日常だ。

わが家は食品も日用品も備蓄があるのであまり焦りはない。福島の原発が焦眉の急を告げる事態に。最も恐れていたことがついに起きてしまった。日本はどうなるんだ.....祈るしかない。


●偏屈BOOK案内:池田清彦「自粛バカ リスクゼロ症候群に罹った日本人への処方箋」宝島社新書 2020
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「健康診断は受けてはいけない」「健康診断は利権だ」と主張する生物学者。わたしもそんな気がしていたので読んでみた。

養老孟司が言うことには、東大で健康診断の受診率がダントツに低いのは医学部だ。医者は健康診断に意味がないのを知っているから行かないそうだ。笑える話。

全国の企業や学校では年に一度、定期健康診断が行われている。会社には健康診断を実施する義務があり、従業員には受診する義務がある。労働安全衛生法の定めである。違反すると50万円の罰金が科せられるという。

筆者は健康診断をもう長いあいだ受けていない。早稲田大学に14年間、国際教養学部の教授として勤務したが、一度も受けなかった。大学側は受けるようにと言ってくるが、彼はあくまで「受けたくない」「クビにしろ」と抵抗した。

大の酒好きで、もう何十年間も毎日毎日飲み続けている。この本を書くときに計算したら、1万2150日連続の飲酒記録を更新中だった。なのに健康診断は断固スルーしている。

何も症状がないのに毎年胃カメラを飲んだり大腸に内視鏡を入れたりすれば、かえって具合が悪くなる。検診の類いは本当に体の調子が悪くなってからすれば、それで十分だと思っている。そりゃそうだ。

今年1月、かかりつけ内科医院に月一回の検診に行ったら、いつもは30秒で済む話なのに、いきなり濃厚な電子的健診に回されて5000円を要した。

「市の健康診断イベントに行けば無料なのに」と妻に叱られたが、医師が強引にやるんだもんね。2月の検診はわずか10秒で終わる。もはや服の上から電子機器をかざすだけである。小さな町医者なのに、いつの間にか電子化されていた。

企業に健康診断を義務付けている先進国は日本だけである。無意味なのに続けている理由は金儲けである。完全な医療利権なのだ。健康診断はタダではなく、健康保険や税金などからその資金が出ている。それによって金儲けをする人たちがいる。

「そもそも、誰も健康診断を受けなければ医者に行く人は大幅に減り、年々膨れあがっていく日本の莫大な医療費が抑制されるはずだ。それなのに、どうして政府は義務の健康診断を廃止しないのか。

それは病気の自覚のない人まで健康診断で病人に仕立て上げ、それによって医療資本を儲けさせようとしているからだ」と筆者は説く。

今の医療は健康診断、検査漬け、薬漬けという流れで金を吸い上げるシステムになっている。病気や病人をつくりだしているのだ。やはり健康というのは、資本主義が人を騙すための大きなお題目になっている。我々は健康を持ち出されると、意外と簡単にコントロールされてしまうのだ。

フィンランド保険局が、医者に管理されたグループと、なんにもしないグループの15年間の追跡調査をしたら、本人任せのほうが死者数が少なかったそうだ。フィンランド症候群と呼ばれている現象である。なにもしないほうがいいんだ。いい話だ。(柴田)


●『貞操逆転世界』続き。反論もある。

「男だからといって性の話ばかりしてる訳じゃないんだけどな」

「そんなこと考えてないし、男友達と下ネタとかも話さないぞ」

「なんかこうやって真逆にされると、すごく違和感あって、女の性が消費されまくってる現実って結構頭おかしいよなって思った」

「男尊女卑も慣れると違和感ないのだなー。」

「フランスのショートフィルムで同じような設定の見たことある。」

「内容を読んで噛み砕くのに時間がかかるのでスムーズに読み進める事ができない……飲み込めない…」

「男が受け身の世界か〜それもいいね」

「貞操観念じゃなくて力が逆転したらどうなるんだろ」

「元々はエロ漫画だったやつを一般向けに直してるやつ」

「ジェンダー論の勉強するうえでかなり参考になりそうな作品だなあ。他人には勧めづらいけどw」

うん、ここに書くの勇気いったよ。読むのも、エロ要素強くなったら途中で断念しそう……。(hammer.mule)

貞操逆転世界
https://manga.line.me/product/periodic?id=916074