KNNエンパワーメントコラム 寄付スタイル2.0となるか? kiva.orgの挑戦
── 神田敏晶 ──

投稿:  著者:


KNN神田です。

「募金にご協力ありがとうございました!」という言葉をもらうと、いい事をしたという気持ちで、非常に心が清々しくなる。しかし、その募金がどのように使われているのかについては、実はあまり注意が行き届いていなかったように思う。そして、そこからはもう預けた寄付金の行方は寄付団体に委ねるしかなかった。

2004年、サンフランシスコのソーシャルアントレプレナーが、ふとしたことで始めた慈善事業は、寄付にまつわるいろんな問題を解決するアイデアに満ちていた。


●2004年、Kiva.org設立

Tivo社(米国のPVRメーカー)で勤務していたマットが妻のジェシカとレストランで食事をしていた時のことだ。ジェシカがふと、「貧しい国の人に単に寄付するだけでなく、お金があれば自立できそうな人に、寄付で集めたお金を無利子貸してあげ、それらが返却されたら、また、次の人へと貸していければ、もっとたくさんな人を助けられるのに…」と相談したことがkiva.orgの創業のきっかけだ。
< http://www.kiva.org/
>

マットはジェシカの願いを実現し、kiva.orgを2004年にスタートさせた。2005年にマットはTivo社を辞職し、Kiva.orgのCEOとしてフルタイムで働き始めた。

まるで、eBayの創業者ピエールが恋人から「ペッツをインターネットで集めたいの」とリクエストされ、eBayを作った話に似ている。リクエストが高尚かどうかは問わないが、eBayのネットオークションによって、消費財の永遠のリサイクル構造だけではなく、新たな流通の形態が生まれ、購入時点で再販価格を考えて購入するという、全く新しい消費行動も形成された。

kiva.orgが目をつけたのは「寄付」ではなく、「レンド=貸し付け」という仕組みによって発展途上国でも、資金があればなんとか自立し、事業を起し、雇用もできるという社会的影響だ。それはマイクロファイナンスと呼ばれる、無担保小額資金融資のシステムをネット上でいつでも「可視化」できるようにしたことによって、その理想形が見えつつある。

マイクロファイナンス
< http://www.ide.go.jp/Japanese/Research/Theme/Eco/Mic/
>

さらに、現地のフィールドパートナーとしての慈善団体からも貸借状況のレスポンスがもらえ、貸借状況をレンダー(貸付け者)がいつでもウェブで確認できる点が、新しい形態の慈善活動サイトとなっている。

●発展途上国に、寄付ではなくレンドする発想

発展途上国で資金援助を申し出ている人たちの大半が、1000ドル(US)あれば事業を起こせるというところに非常に意味がある。しかも、それらを40人程度で負担するところによって一人あたり25ドルで参加できるのが、このkiva.orgの特徴である。貸す側も寄付感覚で金を出せる。

一応の写真付きのビジネスプランをkivaの「LENDページ」で読み、この人に貸す(レンド)という相手を見つけることができる。ワンショットは25ドル単位で受付けされる。レンドといっても、貸し主には一切資金は戻ってこない(ここがポイントだ)。

その代わり、ウェブサイトで自分が貸した人の事業の進捗状況がわかったり、同じ人にレンドしている人が他に誰にレンドしているのかなどを、まるでSNS的な要素で知ることができる。発展途上国の事業を、個人的に支援できるSNSにもなっている。同じ人に投資をしているだけで、なぜか連帯感があるのも不思議な感覚だ。

さらに、レンドした相手にメールを送ったりして支援することができる。運がよければ返事が届くかもしれない(英語がわかる人は非常に少なく、ボランテが翻訳して支援しているからだ)。

