伊豆高原へいらっしゃい[12]バーチャルドールの制作と立体出力の可能性/松林あつし

投稿:  著者:  読了時間:9分(本文:約4,400文字)


今までとりとめのない話を色々してきましたが、デジタルイラストレーターである以上、たまには作品制作の事も書かなければいけないなあ……ということで、今回は僕の作業の流れと「立体出力」についてお話したいと思います。

以前も書きましたが、僕は3Dソフトをメインに使って作品を作っています。これを「イラスト」と呼ぶかどうかは見る人に任せたいと思いますが、印刷物を媒体としてビジュアル表現をするという意味では、手描きのイラストやペイントソフトで描かれたイラストと変わりないと思っています。

もちろん制作手順や制作感覚はそれぞれ大きく違いますし、手描きが不可逆制作であるのに対し、CGを使ったイラストは修正が効く「可逆制作」と言えるかもしれません。不可逆の産物だからこそ手描きに魅力を感じる人もいるかも知れませんし、可逆だからこそ試行錯誤の可能なCGに意味を見いだす人もいるかも知れません。

そんな中、3Dを使ったイラストとは、どのような感覚で制作するのかを今回紹介したいのです。


●自分の作品を手で触りたい!

いまPainterと言うソフトがすばらしい進化を遂げ、様々なブラシを駆使して描くことで、手描きと見分けがつかないほどの作品作りが可能となりました。これは実際のアナログ作業をデジタルでシミュレートした結果が、それがまるで本物のキャンバスに描かれた絵であるかのように表現できるレベルまで来たという事だと思います。

つまり、バーチャルな世界で本当に絵を描いているという事なんですね。個人的要望としては水彩の「にじみ」の偶然性をよりリアルに表現できるようになってほしい事と、タブレットペンが筆の描きごこちまで伝えてくれれば(タブレット筆の開発)……という感じです。

しかし、同じCGでも、ペイント系と3D系とでは大きな違いがあります(最近ZBrush など、3Dとペイント系を融合させるようなソフトも登場してきていますが)。

最もわかりやすい違いは、ペイント系は「バーチャル絵画」であるのに対し、3Dは「バーチャル彫刻(彫像)」である事だと思うのです。制作手順もポリゴン系3Dに限って言えば、形状を荒削りし、出したり引っ込めたり、穴を開けたりしながら細かくしていく……という部分は、まさに彫刻の作り方だなと感じます(最初はイラストである、と言っておきながら、今度は彫刻か? って思われるかも知れませんが、「立体イラスト」という分野もあることですし、そのへんは同等と見なしてください)。

ただ、実際の彫刻は作品が完成すればそれまでですが、バーチャル彫刻は作品を設置する「スタジオ」まで作らなければならないのです。つまり、光を反射する壁や、ライティング、カメラのセッティングや空気感ですね。そういう意味では、単なる彫刻を越えた「作品のトータルプロデュース」と言えるかもしれません(ちょっと大げさですが)。

あとは質感をどうするかで、作った物がブロンズ像になったり、石膏像になったり、ソフトビニールのフィギュアになったり、生きたように見える動物になったりするわけです。

「いやいや、自分は正確な資料を元にリアルな車を3Dで作っている! 彫刻なんかじゃない、本物の車だ」と言う人もいるかも知れません。しかし、その車がバーチャル燃料とバーチャルエンジンを使って走らない限り、仮想空間に「本物」の自動車を作った事にはならないと思います。ジュラシックパークの恐竜もポリゴンの中にはボーンがあるだけで、他は空っぽの空間です。それらはあくまで動く彫像だと思うのです。

話がずれましたが、3D彫刻も可逆的で、大きくさかのぼって修正が可能です。これは商業ベースに乗せる上では非常にありがたいことです。そういうメリットがあるからこそ、CG作家人口が大きく広がっているのでしょう。ただ、アナログ絵画やアナログ彫刻にはできるが、デジタル系には決してできない事があります。それは「自分の作品を手で触る事」なのです。

僕も3D、2Dに限らず、作品をプリント出力し、展示会に出品したりしますが、それはあくまで作品のレプリカであって、作品そのものではありません。では、作品はどこにあるかと言えば、パソコンのハードディスクの中で、決して現実空間には取り出す事ができない状態で眠っているのです。映画マトリックスのように、我々が仮想空間に入らない限り、自分の作品を現実の物として捉える事はできないでしょう。

しかし、多くの3D作家は自分の作品を手で触れてみたい、と思うはずです。バーチャルスペースでは紛れもなく「立体物」である3D作品ですが、実際それを取り出す際は2Dになってしまう……3Dアニメーションですら、映像で表現する以上、最終形態は2Dなのです。そういったジレンマを解決してくれる一つの方法が「立体プリント」です。

これは、3Dデータを元に実際手で触れる事ができる形状に出力する、という物です。もちろんこれもレプリカであって作品そのものではありません。しかし、今まで2D作品のように出力することすらできなかった3Dデータが、立体物として姿を現す……これだけで大きな進歩と言えるのではないでしょうか。

