<もっと潜るんだよ、二次元に>
■映画と夜と音楽と…[359]
都会の夜の孤独
十河 進
■Otaku ワールドへようこそ![65]
初夢か メイド姿の 女流棋士
GrowHair
■映画と夜と音楽と…[359]
都会の夜の孤独
十河 進
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初夢か メイド姿の 女流棋士
GrowHair
■映画と夜と音楽と…[359]
都会の夜の孤独
十河 進
< https://bn.dgcr.com/archives/20080118140200.html
>
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●深夜にタクシーで帰宅したとき
先日、久しぶりに都内からタクシーに乗って自宅まで帰った。自宅が遠いので、遅くなっても電車で帰るようにしているのだが、正月第一週の金曜日であり、僕にとっては個人的一周年の日だったので、午前三時まで呑んでしまったからだ。翌日は使いものにならなかった。
先日からタクシー代が値上がりしていたし深夜料金だったので、到着したときには二万円を出して釣りは二千円ほどだった。高速道路を突っ走るから、時間は四十分足らずで着いたが、根が貧乏性なのでタクシーに一万八千円を支払うと、さすがに酔いが醒める。
呑み友だちのIさんは、昔、僕が誘ったひと言で我が家の近くに引っ越してきたのだが、深夜にタクシーで帰宅することが増え、そのタクシー代で充分に高額な家賃が支払えると考えた末、そこを売却して月島にある超高層マンションに引っ越した。銀座からでも歩いて帰れる。
さて、明け方近くに自宅のドアを開けると、息子の部屋にはまだ電気が点いていた。自室に入って服を脱ぎ捨て、七時間ほど呑み続けたせいでフラフラになっている頭を振り「まあ、いいか。不義理を重ねていたかわなかさんにも久しぶりにお会いできたし」とつぶやいて、ベッドに入った。
ちょうど一年前の正月第一週の金曜日、僕の本が前年の暮れに書店に並び、解説を書いていただいたかわなかのぶひろさんと祝杯を挙げることになった。版元の編集者とデザイナーも一緒だった。そのときは、どうせ深夜になるだろうと思い、事前に新宿のビジネスホテルを予約し、当日、チェックインしてから酒場に赴いた。
翌日は深酒の名残で夕方までゴロゴロし、夜、フジテレビで放映された広末涼子主演「バブルへGO!!」(2006年)を見ていたら、1980年代末の盛り場でのタクシー争奪戦が描かれていた。そう言えば、二十年ほど前、忘年会が終わった深夜に渋谷駅前で一時間近く並んでタクシーを待った記憶がある。
タクシーと言えば、僕はすぐに「タクシー・ドライバー」(1976年)を思い出す。ロバート・デ・ニーロの出世作である。少女娼婦を演じたジョディ・フォスター、そのヒモを演じたハーヴェイ・カイテルの出世作でもある。監督のマーチン・スコセッシも「タクシー・ドライバー」で注目された。
あの映画はタクシー・ドライバーの視点でものを見せてくれたので、印象に残っている。夜の通りを流すシーンは、記憶に鮮やかだ。主人公が次第にモノマニアックになり、素肌に大きなショルダーホルスターをつけて鏡の前で早撃ちの練習をするシーンが有名になり、これを真似たシーンは松田優作の「遊戯」シリーズや「新・仁義なき戦い」などで見かけた。
タクシー・ドライバーを主人公に設定した映画ではジム・ジャームッシュ監督の「ナイト・オン・ザ・プラネット」(1991年)も忘れがたい。ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキという別の都市で、同じ夜に繰り広げられる五人のタクシー・ドライバーの物語だ。
都会の夜の孤独──タクシー・ドライバー主演の映画を見て、僕が共通して感じるのはそれだ。大勢の人がいる都会なのに、ひとりタクシーを運転していることで、都会の中の孤独がより強調されるのではないだろうか。盛り場で、歓楽街で人々が欲望を満たしているとき、タクシー・ドライバーは孤独に仕事をしているのである。
●タクシー・ドライバーたちの孤独
日本映画でタクシー・ドライバーを主人公にした作品というと、「月はどっちに出ている」(1993年)がある。この映画でルビー・モレノは映画賞をいろいろもらって、しばらくテレビなどでも見かけたが、今はほとんど見なくなった。フィリピンに帰ったような話も聞く。この映画が出世作になったのは、岸谷五朗である。今でもテレビドラマやCMで見かけることが多い。
「月はどっちに出ている」は監督が崔洋一、原作は梁石日の「タクシー狂操曲」であり、崔洋一と鄭義信が脚色している。この顔ぶれだからこそできたのだと思うが、日本映画で初めて在日コリアンを普通に描いた作品である。在日コリアンを描くとき、従来はタブーとされていたことを軽々と破っている。
在日コリアンの被差別問題は、取り立てて前面には出てこない。もちろん、様々なシーンでそれはうかがえるのだが、日本人監督が作ると声高に「在日コリアンへの差別」をうたいあげてしまいがちだ。しかし、それはない。ニュートラルなスタンスを感じる。
在日コリアンだろうが日本人だろうが同じ欲望を持つ人間なのだ、ということがストレートに伝わってくるコメディである。原作には、訳あって大阪から東京に出てきた梁石日が、タクシー・ドライバーをしながら体験したり見聞きしたことが面白おかしく綴られている。
道がよくわかっていないタクシー・ドライバーのエピソードが、映画版ではタイトルに使われた。彼は仕事を終えタクシー会社に帰ろうとすると、いつも方向がわからなくなる。会社の連絡係に電話すると、連絡係は「月はどっちに出ている」と訊ねる。その月を見ながら帰ってこい、と指示を出すのだ。
主人公(岸谷五郎)は梁石日自身だろう、在日コリアンの設定だ。彼のセックス相手はフィリピンからきて飲み屋で働く女(ルビー・モレノ)であり、他には在日外国人やヤクザなどが登場する。マイノリティを主人公にしている。社会の少数派であり、彼らの生きる姿をリアリティをもって描くことで、その背後にある社会的問題を考えさせる。この映画は、翌年の映画賞をほとんど独占した。当然だと思う。
「月はどっちに出ている」を見ると、日本のタクシー会社のシステムやタクシー・ドライバーたちの生態が真に迫って感じられる。ああ、なるほどそうなっていたのか、と僕は思い、あの頃の父も…と連想した。僕は、しばらくタクシーに平気で乗れなかったことがある。今でも、簡単にタクシーを使うことには後ろめたさを感じる。
タクシーに乗るのは贅沢なことだ、という母の教えが身に沁みていることが第一の理由だろうが、三十年ほど前にタクシーに乗ることが後ろめたかったのは、父がタクシー・ドライバーだったからだ。僕が大学を出て就職し結婚した後、父は家業を畳んでタクシー・ドライバーになった。
●車好きだった父が選んだ隠居仕事
僕がものごころついた頃、父はタイル職人の親方として若い者を十人近く使っていた。その後、職人の数は増減したが、僕が大学に入った頃でも数人のひとがいたと記憶している。しかし、夏休みや冬休みに帰るくらいだったので、その後の様子はよく覚えていない。
僕が大学を出て独立し、あくせく稼ぐ必要がなくなったと思ったのか、父は家業を畳んだ。誰も家業を継がないとわかったのと、その頃、会社組織にするかどうかを迫られたからだと思う。「十河タイル」と名乗っていたが、会社組織ではなく、何人かの職人が集まっていて父は単なる親方に過ぎなかったのだ。
車好きだった父は、初めて教習所に通い二種免許を獲得した(最初の免許は勝手に練習し、試験場に直接いって取ったらしい。昔は、みんなそうだった)。それからタクシー会社に就職した。当時、実家に電話したときに「隠居仕事や言うとったで」と母は言った。
子供の頃から振り返っても、その頃の僕は数えるくらいしかタクシーに乗ったことがなかった。多少遠くても歩いた。母が「タクシーは贅沢だ」とまったく乗らなかったこと、早くから自家用車があり遠くにいくときは父に乗せてもらったのが理由だ。
