[5204] アサヒペン水性高耐久2液ウレタンニスを試す/鶴見川散歩

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《僕的には理想に近い》

■グラフィック薄氷大魔王[695]
 「アサヒペン水性高耐久2液ウレタンニス」を試す
 吉井 宏

■ツナLIFE[007]
 散歩にぴったりの鶴見川
 みなみ まいこ
 



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■グラフィック薄氷大魔王[695]
「アサヒペン水性高耐久2液ウレタンニス」を試す

吉井 宏
https://bn.dgcr.com/archives/20210407110200.html

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●本番と同じマスキング塗り分け

リキテックス ガッシュ・アクリリック プラスを使い、本番同様にマスキングして塗装するテスト。3Dプリントした丸いの2個を塗ってみる。いつもと同じに、モデリングペーストの下地を作成。

・2〜3度の重ね塗りでちゃんとベタ色になってくれるのは、かなりラクかもしれない。
http://www.yoshii.com/dgcr/3dp-IMG_3145

・中央の境界部分、暗い色の上に明るい色を塗ってみたけど、最初は白を混ぜつつ4〜5回も塗れば下地の色は透けない。これもリキテックスよりずいぶんマシ。
http://www.yoshii.com/dgcr/3dp-IMG_3146

・マスキングをはがした。作業が雑な以外は非常に良好。写真でもわかるように、ガッシュ系には見えない。普通のアクリル絵具の質感。
http://www.yoshii.com/dgcr/3dp-IMG_3147

・段差を削った。やはり塗膜が厚くて頑丈なので、削りすぎて下地が出る危険は少ない。濡れ雑巾でガシガシ拭っても、びくともしない丈夫さ。この後、粉がついて色移りしてるところを簡単に修正して完了。
http://www.yoshii.com/dgcr/3dp-IMG_3148

●水性2液ウレタンニス

今回のテストのメインの目的は、初めて使う2種類のニスを試すこと。

先日書いたように、立体作品制作の最後の仕上げ工程が不安定な、トップコートのスプレー。重ね吹きするほど失敗する確率が上がる恐怖。筆塗りできる頑丈なニスはないものか? ということで見つけたのが、今回の「アサヒペン水性高耐久2液ウレタンニス」。
https://www.asahipen.jp/products/view/00185


木製のテーブルトップやフローリングに使う頑丈なウレタンニスで、100度の高温にも耐えるそう。アクリル絵具の上に使えるかどうか確認したい。
http://www.yoshii.com/dgcr/3dp-IMG_3150

主剤を濾過して硬化剤を加え、シェーカーで混合。泡を30分間抜いてから塗る。写真は5回塗りくらいしたところ。非常にツヤツヤ。
http://www.yoshii.com/dgcr/3dp-IMG_3153

重ね塗りするには4時間くらい置くとのことだけど、2液混合したニスが使える時間も4時間なので効率悪い。混合の手順は少々ややこしく、いちいち作るのが面倒。

そこで、ドライブースで乾かす&「混合ニスの容器を冷蔵庫で氷水に入れて反応が進まないようにする」というワザを使った(ウレタンスプレーも数時間のうちに使い切らなきゃいけないところを、冷蔵庫に入れて反応を遅くすることで何日も使えたりするそう)。

完全硬化してサンディングできるようになるまで24時間とのこと。10時間くらいでは、まだ爪でキズがつく。20時間経過すると、爪でキズつかないくらい硬くなってきた。少なくともラッカー並にはなってる。ツヤッツヤだし、サンディングせずこのまま仕上がりでもいいくらい。

28時間くらい経過。うち12時間はドライブースに入れてたから、反応速度的に実質2日以上はたってる感じかな。完全にカッチカチ。爪ではまったくキズをつけられない。液が溜まって分厚くなってる部分はさすがに爪でギューってやると凹む。

この後、サンディングして、さらに5〜6回塗布。結局、1回目も2回目も筆塗りの凹凸と、ホコリがつくのは同じこと。一度だけ分厚く塗った上で、サンディング→コンパウンド磨きするほうが、手軽にきれいにできる気がする。
http://www.yoshii.com/dgcr/3dp-IMG_3164

1500番サンドペーパー→タミヤのコンパウンド(粗目、細目、仕上げ目)で磨いてみた。写真上が磨く前、下が磨いた後。木の映り込みとか見ると、どんだけ平坦にできたかわかる。

非常に良い仕上がりではあるけど、もっともっと鏡面仕上げになるコンパウンドを探してみたい。
http://www.yoshii.com/dgcr/3dp-IMG_3166

●かなり良い!

