アナログステージ[1]新連載 金をお金で買う/べちおサマンサ

投稿:  著者:  読了時間:3分(本文:約1,400文字)


「すみません、その千円札を売って頂けませんか?」
「はい? 千円札をですか?」
「ええ、お幾らでしょうか。」
「お幾らって……そりゃ、売るなら千円じゃないでしょうか。」
「分かりました、では、その千円札を売ってください。」
「はぁ……」
男は、財布の中から千円札を取り出し、『商品』の千円札を購入した。お店で購入した千円札を、顔色変えずに財布にしまい込むと、足早に店から立ち去っていった。どうしたのだろう。



「すみません、その千円札を売って頂くことはできますか?」
「???」
「そこのレジに入っている千円札を10枚、私が買ってきた壱万円で売って欲しいのです。」
「両替ですか?」
「違います、売っていただきたいのです。」
「売るということになると、こちらも商売になりますので、この千円札は、人件費、光熱費、諸費用を含めて計算すると、15,000円になります。あ、消費税もかかりますので、15,750円になります。」

「わかりました、15,750円ですね、それで買わせてください。」
「ちょっと、お客さん、ナニ言っているんですか、そんなのできるわけないでしょ……」
「いいえ、本気です。その千円札を売って欲しいのです。他の千円札ではダメなんです。あなたには分からないのですか?」
「無茶言わないでくださいよ……勘弁してください。」
「では、こうしましょう。その千円札に値札を貼ってください。そうすれば、その千円札10枚は、立派な商品になります。それを私が購入する、それで辻褄は合いますでしょう。さ、早く、¥15,000(税抜き)と書いてください。」

店員は、男の余りの情熱に、千円札10枚を商品として、男に売ってしまった。男は、至福の笑顔を店員に見せると、大切そうに購入した千円札をしまった。なぜ、この男は金をお金で買うのか、どうしても理由を知りたくなった店員は、男に訊いてみることにした。

「私は、お金という印刷された紙を買ったわけではありません。時間経緯を買ったのです。でも、皆さん、あなたのように『価値』をつけず、ただ両替と同じように、紙と紙を交換しただけす。何気ない日常でも、常にお金は掛かって生きていることを証明したいのです。」

不思議そうに聞こえる男の話に、妙な説得力を感じ始めた店員は、黙って男の話を聞き続けた。

「壱万円と壱万円、対価価値と錯覚しますでしょう。」
「はぁ……」
「でも、時間経過とお金は平行しているんですよ。何気なく観ているテレビでも、電力会社にお金を払い、テレビを観る人がいることで、テレビ会社は利益を確保している。外を出るにも、靴を履いて出て行き、靴の底が磨り減ることで、靴屋さん、製造メーカーは利益を保っている。お金を交換する作業も、仕事のひとつと考えると、経営者としては、利益を考えないと。」
「はぁ……」
「外に一歩出ると、お金がかかるシステムがこの国だけではなく、世界中の至る所で構築されてしまっているんです。そこに気がついて、受け入れるキャパが必要なんです。」

というような話を、銀行で両替したときに、手数料を取られて、怒り狂っていたバカなヨメに話した。マジで疲れる。

【べちおサマンサ】pipelinehot@yokohama.email.ne.jp
FAプログラマー兼秘密でいっぱいな、ナノテク業界の開発設計をやっております。創刊から愛読しているデジクリですが、気が付けば、たくさんの筆者の方と、酒を飲んでいる幸せ者です。
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