買物王子のモノ語り[10]エレクトリックボートで昔の東京にタイムスリップ〜都心の水辺でエコツアー 日本橋川編〜
── 石原 強 ──

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東京の川をボートで巡るツアーがある、ということを雑誌の記事で知りました。普段は都心の川なんてほとんど気に留めたこともありません。でも「日本橋」の下をくぐったり、電車から見える「聖橋」を下から眺めることができるなんて、ちょっと楽しそう。主催するNPO法人のサイトから申込が可能です。

3つあるコースの中から「神田川・日本橋川コース」を選んで、半日ツアーに参加しました。ひとりではちょっと寂しいので、平日予定が空いそうな友人のデザイナーNさんと、カメラマンのTくんを引き込みました。

朝9時半に、水道橋駅から歩いて5分ほどの「新三崎橋防災船着場」に集合。既に屋根付きのかわいらしいボートが、桟橋に着けられているのが見えます。集合時間にあわせて、ボートから出てきたのは、ガイドのヒラヤマさん。ボートの乗船について簡単な説明を受けてから、安全のためのライフジャケットを受け取って装着しました。腰に巻くだけなので簡単、邪魔にもなりません。

続いて階段を降りて、桟橋からボートに乗り込みました。定員10人の船内に仲間3人だけだから、けっこう広々しています。使用するボートは国内に3隻しかないという「エレクトリックボート」です。バッテリーに充電してモーターで走る仕組み。排ガスが出ないので環境にやさしい。しかも、うるさいエンジン音も振動もなくて人にもやさしい。ゆっくり静かに東京の川の旅に出発です。



まずは日本橋川を下って隅田川に向かいます。河口までは約4kmあります。江戸時代には、江戸城を防衛する外堀の一部でした。しかし天下太平の時代には、水路として物流機能を担っていました。そのために日本橋川流域は、江戸を支える経済・運輸・文化の中心となっていました。その名残が今でもそこかしこに見られました。

右側に千代田区役所を見ながらしばらく進みます。すると、正面はコンクリートの壁が立ちふさがりました。壁の上には橋の欄干の部分が残っていて、装飾のようにも見えます。元は川の分岐点だったけれど埋められてしまったらしい。ボートは左に曲がって「雉子橋」をくぐります。名前の由来は、江戸時代に外国からの使節をもてなすための「キジ」を飼育する囲いがあったことから、そう呼ばれるようになったということです。

この付近では、右側には美しい石垣が続いています。「乱積み」と呼ばれる特徴的な石組みが江戸城外堀の名残です。大きさの違う石を巧みに積み上げた石垣は美しく、見ていて飽きません。最近になって造られた石垣は、整然としているけど味気ない。石垣の石一つ一つをよく見ると、○とか□のような不思議な記号が彫られています。これは、石垣をつくるために資材を提供した大名家の印だそうです。

この石垣を見ながら、しばらく進むと「常磐橋」が見えてきます。手前には「新常磐橋」、奥には一文字違いの「常盤橋」があるから紛らわしい。元々、江戸城常盤橋門に付設されていた木造の橋で、現在の石造の橋は明治10年に架けられたもの。関東大震災にも第二次大戦にも負けずに残っている、日本橋川でも最も古い橋ということです。左側を見上げると、明治29年に建てられた日本銀行本店の重厚な建物が見えます。下から眺めると、人も車も目に入らないので、明治時代にタイムスリップしているような錯覚を覚えました。

さらに進むと、今回の目的地の一つである「日本橋」に到着。現在の日本橋は、明治44年に架けられた二連のアーチ橋。橋の欄干にはシンボルである麒麟の銅像が見えます。ヒラヤマさん曰く、今と昔では橋の作りが違う。最近の橋は上からの見た目だけ作られているが、昔は船から見た橋の下も美しくデザインされている。なるほど、確かに上から見たのとは違った美しさがありました。

橋をくぐると、石の表面が歪んだところがありました。これは関東大震災の時に橋の下で沢山の船が燃えたため、熱で石が一部溶けて変形した跡だそうです。これにはリアルな歴史を感じました。残念なのは、上空の首都高速が邪魔をして空が見えないこと。当日は太陽が雲に隠れていたので、とても暗く感じました。この日本橋の景観を取り戻そうという動きを、新聞記事で読んだのを思い出しました。

首都高速を地下に埋設するには5千億円かかるとか、試算された金額には賛否両論。私も正直言って、意味あるのかな? と思っていましたが、こんな風景を見ているとやってみる価値があるのではと思い直しました。首都高速は、東京オリンピックの開催に合わせて造られたのだから、名乗りを上げている2016年のオリンピック開催地に選ばれたら、その記念として地下に埋設するのはどうだろう?

「日本橋」を抜けると、次第に川幅が広くなってきました。次の「江戸橋」を抜けたところで、空中に扉があるユニークな建物を見つけました。下から上に3つも丈夫そうな鉄の扉が並んで見えます。そこは三菱倉庫の本社ビルで、かつては川に浮かぶ船の上から直接、荷物を上げるために使われていたのだそうです。表からは見えない川からの姿にちょっと得した気分です。
その後、ふっと空が明るくなりました。首都高速の屋根が途切れて空が広がっているのを見上ると、やっぱり気持ちいい。

右側に分岐する亀島川、その入り口には巨大な「日本橋水門」が見えます。日本橋川の河口はもうすぐです。隅田川を横切る船が前方に見えます。日本橋川最後の「豊海橋」をくぐると、ついに隅田川に合流しました。ボートは左折して上流方向へ進みます。後方には、永代橋と月島の近代的な高層マンションが見えました。

古いもの新しいものがごっちゃになった、いかにも東京らしい風景に見えます。東京中で、古いものは取り壊されて、どんどん新しいものに入れ替わってしまっていると思っていました。しかし、ちょっと視点を変えて見てみると、江戸から明治、大正という時代の風景は断片的ではあるけれど、しっかりと存在していました。それは、江戸から東京へと歴史は繋がっていることの証明なのだとあらためて感じます。

急にボートが揺れたので、びっくりして座り込みました。ボートの横を水上バスが通りすぎていくのが見えます。大きな揺れがしばらく続いたので、どうやらTくんが船に酔ったらしい。私は川の冷気さらされていた体が冷えて、カメラを持つ手が震えてきました。寒さには耐えられず、写真を撮るために開けていた窓をあわてて閉めました。

…次回、神田川編へと続きます。

NPO法人あそんで学ぶ環境と科学倶楽部
< http://enjoy-eco.or.jp/
>
日本橋川に架かる橋
< http://www.geocities.co.jp/tokyo_ashy/b-nihonbashigawa.html
>

●日本橋川編の写真
< http://www.dgcr.com/kiji/20090219/index.html
>

【いしはら・つよし】tsuyoshi@muddler.jp
ウェブアナ < http://www.muddler.jp/
>
Op.(オペレーション)ローズダスト〈上〉 (文春文庫)文庫になった福井晴敏の「Op.ローズダスト」を読んだ。舞台になっているのがお台場、その描写が細かいのでGoogle Mapの航空写真を見ながら読んだら、より現実味がでて楽しい。実際に有明清掃工場も見学してみたいなあ。