アナログステージ[4]異相シナプス
── べちおサマンサ ──

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「能力限界の先には何があるのか」を日々模索している男、フナクゴヤ。常に人間のコミュニケーションに疑問を感じ、あることを思い浮かべる。

「人類から言葉をなくしてしまえば憎むべき社会は生まれず、社交辞令という、うわべのコミュニケーションに付き合うこともなく、会話から派生する憎悪もなくなる代わりに、言葉を失うことで洞察力も高まり、相手を思いやる気持ちが芽生え、相手の本来の姿がみえてくるのではないだろうか。」

限界という言葉があるから挫折という言葉が生まれ、他人の言葉に嫉妬し、考えることを止めてしまう。感情をコントロールするのも言葉や文字だ。人類ならではの文化が、逆に人間の可能性を最大限に引き出し得ないと考えたのだ。



フナクゴヤは、さっそく論文を作成し、自身のWEB SITEで全世界へ発信した。3日後、どのような反響がきているかWEB SITEを覗いてみると、アクセスカウンターの数字は、「0001105」から「0001109」しか増えていなく、更新の確認を2回したことを差し引くと、3日間で1人しか見ていないことに大変ショックを受けた。

「いままで気にもしなかったが、2005年の秋に開設したこのホームページ、3年間で1100アクセスとなっているが、1日1回、ワタシが見ている分もカウンターが回っているとしたら、3年間で10人も覗いていないのか…。」

WEB SITE上で、ユーザーの関心を集めることは無理だと判断したフナクゴヤは、いまや、自宅の飼い猫まで入会していそうな、日本最大のソーシャル・ネットワーキング・サービスで論文を発表することにした。

「この方法なら間違いなく、みんな注目してくれるだろう。コミュニティーなるものも作って、みんなで分かち合える日は遠くなさそうだ、ふふふ。」

『招待なしでの新規登録は行えない仕組みになっております。』

2分でSNSを挫折したフナクゴヤは、ストーブの炎を見ながら、己の人間関係を改めて考えるきっかけになった。

「そうか! なんで気が付かなかったんだ。自分で言葉を捨てろ! と提唱しているのに、自ら文字や言葉を使って配信しようとすることは、まさに矛盾しているではないか。では、ワタシの思いをどうやって世界に伝えればいいのだ……」

フナクゴヤは考えた。論文を文章で伝える代わりの方法として、音楽で伝えるのはどうか。フナクゴヤは楽器が何もできなかった。できるとしたら、小学生の頃に授業で習ったソプラノリコーダーと、発表会のときに触ったトライアングルだけだ。仕方なしに、実家からソプラノリコーダーを送ってもらい、自身の熱い思いを文字ではなく、音符と表情に乗せてカメラに収めた。

「これなら言葉が通じ合えなくても思いは伝わる! 音楽は全世界共通の心だ」

そう確信したフナクゴヤは、世界で最も有名な動画サイト、YouTubeから配信してみた。反応が気になって仕方ないフナクゴヤは、目覚めるとすぐYouTubeにアクセスし、反応を確認した。動画再生数が、508回になっているのを見て、やはり音楽の力は偉大だ! これで、世界に自分の思いが少しは伝わったと、世界中のユーザーから寄せられていたコメント欄に目を向ける。

「シの音がちゃんと出ていないまえに、なにがやりたいの?」

「オッサン、ウケルwww」

「新しい竿竹屋のテーマソングですね、わかります。」

「ウチのイヌが吠えて感動してました。100円ショップでCD売ってますか?」

フナクゴヤは絶望し、友人にこう語った。

「限界を体感するには大変な時間を要するが、恥辱感を体感するのに必要な時間は1秒もいらなかった。ワタシは素顔と心をすべて曝け出したしたというのに、あのコメントはいったなんだ!? 何が気に食わないといんだ! 文章も音楽もダメなら何で伝えればいいのだろう。」

友人は、頭を抱えるフナクゴヤに、こう答えた。

「なにを悩んでいるんだい、これから徐々に伝えていけばいいのさ。キミはまだ、全てを出しきっているとは思えない。リコーダーだけで伝えきれないのなら、カスタネットを足で踏みながら表現の幅を広げてみてはどうだい? 少しだけど、世界の人たちにキミの存在を知って貰えたんだ、自己顕示ではなく、自己開示をすればいい。キミのすべてを見せてやるんだ!」

友人の言葉に己を取り戻したフナクゴヤは、全てを曝すが如く、「ワタシを受け入れて欲しい」というプラカードを掲げ、全裸で街に繰り出した。街の人たちは驚き、騒ぎを駆けつけてきた警察にフナクゴヤはこう話した。

「みられる快感を覚えてしまった」

【べちおサマンサ】pipelinehot@yokohama.email.ne.jp
FAプログラマーと、秘密でいっぱいのナノテク業界の開発設計屋。
・ここ10日間で1日の平均睡眠時間が4時間ないことに今更気が付いた。深夜2時になると必ずお腹が減るので、健康も考えて牛乳で凌ぐ。普段、牛乳は飲まないのだが、コップ一杯で満足感があり、満腹誘発される睡眠も回避。便利だ。・ちょうど一か月前、読者様にはお馴染みの、永吉さんと三宮で飲んだくれていた。不思議さに磨きがかかっており、後半は何を喋っているのか理解できなかったが、あの状態(俗にいう泥酔)で無事に帰宅できるのは、毎回驚かされるばかりです。