今回の結論。「アサヒペン水性高耐久2液ウレタンニス」は非常に良い。硬さはたぶんウレタンクリアスプレーに匹敵。弾力もあるのでひび割れもなさそう。黄変や変質さえしなければ、僕的には理想に近い。今までの立体作品全部を仕上げ直したくなるくらい。

ただ、スプレーの水性トップコートにくらべて作業がラクかというと、ぜんぜんラクじゃない。そもそも筆塗りなので時間かかるし、計量や混合、泡抜き、時間内に作業とか、面倒だし神経使う。磨き作業も入れたらさらに時間もかかる。とっておきの仕上げ方法として、伝家の宝刀にするかな。

「2液ウレタンニスをスプレーかエアブラシで吹ければラクそうだな」っていう、スプレーを使いたくないからやってるのに、本末転倒な考えがよぎるw

……数日眺めてたけど、今までの立体作品全部を仕上げ直したくなるくらいキレイ。気に入った。ただ、あまりにキレイでのっぺりしてて、味わいが足りないとも感じる。適当にノイズがあるほうがいいかも。

その後、ツヤがイマイチな部分を修正しようと、1500番のサンドペーパーからやり直したら、何か硬いカケラを噛んでたのか、キズだらけに。ツヤも前回よりない。ずいぶんデリケートな作業だなあ。

本番として、「ガッシュアクリリックプラス」+「2液ウレタンニス」で1〜2個仕上げてみる予定。


【吉井 宏/イラストレーター】
http://www.yoshii.com

http://yoshii-blog.blogspot.com/


「初めて使う2種類のニスを試すのが、今回の作業のメイン」と書いたけど、結論出ちゃったので、もうひとつのニスは省略。と思ったけど、現在に至るまでに多数のニスやトップコートを試してるので、特徴など一度全部まとめて書きます。

○吉井宏デザインのスワロフスキー

・十二支(丑年)OX
https://bit.ly/37gbNEN



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■ツナLIFE[007]
散歩にぴったりの鶴見川

みなみ まいこ
https://bn.dgcr.com/archives/20210407110100.html

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綱島の街に沿って流れる鶴見川を眺めながら、よく散歩をする。

今でこそ川幅が広く穏やかな河川だが、ほんの四半世紀前までは大層な暴れ川だったそうで、よく氾濫していたらしい。

綱島はこの川のだいたい中流域の下流の方に位置している。

以前アルバイトをしていたバーで、生まれも育ちも綱島という常連さんに聞いたところによると、台風などで増水し、水が引いたときに周辺に近寄ると、チフスやコレラにかかったという。

チフスやコレラなんて、戦争を経験した祖母から聞いた言葉だったし、自分の中ではどこか遠い国や、隔絶された過去の時代の病気だとばかり思っていたので、つい数十年前までこんな住宅地に存在していたことに大変驚いた。

そんな鶴見川は、現在では徹底的に整備されて、普段は穏やかな周辺住民の憩いの河川になっている。多摩川が溢れた2年ほど前の台風のときには、鶴見川もかなり増水し、あわや氾濫かと危ぶまれたが、日産スタジアム周辺に設けられた遊水池により、綱島を始めとした中・下流域への増水が緩和され事なきを得た。

台風や大雨のときに、河川に設けられたライブカメラをチェックするのが好きなのだが、この時はみるみる増水し水位が上がっていく川を見ながら、いつ避難をするべきか心配していたところ、遊水池への放流が始まった途端、目に見えて水位が下がっていった。

あっという間に普段ほどの水位に戻ったのには、防災へ尽力された方々の努力や執念を感じずにはいられなかった。

かつては病原菌の発生源や、災害の発生源であった鶴見川だが、工場のクリーン化や環境改善に取り組み、今では魚が泳ぐほどに水質が改善されている。

釣りが趣味のバーの常連さん曰く、鰻も獲れるらしい。(食べるのには自分はまだ抵抗があるが……笑)

ある日、鶴見川の支流である早渕川を散歩していると、見慣れない、鮮やかなブルーの小鳥を見かけた。

目を凝らすと、清流の王こと、カワセミだった。田舎の山奥でも見たことがなかったのに、まさかこんな横浜の都会で目にするとは、思っても見なかった。

河川敷もかなり整備され、海から上流までウォーキングやサイクリングができる道があったり、休日にはたくさんの人がBBQを楽しんでいる。

ある時のBBQ中、ふと川に目を向けると、上流からサップボードに乗って下流へ流れてゆく人がいた。さらに下流域に行くと、ボート競技の練習をしている団体も見ることができる。

自分の出身地では天竜川が流れており、学校の校歌にも歌われるほどのシンボリックな川だが、この川は流れも早く、深い場所もありよく事故が起きて人が死ぬ。そのため地元の人はあまり近寄らない。いまだに畏怖する自然の川の印象が強い。

しかし、鶴見川は天竜川とは真逆の、人に寄り添い、関わりの持てる川だ。

散歩の折に、鶴見川の堤防の上に敷かれた道路を歩くと、綱島に住む人たちとすれ違う。犬の散歩をする人、子供のお迎えのお母さんたち、学校帰りや仕事帰りの人、さらには河川敷の土手でリモートワークをする人……。

みんな穏やかな表情で、思い思いに過ごしているのがとても心地よい。

自分にとって川はずっと、少し怖い存在だったが、綱島の街を流れる鶴見川は、暮らしに近く、そっと寄り添ってくれる、隣人のような存在になっている。


【みなみ まいこ】
漫画家
nghtbee.oct1@gmail.com
https://twitter.com/maiko_oct1


私の漫画作品を投稿しているサイト
https://daysneo.com/author/373maiko/


同人誌の販売も行っています
https://yorunohachi.booth.pm



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編集後記(04/07)