大学時代、タクシーに乗った記憶はない。もちろん、金もなかった。新宿で電車がなくなると、十二社通りを四十分ほど歩いて方南町の下宿に帰った。そのくせがあったので、会社に入った頃もよく歩いた。呑んで電車がなくなり、相変わらず方南町までフラフラと一時間近く歩いた記憶がある。
その後、引っ越して家が遠くなってからは、電車がなくなると始発まで待つようになった。当時、よく新宿ゴールデン街で一緒に呑んでいた先輩の女性編集者には「ソゴーくん、今日も始発ボーイ?」と言われたものである。しかし、早朝の駅には僕と同じような人ばかりいて、少し切なかった記憶がある。
正直に言うと、僕は父がタクシー・ドライバーであることを恥じていた。好況のとき、タクシー・ドライバーは不足するという。不況になると、タクシー・ドライバーの応募者が増えると聞いた。そんなタクシー・ドライバーに対する偏見が、僕の中にもあることを自覚していた。
だから、父の職業を訊かれると「タイル職人ですよ」と答えていた。僕は職人には、昔から敬意を持っているのだ。当時、僕は雑誌編集者だったが、「職人的な編集者だね」と人から言われることを目標にしていた。それは、僕にとっての最高の誉め言葉だったのだ。
あれは、就職して数年目のことだった。ある日、先輩たちと呑んで遅くなり、先輩のKさんが「俺のところに泊まれ」と言って僕をタクシーに連れ込んだ。Kさんの家は池袋の先で、タクシーに乗ってもそう遠くない。しかし、僕はタクシーに乗っている間、背もたれに背中をつけることができなかった。
初老の運転者さんだった。僕はずっと背筋を伸ばし、彼の背中を見ていた。しばらくしてKさんの自宅近くに着き、Kさんが金を払って降りた。僕は「お世話様でした」と声をかけて降りた。返事はなかった。Kさんが「ずいぶん丁寧だね」と言った。「父がタクシーの運転手をしているもので…」と、そのとき、なぜかすっと言葉が出た。
──職人さんじゃなかったっけ?
──家業は畳んだんです。
──それで、タクシーの中で妙に気を遣ってたのか。
あれから、長い長い時間が過ぎてゆき、今でも必ず「お世話様でした」と言って降りるけれど、僕はタクシーに一万八千円近く支払う人間になった。長く生きるとはそういうものかもしれないな、とも思う。僕も様々な経験を積んできたのだ。しかし、一方で何かをなくしてしまったような気もする。何をなくしたのかは、わからないけれど…
【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
昔、低血圧だったので安心していたら、このところよくめまいがし頭がクラクラする。医者にいったら「高血圧」との診断。確かに高い。下の数値が最大値だとちょうどいいくらいだった。瞬間湯沸かしと言われる性格を直さないとダメかもしれないなあ。しかし、体質は変わっても性格は変わらない?
●305回までのコラムをまとめた二巻本「映画がなければ生きていけない1999-2002」「映画がなければ生きていけない2003-2006」が第25回日本冒険小説協会特別賞「最優秀映画コラム賞」を受賞しました。
< http://www.bookdom.net/shop/shop2.asp?act=prod&prodid=193&corpid=1
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■Otaku ワールドへようこそ![65]
初夢か メイド姿の 女流棋士
GrowHair
< https://bn.dgcr.com/archives/20080118140100.html
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1月4日(金)、千駄ヶ谷にある将棋会館にて、女流棋士28名による「新春女流棋士フェスタ2008」が開催された。イベントの目玉(でいいのか?)は、若手女流棋士五人がメイド姿でウェイトレスを勤める喫茶「ヴィーナス」。これは、真剣師と派遣メイドというふたつの顔を持つ女性が登場する漫画「ハチワンダイバー」(柴田ヨクサル著)にちなんだもの。メイド二人が急遽、対局に駆り出され、漫画さながらのシュールな対局姿を見せてくれた。
また、お正月らしいあでやかな着物姿の女流棋士も多くいて、来場した約250人の将棋ファンたちの目を楽しませていた。他にも、タイトル保持者二人による席上対局、来場者との指導対局、ペア将棋、女流棋士クイズ、トークショウ、昨年の女流タイトル戦の棋譜解説など、地下一階から地上五階まで全部を使って盛りだくさんの催しが同時進行した。
将棋も少したしなみ、メイド依存症な私が、参加しない手はない。勢いで、指導対局まで受けてきた。イベントの模様は女流棋士会のホームページに50枚ほどの写真でレポートされているので、夢だったわけではないはずだ。
●どこまでも 潜っていける 将棋盤
このイベントには、「ハチワンダイバー」を連載する「週刊ヤングジャンプ」の編集部が協力している。タイトルの意味は、将棋盤の9×9=81マスに深く潜れ、ということ。あと一歩のところでプロになり損ねた菅田健太郎は、賭け将棋を生業とする「真剣師」の世界に手を染めていく。プロ崩れとあればあたりまえのように勝ちまくるが、ちまちま儲けてビンに千円札を貯めこんでいく生活のセコさに嫌気がさしてくる。そんなとき、「アキバの受け師」の異名をもつ強い真剣師のうわさを聞き、挑みに行く。
その人は中静そよ。女だった。黒ぶちメガネの、無表情、無愛想な女。菅田はあっさり負かされて、五万円を持っていかれる。「背骨が折れる」ような屈辱感。将棋しかない人間が将棋に負けたら、存在がもたない。「なんとかお返ししなきゃ」。久しぶりに将棋熱が戻る。
中静そよには、もうひとつの顔があった。派遣メイドの「みるく」ちゃん。菅田が部屋を片付けるのに手伝いを呼んだら、たまたま来たのがみるくちゃん。首の鈴をカランカラン鳴らして、にっこりと愛想よく「ご主人さま(はぁと)」。巨体で巨乳のメイドさん。絶対領域がたくましい。
昨日の人だと見破った菅田は、片付けそっちのけで対局を挑む。そして、また負かされる。千円札ばっかりで五十万円ほど入ったビンをキュッと抱え、「ありがとうございました、ご主人さま(はぁと)」。怖いメイドだ。全財産を失って、大事な駒を泣きながら質に入れる菅田。先回りして流しちゃう、そよ。「戦った駒が好き」。ほんっとに怖いメイドだ。そよに操られるように菅田は次々と大勝負に巻き込まれ、変わっていく。
……いい漫画だ。深い。よく考えるとありそうもない設定なのに、登場人物に魂が入っていて、そこに人間がいると感じさせてくれるリアリティがある。将棋指しになる夢がついえて、血が真剣の血に入れ替わっていく悲哀の描写が、ものすごくいい。今、単行本が第五巻まで出ている。
作者の柴田ヨクサル氏も、一度はプロになることを考えた人だという。BIGLOBEがウェブ上で配信する番組「将棋ニュースプラス」で、渡辺明竜王と対談していて、棋歴のことを語っている。小学生のころはずっと指していたが、関根茂九段に二枚落ちで負けて、ぽっきり折れた、と。その後は、ネットや新宿の道場で対局してきたという。対談に引き続き、飛車落ちで対局している。実になんと、この将棋に勝つのである。ハンパな強さではない。渡辺竜王は「ハチワンダイバー」を、将棋をちゃんと知っている人が描いた漫画だからこそ面白い、と絶賛している。
同じ番組で、この漫画からピックアップした場面の実写化が実現した。菅田を演じるのは、戸辺誠四段。「将棋が強そうに見えない顔」が素でできてるところに、悪いけど笑っちゃった。菅田の師匠は鈴木大介八段がモデルだが、これを本人が演じている。この漫画の主題ともなる名ゼリフ「お前の将棋は浅いんだよ。浅瀬でパチャパチャやってる将棋だ。もっと潜るんだよ、ここに。この9×9=81マスに、潜るんだよ」を迫力満点でキメている。
なお、この「浅瀬でパチャパチャ」という表現は応用が効く。例えば「お前の萌えは浅瀬でパチャパチャやってる萌えだ。もっと潜るんだよ、二次元に」とやれば、オタクの道を説いている。目指そう、二次元ダイバー!
