買物王子の家づくり[04]迷走する土地探し
── 石原 強 ──

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不動産屋さんからは、絨毯爆撃のように物件資料が送付されてくる。でも、どうやって自分の家にふさわしい土地を見分けたらいいのだろう? 探し始めた頃は、南向きか北向きか角地か? くらいしか気にしていませんでした。けれど、知れば知るほど、選ぶのがやっかいなことがわかってきた。単純に土地の大小では判断ができない理由がたくさんある。

●「建築条件付き」って何?

不動産屋さんに案内されて見に行くとき、気をつけなければならないのは、家が建っていないからといっても、新築分譲とさほど変わらない土地もある。建築条件付き売り地というのがそれだ。どのような条件かというと、3ヶ月以内に指定の工務店と契約をしなければならない。そうでなければ契約が白紙になってしまうのです。

周りよりちょっと安い土地だなと思うと、十中八九この建築条件が付いています。土地は少し安くしても家の建築費で利益を出そうとするからです。指定の工務店からモデルプランが提示されて、ほぼそのまま建てることになる。

工務店が大幅なプラン変更に応じてくれればいいが、設計力がなければ限界がある。こだわれるポイントは、内外装の素材、色、キッチンや水回りの設備のグレードくらいだ。それでも営業マンは、弊社のプランは他社よりお得です、照明器具もついているし、バスルームも広い、しかもテレビもついてます。と誇らしげに言う。見ないからいらないというと、標準だから外しても金額は変わらないと。でも、余計なものはいらないのです。



近隣に比べてお買い得な物件なんていうのも怪しい。今は家が建っているのだから、当然建て替えが大丈夫と思ったら大間違いだ。今の古屋を壊すと、建て替えが出来ない土地っていうのもある。「既存不適格物件」と呼びます。

家を建てるためには、2m以上道路に接していないといけない。隣家の前の狭い通路を入った奥の家。なんていうのがこの条件にハマってしまう。だから周囲の高値を尻目に投げ売りだ。しかし、それでも買い手がつかないのは、担保価値がないから、ローンが組めない。違法建築になるから工務店も家を建ててくれません。

●土地は法律でがんじがらめ

では、そんな条件のない土地を買えば、どんな家でも建てられるのか? といったらそういう訳ではありません。建築基準法という法律で規制されて、土地によって建てられる家の大きさが違ってきます。それを判断するには、不動産屋さんの販売用チラシをよく見ると細かい字で書いてある、土地の「スペック情報」を読み解く必要があります。

まず「用途地域」、普通の住宅地であれば住居専用地域が多いけど、駅に近いと近隣商業、商業地域、工業地域も混ざってきます。順に大きな建物が建てられる地域だけど、当然周囲も大きな建物になる。例えば、隣が今は空き地で日当たりがよくても、いきなり大きなマンションが建って影になるかもしれない。

「建ぺい率」、建築面積の敷地面積に対する割合です。20坪の土地で建ぺい率が60%の地域の場合、最大12坪(20坪×60%)の建築面積の建物を建てることができます。言い換えれば8坪(40%)は、庭なり駐車場としてしか使用できません。「容積率」は敷地面積に対する延床面積の割合のこと。20坪で容積率200%の場合、最大40坪(20坪×200%)の延床面積の家が建てられます。

同じ20坪の土地でも、少し騒がしい商業地で、建ぺい率80%、容積率300%であれば、延べ床面積60坪の4階建ての家も建てられます。逆に、静かな住宅地で、建ぺい率40%、容積率80%だと、延べ床面積は16坪の2階建てになってしまいます。この差はとても大きい。

「セットバック」という規制もある。土地に接する道路の幅が4mに満たない場合、道路の中心から2m後退して家を建てなければなりません。後退した分は道路となるので、自分の土地なのに建築できないというだけでなく、門や塀、花壇なども作ることができない。もし、20坪の土地が3mという幅の狭い道路に6m接していた場合、約50cmセットバックをするので、約1坪が道路として削られる計算になる。

上で説明した容積率はセットバック後の面積に対して適用されるので、約30坪(19坪×160%)の延床面積が上限になってしまいます。おまけに、2方向を道路に接する角地では、2方向からセットバックするので、今建っている家に比べてずっと小さい家しか建てられないなんてこともあります。