しかし、せっかくの寄付的行為でありながらも、送金に手数料がかかっていてはしょうがない。そこでeBay傘下のPayPalが資金の手数料を全くなしで、パートナーとして参加している。しかも、ライバルであるGoogle、YouTube、Yahoo!、facebook、Myspace、Microsoft、lenovoといったIT企業が、kiva.orgのパートナーとしてそれぞれの立場で支援している。
< http://www.kiva.org/about/supporters/
>

kiva.orgの基本的な収益構造は、25ドルのうちから2.5ドルの寄付を促すサイトからの運用益である(払わずにSKIPすることもできる)。実際には企業からの寄付であったり、ボランタリースタッフなど、いろんな人、企業、慈善団体がkivaに関わっている。

実際に発展登場国側では、フィールドパートナーとして慈善団体やNGOが活動している。現地の慈善団体などの力量にゆだねられ、その団体がどれだけ融資できて、どれだけ回収できているかも数値で評価している点が最も目新しい。

しかも、いつからkiva.orgに参加しているのかなども表記されているので、慈善団体の新たな評価制度がもしかするとできつつあるのかもしれない。
< http://www.kiva.org/about/partners/
>

●kiva.orgの特徴と特性

それでは、例えば、創業者のマットのレンドしている人たちを見てみよう。
< http://www.kiva.org/lender/matt
>
レンドをすると、このようなURIが与えられる。

PaidBack(完済)とあるのはお金を返し終えたということ。そうやって返却された資金を、マットはまた新たな人にレンドできる。自分には返却されないのがいい仕組みだ。PaidBackの数は、レンドする額よりも、名誉のある数であろう。なぜならば、そのお金が活かされているからだ。Paying Back(返済中)とあるのは、現在の返済状況である。レンダーは、この数字が上がってくるだけで、豊かな気分になれる。

妻ジェシカのサイトを見てみよう。
< http://www.kiva.org/lender/jessica
>
Refunded(貸し出したまま)という、つらい状態の人たちが見られる。しかし、考えようによっては普通に「寄付」している今までの状態と同じだから、本当はつらい状態ではない。このように、PaidBackで活かされるレンドがあると、寄付だけでは何かもったいない気がしてくるから不思議だ。

実際にレンドを体験してみないとわからないことだろうが、たったの2500円で第三世界や発展途上国のビジネスに興味を持て、アフガニスタンで農業に投資したり、ガーナの食料品店に実際に資金援助をし、リアルな世界で、負担の少ないマイクロファイナンス(無担保小額資金融資)による支援活動が個人で可能な時代になっているのだ。

kiva自身、まだまだ改善の余地はたくさんあるだろうが、大きな組織になりうる可能性は非常にある。しかも、現在の社会は、石油の高騰や、とうもろこしの値上がりの要因のうち、投機的な発想やマネーゲームによるところが大きい。FXで自分の身の丈を超えた投資も可能となり、金儲けによって、世界が不幸になるという負のジレンマに陥ろうとしている。

少なくともkivaでは、彼らの希望金額が達成されるまで、ゆっくりとレンダーを待ち続け、彼らがゆっくりと返済をはじめ、完済になった時には、我々は寄付した金額以上の何かが必ず心の中に残っていることだろう。

言葉も生活環境、社会、文化も違う彼らとkivaと現地慈善団体を経由してつながっている感覚は、もしかするとSecond Lifeのアバター住人のようにさえ思えてくる。自分がコントロールするアバターではなく、困っているアバターをより多く助けるというミッションを持ったSecond Lifeなのかもしれない。

ネット上だけで知り合いになることは今までも十分にできたが、ネットにアクセスできなかった人や、英語がわからない人までも、インターネットは先進国の善意と途上国のヤル気をマッチングさせてくれるようだ。リアルとネットが歩みよる、ウェブ3.0型の社会が訪れつつあるのかもしれない。

ぜひとも、日本のIT企業のサポートで日本語サイトも構築してもらいたいものである。

ボクも少しは彼らの力になってみたいと思う。
< http://www.kiva.org/lender/toshiaki3531
>
メキシコのエラスモもアフガニスタンのノラーラムも、もうすぐ希望金額に達成しそうだ。


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