アナログステージ[11]散らかっていることの美学
── べちおサマンサ ──

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●片付けられると厳しい

ワタクシは「汚さの潔癖症」と自負しております。対義語のように思われるかもしれませんが、汚さの潔癖症なんです。汚れているのはダメなんですが、散らかっている空間は大好きなんです。物が周囲にバラ撒かれている状態など、その散らばり具合に、つい、うっとりとしてしまいます。一か月ほど前まで奇麗に整頓されていた作業場が、ついに足の踏み場もない状態まで成長を遂げたのである。

作業場といっても、ワタクシのスペースは半個室に近い部屋なので、掃除をするのも散らかすのも、ワタクシの勝手自由。できれば物が散乱している空間に安堵感を覚えるのですが、ワタクシのアシスタントが奇麗好きというか、きっちりしている性格のため、散らかしても、すぐに片付けられてしまう。しかし、今まで散々たる状況は幾度もあったのですが、本当に足の踏み場がない状態というのは、初めてのことかもしれない。

というのも、いま現在、開発しているモノの終了期限が迫っていることもあるのですが、一日単位で変更要請が出てきており、この状態で開発を終了してしまうと、「製品化したら、限りなく怪しい灰色な状態」でリリースしなくてはいけない。これだけは何が何でも避けたい。それと同時に、ほかの問題(懸案)も相当抱え込んでおり、プライベートな時間はおろか、睡眠と食事の時間もギリギリまで削った、ワーカホリッ君に陥っている。できれば、これも避けたいところだ。



先日も、特殊素材で出来ているネジを床に落としてしまい、床から探しだすまでに約30分。ごく一般的な鋼ネジなら探すまでもなく、新しいネジを使うのですが……。見つけたと思った矢先に、今度はピンセットで挟んだ薄膜フィルムが落ちていった。今度は特殊素材なうえに、クリーンルームで洗浄してあるものなので、見つけたとしても洗浄し直さないと使い物にならない。といっても、あの汚い部屋で開封した時点で、洗浄もクソもない気もするが……。

いったん落ち着きを取り戻し、我に返って作業場を眺めると、災害後のような姿に自分でもビックリ。ここから探すのか…キツいな…。砂浜に落としたコンタクトレンズを探すように、床に這いつくばって必死に探すもまったく見つからない。そりゃそうだ、透明なうえに20mm角の大きさだ。さっき落としたネジとはわけが違う。とりあえず、30分探しても探せなかったら、新しいものを用意してもらおうと探し始めたが、結局見つからなかった。

そしてつい先日、あまりの汚さに、見るに見かねたアシスタントが、ワタクシの外出中に部屋を片付けてしまった。片付けてくれるのは嬉しいのですが、物や書類がどこにいったのか、一瞬で分からなくなってしまった。さっきまで「床に置いといた部品」が見つからない。まさか、床に落ちている図面や部品が、これからまだ使うものだとは、本人以外は分かるはずもないので、躊躇なく捨てられてしまった。

開発中は、作業が終わるまでは立ち入らせないようにしているのだが、ほかのことも同時進行していたこともあり、「ここは絶対にモノを動かしたりしないでね。」と注意を促すことを忘れてしまっていたとこもあるが、あまりの汚さに、「これは片付けなくては!」と思ってしまったのだろうか。

できれば画像でその散々たる作業場をお見せしたいところですが、作っているものが、NDA(秘密保持契約)に抵触してしまう恐れがあるので、お見せできないのが実に惜しい。自慢できる汚さなんだけどなぁ。余談ですが、ネジを落としたときの状態を撮り、“なにかを勘違いしているハイダイナミックレンジ風画像”を、mixiの日記に掲載したら、G/Hさん(仮名)から、「生の姿をさらした写真に見せかけて、実は、これだけはマズいってもんを隠してから撮ったでしょ。点線でナニカが見えてしかたがないんですけど。」と突っ込まれてしまった。うーん、さすが。

そんなことをしているうちに、制御コントロールのハード(配線や基板の製作)が、ほぼ組み上がり、やっとソフトの打ち込みに取り掛かる。いま開発中のものは、簡単な制御プログラムのほかに、タッチパネルからパソコン、サブサーバをリンクしたものを作りこんでいます。

最近のタッチパネルは、セルフガソリンスタンドなどで見かける方もいらっしゃると思いますが、解像度がXGAまで表示することができるうえに、アニメーションや動画も動作できる環境が出来上がっているので、以前に比べて、作りこむ楽しさが増しております。

作画するにも個人スキルに限界というか、センスの問題も絡んでくるので、頭の中に構想は練れても、それを正確に表現できる腕がない。せっかくの動作環境とグラフィック環境なので、今後はイラストレーターさんやグラフィックデザイナーさんと協力して、他社とはひと味違うものが作れればと、ひとりでニヤニヤ考えております。