●偏屈BOOK案内:齋藤孝「太宰を読んだ人が迷い込む場所」PHP新書 2020
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4569846637/dgcrcom-22/


「君は太宰の毒に勝てるか?」という、かっこいいセリフがあるようだ。「高校生くらいのときに一度は、はまるよね」とか、「太宰文学はハシカみたいなもんさ」とか。

わたしもエラそーに言ってみたいところだが、そんなに太宰を読み込んでいないから、言う資格がない。

文学部教授である筆者は、60歳を迎える歳になって、改めてちくま文庫の「太宰治全集」全10巻を読み直したところ、感慨を新たにしたという。

「いくつになっても、太宰には、はまる。若いときのハシカとばかりは言えない」と思ったそうだ。この全集、一巻につき450ページ前後と、かなりのボリュームらしい。

太宰を読んで過ごす日々に愛おしさを感じている自分がいたという。「だから自信をもって言う、太宰は青年のみならず幅広い年齢層の方が楽しめると」。

太宰作品にはいわゆる駄作もある。イマイチだ、フツーだ、なんだこの落ちは、などという気がしても、どれも「愛すべき小品」に見えてくるという。

「作品の良し悪しは別にして、太宰の文章は『笑える言い回し』が多い。『太宰といえば爆笑』といってもいいくらい。私は『爆笑マーク(顔文字)』を書きながら、読み進めている。読むほどに楽しくなってくるので、みなさんにもお勧めしたい」って、顔文字書けって? 本に何か書き込むなんてことできません。

太宰作品は、とくに冒頭の文章にすばらしくキレがあるものが多い、と断言している。冒頭の衝撃を楽しもう。そして、太宰を読むとどうなるのか。この本では「読者が迷い込む場所」として、10個の太宰ワールド(=太宰の穴)を細やかに解説している。

1.落ちていく人生がリアルに味わえる
2.革命を起こしたくなる
3.ダメ人間でも救われた気になる
4.自殺願望の奇妙さを実感する
5.プライドの厄介さが身に染みる
6.「世間の怖さ」に共感してしまう
7.女性がますますわからなくなる
8.古典の魅力に惑溺する
9.津軽人の本性に驚く
10.わけのわからなさがクセになる
……ムリヤリとってつけたようなのもあるな。

でも、読み進めていくと、なるほどねーと感嘆する。それぞれの穴がある作品を解説するのだが、太字で見せる引用部分が絶妙である。それは筆者の手柄ではなく、太宰の力なのだが。

教科書で読んだ「走れメロス」は講談のように盛り上がるので、メロスと一緒に走っている気分で音読されたし。男には善良な狸、女には無慈悲な兎が住んでいる、というのは「カチカチ山」。昔話にしてはちょっと残酷すぎるような気がしていたが、後年の絵本では「狸が老婆にケガさせて逃げた」とされた。

それが不満の太宰は設定を変えて、新たな物語を紡ぎ出す。兎のやり方が男らしくないのは当然だということがわかったという。

「この兎は男じゃないんだ。それは、たしかだ。この兎は十六歳の処女だ。いまだ何も、色気は無いが、しかし、美人だ。そうして、人間のうちで最も残酷なのは、えてして、このような女性である」

一方の狸は37歳の醜男、という設定。いい年したおじさんが、未成年の若い娘に恋をして、手ひどくあしらわれる物語に置き換えた。狸のいまわの際に曰く、「惚れたが悪いか」。

古来、世界中の文芸の主題は、一にここにかかっていると言っても過言ではない。太宰はわが身を振り返りつつ、「好色の戒め」を諭している、という読み方もできる。わたしも「太宰の穴」に入り込んでみるか。(柴田)


●マンガ『9番目のムサシ』。作者は高橋美由紀さん。実写かアニメ化しないかなぁ。ドラマCDやラジオドラマにはなったみたい。

ホラーやグロいのは嫌いという友人が、高橋さんの『悪魔の黙示録』にはハマっていたのを覚えている。「なんだかわからないんだけど、読んじゃうの」と。その他のマンガも読みつづけている。

『9番目のムサシ』は、何度も読み返したいからとわざわざ紙の本をチョイスしているとのことで、そんなに面白いのならと検索したら、ピッコマで15巻まで無料で読めることを知った。今ってほんといい時代よねぇ。

書店では封がされていて立ち読みはできないし、学生じゃないから回し読みができないけど(やり取りが半年に一度とかになってしまったりするので)、こうやってアプリで読めちゃうのいいな。古いマンガとか、好みじゃない絵柄とか、食わず嫌いだったジャンルとかとの出会いまである。続く。(hammer.mule)

高橋美由紀公式サイト
https://t-miyuki.jp/


『9番目のムサシ』ピッコマ
https://piccoma.com/web/product/2851


掲載誌『ミステリーボニータ』
https://www.akitashoten.co.jp/bonita


ボニータ掲載中の『西荻窪 三ツ星洋酒堂』ってドラマのだ!
http://arc.akitashoten.co.jp/comics/3boshi/1

試し読みして、あるある……と胃が痛くなった