異端、そして面白い歌舞伎
── 神谷一郎 ──

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もうかれこれ10年くらい前から、仕事を終えて寝る前の約2時間は、カラダをほぐしアタマをリラックスするための「酒タイム」と称して、酒を飲みながら映画観賞をしていました……毎日! 年間にして少なくても200本は観ていたと思う。しかし、オレの場合、映画館で観るコトが極端に少ないため、ホントウの映画ファンではないのかもしれない。

その毎日映画観賞のサイクルが、数年前から少し崩れた! それは「歌舞伎」という興味がオレに迫ってきたからである。昔から落語や時代小説などが大好きで、歌舞伎もチョロチョロとは観ていたが、今回は特にハマってしまったようだ。映画は大好きだが映画館に足をあまり運ばないオレが、歌舞伎座やその他の劇場にひんぱんに行くようになったくらい……

さて、「歌舞伎」の何を書こうか。もうお分かりのように文章はかなり下手だし、変だし、年季の入った古くからの歌舞伎ファンにはかなわないし、間違いだらけなコトを書いてしまいそうで恐い。さりとて、超初心者解説をアタマから書いてたら、まあ~大変なコトになりますのでザッくりと「平成の歌舞伎」「時代にさきがける歌舞伎」「異端そして面白い歌舞伎」についてちょっことだけ……


さてさて、「歌舞伎」って観ますか? 一般的社会の中で「歌舞伎」ってやっぱマイナーものなのでしょうか? 酒の席などで、まわりの知り合い(イラストレーターなどなど)にチョロっと「歌舞伎話」を振ってみると……

「一度観てみたいヨ~連れてってよ!」「皆で行こう!」「興味あるけど難しそう!」「内容が分からないんじゃないか?!」「伝統芸能はな~」さらには……「着て行く服とかないし~」「高そう!」「寝ちゃいそう~」……なんて意見が多い。それでも皆さん、なんやかんやっといってもチョッコっとは興味はあるようで……

そこでパーティーとかで会った(前に「歌舞伎」に興味ありそうだった)知り合いに「どう?これから一幕~チョコッと観てから飲まない?」って誘ってみると……ほとんど「あっ! 今度ね~今日は……」と断られる。

○ここで「歌舞伎一幕見」について少々御説明を!
歌舞伎は歌舞伎座以外の多くの劇場で上演されてますが、東銀座の歌舞伎座の4階に「一幕見席」という自由席がありまして(大阪松竹座や博多座の歌舞伎公演にもあるらしい)通常、昼の部、夜の部あわせて約6演目の公演がある歌舞伎座でそのうち1演目(一幕約900円)だけ観れる席です。

自由席ですので、人気演目は立見になることや入場制限がある場合もありますが、銀座でふと時間が空いた時、ちょっと観たり、とりあえず見てみたい……好きな役者が出ている幕だけ何度も観たいというような方には良いシステムではないかと思います。(座席数90、立見数60、合計150名の定員制)

昼の部、夜の部は入れ替え制ですが、「一幕見席」で昼の部3演目全部、夜の部3演目全部というチケットの買いは可能です。ただ、たとえば夜の部3演目全部買うと、3階席の夜の部のチケットより高くなってしまうコトがありますので御注意を……

話を戻して……そう断られながらも、最近はポツポツと付き合ってくれる人も出て来たり、オレより古くからの歌舞伎ファンの知り合いを見つけたりで、この前はイラストレーター仲間で国立大劇場で行われている「歌舞伎観賞教室」に行って来ました。コレは、国立大劇場で年に何回が開催されている、第一部が歌舞伎解説、第二部が演目観賞というスタイルのもの。夜から開演の「社会人のための歌舞伎観賞教室」などもあります。

そこで、「歌舞伎」ってマイナーなのか? ですが……

はじめて歌舞伎座にいったらビックリするかと思います。とにかくお客さんが入っているのです。連日満員です。どこからこんなに歌舞伎ファンが集まってくるのかと思うくらい……1階の高価な良席もいつもいつも埋まってます。2階も3階もチケットが取り難いのが、「歌舞伎」というマイナーだと思われてる日本の伝統芸能演劇の現状なのです。ちなみに、演劇劇場、ホールなどで一度も赤字を出してないのが「歌舞伎座」だそうです。これはかなりすごいコトのようです。

されど、はじめて観る人を連れて行く時は、どの演目にするかちょっとは悩みます。そこで「異端、そして面白い歌舞伎」が候補に……それで『中村勘九郎丈』という(長くなるので詳しい人物説明は省きますが)役者兼プロデューサー!! この人がいなくてはなりません……絶対に!