●公式戦 でも見たいぞな メイド棋士
10時の開場時間を少し過ぎて将棋会館に着き、二階の喫茶ヴィーナスに直行すると、まず目につくのが、入り口にどーんと貼り出されたポスター。メイドのみるくちゃんになっている中静そよが真ん中に大きく描かれ、見る者を「うゎっ」と言わせる大迫力。「人気女流棋士たちがみるくさんに大変身!」のコピーのもとに、五人の女流棋士の顔写真と名前が並ぶ。
入ると、すでにほぼ席が埋まっているほどの盛況で、メイドさんたちが忙しそうに立ち働いていた。んーん、メイドはやはり働いている姿が一番美しい。メイドさんになっているのは、藤田綾女流初段、貞升南女流ー級、野田澤彩乃女流一級、室田伊緒女流ー級、坂東香菜子女流二級。みんな驚くほど若くてきれい。将棋って顔で指すものではないはずなんだけど。あのバンカナさんに注文とっていただけるなんて、ご主人様冥利に尽きるってもんです。
対局などの催しは13時からで、それまでの間は喫茶店と売店だけが営業、のはずだったのだけど、早い時間に五十人以上集まっていたので、急遽、即興のイベントが催された。メイド姿の藤田初段と貞升一級が対局に引っ張り出される。チェスクロックを叩きあいながら15分切れ負けルールで。まさにハチワンだ。
お二人とも、現役の大学生。若いのである。若くて、かわいい顔してて、メイド姿で。どこからどう見ても、将棋が強そうには見えない。ところがどっこい、これがめっぽう強いんだ。そりゃ、プロだからねー。このギャップがとってもシュールで、これまたハチワンに通じるものがある。
貞升一級の対局姿勢は表情豊かで明るい。対する藤田初段はややうつむき加減で落ち着いてじっと読みに耽る。先手の貞升一級が藤田初段の得意の三間飛車に対して果敢に急戦を挑み、優位に展開する。だけど、持ち時間の切迫が響いてミスが出る。切れ負けルールは公式戦には採用されていないので、指し慣れてなく、ほとんどパニック。わー、きゃー、無理無理、と派手に叫ぶ。最後は運を天にまかせて、お互い一手一秒でバシバシ指すが、貞升一級が惜しくも時間切れ負け。お二人のがんばりに大拍手。
いつか、ヨクサル先生とメイド姿の女流棋士との平手対局、なんてのも見てみたい気がする。そのときは、ビンに千円札を五百枚ほど詰めて持参していただけるとなおよろしいかも。
●爪と牙 ないライオンの 猫パンチ
四階には普段ならプロの公式戦が行われる対局室がある。この日はそこで指導対局。四面指しの形で10セットほど盤が据えられている。まず来場者が好きな席につき、それからプロがくじを引いて、どこに座るかを決める。私に一局教えていただけるのは、上田初美初段に決まった。出で立ちや立ち居振る舞いに気品が感じられ、口調には優しさの感じられる、育ちのよいお嬢様という印象。身に余る光栄。
指導対局を受ける人たちは、駒の扱い方からして強そう。同じ場の他の三人は飛車落ちか角落ちの手合い割でお願いしていた。う、やっぱ強いんだ。私は飛車角二枚落ちでお願いする。ライオンも、爪と牙なきゃただの猫。これならきっと勝てるじゃろ。
「棋は対話なり」という言葉がある。以下に、上田初段と盤上で交わした対話を再現してみよう。
ケ: 駒落ちにも定跡があるらしいけど、知らないので、平手のつもりで。
上: どうぞご自由に。
ケ: そちらの駒組みは、ほぼ飽和しましたね。
上: そちらはまだ王様が矢倉囲いに入城していないし、指したい手がまだまだ
ありますね。
ケ: なのでまだ攻めません。陣容整備でポイントを稼げる手がたくさんありま
す。そちらはどんな手を指してもマイナスになるのでは?
上: ゆっくりしているとジリ貧なので、攻めの姿勢を見せます。
ケ: 右金が単騎で進出してきましたね。棒金のような格好ですね。
上: 攻めてこないなら、こちらから戦端を開きますよ。
ケ: まだ本格的な戦いにしたくないので、歩を打って収めます。
上: それだとこちらだけ歩を手持ちにできるので、得しました。
ケ: そこは妥協です。……って、うかうかしてたら歩を三枚も手持ちに
されてしまいました。いくらなんでも気合いが悪かったですか。
ケ: さて、ようやく十分な態勢が整ったので、今度はこちらから攻めますよ。
まずは銀で歩を交換しにいきます。
上: 歩を打って、銀の進退を問いましょう。
ケ: 今度は本格的な戦いも辞さない覚悟です。銀は進出して、そちらの銀とぶ
つけます。取れば角で取り返して、成り込みの先手になります。
上: すぐには取らず、必要になるまで置いておいます。
ケ: ならばこちらもぶつかり合ったまま放置しときましょう。... おや?
そちらの桂頭がガラ開きですね。歩をずんずん突いていったらどうなるの
でしょう?
上: ひらりと身をかわして受けます。歩の合わせから跳ね出して、そちらの桂
との交換を迫ります。
ケ: 交換を拒否してタダ取りを狙うのは、さすがに危険ですね。交換に応じる
代償に、こちらはと金を作りにいきます。
上: そのと金を自陣に引きつけて守備に活用されると完封負けを喫します。攻
めを催促された格好ですね。じゃ、がんがん行きますよ。
ケ: 堂々と受けて立ちましょう、と盤上では言ってるけど、内心は恐いです。
主砲二枚がいないので、攻めが細いだろうというのが頼みです。
上: 無理攻めは承知の上です。でも、歩が三枚あるので、いろいろできます。
受けそこなったら、ひとつぶしですよ。
ケ: ひえ???。……自陣が多少不恰好になるけど、変化球で受けてみます。
上: あのですねぇ、プロの指し手には狙いが二つあるのですよ。ひとつの筋を
かわしても、ちゃんと別の攻め筋が用意してあるのです。
ケ: うわぁっ。……でも、まだつぶされてはいませんね。全力で防戦です。
上: 不本意な手ですが……。
ケ: ほーう、角の頭に銀を打つ攻めですか。本丸から遥か遠いところを攻めて
きますね。
上: もはやこんな攻めしか残っていないということです。きれいに受けきられ
てしまったので。
ケ: ということは、ほぼ勝勢ですね。
上: そのとおりです。
ケ: この将棋は何が何でも勝たなくては。もし落としたら、一生、どんなチャ
ンスがめぐってきても、ものにできないような気がします。
上: がんばってください。
ケ: ひー。ここへ来て、急に緊張してきましたー。
ケ: まずは攻め駒をお掃除して、自玉の安全を図ります。……さて、ついにそ
ちらの本丸に火を放つときがきました。
上: 全力で防戦です。
ケ: こちらは飛車角があるので、攻めが息切れすることはないはずですが。
上: そのとおりですが、ミスをしたら容赦しませんからね。
ケ: ひー。攻めてるのに恐い。突進していけば、突破できるはずだという局面
なのに。えーっと、こうかな?
