ツナLIFE[007]散歩にぴったりの鶴見川
── みなみ まいこ ──

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綱島の街に沿って流れる鶴見川を眺めながら、よく散歩をする。

今でこそ川幅が広く穏やかな河川だが、ほんの四半世紀前までは大層な暴れ川だったそうで、よく氾濫していたらしい。

綱島はこの川のだいたい中流域の下流の方に位置している。

以前アルバイトをしていたバーで、生まれも育ちも綱島という常連さんに聞いたところによると、台風などで増水し、水が引いたときに周辺に近寄ると、チフスやコレラにかかったという。





チフスやコレラなんて、戦争を経験した祖母から聞いた言葉だったし、自分の中ではどこか遠い国や、隔絶された過去の時代の病気だとばかり思っていたので、つい数十年前までこんな住宅地に存在していたことに大変驚いた。

そんな鶴見川は、現在では徹底的に整備されて、普段は穏やかな周辺住民の憩いの河川になっている。多摩川が溢れた2年ほど前の台風のときには、鶴見川もかなり増水し、あわや氾濫かと危ぶまれたが、日産スタジアム周辺に設けられた遊水池により、綱島を始めとした中・下流域への増水が緩和され事なきを得た。

台風や大雨のときに、河川に設けられたライブカメラをチェックするのが好きなのだが、この時はみるみる増水し水位が上がっていく川を見ながら、いつ避難をするべきか心配していたところ、遊水池への放流が始まった途端、目に見えて水位が下がっていった。

あっという間に普段ほどの水位に戻ったのには、防災へ尽力された方々の努力や執念を感じずにはいられなかった。

かつては病原菌の発生源や、災害の発生源であった鶴見川だが、工場のクリーン化や環境改善に取り組み、今では魚が泳ぐほどに水質が改善されている。

釣りが趣味のバーの常連さん曰く、鰻も獲れるらしい。(食べるのには自分はまだ抵抗があるが……笑)

ある日、鶴見川の支流である早渕川を散歩していると、見慣れない、鮮やかなブルーの小鳥を見かけた。

目を凝らすと、清流の王こと、カワセミだった。田舎の山奥でも見たことがなかったのに、まさかこんな横浜の都会で目にするとは、思っても見なかった。

河川敷もかなり整備され、海から上流までウォーキングやサイクリングができる道があったり、休日にはたくさんの人がBBQを楽しんでいる。

ある時のBBQ中、ふと川に目を向けると、上流からサップボードに乗って下流へ流れてゆく人がいた。さらに下流域に行くと、ボート競技の練習をしている団体も見ることができる。

自分の出身地では天竜川が流れており、学校の校歌にも歌われるほどのシンボリックな川だが、この川は流れも早く、深い場所もありよく事故が起きて人が死ぬ。そのため地元の人はあまり近寄らない。いまだに畏怖する自然の川の印象が強い。

しかし、鶴見川は天竜川とは真逆の、人に寄り添い、関わりの持てる川だ。

散歩の折に、鶴見川の堤防の上に敷かれた道路を歩くと、綱島に住む人たちとすれ違う。犬の散歩をする人、子供のお迎えのお母さんたち、学校帰りや仕事帰りの人、さらには河川敷の土手でリモートワークをする人……。

みんな穏やかな表情で、思い思いに過ごしているのがとても心地よい。

自分にとって川はずっと、少し怖い存在だったが、綱島の街を流れる鶴見川は、暮らしに近く、そっと寄り添ってくれる、隣人のような存在になっている。


【みなみ まいこ】
漫画家
nghtbee.oct1@gmail.com
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同人誌の販売も行っています
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