●立体プリントを試してみた

今現在の主な立体出力方式を紹介します。
1)3Dプリンタ Dimension
熱溶解積層法:ABS樹脂を熱して押し出しながら積み重ねていく
ABS樹脂を使うので多数の樹脂色に対応
対応ファイルフォーマット:STL
プリンタ価格:約300万〜550万

2)Z Printer
パウダー吹きつけ方式:特殊な素材パウダーを吹き付け、接着剤で固定しながら階層を重ねていく
吹きつけ素材:石膏、デンプン、セラミックなど
フルカラー着色可能
対応ファイルフォーマット:STL VRML PLY

3)光造形プリンター(光触媒)
インクジェット方式:アクリル系樹脂を0.016mmの厚さで吹き付けながら紫外線によって硬化させる
吹きつけ素材:ABS相当品、ゴム質樹脂
素材が限定しており、黄ばんだ半透明の仕上がりになる
対応ファイルフォーマット:3DM 3DS LWO MB MGX OBJ DXF など多数

これ以外でも色々あるようですが、今回はよく使われている三種類を紹介しました。

どれも、機械は高価でおいそれと手を出せない価格ですが、サービスビューロも少しずつ出てきているようです。ただ、ほとんどの出力サービスがCADを対象としており、作品データの出力を念頭に置いたサービスはまだあまりありません。出力サイズも最大で20cmほどです。さらに最大サイズで出力を依頼すると、一点50万円も60万円もかかります。とても、2Dの出力センターで扱える価格ではありませんね(大きさを10cmに限定しても15万円です)。

ただ、大きさだけで一概に見積もりも出せないようで、出力価格を決める要因は、部材の量とモデルの「厚み」だということです。どの形式も「階層方式」で、部材を積み上げていきます。つまり、厚みが厚いほど時間がかかる……モデルそのものの大きさや複雑度にはそれほど依存しないようです。

今回、なんとか立体プリントを試してみたいという事で、色々見積もってもらいましたが、一番安かったのが(3)の光造形プリンターでした。本当は真っ白な石膏プリントをしたかったのですが、予算の都合で今回は光造形を扱っている大阪の「エアフォルク」という会社にお願いしました。
< http://www.erfolg.co.jp/company/index.html >

CADメインの業界の中にあって、ここは「フィギュア」を扱っています。その分フィギュア系の出力経験も豊富だろうというのがお願いした理由ですが、やはり、17cmほどの作品を10万円以下でやってくれるというのが一番の魅力でした(見積もりは条件によって変わってくるので、今回正確な価格は提示しません)。

作品制作から出力までの流れは以下の通りです。
1)3dsMaxでキャラクターのオブジェクトを製作
2)キャラクターはできるだけ閉じた形状で作る
3)細分化はサービスビューロでやってもらえるので、こちらでは行わない
4)モデルデータを元に価格の見積もり
5)体積、厚みが大きかったため、予算オーバー
6)再度、厚みを少なくしたものでモデルを作成
7)予算内に収まったため入稿(3dsフォーマットのまま)
8)約一週間で完成品が送付される

制作したオブジェクトデータと完成品はこちらをご覧ください。
< http://www.nexyzbb.ne.jp/%7Epeppy_atsushi/digi_cre/08_04_10.jpg >

中身が詰まった状態で出力してもらいましたが、中抜きでモデルを作れば部材を少なくできるのではないかと思いました。表面のざらつきが多少気になりますが、まつげやリボンなど細かいディテールもちゃんと出ています。難を言えば、材質がどうしてもこのような黄ばんだ透明になってしまうという事でしょうか。そういう意味では、Z Printerの方が希望の質感に近い仕上がりになる可能性はありますが、いかんせん値段が高すぎます。(Z Printerでもっとお安くできますよ、という情報をお持ちの方、ご一報ください^^;)

さて、立体出力の今後の展望ですが…… 僕はどんどんコストパフォーマンスが良くなり安くなっていくのでは? と思っています。今ではあたり前のインクジェットプリンタが出る前は、「昇華型プリンタ」など超高価なプリンターでなければ写真クオリティのプリントはできませんでした。それを考えると、この立体出力も技術の進歩とニーズの拡大で、数年後には一気に安くなると(希望的に)思っています。

3Dスキャンを使って立体化した家族の写真をを3D出力し、立体写真として居間に飾ったり、地下鉄の構内に手で触れる立体ポスターが貼られる日も遠くないかも知れませんね。

最後にちょっと宣伝させていただきます。
僕が所属する「e-space」の展覧会があります。
題して「イラストレーターe-space18の小宇宙展」
< http://www.youchan.com/blogs/e-spc/2008/04/e-space18.html >
会期:4月10日(木)〜16日(水) ※13日(日)はお休みです
時間:11:00〜18:00 10日は14:00よりオープン / 最終日14:00まで
   オープニング・パーティー 4月10日(木)17:00〜19:00
会場:YAMAWAKIギャラリー(東京都千代田区九段南4-8-21 TEL.03-3264-4027)
僕は今回紹介した立体物を含む作品を出展する予定です。
みなさんぜひご来場ください。

【まつばやし・あつし】pine2656@art.email.ne.jp
イラストレーター・CGクリエーター
< http://www.atsushi-m.com/ >