上: 攻めに使いたかった持ち駒の金ですが、自陣に埋めざるを得ませんね。
ケ: あれ? なぜそんなところに?
上: なぜって……。あなたの攻めを受けるためでしょう?
ケ: その攻め筋が見えてませんでしたけど……。
上: んもう! まったく……。
ケ: 桂を打って攻めます。
上: その桂を逆に攻めます。
ケ: あれ? あれ? あれれ……。取られちゃうよー。やばい、やばい。いや
いや、こんなところは放置して、王様を寄せる場面だろ、ここは。ぜーっ
たいに、決めどころななずだ。え? っと、え? っと。うう、盤が固く
て潜れんっ! いやいや、固いのは俺の頭だっ!
(思わず声に出して。しかも大声で)うんがー、寄らねぇっ!!!
上: (やさしい、落ち着いた声で)あともうちょっとなんですけどねぇ。
ケ: (再び沈黙して)しかたがない、桂の下に歩を打って守ります。
上: んもぅ!! スパッと斬ってくれって、人が首を差し出してるのに、じわ
じわ絞めてくる気?
ケ: ひー、すいませんすいませんすいません。そんなつもりでは……。ヘボな
だけなんです。だけど、これで形勢を損ねなかったのは幸いでした。ここ
からはがんがん攻めます。端歩を突いて、香車を奪って、それを打って退
路封鎖。ここまで来たら角もぶった切って、……ようやく詰み筋が見えて
きました。
上: もう受けはありませんが、もらった角を打って、ひとつの詰み筋を消して
おきます。
ケ: 別の詰み筋も、ちゃんと見えていました。これで詰んでますよね?
上: (声に出して)負けました。
ケ: (声に出して)あ、ありがとうございましたっ。
いやぁ、なんとか勝てはしたものの、盤上の会話のかっちょ悪いこと。棋力のなさが如実に現れた。将棋は、強くなくても対話を楽しむことはできるが、強くなればなったなりに、より深く楽しい会話になるものらしい。
●書ききれん その他もろもろ ここ見てね
─女流棋士会のサイトには、写真レポートが。
< http://lppg.shogi.or.jp/report/shinshun_fa.html
>
─将棋ニュースプラスでは、「ご主人様、王手です」のコーナーでおなじみのメイドの一之瀬まゆちゃんが、動画でレポート。うっかり横をすり抜けて、顔モザイクで画面を汚しているおっさんは私。ごめん。ドラマ・ハチワンダイバーや、ヨクサル先生の対談・対局も見どころ。
< http://broadband.biglobe.ne.jp/sitemap/index_shougi.html
>
─私の同僚の直江雨続君も、ブログにレポートしている。ブロガー棋士の片上 五段と遠山四段からコメントをもらっている。う、うらやましいぞっ!
< http://ametsugu.no-blog.jp/open/2008/01/post_9643.html
>
─先崎学八段の「山手線内回りのゲリラ」のサイン本を本人から直接購入。週刊文春のコラム「浮いたり沈んだり」をまとめたもの。私は文春を買うと、真っ先にこのコラムを読むので、面白いのは分かっていた。
─4月26日(土)に大井町で女流棋士会のイベントがある模様。
【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
カメコ。この翌日には、宝塚星組の東京公演を見てきた。人生初のことが二日続いて、頭の中はカオス状態。演目は「エル・アルコン-鷹-」。いやぁ、よかった、すばらしかった。内緒だけど、ちょっと泣いちゃった。次の週末に和歌山のポルト・ヨーロッパでコスプレイベントがあり、この作品のキャラのコスをする人が、予習にと連れていってくれたのであった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■編集後記(1/18)
・久しぶりに書棚の整理をした。普段はホコリをはらうくらいのことはやっていたが、並んでいる本を一冊ずつ取り出して汚れを拭きとり、状態をチェックするのは引っ越し以来か。そんな中で、新潮社版「三島由紀夫全集」全35巻・補巻1に異変が! この黒函に入った豪華全集は1973年から1976年にかけて刊行された(「決定版」の前の全集)。かけだし編集者の頃、取引先の活版印刷会社がこの全集の口絵を印刷しており、割引価格で配本毎に届けてもらったものだ。30年前から「老後の楽しみに」と大事にしてきたのである。函から本を取り出したら、赤い革の背表紙に本を被っていたパラフィン紙が劣化してくっついていた。そっと剥がすとうまく剥がれるのもある(気持ちいい)。だが、そういうのばかりではなく、どうしても剥がれないのが全巻の1/3くらいある。書棚の最下段に収まっていた巻に多い。湿気があったのだろうか。ともかく、全巻を日陰で数日乾燥させた。ふとひらめいたのが、パラフィン紙の上にセロファンテープを貼り、それを剥がすとパラフィン紙もくっついて剥がれてくるのではないかということ。成功。革が多少ケバ立つこともあったが、ほとんどすべてを剥がせた。その後、新たなパラフィン紙で巻いた。ところで「老後」って何だ。「年をとってからのち」と辞書にあるが、ずいぶんあいまいな表現だ。わたしはいま老後なんだろうか。老後に、と先送りしたことがいくつもある。そろそろとりかからなければならないのか。(柴田)
・十河さんのコラムに登場する映画を、全部見たことがあるのって珍しい。といっても全部TVでだし、「バブルにGO!!」は全部見てないけど。/GrowHairさんとかぶった。タカラヅカ雪組「君を愛してる」「ミロワール」を観てきた。新春公演は毎年明るく楽しい作品で、今年のも悪い人が出てこない物語とオーソドックスなこれぞタカラヅカ的なショー。世界陸上のオープニングでおなじみ(?)AQUA5のメンバーがメイン。AQUA5の中心は現トップスターの水夏希。水様がAQUA5というユニットを「六甲のおいしい水」で、と水づくしの関西限定CMをやっていたさ。今回のショーでもAQUA5のシーンや、新曲披露もあったさ。AQUA5の曲はゴスペラーズの人の作曲らしい。お芝居はとっても可愛いラブストーリー。サーカスを表現するためのセットに唸った。ショーでは、うっとりしたり、衣装や振り付け・演出を見たり、踊りや歌の上手い下手を見ていたり。男役衆の燕尾服ボレロが見られ、これだけでも観に行った甲斐があったってものさ。どの組でも感動するのはロケット、ラインダンス。今回は自分がやっているつもりで見ていたら息切れしたわ(笑)。第一、あんなに足が上がらない〜。(hammer.mule)
< http://kageki.hankyu.co.jp/revue/53/index.shtml
> 公演案内
< http://www.tca-pictures.net/aqua5/
> AQUA5
< http://jp.youtube.com/watch?v=e6IP_vBJV5Y
>
キャンペーンサイトが閉鎖されてたー
< http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%ED%A5%B1%A5%C3%A5%C8?kid=195009
>
ロケットとは
< http://allabout.co.jp/entertainment/takarazukafan/closeup/CU20010319A/
>
初舞台生 感動と喜びのラインダンス
都会の夜の孤独
十河 進
< https://bn.dgcr.com/archives/20080118140200.html
>
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●深夜にタクシーで帰宅したとき
