●WEBカメラでの木星撮影
今年は記録的な猛暑で、ここ伊豆高原も、うだるような暑さが続きました。さらに、ニュースでよく聞く「ゲリラ豪雨」的なものもまったくなく、梅雨が明けてからほとんど雨が降っていません。しかし、やはり湿度は高いのです。湿度が高いと、水蒸気も多く、夜空を見上げても星は数えるほどしか見えません。その数えられる星の内、今の時期一番輝いているのが「木星」なのです。
木星は赤道直径が約71000kmのガス惑星で、火星の外側を回っています。近年の例では、夏は木星、冬は土星が観測しやすい条件となっていますが、これは年と共にずれていきますので、ずっと夏に見えている訳ではないのです。しかし、そのズレは非常にゆっくりで、当分は夏の代表星の座を譲り渡すことはないでしょう(只今、みずがめ座とうお座の間を移動中)。
そしてこの木星、夏の時期は非常に明るく輝いているので、多少の水蒸気や月の明かりがあっても、望遠鏡越しには結構よく見えます。それに比べて、星雲や銀河はもろに水蒸気や月明かり、人工光の影響を受けます。これらは、本当に真っ暗な状況でなければ観測は難しいのです。
ですので、結果としこの夏の観測成果は木星だけでした。以前の記事でWEBカメラで天体撮影する、というのを取り上げたことがありますが、木星に関してはかなり撮れるようになりましたので、御覧ください。
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〈Jupiter〉
10_08_27 23:40 自宅ベランダ
MEADE LX90-GPS20 直焦点撮影(2倍バローレンズ)
Webカメラ ToUcamPro約2700フレーム
画像処理 Registax5 Photoshop CS4
小さな点は、衛星のイオとその影です。真ん中下あたりに太い帯が見えますが、昨年まではこれが上の方にもう一本あったのです。昨年夏、その帯が突然消滅して話題になりました。原因は未だに不明です。
それと、衛星イオをよ〜く見ると、下に煙のような物が見えませんか? そして、イオの影にも煙が......実はイオには活火山が多数あるのです。しかし、地球からその噴煙を観測できたという報告は聞いていません。もしや、大噴火の発見か!!! いえいえ、これだけ見ると、影もあるし、何らかの天文現象に見えますが、他の衛星にも同じ筋が同じ方向に付いており、撮影時のエラーであることが判明しました。残念。
●高感度カメラEOS Kiss X4購入
WEBカメラは惑星撮影には大きな力を発揮しますが、星雲や星団には向いていません。何故なら星雲は非常に暗い天体が多く、WEBカメラの感度では対応できないためです。やはりこのような淡い天体は、高感度のデジタル一眼を使うことになります。
今まで使っていたカメラはOLYMPUS E-410。発売当初はライブビュー搭載の一眼レフで、しかも世界最小最軽量として話題になりました。その前はPENTAX *istDL2でしたので、ライブビュー搭載カメラがキラキラして見えました。
しかし、その魔法もすぐに冷め......実際ほとんど使えなかったのです。そもそもライブビューにこだわった訳は、カメラファインダーは暗すぎて淡い天体の導入やピント合わせが非常に難しかったからなのです。ライブビューなら液晶モニタを見ながら明るい画面でピントが合わせられる......と思ったのが甘かったです。液晶が小さい上ドットが荒いので、暗い天体は結局どこでピントが合っているのかわかりませんでした。
さらに、ISO1600の感度もノイズがひどく使い物になりません。ISO800で撮影した画像を縮小して見ればなんとか見られるという感じで、実用レベルとしてはISO400が限界でした。ですので、銀河(天の川)を写すのには30秒以上の露出が必要でした。30秒というと私には敷居が高いのです。赤道儀の追尾設定が厳密にできないと、30秒では星が流れてしまいます。今まで追尾設定が大成功した試しはなく、結局銀河や星雲を綺麗に撮影する事は、半ば諦めざるを得ませんでした。
しかし、近年になってなんとISO102400という超高感度カメラが発売されたのです。12400ではありませんよ、十万二千四百です! ISO400の世界で撮影していた私にとっては別次元のカメラです。
それが、Nikon D3SとCanon EOS-1D Mark IVです。この感度では暗い夜景も手持ちで撮影でき、夜の室内でもストロボなしで手ぶれをしない写真が撮れるそうです。当然、わずか数秒の露出で銀河も撮れるでしょう(つまり追尾装置なしで天の川が撮れる)。しかし、しかし、両機とも本体だけの実売価格で50万円前後です。お値段も別次元ですね(Nikon D3Sは国際宇宙ステーションでのロシアの公式カメラに認定されています)。
やはり超高感度カメラは私にとっては高嶺の花です......諦めるしかないのか、と思ってました。しかし一年ほどして、あるカメラが目に止まりました。それがISO12800のEOS Kiss X4だったのです。エントリーモデルではありますが、ISO100〜ISO6400(拡張ISO12800)は、今までのカメラに比べたら別次元です。さらに、ハイエンドモデルに匹敵する画素数である1800万画素、フルHDのハイビジョン動画モードまで付いています。実売価格は本体だけで6万円前後、かなりリーズナブルです。
結局、ネットオークションで購入することにしました。入手したEOS Kiss X4と手放したOLYMPUS E-410との差額は27,000円ほどです。ただし、別にレンズを買わなければならず、こちらは他社製にしました。マクロ撮影と望遠撮影を一本のレンズで済ませられるよう、18mm-200mmのレンズにするためです。
しかし、これは失敗だったかも知れません。EOS Kissの手ぶれ補正機能はレンズ側に付いており、オートフォーカスで手ブレ補正がついたレンズは結構バカでかいのです。荷物が届いてから後悔しました。
まだ、本格的な天体撮影には使用していませんが、とりあえず天の川を撮ってみました。ガスや雲も多く、光害もあってあまり良い条件ではありませんでしたが、追尾装置なしでこれだけ撮れました。
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EOS Kiss X4 ISO6400 15秒露出 天城高原
それと、暗がりで最も力を発揮するのが、リアルタイムのライブビューです。実は、高感度とはいえ、薄暗い場所でのオートフォーカスは非常に精度が落ちるのです。ですので、マニュアルフォーカスにせざるを得ませんが、ファインダーを使うとやはり暗いのでピント合わせが至難の業です。
しかし、このライブビューは10倍ズームが付いており、液晶を見ながら拡大した画像でピントを合わせられるのです。これは、天体観測にも応用できそうです。暗い星雲を狙うときは、まず明るい星でピントを合わせ、そのまま目標の天体に向ければいい訳ですから。
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EOS Kiss X4 ISO6400
シャッタースピード:オート マニュアルフォーカス
薄暗いレストランで料理を撮影
まだ使い始めですが、これからどんどん暗がりを撮っていこうと思います。
※ハイビジョン動画ですが、なんとフォーカスがフルオートではないのです。つまり、一度オートフォーカスでピントを合わすと、ずっとその位置にフォーカスが合ってしまいます。つまり、動くものや近づいてくるものに対応できないのです。せっかくのHDなのに、これでは使えません。
松林あつし/イラストレーター・CGクリエーター
< http://www.atsushi-m.com/
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pine1289@art.email.ne.jp