「ヨウコちゃん」
── 服部幸平 ──

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携帯電話に二年くらい前から間違い電話が掛かってきていた。変なオヤジの声(自分もオヤジだけど)。声の感じから50歳くらいだと思う。ある時期、集中して掛かってくるんだよね。

「もしもし……。もしもし……。もしもし……。もしもし……。」
プチ。ツー、ツー、ツー……。

ずっとこんな感じ。舌足らずで、何か妙に幼児っぽい声。「もしもし」と数回言って以後一分間ほど無言。そしてそのまま切れる。いつもこのパターン。最初は聞いていて虫酸(むしず)が走りました。

で、この声で用件五件とか入れる。ひとの携帯の簡易留守録のメモリ、全部使いヤガッテ、コノ。友達とかお客さんが吹き込めなくなるじゃんかっ。

と怒っていましたが。一年後くらい、思い出したかのように突然掛かって来て。しかしその日は違っていた。


〈用件1〉
「もしもし……。もしもし……。もしもし……。……。ヨウコちゃん、どうしたの? ヨウコちゃん、寂しいよ……」
プチ。ツー、ツー、ツー……。

誰だよ「ヨウコ」って?


〈用件2〉
「もしもし……。もしもし……。もしもし……。……。ヨウコちゃん、寂しいよぉ、ヨウコちゃん、寂しいよぉ……」
プチ。ツー、ツー、ツー・・・。

折り返しでこっちから電話掛けたいけど、いつも電話番号は「非通知設定」。やり方が情けないというか。汚いというか。

その時連続して掛かってきたので、急いで出てオヤジと初会話。

「あのね、あなた間違い電話してますよ! 全然関係ないトコへ掛けてんの! 聞いてます?!」

相手のオヤジ、いきなり電話を切って逃げました。
あ、ちくしょう。

翌日、マナーモードにしてる自分の携帯にかなりの留守電数がカウントされてました。もちろん相手はオヤジです。

「ヨウコちゃん、ヨウコちゃん!」の大連呼です。ヨウコの携帯に、いきなり「おとこ」が出たから不安と嫉妬に狂ったか?

しかしこの「ヨウコ」。もし確信犯で、最初から当てずっぽうの電話番号をオヤジに教えていたとしたら……。この日本でオマエの嘘の為に迷惑を被っている人間がココにいるんだぞ!(と怒りたくもなる)

そしてしばらく掛かって来なくて忘れていた去年の年末。来ました! オヤジからの「ヨウコちゃん」電話が。

オマエなぁ……。

こういう人間にはまともに会話しても、もう無駄です。なので「そういう人間用」の会話をする事にしました。

「もしもし……。もしもし……。もしもし……。……。ヨウコちゃん、寂し…」
「俺のオンナにちょっかい出すんじゃねぇ。てめえ殺すぞ!」

電話は急いで切れました。もちろん以後オヤジからの電話はありません。
やっぱり平和が一番ですね。

【はっとり・こうへい】イラストレーター
< http://www.ko-hei.jp/
>
頻繁な間違い電話で困ったことは、過去にも一度あります。こちらは固定電話でしたが。「もしもし、品川郵便局ですか?」というやつ。違うっていうのに……。しかも「え?! 違うんですか?」と、相手は妙に不愉快になっているのね。何でオレが怒られるのよ? どうも局内のどこかの番号とウチと番号が近い並びなんでしょう。相手が公共性のある施設なだけに、ある時期多く掛かって来て困りました。