先日、久しぶりに都内からタクシーに乗って自宅まで帰った。自宅が遠いので、遅くなっても電車で帰るようにしているのだが、正月第一週の金曜日であり、僕にとっては個人的一周年の日だったので、午前三時まで呑んでしまったからだ。翌日は使いものにならなかった。
先日からタクシー代が値上がりしていたし深夜料金だったので、到着したときには二万円を出して釣りは二千円ほどだった。高速道路を突っ走るから、時間は四十分足らずで着いたが、根が貧乏性なのでタクシーに一万八千円を支払うと、さすがに酔いが醒める。
呑み友だちのIさんは、昔、僕が誘ったひと言で我が家の近くに引っ越してきたのだが、深夜にタクシーで帰宅することが増え、そのタクシー代で充分に高額な家賃が支払えると考えた末、そこを売却して月島にある超高層マンションに引っ越した。銀座からでも歩いて帰れる。
さて、明け方近くに自宅のドアを開けると、息子の部屋にはまだ電気が点いていた。自室に入って服を脱ぎ捨て、七時間ほど呑み続けたせいでフラフラになっている頭を振り「まあ、いいか。不義理を重ねていたかわなかさんにも久しぶりにお会いできたし」とつぶやいて、ベッドに入った。
ちょうど一年前の正月第一週の金曜日、僕の本が前年の暮れに書店に並び、解説を書いていただいたかわなかのぶひろさんと祝杯を挙げることになった。版元の編集者とデザイナーも一緒だった。そのときは、どうせ深夜になるだろうと思い、事前に新宿のビジネスホテルを予約し、当日、チェックインしてから酒場に赴いた。
翌日は深酒の名残で夕方までゴロゴロし、夜、フジテレビで放映された広末涼子主演「バブルへGO!!」(2006年)を見ていたら、1980年代末の盛り場でのタクシー争奪戦が描かれていた。そう言えば、二十年ほど前、忘年会が終わった深夜に渋谷駅前で一時間近く並んでタクシーを待った記憶がある。
タクシーと言えば、僕はすぐに「タクシー・ドライバー」(1976年)を思い出す。ロバート・デ・ニーロの出世作である。少女娼婦を演じたジョディ・フォスター、そのヒモを演じたハーヴェイ・カイテルの出世作でもある。監督のマーチン・スコセッシも「タクシー・ドライバー」で注目された。
あの映画はタクシー・ドライバーの視点でものを見せてくれたので、印象に残っている。夜の通りを流すシーンは、記憶に鮮やかだ。主人公が次第にモノマニアックになり、素肌に大きなショルダーホルスターをつけて鏡の前で早撃ちの練習をするシーンが有名になり、これを真似たシーンは松田優作の「遊戯」シリーズや「新・仁義なき戦い」などで見かけた。
タクシー・ドライバーを主人公に設定した映画ではジム・ジャームッシュ監督の「ナイト・オン・ザ・プラネット」(1991年)も忘れがたい。ロサンゼルス、ニューヨーク、パリ、ローマ、ヘルシンキという別の都市で、同じ夜に繰り広げられる五人のタクシー・ドライバーの物語だ。
都会の夜の孤独──タクシー・ドライバー主演の映画を見て、僕が共通して感じるのはそれだ。大勢の人がいる都会なのに、ひとりタクシーを運転していることで、都会の中の孤独がより強調されるのではないだろうか。盛り場で、歓楽街で人々が欲望を満たしているとき、タクシー・ドライバーは孤独に仕事をしているのである。
●タクシー・ドライバーたちの孤独
日本映画でタクシー・ドライバーを主人公にした作品というと、「月はどっちに出ている」(1993年)がある。この映画でルビー・モレノは映画賞をいろいろもらって、しばらくテレビなどでも見かけたが、今はほとんど見なくなった。フィリピンに帰ったような話も聞く。この映画が出世作になったのは、岸谷五朗である。今でもテレビドラマやCMで見かけることが多い。
「月はどっちに出ている」は監督が崔洋一、原作は梁石日の「タクシー狂操曲」であり、崔洋一と鄭義信が脚色している。この顔ぶれだからこそできたのだと思うが、日本映画で初めて在日コリアンを普通に描いた作品である。在日コリアンを描くとき、従来はタブーとされていたことを軽々と破っている。
在日コリアンの被差別問題は、取り立てて前面には出てこない。もちろん、様々なシーンでそれはうかがえるのだが、日本人監督が作ると声高に「在日コリアンへの差別」をうたいあげてしまいがちだ。しかし、それはない。ニュートラルなスタンスを感じる。
在日コリアンだろうが日本人だろうが同じ欲望を持つ人間なのだ、ということがストレートに伝わってくるコメディである。原作には、訳あって大阪から東京に出てきた梁石日が、タクシー・ドライバーをしながら体験したり見聞きしたことが面白おかしく綴られている。
道がよくわかっていないタクシー・ドライバーのエピソードが、映画版ではタイトルに使われた。彼は仕事を終えタクシー会社に帰ろうとすると、いつも方向がわからなくなる。会社の連絡係に電話すると、連絡係は「月はどっちに出ている」と訊ねる。その月を見ながら帰ってこい、と指示を出すのだ。
主人公(岸谷五郎)は梁石日自身だろう、在日コリアンの設定だ。彼のセックス相手はフィリピンからきて飲み屋で働く女(ルビー・モレノ)であり、他には在日外国人やヤクザなどが登場する。マイノリティを主人公にしている。社会の少数派であり、彼らの生きる姿をリアリティをもって描くことで、その背後にある社会的問題を考えさせる。この映画は、翌年の映画賞をほとんど独占した。当然だと思う。
「月はどっちに出ている」を見ると、日本のタクシー会社のシステムやタクシー・ドライバーたちの生態が真に迫って感じられる。ああ、なるほどそうなっていたのか、と僕は思い、あの頃の父も…と連想した。僕は、しばらくタクシーに平気で乗れなかったことがある。今でも、簡単にタクシーを使うことには後ろめたさを感じる。
タクシーに乗るのは贅沢なことだ、という母の教えが身に沁みていることが第一の理由だろうが、三十年ほど前にタクシーに乗ることが後ろめたかったのは、父がタクシー・ドライバーだったからだ。僕が大学を出て就職し結婚した後、父は家業を畳んでタクシー・ドライバーになった。
●車好きだった父が選んだ隠居仕事
僕がものごころついた頃、父はタイル職人の親方として若い者を十人近く使っていた。その後、職人の数は増減したが、僕が大学に入った頃でも数人のひとがいたと記憶している。しかし、夏休みや冬休みに帰るくらいだったので、その後の様子はよく覚えていない。
僕が大学を出て独立し、あくせく稼ぐ必要がなくなったと思ったのか、父は家業を畳んだ。誰も家業を継がないとわかったのと、その頃、会社組織にするかどうかを迫られたからだと思う。「十河タイル」と名乗っていたが、会社組織ではなく、何人かの職人が集まっていて父は単なる親方に過ぎなかったのだ。
車好きだった父は、初めて教習所に通い二種免許を獲得した(最初の免許は勝手に練習し、試験場に直接いって取ったらしい。昔は、みんなそうだった)。それからタクシー会社に就職した。当時、実家に電話したときに「隠居仕事や言うとったで」と母は言った。
子供の頃から振り返っても、その頃の僕は数えるくらいしかタクシーに乗ったことがなかった。多少遠くても歩いた。母が「タクシーは贅沢だ」とまったく乗らなかったこと、早くから自家用車があり遠くにいくときは父に乗せてもらったのが理由だ。
大学時代、タクシーに乗った記憶はない。もちろん、金もなかった。新宿で電車がなくなると、十二社通りを四十分ほど歩いて方南町の下宿に帰った。そのくせがあったので、会社に入った頃もよく歩いた。呑んで電車がなくなり、相変わらず方南町までフラフラと一時間近く歩いた記憶がある。