勘九郎丈は、今から10年近く前の平成6年に渋谷のBunkamuraのシアターコクーンで「第1回コクーン歌舞伎」をはじめました。演目は四谷怪談。(この時は確かまだ芸術監督として)串田和美氏を迎え、伝統はしっかりとふまえるが、伝統に胡座をかかない平成の現代歌舞伎を再生スタートさせたのが「異端、そして面白い歌舞伎」のはじまり、はじまり……

その後、串田和美氏を演出家に迎え今年の「桜姫東文章」でコクーン歌舞伎は6回目となる! 伝統の軸はそのままで斬新な演出や舞台で「その軸を傾ける(カブク)」新しい歌舞伎です。もともと監督やら演出家のいない歌舞伎の世界に、演出家を迎えるということ自体カッキテキな出来事であったようです。

さらに勘九郎丈は平成12年には隅田川畔に巨大テントを建て「平成中村座」をスタートさせ! 大阪そしてニューヨークでもその巨大テント小屋歌舞伎を大成功させてしまった(テント小屋は終演後は解体します)。

さらにさらに、歌舞伎座では、今度は野田秀樹氏を脚本演出に迎え「ねずみ小僧」「研辰の討たれ」と、斬新な演出とドリフコント顔負けの脚本で歌舞伎座が爆笑の大喝采!

その「ねずみ小僧」はハイビジョンカメラで撮影され「シネマ歌舞伎」の第一弾として「東劇」で映画上映されました。これがキレイな映像、わかりやすいアングル編集などかなり楽しめるモノになっていましたが、全指定1800~2000円という金額と、宣伝の少なかったためかあれだけ面白い映画があまり一般に浸透しなかたのは残念です。観れば満足する映画です。ぜひ、第2弾も、期待してます……

そして去年は、襲名を迎え、勘九郎丈最後の年に……12月の夜の部3幕目の演目、すなわち勘九郎の名として最後の狂言は渡辺えり子脚本・演出「今昔桃太郎」これまた思い切った勘九郎丈案です!

「鬼退治からはや幾歳、英雄桃太郎は超ダラけた生活をおくっていたせいで自分では歩けないくらいデブになり台車に乗り、犬と猿に引かせて移動する始末……どうやらこれは鬼たちがワザと骨抜きにして復讐を仕掛ける作戦の一部……そしてついにその時が……」って感じのお話なんですが。

なんか「Mr.インクレディブル」みたいで面白そうでしょ……45年前に「桃太郎」で初舞台を踏んだ勘九郎丈が、最後に選んだのは「今昔桃太郎」という新しい楽しい大喜利でした。きっとこの特別演目の再演はないことでしょう。

今年は今年で、3月から5月まで3ヵ月間は「中村勘九郎改め十八世中村勘三郎襲名披露公演」で歌舞伎座は大騒ぎ! 歌舞伎座前にはお神輿まで出た!(この3ヵ月間のレポートを書いてたら大変なコトになるのでこのくらいに……)5月の夜の部3幕目の演目は野田版「研辰の討たれ」の再演! 3月から古典をしっかり披露してラストは野田版をもってくるとはニクイっ!

こういった流れで分かるように、現在の歌舞伎を面白くしてるはまちがいなく「勘九郎改め十八世中村勘三郎」である。よく言われるコトで歌舞伎にハマるにはミーハーでいいから御贔屓の役者をつくって追ってみること……オレもそう思います。

おもしろい演目(本当はスバラシイんだが)を観たければ「勘九郎改め十八世中村勘三郎」の舞台をチェックすることをお勧めします。今年の8月の歌舞伎座八月納涼歌舞伎の串田和美氏演出:『法界坊』はこれはかなりのコメディでお勧めです! もしかすると串田和美氏演出の歌舞伎が歌舞伎座にかかるのははじめてかもしれません。

ちなみに7月の歌舞伎座はこれまたはじめての試みで、蜷川幸雄演出でシェイクスピアの「十二夜」を歌舞伎でやります(これは、新勘三郎丈は出ません)。本当は近松門左衛門、鶴屋南北、河竹黙阿彌などの歌舞伎をじっくり観賞するとスゴック! 感動するのですが、やはりまず人に薦めてしまうのは「異端、そして面白い歌舞伎」になってしまう。

まあ~それで何人かが歌舞伎ファンとして残ってくれればいいかなっとも思いますし、そんなに流行りすぎて、これ以上チケットが取れ難くなても困りますし、一時のブームで終わる文化でもありませんしネ……ただオレとしては、ちょっと歌舞伎話を語れる知り合いがもう少し欲しいだけなんです。

最後に、よく聞かれるコトで「スーパー歌舞伎」はどうなんですか? あれは分かりやすいのでは? ……っと

これはオレだけの考え感想かもしれませんが「スーパー歌舞伎」は「スーパー歌舞伎」であって「歌舞伎」とは違うモノだと思ってます。どちらかというと派手で壮大なスペクタクル歴史ロマン演劇とでも……和の演劇というより、アジアの演劇という感じです(確か「スーパー歌舞伎」は「京劇」とも共演してたと思います)。

決して嫌いではないです。何本か観てますし、スゴイ! と思いますが、あれは無理に歌舞伎にしなくてもりっぱな演劇だと思うのです。確かにセリフまわしとかはハッキリしてるので分りやすいかもしれませんが、「スーパー歌舞伎」を理解できる人なら「歌舞伎」理解できます。

分りやすさや面白さを期待するならば「新勘三郎の歌舞伎」。きれい、派手な殺陣、壮大テーマなら「スーパー歌舞伎」かもしれません。

分りやすく「歌舞伎」をご紹介しようと書いてみましたが、文章の未熟さゆえダラダラと乱文になってしまいました。お詫び申し上げます。ではまたの機会がありましたら「歌舞伎話」したいと思います。

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