うちゅうじん通信[5]秘伝、瞑想と読書と技法とコンセプト作り。
── 高橋里季 ──

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暑いですね。イラストレーターの高橋里季です。

前号で書いた「集合の輪の図」の「タマシイ」っていう場所に「文化」は在る、ような気がします。身体と社会の間に。だから文化の話は、タマシイの話なの。
前号< https://bn.dgcr.com/archives/20070727140100.html
>

この、身体と社会の間の領域っていう事が、難しいと思うの。個人と全体、具体と観念、いろんな問題を含む領域だものね。そうか、この場は「言葉の領域」とも言えるのかも。そういえば、言霊っていう考え方もある。


「私は、人間というシステムに絶望している」という立場と、「人間というシステムの絶望性を私は大切に考えている」という立場とか、表現の方向性が、多彩に枝別れする領域かもしれない。それでも、何千パターンの可能性の中から、私が選べる方法は、そんなに多くはないの。たとえば、絶望に絶望している私、って事になるほど私は自由ではないと思います。

今、私が考えている「人間というシステムの絶望性」というのは、たとえば、おいしい肉料理を食べながら、動物を殺す残虐行為や、人間同士が殺しあう可能性、食べ続けなければならない死の脅威、などなどを刻々と考えられるという事。こういう事って、神様のせい?

「絶望的」というのは、「仕方がない(逃れる方法がない)状態の事」だから、「有り難い方法」を探すのだ。私は、文化というのは、こういう事の為にある「有り難い方法」だと思っています。

簡単に洋服を選ぶ時でさえ、ヒトは、どんな行為が自分の属する社会では非難の対象になるのか、または、どんな批判なら、口に出して言ってもいいのか、また、どういう事なら社会的価値を認めてもらえるのか、などなど判断し続けている。これも、人の脳というシステムの絶望性だけれども。つまり、「予測する脳、可能性を何パターンも考える脳」なのだと思うの。さらに、予測不可能性の底知れない恐怖に耐えつつ予測するという事。この事は、「死ぬ事を知りつつ生きる」という絶望に集約できると思います。

なんてったって、客観的観念的には、死ぬ事はわかってるのに、自分の身体で死んだ事のある人は誰もいない。たぶん、死ぬのが怖いのではない。想像を絶するという事が怖いのだ。もしかしたら、死ぬって事は、ものすごく苦しくて怖くて痛いかもしれないじゃない?

さて、絶望あってこその文化、予め人間というシステムに組み込まれた絶望の中にあって、「絶望を破壊せよ!」というのは、神に背く行為だろうか? 瞑想の中にでてきた「破壊」という言葉を何とか大切にしながら、コンセプトを考えていきます。

----背いていいんだ。時間は、いつも私の背後から流れて来るんだもの。----

瞑想中に、---神様には背いていいのだ---とかいう、確信的ではあるけれど、根拠のない励ましを思い付いたのでした。瞑想中に考えた事は、「どんなに訳わかんない内容でも、大切にしておく」というのが、瞑想をうまく進めるコツだと思います。

そんな事で私は、自分の絵の中に「絶望(ありのままのヒトの宿命?)の破壊」が、あって良いのだ! と、やっと自信を持ったのでした。デフォルメという技法が、その破壊の印(しるし)になってるの。うん、うん、いいぞ。と思って、そんな事をコンセプトノートに書いた。なんとなく、神様は、ヒトが何を考えてても許してくれるような気がするの。

けれども、この時の私は、気分的には泣きたいような気持ちになっていました。「なんか、すごい難しいテーマだけど、デフォルメの仕方は、どうするの?」

実際、コンセプトがやっと固まってくると、「どう描くのか」という問題は、すさまじく難しくなっている。たぶん、私が、難しくしているの。なんだか、持っている技法の中ではこなせない「考え方」の方向に、技術を伸ばして行く訳なのね。

泣きたいような気持ちで、気ばらしに「時間が流れるメビウスの輪のブレスレット」というのを作ってみたわ。心細くて、お守りが欲しくなったのね。簡単にできるので、次号、「高橋里季の お守りメビウスの輪のブレスレットの作り方」につづく。

【たかはし・りき】イラストレーター。 riki@tc4.so-net.ne.jp
進化しすぎた脳弓田純大写真展「SIDE-P」を見て来ました。オススメ。9月1日(土)まで。
< http://www.tosei-sha.jp/
>
最近、読んだ本。---講談社ブルーバックス「進化しすぎた脳」---面白かった。
・高橋里季ホームページ
< http://www007.upp.so-net.ne.jp/RIKI/
>


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進化しすぎた脳 中高生と語る「大脳生理学」の最前線
池谷 裕二 長崎 訓子
朝日出版社 2004-10-23
おすすめ平均 star
starただの”脳”本ではない!!
star中高生におすすめ!!
star実験成果、発見がネットワークを作って脳構造になっていくような快感
star高校の授業がこれくらいの内容ならね・・・
star本当にわかりやすいです

海馬―脳は疲れない (新潮文庫) 記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方 (ブルーバックス) 脳はなにかと言い訳する―人は幸せになるようにできていた!? 海馬/脳は疲れない ほぼ日ブックス (ほぼ日ブックス) だれでも天才になれる脳の仕組みと科学的勉強法



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進化しすぎた脳
池谷 裕二
講談社 2007-01-19
おすすめ平均 star
starラッセルの「哲学読本」のように
starこれはマジで面白い!
star刺激的、そしてさわやかな読後感
star面白すぎ!
star感動いたしました。長く記憶に残る本

海馬―脳は疲れない (新潮文庫) 脳はなにかと言い訳する―人は幸せになるようにできていた!? 記憶力を強くする―最新脳科学が語る記憶のしくみと鍛え方 (ブルーバックス) 最新脳科学が教える 高校生の勉強法    東進ブックス 生物と無生物のあいだ (講談社現代新書 1891)

by G-Tools , 2007/08/31