●自分だけの空間制御

本当に奇麗好きというか、きちんと整理整頓されていないと気が済まない方には嫌な話かもしれませんが、散らかっていることの気持ち良い部分に、自分にしか分からない配置という、空間制御な意味合いもあります。他から見たら「混沌とした空間」に映るかもしれないが、自分には安らぎの空間になったりもするのです。まぁ、縄張りみたいなもんです。さすがにイヌのように、あちこちにマーキングするわけにもいかないので、『物を散りばめる』という方法で、自分の領域を保っているのだ。食事に出かけても、この空間制御はよく目にします。

他の人は気になるが、ワタクシはまったく気にならない部分もある。さすがに壁紙からテーブルまで、油でベットリというのは勘弁して欲しいが、3年前の女性週刊誌が新刊のように置いてあったり、座布団から綿が飛び出していようが、醤油の染みが付いていていようが、気にはならない。店主が無頓着なだけかもしれないが、そこは店主の制御空間でもある。座布団から綿が飛び出しているのは、布地が擦り切れてしまったわけではなく、店主の演出の一部なのかもしれない。

間接照明がとても演出的で、BGMも耳心地良いJAZZが流れているお店の壁に、「○△工務店」と年末の挨拶で持ってきた業者カレンダーが、絵画の代わりに飾ってあっても、それはそのお店の心憎いインテリアとして認識している。また、そのようなお洒落なお店のエントランスに、東スポや少年マガジンが置かれていても、なんら気にすることはない。

造形物や装飾品の代わりに、観光地をモチーフした温度計や、熊が魚をくわえている木彫りなどが、店の至るところに無造作に置かれていても、それはオーナーが考えに考えた店内オブジェであり、少しだけ趣味やセンスが違うだけなのだ。木彫りの熊も、オーナーの深い思い出のひとつかもしれないし、やはり、そこはオーナーの空間制御区域。オーナーの空間演出を愉しむのが得策。

散らかっていることとは、またニュアンスが異なりますが、自分だけの空間を愉しむことは、その場の雰囲気をも愉しませてくれます。常識に縛られることなく、その人ならではの、オリジナルな空間を提供していただきたいです。

●そこにそれが必要かどうか

散らかっていることの便利さに、「手を伸ばせば必要なものがそこにある」という、ものぐさの極みがあります。逆を云うと、「必要なものを身の周りに置いていたら、物で溢れかえっていた」という現象を目にしますが、必要性が高いものを身近に置いておくことは、誰しもされていることでしょう。ただ、きちんと棚などに収納しているか、無造作に置いておくかの違いだけで、やっていることは同じなはずです。

以前、テレビで「片付けられない症候群」などやっておりましたが、片付けられないのではなく、片付ける必要性がないので、そのままの状態をキープしている要素も大きい。例えば、トイレに卓上ガスコンロが必要かといったら、まったく必要がない。用を済ませながら、煮物の続きを作ることはしないはずだ。しかし、何らかの事情でトイレの中でしか料理ができないとすると、卓上コンロは必要なアイテムになる。そうなると、鍋もフライパンも近くに置くようになるし、油や調味料も、芳香剤の横に置き始めるだろう。

本当に「片付けられない症候群」だったら、自分だけの空間制御どころではなく、無制御状態に陥り、物の所在を把握するどころか、気が付いたら、役所も困るゴミ屋敷の住人になっているだろう。そのへんのバランスは、自分以外には理解が苦しいところだ。あ、そうか、ある意味でゴミ屋敷は究極の空間制御なのかな。制御というよりも、防御に近いけど……。

しかし、これだけ無頓着にも拘わらず、パソコンの中身はきっちりと整理されていないとダメ。デスクトップにショートカットやフォルダのアイコンが一面に散らばっているのを見ると、首筋が攣りそうになります。呼吸も苦しくなります。なんて矛盾しているんだろう。

【べちおサマンサ】 pipelinehot@yokohama.email.ne.jp
FAプログラマーであり、ナノテク業界の開発設計屋。
< WEB SITE:http://www.ne.jp/asahi/calamel/jaco/
>

ミレニアム DVDコレクターズ・ボックス・遊びに出歩く時間がないので、アメリカのテレビドラマ、ミレニアムをまた観ています。13年も前の作品なのに内容が色褪せてなく、ミレニアム(2000年)が過ぎていても面白い。ある意味で「予言」が的中している脚本に感服。・といいながらも、時間があると近所の立ち飲み屋で一杯。年齢を問わず、カウンターで肩を並べながら飲む酒は旨い。BGMはない。会話がBGMだ。話題も豊富で、人生の先輩諸氏から、いろいろと勉強させていただいてます。/音楽の話で盛り上がったとき、ここでアンプラグドライブを演ろう! と酒が口を滑らせてしまった。後日、常連さんの間で日程まで決まってしまい、言いだしっぺのワタクシは都合をつけるのに必死中。幸い出張からは逃れてはいるが、自分で蒔いた種が蕾み膨らむ。どうなる。