伊豆高原へいらっしゃい[26]太陽光発電の現状を考える
── 松林あつし ──

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世界的大不況の影響で、どの国も経済再生最優先となっています。日本でも経済対策が色々検討されているはずなのですが、聞こえてくるのはひとりあたり12,000円をどうやって配るか、というおかしな議論ばかりです。一時期の地球温暖化対策に代表される、エコロジー問題はすっかり陰を潜め、みんなそれどころではないよ、って感じですね。

ただ、温暖化は対策が遅れれば遅れるほど、後のしっぺ返しが大きくなる、という性質のもので、不況だからといっておざなりにはできません。にもかかわらず、なぜ経済を優先させると、環境対策は後回しという雰囲気になってしまうのでしょうか……? それはたぶん、今までのエコが精神論だったからではないでしょうか。

エコのためには、何かを犠牲にする、または何かを我慢する……経済が好調な中にあっては、そういう「エコな事をしている」という自己満足を楽しめる余裕もありました。しかし、本当に苦しい時に、そのような余裕こいている場合ではないのでしょう。オール電化、太陽光発電、ハイブリット車などもそうです。どれも導入するにはそれなりの費用が必要になりますので、こんなご時世では買い控えが起きてもしかたありません。



しかし、これが精神論ではなく、導入すれば「お得」になる、という認識が生まれれば、不況だからこそ導入しょう、という消費意識に変わって行くかもしれません。

今回は、家庭用太陽光発電に関して、果たして電気代の節約になるのか、自分なりに考えてみたいと思います。

と、言っても、太陽光発電は、色々な法人、団体、行政機関が絡んでおり、調べてみてもなにがどうなっているのか、なかなか見えてきません。

また、太陽光パネルの種類によっても価格が違いますし、家の屋根の面積、傾斜、形状でも発電量は違ってきます。さらに地域によっての日照時間の違いや、自治体からの補助金があったり、なかったり……なんか、複雑でわかりづらいです。

このわかりづらさが、まだまだ敬遠されている要因の一つだと思います。国のアナウンスもまだまだ不足していますし、メディアでの取り上げ方も少ないように思えます。地デジをあれだけ宣伝するのなら、もっと太陽光発電のCMを打っても良いのでは、とも思います。わかりやすく、身近に感じられる事がまず第一ではないでしょうか。

そんなわかりにくいシステムですが、単純化して考えれば、以下のような疑問点が出てきます。これらが目に見える形で提示されれば、我々の捉え方も変わるような気がします。

・平均的家庭で導入すれば総額いくらかかるか?
・国や自治体からの補助金はいくらか?
・発電量はどのくらいで、月々いくらの電気代が浮くのか?
・何年で導入費用の元を取る事ができるか?

まず、システム全部で総額いくらになるのか、ですが、一般家庭の月々の平均光熱費、約18,000円をまかなえるシステムだと、250万円ほどになります。これはメーカーやモジュールの種類によっても違ってきますが、ざっくり計算すればそんな感じでしょう。

次に、補助金が出るのかどうかですが、これは平成20年度「住宅用太陽光発電導入支援対策費補助金」(長い!)という名目で受ける事ができるようです。内容は3kwシステムで21万円、3.5kwシステムで24.5万円です。

実はこの補助金、平成18〜19年にかけて廃止されていました。以下、補助の推移です。
1)平成6年度〜8年度:住宅用太陽光発電モニター事業
2)平成9年度〜13年度:住宅用太陽光発電導入基盤整備事業
3)平成14年度〜17年度:住宅用太陽光発電導入促進事業

最初の2年間は全システムの50%が補助として出ていました(300万円のシステムで150万円も出ていたんですね)。それが、12万円の定額補助、1kwに対して2万円に……と、どんどん減り、17年を最後に廃止されてしまいました。太陽光パネルの販売実績を見ても、18年から販売数がガタッと落ちています。

