伊豆高原での「なんちゃって田舎暮らし」
── 松林あつし ──

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こんにちは。イラストレーター・CGクリエーターの松林です。ご存じないと思いますので、簡単に自己紹介しますね。

私の活動基盤はキャラクター業界です。四年半、大阪のキャラクター制作会社でデザイナーを経験し、その後転職し七年ほどサンリオでキャラクターデザイナーをしておりました。その時の経験を生かし、独立後キャラクター的な作品を中心に、雑誌のカバーイラストや商品のイメージキャラクターの制作、その他CG関連の仕事をこなし、今に至ります。

私を含め、フリーランスで活動されている方は沢山おられると思います。それぞれ業界や制作スタンスが違いますが、フリーランスの生活環境に関しましては共有できる情報も多々あると思います。また、業界の方々にもフリーランスという存在を理解していただく手助けになればと思います。


フリーで活動するという事に対して、みなさん色々な不安を抱えながら生活されていることと思います。私もそうです。いつまで仕事が続けられるのか、将来にわたって収入を確保できるか、子供の学費は確保できるのか、家は買えるのか、ローンは組めるのか、老後の蓄えはできるのか……など、不安要素を挙げればきりがありません。

では、なぜそんなに不安要素だらけの世界に飛び込む必要があったのか……ですが、一つにはバブルの崩壊がありました。つまり、サラリーマンももはや終身雇用の時代ではなくなった……では、自由に自分で仕事を選べるフリーランスでも同じではないか、と思ったわけです。会社組織というしがらみに縛られず、自由気ままに思う方向に進んで行ける……と。(本当の事を言えば、満員電車での通勤がいやだったのですが……)

しかし、実際はそれほど自由ではありませんね。まず、今まではある程度、会社の責任において仕事が進みましたが、独立後はすべて自分の責任で活動しなければなりません。その分、サラリーマンよりシビアです。さらに、会社のしがらみがなくなった代わりに、クライアントというしがらみができます。当然ですが、どんな要求でもクライアントの意向に背くことはできません。

ここにフリーランスとしての葛藤が生まれます。自分としてはオリジナリティを生かした仕事をしたい、しかし、クライアントからは自分のカラーとは正反対の要求が出される……でも、何とか「これが私の作品だ!」と表現したい、でも、クライアントにはそんなものは必要ない……常にこの葛藤のくりかえしです。

これを解決する道は、少数のクリエーターだけが手にできる「オリジナリティでのブレイク」しかないのですが、こればかりはエンドユーザーに認められなければ得られません。独りよがりの作品を押しつけても意味がないのです。ブレイクしたらブレイクしたで、色々大変な面はあるようなのですが、これが多くのフリーランスの目標地点でもあることは確かだと思います。

ちょっと話がずれましたが、私も当然それを目指しています……が、他にもフリーとして享受できる利点を見つけたのです。それが、「自由な生活環境」です。

会社員と最も違う点は、自宅もしくは事務所で気ままに仕事ができる点です。私は自宅の一部屋を仕事場として使っていますが、朝八時に起きて、朝飯を食べて、マックの電源を「シャーン」って入れる……これだけで仕事の準備完了です。こればかりは、サラリーマンに比べると夢のような仕事環境と言えませんか?

もちろん、こういったワークスタンスが実現したのはインターネットのおかげです。独立当初は仕事の度にクライアントに会ってミーティングをしていましたが、だんだんとその機会も少なくなりました。そして、ついには実際に依頼主と会うのも年に一回程度になってしまったのです。ほとんどのやり取りは、メールとFAXで済みますし、納品もデータ転送でおしまいです。

……そして、ある時私は気がつきました。
「別に東京でなくても仕事できるじゃん」

極論を言えば、沖縄でもハワイでも仕事はできます。しかし、悲しいかな小市民である私が勇気を振り絞って選び出した「地」が「伊豆高原」だったのです(伊豆高原から東京までは日帰りできます)。

昔から自然の豊かな所で生活をしたいという願望はありましたが、フリーランスという職種がそれを可能にしました。まあ、移り住むまでには色々紆余曲折ありましたが、昨年無事移住を完了し、こちらに移り住んで一年が経過したところです。

●引っ越し、ずばり正解

まず、朝ウグイスの(けたたましい)鳴き声で起こされ、朝食後犬の散歩です。帰ってから(最近買い換えた)インテルMacの電源を入れて仕事開始。夕方また犬の散歩をし、帰宅後また仕事……こんな感じです。

住んでいる場所は「大室高原」という分譲地ですが、自然が豊かで静かなところです。散歩コースからは相模湾を望み、天気の良い日は伊豆七島が望めます。仕事の合間に紅茶を飲みながら外を見ると、木々や電線を台湾リスが行ったり来たりしています。湿度は高いのですが、空気はきれいです。秋から冬にかけてはきれいな星空を見ることもできます。(私のホームページに天体観測のブログがあります。ご覧ください)

東京では一軒家を持つことなんて夢のまた夢でしたが、田舎だからこそ持てた家だとも言えます。何せ、土地は一坪五万から十万ぐらいがこの辺の相場……東京ではマンションも買えないぐらいの金額で土地付きの家を買うことができます。東京では考えられないような広い庭も持てます。ちなみに、私の家は中古ですが、400平米の土地で120平米の床面積です。これでもここに住んでいたら、「狭いな……」って思ってしまうところが怖い……

フリーランスとして享受できる利点を生かさない手はない、という考えからこの地に越してきましたが、ずばり正解でした。仕事に疲れたら、自然や温泉が癒してくれます。今まではずっと部屋に閉じこもってパソコンと向かい合っていましたが、ここでは、それ以外にやることも沢山あります。行きたいところも沢山あります。

そして、最大の不安要因だった「東京を離れて仕事は減らないか」という点ですが、この点はまったく変わりませんでした。このあたりのネット環境はまだメタル回線ですが、動画の納品でもない限り、これで充分です。

フリーランスの方で、「なんちゃって田舎暮らし」を考えている方はオススメです。(虫嫌いな方は要注意……クモ、ガ、ムカデ、ゲジゲジは日常茶飯事ですから)

【まつばやし あつし】イラストレーター・CGクリエイター
< http://www.atsushi-m.com/
>
< mail@atsushi-m.com >


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