その後、引っ越して家が遠くなってからは、電車がなくなると始発まで待つようになった。当時、よく新宿ゴールデン街で一緒に呑んでいた先輩の女性編集者には「ソゴーくん、今日も始発ボーイ?」と言われたものである。しかし、早朝の駅には僕と同じような人ばかりいて、少し切なかった記憶がある。
正直に言うと、僕は父がタクシー・ドライバーであることを恥じていた。好況のとき、タクシー・ドライバーは不足するという。不況になると、タクシー・ドライバーの応募者が増えると聞いた。そんなタクシー・ドライバーに対する偏見が、僕の中にもあることを自覚していた。
だから、父の職業を訊かれると「タイル職人ですよ」と答えていた。僕は職人には、昔から敬意を持っているのだ。当時、僕は雑誌編集者だったが、「職人的な編集者だね」と人から言われることを目標にしていた。それは、僕にとっての最高の誉め言葉だったのだ。
あれは、就職して数年目のことだった。ある日、先輩たちと呑んで遅くなり、先輩のKさんが「俺のところに泊まれ」と言って僕をタクシーに連れ込んだ。Kさんの家は池袋の先で、タクシーに乗ってもそう遠くない。しかし、僕はタクシーに乗っている間、背もたれに背中をつけることができなかった。
初老の運転者さんだった。僕はずっと背筋を伸ばし、彼の背中を見ていた。しばらくしてKさんの自宅近くに着き、Kさんが金を払って降りた。僕は「お世話様でした」と声をかけて降りた。返事はなかった。Kさんが「ずいぶん丁寧だね」と言った。「父がタクシーの運転手をしているもので…」と、そのとき、なぜかすっと言葉が出た。
──職人さんじゃなかったっけ?
──家業は畳んだんです。
──それで、タクシーの中で妙に気を遣ってたのか。
あれから、長い長い時間が過ぎてゆき、今でも必ず「お世話様でした」と言って降りるけれど、僕はタクシーに一万八千円近く支払う人間になった。長く生きるとはそういうものかもしれないな、とも思う。僕も様々な経験を積んできたのだ。しかし、一方で何かをなくしてしまったような気もする。何をなくしたのかは、わからないけれど…
【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
昔、低血圧だったので安心していたら、このところよくめまいがし頭がクラクラする。医者にいったら「高血圧」との診断。確かに高い。下の数値が最大値だとちょうどいいくらいだった。瞬間湯沸かしと言われる性格を直さないとダメかもしれないなあ。しかし、体質は変わっても性格は変わらない?
●305回までのコラムをまとめた二巻本「映画がなければ生きていけない1999-2002」「映画がなければ生きていけない2003-2006」が第25回日本冒険小説協会特別賞「最優秀映画コラム賞」を受賞しました。
< http://www.bookdom.net/shop/shop2.asp?act=prod&prodid=193&corpid=1
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■Otaku ワールドへようこそ![65]
初夢か メイド姿の 女流棋士
GrowHair
< https://bn.dgcr.com/archives/20080118140100.html
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1月4日(金)、千駄ヶ谷にある将棋会館にて、女流棋士28名による「新春女流棋士フェスタ2008」が開催された。イベントの目玉(でいいのか?)は、若手女流棋士五人がメイド姿でウェイトレスを勤める喫茶「ヴィーナス」。これは、真剣師と派遣メイドというふたつの顔を持つ女性が登場する漫画「ハチワンダイバー」(柴田ヨクサル著)にちなんだもの。メイド二人が急遽、対局に駆り出され、漫画さながらのシュールな対局姿を見せてくれた。
また、お正月らしいあでやかな着物姿の女流棋士も多くいて、来場した約250人の将棋ファンたちの目を楽しませていた。他にも、タイトル保持者二人による席上対局、来場者との指導対局、ペア将棋、女流棋士クイズ、トークショウ、昨年の女流タイトル戦の棋譜解説など、地下一階から地上五階まで全部を使って盛りだくさんの催しが同時進行した。
将棋も少したしなみ、メイド依存症な私が、参加しない手はない。勢いで、指導対局まで受けてきた。イベントの模様は女流棋士会のホームページに50枚ほどの写真でレポートされているので、夢だったわけではないはずだ。
●どこまでも 潜っていける 将棋盤
このイベントには、「ハチワンダイバー」を連載する「週刊ヤングジャンプ」の編集部が協力している。タイトルの意味は、将棋盤の9×9=81マスに深く潜れ、ということ。あと一歩のところでプロになり損ねた菅田健太郎は、賭け将棋を生業とする「真剣師」の世界に手を染めていく。プロ崩れとあればあたりまえのように勝ちまくるが、ちまちま儲けてビンに千円札を貯めこんでいく生活のセコさに嫌気がさしてくる。そんなとき、「アキバの受け師」の異名をもつ強い真剣師のうわさを聞き、挑みに行く。
その人は中静そよ。女だった。黒ぶちメガネの、無表情、無愛想な女。菅田はあっさり負かされて、五万円を持っていかれる。「背骨が折れる」ような屈辱感。将棋しかない人間が将棋に負けたら、存在がもたない。「なんとかお返ししなきゃ」。久しぶりに将棋熱が戻る。
中静そよには、もうひとつの顔があった。派遣メイドの「みるく」ちゃん。菅田が部屋を片付けるのに手伝いを呼んだら、たまたま来たのがみるくちゃん。首の鈴をカランカラン鳴らして、にっこりと愛想よく「ご主人さま(はぁと)」。巨体で巨乳のメイドさん。絶対領域がたくましい。
昨日の人だと見破った菅田は、片付けそっちのけで対局を挑む。そして、また負かされる。千円札ばっかりで五十万円ほど入ったビンをキュッと抱え、「ありがとうございました、ご主人さま(はぁと)」。怖いメイドだ。全財産を失って、大事な駒を泣きながら質に入れる菅田。先回りして流しちゃう、そよ。「戦った駒が好き」。ほんっとに怖いメイドだ。そよに操られるように菅田は次々と大勝負に巻き込まれ、変わっていく。
……いい漫画だ。深い。よく考えるとありそうもない設定なのに、登場人物に魂が入っていて、そこに人間がいると感じさせてくれるリアリティがある。将棋指しになる夢がついえて、血が真剣の血に入れ替わっていく悲哀の描写が、ものすごくいい。今、単行本が第五巻まで出ている。
作者の柴田ヨクサル氏も、一度はプロになることを考えた人だという。BIGLOBEがウェブ上で配信する番組「将棋ニュースプラス」で、渡辺明竜王と対談していて、棋歴のことを語っている。小学生のころはずっと指していたが、関根茂九段に二枚落ちで負けて、ぽっきり折れた、と。その後は、ネットや新宿の道場で対局してきたという。対談に引き続き、飛車落ちで対局している。実になんと、この将棋に勝つのである。ハンパな強さではない。渡辺竜王は「ハチワンダイバー」を、将棋をちゃんと知っている人が描いた漫画だからこそ面白い、と絶賛している。
同じ番組で、この漫画からピックアップした場面の実写化が実現した。菅田を演じるのは、戸辺誠四段。「将棋が強そうに見えない顔」が素でできてるところに、悪いけど笑っちゃった。菅田の師匠は鈴木大介八段がモデルだが、これを本人が演じている。この漫画の主題ともなる名ゼリフ「お前の将棋は浅いんだよ。浅瀬でパチャパチャやってる将棋だ。もっと潜るんだよ、ここに。この9×9=81マスに、潜るんだよ」を迫力満点でキメている。
なお、この「浅瀬でパチャパチャ」という表現は応用が効く。例えば「お前の萌えは浅瀬でパチャパチャやってる萌えだ。もっと潜るんだよ、二次元に」とやれば、オタクの道を説いている。目指そう、二次元ダイバー!