CO2排出削減を求められている中、これではいけないと政府は思ったのか、20年から補助が復活したのです。21年の補助も決まっているようで、1kwあたり7万円となっています。平均的な3.5kwシステムで、24.5万円です。初期に比べたら少ないですね……。

そして、月にどれくらいの電気代が浮くのか、ですが、あるサイトで、1年間のモニター結果が公表されていました。それによると、通常月々18,000円(年間216,000円)ほどかかる光熱費とほぼ同額の発電ができた、とあります(システムの大きさや生活環境で変わってきますが)。このモニター結果を基準にするなら、毎月の光熱費はほぼタダになる事になります(オール電化にすることが前提です)。

それをもとに何年で元が取れるか、計算してみると、250万円のシステムでは、約11年で元が取れる事になります。ただ、色々なメーカーサイトを見ると、企業としては10〜15年を目処に、ペイする構想を立てているようですね。

どちらにしても、15年以内には元が取れる可能性が高いようです。しかし、15年とはちょっと気が遠くなります。そのころのエネルギー事情がどう変わっているのかもわかりませんし、不安にもなります(僕の場合、元を取る頃には60歳になっています)。ただ、よく考えると、その後の光熱費はほとんど心配しなくて良いのです。15年かかって費用を消却できれば、老後は光熱費ゼロでやって行ける可能性もあります。ちょっとした年金感覚ですね。もし、元手があれば、訳のわからない投資商品でリスキーな運用をするより、遥かに安全でお得かも知れません。

最後に、現在のエネルギー事情と照らし合わせてみたいと思います。

原子力発電です。皆さんは原発の建設や維持にどのくらいお金がかかるか知っていますか(僕も今回調べるまで全く知りませんでしたが)。原発のシステムや規模にもよりますが、建設費は1基(1カ所ではなく)あたり平均4,000億円と言われています。さらに年間の維持費は平成11年度の資料では(古くてすいません)東京電力で6,200億円ととなっています。(東京電力は3箇所、17基の商用炉を持っていますので、1基あたり約365億円でしょうか)

全国には55基の原発があり(平成18年時点)それを約10の電力会社で運営しています。単純に1基365億円の維持費とすると、17カ所、55基で年間、2兆円ぐらいになるのでしょうか。10年で20兆円……。人件費や高レベル放射性廃棄物の処理費用33兆円をプラスすると、費用はその何倍にも膨らみそうです。これだけお金をかけても、日本の全電力消費量の30%しかまかなえていませんし、一度事故が起こると、その後何年も再開できないなど、かなりリスキーな面も持っています。

ちなみに、日本の世帯数は約5,000万世帯です。一戸建てやマンション、アパートなど生活形態は色々ですが、単純に5,000万世帯すべてに、200万円の太陽光発電システムを設置したら、全部で100兆円ほどです。

原発の維持費、廃棄物処理費、人件費、新たな軽水炉の研究開発費を含めて、例えば10年で60兆円だとすると(あくまで予測です)20年間の原発維持費を家庭用ソーラー発電の設置費用として使えば、30%どころではなく、全世帯の電力のほとんどをまかなえるのです。さらに、20年後以降、日本は資本主義圏では珍しい、光熱費ゼロ国家になるかも知れませんし、日本海のガス油田を巡って、中国、台湾と摩擦を起こさなくて済みます。また、家庭用蓄電技術が確立できれば、電線も必要なくなり、膨大なライフライン維持費用が浮く事になります(一度詳しい方に、実際の金額を出してもらいたいものです)。

また、これだけのビッグプロジェクトになると、ソーラーモジュールの量産が進み、単価もかなり安くなるので、もっと短期間で全世帯への設置が進むかもしれません。経済効果も絶大ではないでしょうか。

こうして日本は幸せになったのだ!(by 松林総理^^;)

現政権にも、将来を見据えた、驚くようなビジョンを提示してもらいたいものです(その場しのぎではなく……)。

【まつばやし・あつし】イラストレーター・CGクリエーター
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