KNNエンパワーメントコラム「スター・トレック(2009)」はオススメ映画!
── 神田敏晶 ──

投稿:  著者:


KNN神田です。

「スター・トレック(2009)」が先週より公開となった。もう、リメイク作品しか作れなくなったハリウッド映画に、あまり期待はしていない。特にひどいのがSF映画だ。今回は、それが「スター・トレック」だという。

さらに、監督が、J・J・エイブラムスときている。「LOST」や「クローバーフィールド」の製作者だ。「クローバーフィールド」は、ボクにとっては高い評価である。
< https://bn.dgcr.com/archives/20080414140400.html
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しかし、製作・脚本の多いJ・J・エイブラムスの監督参加は、「MI III」以来である。微妙な気持ちで初日の劇場に向かった。

この映画は、「スター・トレック」、いや「宇宙大作戦」をまったく知らない人でも楽しめる映画となっている。クリンゴンやロミュラン、バルカンといった専門用語は出てくるが、その程度はまったく問題にならない。



▼ここから先はネタバレに注意!です!

つまり、この映画はすべての「スター・トレック」シリーズのEpisode I にあたるからだ。

意識しているのは、どうしても「STAR WARS」シリーズであることは明らかだ。EPISODE Vそっくりの雪のシーンも登場。思わずリスペクト映画(?)と感じた。映画を見ていても、ライトセーバーがいつ登場してもおかしくないような感覚まで抱く。それくらい、「宇宙大作戦」のテイストに、新たな「スターウォーズ」的解釈がなされているのだ。

今回の映画では、若き日のカーク船長(本当は艦長、提督)が生き生きとリアルにしかも、やんちゃ坊主で女好きとして描かれている。マニアックなファン向けにも、ジェームズ.T.カークのミドルのTの意味が、「タイベリアス」であり、母方の祖父の名前であることが明かにされた。

当初、マット・デイモンが、キャスティングされていたが、クリス・パインがカーク役に抜擢された。このクリス・パインの抜擢が、この映画を救ったと思う。ジェイソン・ボーン船長でなくてよかった気がする。

このクリス・パインの若々しい演技が、今までの「宇宙大作戦」のカーク船長のロマンス好きを見事に証明してくれた。ただ、どこでどうして、カークがジェントルになっていくのかも気になるところだが…。

ところどころのシークエンスがいろんな映画のパクリであるが、そこはリズム感がある演出のみせどころ。バイクで追いかけるシーンは、もしかして「T2」?

若き日のカークは、喧嘩っぱやくて、ナンパ野郎で、かといって強いかと思えば、ボコボコにしばかれるというキャラクター。映画の大半は、顔に生キズがずっと絶えない(笑)。そのライバルに、バルカン星人と地球人とのダブルであるミスター・スポックが登場する。

J・J・エイブラムスの特徴は、短いシークエンスの中でも、人間関係を実にうまく表現する。若き日のスポックとカークは、実はライバル関係にあったこともここでわかる。また、スポックとウフーラとの恋などもしっかりと挿入されている。

スポックの論理的思考が、母親の死によって破綻する。それを利用するカーク。その利用をアドバイスするのが、Premiereスポック。ちょっと無理な設定も、「転送」という技術があれば、なんとなく時間の「転送」も無理なく感じるようになる。ただ、時間を自由に行き来すると物語がややこしい。

だから、どんなSFでも時間移動のマシンは、中途半端な機械で展開される。自由に移動できれば、過去も未来も何万通りに発生してしまうからだろう。

この映画で特にユニークなのが、誰がボスなのかということで立場と組織が一気に変るところだろう。これがアメリカ企業のすべてであるといってもいいだろう。このあたりの、組織としてのボスのポジションの考え方は、なかなか日本ではわからずギクシャクしてしまう。不法侵入者も、上官になった瞬間から、上官らしくなるのが、アメリカの社会だ。

多民族国家では、あいまいな判断が一番厄介であり、明確に白黒つけなければ何も前に進まないからだろう。人物のキャラクターによるスキル評価が高い日本に比べて、米国では職能やポジションにおける評価を最優先していることもこの映画の、人事交替劇でよくわかる。

ドクターマッコイも登場し、カークに対してなぜタメ口だったのかもこの映画で納得ができた。アカデミーでのご学友だったからだ。ウフーラもそうである。各種のスペシャリストがひとつの船に乗り込みチームとして活躍する。その後の「宇宙大作戦」の展開を知っているファンにとっては、まるで「7人の侍」や「真田十勇士」が、同志と出会っていくかのような気分が味わえる。

他にも、17歳のリトアニア出身のチェコフが重要なポジションを受け持つ。いかに言葉や発音が微妙な外国人であっても、英語でパブリックにスピーチをさせたり、職能を発揮させる権限を与えられている。どんなポジションでも、責任がまかされ、それらのモチベーションを維持しながら、最善の策、ある時は奇策であっても、船の安全と任務を遂行するチームワークがこの映画で学べる。たとえ、外国人であってもだ。

この映画は、第二次世界大戦時にはパイロット、そしてベトナム反戦家でもあった創作者ジーン・ロッデンベリーに捧ぐとクレジットがされるとおり、この多民族での連帯と敵対宇宙人との間にも、ルールを持って対峙する姿勢が描かれている。

そして、ラストは「スターウォーズ」でもお決まりの表彰シーン。米国映画では、どうしても最後にはこのように人々からアドマイヤーされることが人生最大の目標になるようだ。だからこそ、銅像を建てたいがための寄付の文化が続いているのだろうと思う。

テレビシリーズを長く手掛けていたエイブラムス監督だけあって、片時も気がぬけない。あっという間の126分間であった。この映画を見てから、「宇宙大作戦」のシリーズを最初から見てもらうとさらに楽しめると思う。

今後、ハリウッドは、さらに「エピソード1」ブームで、既存作品のリ・イマジネーション映画を展開していくことだろう。すでに情報過多で新たなキャラクターが生まれにくくなっている状況はわかるが、懐かしさに新しさとCGのフレイバーばかりもちょっと考えものだろう。「スター・トレック」のようなクオリティの作品が続いてくれればいいのだが…。

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by G-Tools , 2009/06/01