●公式戦 でも見たいぞな メイド棋士
10時の開場時間を少し過ぎて将棋会館に着き、二階の喫茶ヴィーナスに直行すると、まず目につくのが、入り口にどーんと貼り出されたポスター。メイドのみるくちゃんになっている中静そよが真ん中に大きく描かれ、見る者を「うゎっ」と言わせる大迫力。「人気女流棋士たちがみるくさんに大変身!」のコピーのもとに、五人の女流棋士の顔写真と名前が並ぶ。
入ると、すでにほぼ席が埋まっているほどの盛況で、メイドさんたちが忙しそうに立ち働いていた。んーん、メイドはやはり働いている姿が一番美しい。メイドさんになっているのは、藤田綾女流初段、貞升南女流ー級、野田澤彩乃女流一級、室田伊緒女流ー級、坂東香菜子女流二級。みんな驚くほど若くてきれい。将棋って顔で指すものではないはずなんだけど。あのバンカナさんに注文とっていただけるなんて、ご主人様冥利に尽きるってもんです。
対局などの催しは13時からで、それまでの間は喫茶店と売店だけが営業、のはずだったのだけど、早い時間に五十人以上集まっていたので、急遽、即興のイベントが催された。メイド姿の藤田初段と貞升一級が対局に引っ張り出される。チェスクロックを叩きあいながら15分切れ負けルールで。まさにハチワンだ。
お二人とも、現役の大学生。若いのである。若くて、かわいい顔してて、メイド姿で。どこからどう見ても、将棋が強そうには見えない。ところがどっこい、これがめっぽう強いんだ。そりゃ、プロだからねー。このギャップがとってもシュールで、これまたハチワンに通じるものがある。
貞升一級の対局姿勢は表情豊かで明るい。対する藤田初段はややうつむき加減で落ち着いてじっと読みに耽る。先手の貞升一級が藤田初段の得意の三間飛車に対して果敢に急戦を挑み、優位に展開する。だけど、持ち時間の切迫が響いてミスが出る。切れ負けルールは公式戦には採用されていないので、指し慣れてなく、ほとんどパニック。わー、きゃー、無理無理、と派手に叫ぶ。最後は運を天にまかせて、お互い一手一秒でバシバシ指すが、貞升一級が惜しくも時間切れ負け。お二人のがんばりに大拍手。
いつか、ヨクサル先生とメイド姿の女流棋士との平手対局、なんてのも見てみたい気がする。そのときは、ビンに千円札を五百枚ほど詰めて持参していただけるとなおよろしいかも。
●爪と牙 ないライオンの 猫パンチ
四階には普段ならプロの公式戦が行われる対局室がある。この日はそこで指導対局。四面指しの形で10セットほど盤が据えられている。まず来場者が好きな席につき、それからプロがくじを引いて、どこに座るかを決める。私に一局教えていただけるのは、上田初美初段に決まった。出で立ちや立ち居振る舞いに気品が感じられ、口調には優しさの感じられる、育ちのよいお嬢様という印象。身に余る光栄。
指導対局を受ける人たちは、駒の扱い方からして強そう。同じ場の他の三人は飛車落ちか角落ちの手合い割でお願いしていた。う、やっぱ強いんだ。私は飛車角二枚落ちでお願いする。ライオンも、爪と牙なきゃただの猫。これならきっと勝てるじゃろ。
「棋は対話なり」という言葉がある。以下に、上田初段と盤上で交わした対話を再現してみよう。
ケ: 駒落ちにも定跡があるらしいけど、知らないので、平手のつもりで。
上: どうぞご自由に。
ケ: そちらの駒組みは、ほぼ飽和しましたね。
上: そちらはまだ王様が矢倉囲いに入城していないし、指したい手がまだまだ
ありますね。
ケ: なのでまだ攻めません。陣容整備でポイントを稼げる手がたくさんありま
す。そちらはどんな手を指してもマイナスになるのでは?
上: ゆっくりしているとジリ貧なので、攻めの姿勢を見せます。
ケ: 右金が単騎で進出してきましたね。棒金のような格好ですね。
上: 攻めてこないなら、こちらから戦端を開きますよ。
ケ: まだ本格的な戦いにしたくないので、歩を打って収めます。
上: それだとこちらだけ歩を手持ちにできるので、得しました。
ケ: そこは妥協です。……って、うかうかしてたら歩を三枚も手持ちに
されてしまいました。いくらなんでも気合いが悪かったですか。
ケ: さて、ようやく十分な態勢が整ったので、今度はこちらから攻めますよ。
まずは銀で歩を交換しにいきます。
上: 歩を打って、銀の進退を問いましょう。
ケ: 今度は本格的な戦いも辞さない覚悟です。銀は進出して、そちらの銀とぶ
つけます。取れば角で取り返して、成り込みの先手になります。
上: すぐには取らず、必要になるまで置いておいます。
ケ: ならばこちらもぶつかり合ったまま放置しときましょう。... おや?
そちらの桂頭がガラ開きですね。歩をずんずん突いていったらどうなるの
でしょう?
上: ひらりと身をかわして受けます。歩の合わせから跳ね出して、そちらの桂
との交換を迫ります。
ケ: 交換を拒否してタダ取りを狙うのは、さすがに危険ですね。交換に応じる
代償に、こちらはと金を作りにいきます。
上: そのと金を自陣に引きつけて守備に活用されると完封負けを喫します。攻
めを催促された格好ですね。じゃ、がんがん行きますよ。
ケ: 堂々と受けて立ちましょう、と盤上では言ってるけど、内心は恐いです。
主砲二枚がいないので、攻めが細いだろうというのが頼みです。
上: 無理攻めは承知の上です。でも、歩が三枚あるので、いろいろできます。
受けそこなったら、ひとつぶしですよ。
ケ: ひえ???。……自陣が多少不恰好になるけど、変化球で受けてみます。
上: あのですねぇ、プロの指し手には狙いが二つあるのですよ。ひとつの筋を
かわしても、ちゃんと別の攻め筋が用意してあるのです。
ケ: うわぁっ。……でも、まだつぶされてはいませんね。全力で防戦です。
上: 不本意な手ですが……。
ケ: ほーう、角の頭に銀を打つ攻めですか。本丸から遥か遠いところを攻めて
きますね。
上: もはやこんな攻めしか残っていないということです。きれいに受けきられ
てしまったので。
ケ: ということは、ほぼ勝勢ですね。
上: そのとおりです。
ケ: この将棋は何が何でも勝たなくては。もし落としたら、一生、どんなチャ
ンスがめぐってきても、ものにできないような気がします。
上: がんばってください。
ケ: ひー。ここへ来て、急に緊張してきましたー。
ケ: まずは攻め駒をお掃除して、自玉の安全を図ります。……さて、ついにそ
ちらの本丸に火を放つときがきました。
上: 全力で防戦です。
ケ: こちらは飛車角があるので、攻めが息切れすることはないはずですが。
上: そのとおりですが、ミスをしたら容赦しませんからね。
ケ: ひー。攻めてるのに恐い。突進していけば、突破できるはずだという局面
なのに。えーっと、こうかな?
