デジクリトーク/MMORPGは次世代コンテンツメディアとなりえるか 出渕亮一朗

投稿:  著者:  読了時間:7分(本文:約3,100文字)


バーチャルワールドやバーチャルキャラクターは、私にとって十数年来の研究テーマのひとつである。

VRML(ウェブで表示する3Dデータの標準仕様)やマルチユーザーワールドの時代からずっと追っかけていたし、積極的に探しているわけではないが、老舗のActive WorldsやSecond Lifeのようなユーザークリエイト型ワールドものや、PC版の無料のMMORPG(ゲーム用語:説明はこの文全体で感じてください)を見つけると、気が向けばとりあえず覗いてみるようにしている。

最近見つけた某MMORPGは、「完成型」と自ら歌っているだけあってかなり力が入っていて、確かにいわば現時点での3Dリアルタイムレンダリング技術の集大成であるといってもよいものとなっている。

ワールドに入ると初期村ののどかな風景が広がるのだが、初めにたどり着いた小川にはちょっと感激した。水面はゆらゆら揺れて水底には揺れる魚の影が見え、水面はまた周りの風景やPC(ゲーム用語:アバターと同じ)の影をゆらゆら映している。

また、クエストを行うためにNPC(ゲーム用語:コンピューター制御のキャラクター)に話しかけると、すべてではないがちゃんと音声で話してくれるのだ。私はあの文字での説明は、どうも読むのがめんどくさくてなかなか頭に入らないのだが、音声での説明がいかに重要かがわかる。NPC、PCにはちゃんと瞬きや口パク、表情もついている。まだリップシンク(音声と唇の同期)はやっていないようだが。



さらにすごいのは、重要なクエストの説明時に時々ムービーが流れるのだが、その中に出てくる自分のキャラクターが、今現在の装備や自分固有の姿で登場しているのだ。つまり、詳細は分からないが、リアルタイムレンダリングと合成してムービーを作っているらしいということだ。

その他、細かいところでいろいろ工夫がされているのが憎い。川や池に入ってモンスターを倒すと、いったん沈んでから水面までぷかぷか浮かんでくるとか。空を飛ぶ船に乗ると進行方向と逆に髪や服がなびくところとかは、たぶん物理シミュレーションをしているのだろう。

地面はどこも平らとは限らず、でこぼこや斜面もあるのものだが、そういう所でキャラクターが戦う時でも、両足がちゃんと地についているところとか。まあ、若干地面にめり込んでいたり、浮いていたりはするのだが。これは、単に動作をモーションキャプチャーで取っているだけでなく、インバースキネマティックス(CG用語:この場合、足先の位置から逆に膝の曲げ等を計算すること)も使っているということだ。

この世界ではある程度PCのレベルが上がると羽が生えて飛べるようになり、また、新たな地域に進出できるようになる。初めての「町」で初めての飛行を試してみようとする。周りの人たちに初心者だと笑われるのではないかとおずおずと羽を伸ばして宙に浮いてみる。

方向転換しようとするが、どうも勝手がつかめない。町の上空に舞上がると、そこから見渡せる遠浅の海に巨大なキリンのような長い脚と、小さな頭を持つ象のような生き物が数頭立っていて、その不思議な光景に思わず見とれてしまう。この辺の表現とか、まるで一昔前のサイバーパンク小説みたいだけど、すでに現実です。

このMMOの倒すべきモンスターは、ムカデのようにたくさんの足をざわざわ動かして歩くトカゲとか、魚の頭と象の足と亀の甲羅を持つ砂漠をうろつく生物とか、モンスターというより幻想生物というほうがぴったりで、私はそういうのがけっこう好きなのでわくわくしてしまう。

もうひとつ、宙にに浮く逆三角形の島もこの世界の重要なイメージだ。宙に浮く島はMMORPGによく出てくると思うのだが、そのオリジナルは、イギリスのレコードカバーイラストレーターの巨匠、Roger Deanの描いたイメージだと思う。

彼のレコードジャケットと同じサイズの画集、Views(1975年出版)はとても刺激的で素晴らしいものだったが、そういった世界が3Dとなって、さらにその中を自由に冒険できる日が来たとは考えると嬉しいことである。

MMORPGの世界は、どれもほぼいわゆるファンタジーの世界をベースとしている。ファンタジーとは幻想・空想物語のことであるが、さらに「いわゆる」付きのファンタジーである。J・R・R・トールキンの「指輪物語」あたりを始まりとすると言われる、剣、魔法、竜を代表とする怪物、中世風、異種族間の対立等がテーマとなっている世界である。日本では、上橋菜穂子さんが代表作家であろう。

MMORPGには引きこもりの若者が家でずーっとやっているものとか、ネガティブなイメージが強く、未だ市民権を得ているとは言い難いジャンルだと思う。しかし、次のように考えてみよう。

ストーリーコンテンツを歴史的に見ると、小説は映画と続き(あるいは、漫画はアニメーションに)、文章だけの世界は、視覚や映像、音が付き、より現実の体験に近づいた。

私の祖父母の代は小説は低俗なものと言われたので、親に隠れて読むものだったらしい。また、私の親の代は映画は俗っぽいものとその親に言われたらしく、私の代は漫画やアニメはやはり親に俗っぽいものと言われたのだが、それらは今や日本の世界に誇るコンテンツと文化庁あたりにまで言われている。

つまり、生まれたばかりの文化は、初めはサブカルチャーなのであるが、時間がたつとアカデミックになる、それを昔から繰り返しているのである。

MMORPGは、インタラクティブ、リアルタイム3D、インターネットをキーワードとし、複数の時間軸を持ったメディアに基づくという意味で、小説、映画に続く新たなコンテンツメディアとなるかもしれない。次の点で新たなメディアだと言える。

・まず、大きな物語の中の登場人物の好きな役割になりきることができる。(RPG=role playing game=役割を演じるゲーム)
・その容貌も好みに設定することができる。
・広大な仮想世界の中を自由に移動することができる。
・大きなストーリーの流れはあるのだが、それをどんな順番で、あるいはペースで体験していくかは個々人の自由である。
・さらに、体験の途中で、他のプレイヤーとのコミュニケーションも関わってくる。

つまり、個人個人が異なる体験をすることができるコンテンツメディアなのである。

小説や映画には様々なジャンルがある。サスペンス、恋愛もの、歴史もの、恐怖もの、アクション、コメディ、アート、教育、スパイもの、刑事もの、SF、不条理もの等など。

同様にMMORPGを「いわゆる」ファンタジーに留めず、小説、映画に続く新たなコンテンツメディアと考え、サスペンス、恋愛もの、歴史もの、(以下同文)...のMMORPGを考えていけば、これはすごいパワーと可能性を秘めたものとなるのではないだろうか。

人は長生きしたいと願う。長生きするとより多くの体験ができるはずである。この意味で、自分が選択することができなかった(あるいは、だろう)、より多くの人生を体験してみたいという欲求は人間の本質であると思う。かくして、表現テクノロジーは、よりリアルな体験を生み出すものを追及する方向へと進んで行くのである。

参考:Roger Dean 公式サイト
< http://www.rogerdean.com/ >

【出渕亮一朗】ryoichiro.debuchi(a)gmail.com
コンピューターグラフィックス、インタラクティブアート分野のアーティスト
グラフィックス分野のプログラマー
< http://www.debuchi.com >