上: 攻めに使いたかった持ち駒の金ですが、自陣に埋めざるを得ませんね。
ケ: あれ? なぜそんなところに?
上: なぜって……。あなたの攻めを受けるためでしょう?
ケ: その攻め筋が見えてませんでしたけど……。
上: んもう! まったく……。
ケ: 桂を打って攻めます。
上: その桂を逆に攻めます。
ケ: あれ? あれ? あれれ……。取られちゃうよー。やばい、やばい。いや
いや、こんなところは放置して、王様を寄せる場面だろ、ここは。ぜーっ
たいに、決めどころななずだ。え? っと、え? っと。うう、盤が固く
て潜れんっ! いやいや、固いのは俺の頭だっ!
(思わず声に出して。しかも大声で)うんがー、寄らねぇっ!!!
上: (やさしい、落ち着いた声で)あともうちょっとなんですけどねぇ。
ケ: (再び沈黙して)しかたがない、桂の下に歩を打って守ります。
上: んもぅ!! スパッと斬ってくれって、人が首を差し出してるのに、じわ
じわ絞めてくる気?
ケ: ひー、すいませんすいませんすいません。そんなつもりでは……。ヘボな
だけなんです。だけど、これで形勢を損ねなかったのは幸いでした。ここ
からはがんがん攻めます。端歩を突いて、香車を奪って、それを打って退
路封鎖。ここまで来たら角もぶった切って、……ようやく詰み筋が見えて
きました。
上: もう受けはありませんが、もらった角を打って、ひとつの詰み筋を消して
おきます。
ケ: 別の詰み筋も、ちゃんと見えていました。これで詰んでますよね?
上: (声に出して)負けました。
ケ: (声に出して)あ、ありがとうございましたっ。
いやぁ、なんとか勝てはしたものの、盤上の会話のかっちょ悪いこと。棋力のなさが如実に現れた。将棋は、強くなくても対話を楽しむことはできるが、強くなればなったなりに、より深く楽しい会話になるものらしい。
●書ききれん その他もろもろ ここ見てね
─女流棋士会のサイトには、写真レポートが。
< http://lppg.shogi.or.jp/report/shinshun_fa.html
>
─将棋ニュースプラスでは、「ご主人様、王手です」のコーナーでおなじみのメイドの一之瀬まゆちゃんが、動画でレポート。うっかり横をすり抜けて、顔モザイクで画面を汚しているおっさんは私。ごめん。ドラマ・ハチワンダイバーや、ヨクサル先生の対談・対局も見どころ。
< http://broadband.biglobe.ne.jp/sitemap/index_shougi.html
>
─私の同僚の直江雨続君も、ブログにレポートしている。ブロガー棋士の片上 五段と遠山四段からコメントをもらっている。う、うらやましいぞっ!
< http://ametsugu.no-blog.jp/open/2008/01/post_9643.html
>
─先崎学八段の「山手線内回りのゲリラ」のサイン本を本人から直接購入。週刊文春のコラム「浮いたり沈んだり」をまとめたもの。私は文春を買うと、真っ先にこのコラムを読むので、面白いのは分かっていた。
─4月26日(土)に大井町で女流棋士会のイベントがある模様。
【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
カメコ。この翌日には、宝塚星組の東京公演を見てきた。人生初のことが二日続いて、頭の中はカオス状態。演目は「エル・アルコン-鷹-」。いやぁ、よかった、すばらしかった。内緒だけど、ちょっと泣いちゃった。次の週末に和歌山のポルト・ヨーロッパでコスプレイベントがあり、この作品のキャラのコスをする人が、予習にと連れていってくれたのであった。
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■編集後記(1/18)
・久しぶりに書棚の整理をした。普段はホコリをはらうくらいのことはやっていたが、並んでいる本を一冊ずつ取り出して汚れを拭きとり、状態をチェックするのは引っ越し以来か。そんな中で、新潮社版「三島由紀夫全集」全35巻・補巻1に異変が! この黒函に入った豪華全集は1973年から1976年にかけて刊行された(「決定版」の前の全集)。かけだし編集者の頃、取引先の活版印刷会社がこの全集の口絵を印刷しており、割引価格で配本毎に届けてもらったものだ。30年前から「老後の楽しみに」と大事にしてきたのである。函から本を取り出したら、赤い革の背表紙に本を被っていたパラフィン紙が劣化してくっついていた。そっと剥がすとうまく剥がれるのもある(気持ちいい)。だが、そういうのばかりではなく、どうしても剥がれないのが全巻の1/3くらいある。書棚の最下段に収まっていた巻に多い。湿気があったのだろうか。ともかく、全巻を日陰で数日乾燥させた。ふとひらめいたのが、パラフィン紙の上にセロファンテープを貼り、それを剥がすとパラフィン紙もくっついて剥がれてくるのではないかということ。成功。革が多少ケバ立つこともあったが、ほとんどすべてを剥がせた。その後、新たなパラフィン紙で巻いた。ところで「老後」って何だ。「年をとってからのち」と辞書にあるが、ずいぶんあいまいな表現だ。わたしはいま老後なんだろうか。老後に、と先送りしたことがいくつもある。そろそろとりかからなければならないのか。(柴田)
・十河さんのコラムに登場する映画を、全部見たことがあるのって珍しい。といっても全部TVでだし、「バブルにGO!!」は全部見てないけど。/GrowHairさんとかぶった。タカラヅカ雪組「君を愛してる」「ミロワール」を観てきた。新春公演は毎年明るく楽しい作品で、今年のも悪い人が出てこない物語とオーソドックスなこれぞタカラヅカ的なショー。世界陸上のオープニングでおなじみ(?)AQUA5のメンバーがメイン。AQUA5の中心は現トップスターの水夏希。水様がAQUA5というユニットを「六甲のおいしい水」で、と水づくしの関西限定CMをやっていたさ。今回のショーでもAQUA5のシーンや、新曲披露もあったさ。AQUA5の曲はゴスペラーズの人の作曲らしい。お芝居はとっても可愛いラブストーリー。サーカスを表現するためのセットに唸った。ショーでは、うっとりしたり、衣装や振り付け・演出を見たり、踊りや歌の上手い下手を見ていたり。男役衆の燕尾服ボレロが見られ、これだけでも観に行った甲斐があったってものさ。どの組でも感動するのはロケット、ラインダンス。今回は自分がやっているつもりで見ていたら息切れしたわ(笑)。第一、あんなに足が上がらない〜。(hammer.mule)
< http://kageki.hankyu.co.jp/revue/53/index.shtml
> 公演案内
< http://www.tca-pictures.net/aqua5/
> AQUA5
< http://jp.youtube.com/watch?v=e6IP_vBJV5Y
>
キャンペーンサイトが閉鎖されてたー
< http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%ED%A5%B1%A5%C3%A5%C8?kid=195009
>
ロケットとは
< http://allabout.co.jp/entertainment/takarazukafan/closeup/CU20010319A/
>
初舞台生 感動と喜びのラインダンス