さらに「斜線制限」。道路側に規定されている前面道路斜線、お隣の家との境界線側に規定されている隣地斜線、北側に規定されている北側斜線があります。2階建てならほとんど問題ないけど、狭い土地の3階建てだと、3階の半分くらいは頭がつっかえるほど傾斜がかかってしまうことがあります。床があってもその部分は収納くらいにしか使えない。

このひとつひとつの決まりには、日当たりなど住環境を守る、火事の延焼を防いだり、緊急車両が入れるようにして、安全に暮らせるようにする。といった大事な意味があるんだけど、買う立場から言えば、土地は法律でがんじがらめになっていて、持ち主でも自由にはならないってことなのです。

●土地探しには、自分なりの基準が必要だ

これでは、自分の手には負えないと、新宿パークタワーにあるリビングデザインセンター OZONE < http://www.ozone.co.jp/
> に行きました。コンランショップなど好きなインテリアショップがあって、以前から見たり買ったりしていました。そこで家づくりのサポートがあると知って相談してみたのです。現状を伝えて、まずは「土地探しサポート」を受けることにしましました。

まずは要望の整理からはじめる。アンケートの質問は50項目以上、A4で7ページに及ぶ量があります。事前におおまかに記入して渡して、担当のアドバイザーとの面談で仕上げてもらいます。現在の家族構成と将来の変更可能性やペット、転勤の有無、家族の生活、趣味、近所づきあいの頻度、現在の住まいと、これまで育ってきた家、住んできた環境、これまでの家作り経験、なんてさまざまな項目がある。そこから、徐々に家のイメージを固めていきます。

さらに、周辺環境は緑があって静かなほうがいいのか、交通の便利さをとるのか、最寄の駅までの距離や、希望する沿線・エリアを整理。家に対するこだわりポイント、性能、デザインテイスト、もちろん予算や完成時期も重要です。家づくりの依頼先は、ハウスメーカーなのか、工務店なのか。昔ながらの木造軸組なのか、コンクリート打ちっぱなしのRC造なのか家の工法についても検討しました。

会話の中で、家の中心にテレビを置きたくない、クルマも持つつもりがない。趣味はダイビングにゴルフに写真。洋服も食器も絵本もたくさん持っていて、モノが大好き。という話をしたら、そんなにこだわりあるなら、ハウスメーカーや、工務店ではなく、建築家をおすすめしますね。是非やって欲しい。という力強いお言葉をいただいた。そうだ! 究極の買い物なのだから、とことんやってやる。と俄然やる気がでてきた。

どんな家が創りたいのか、希望をかなえるためには、どんな広さが必要なのか、条件を絞っていくことで、徐々に明らかになってきます。希望する家の大きさや各部屋の大きさを整理して、必要な延べ床面積を算出。そこに庭スペースや駐車場の大きさを加えて、上で書いた法規を考慮しながら最低限必要な土地の面積を割り出します。

結果は、延べ床面積が23坪以上が必要で、それ以下になると思うようなスペースが確保できないということです。3階建てを考慮すると、建ぺい率60%、容積率200%で、第二種中高層住居専用地域、土地面積が14坪以上、準防火地域ということになりますね。という担当者のコメント。思ったよりも狭い土地で問題ないことがわかりました。

さらに、全体予算から、建築費や諸経費を考慮しながら、どのくらい土地の費用として割り振るかの目安もアドバイスいただいた。予算には限りがあるから、家にこだわるためにも、配分に気をつけなければなりません。不動産屋さんに薦められて気に入ったからと言って、予算を超える土地を買ってしまい、いざ家を建てようとして、お金が足りないことに気づいたなんて相談もよくあるそうです。

希望する土地はどのあたりに位置するのか確認するために、用途地域が色分けされた「都市計画図※」という地図を広げて、このあたりがその条件に当てはまりますね、と詳しく説明を受けました。エリアはずっと初台駅から笹塚駅の間で探しているようだけど、都営新宿線沿線はどうですか? と逆に質問を受ける。さらに都心に向かって新宿、新宿三丁目、曙橋、市ヶ谷、物件は少ないけど一応チェックしてみたらどうか? とのこと。手に入るわけないと、考えたことがなかった。

作成した資料は不動産屋さんに送付して、土地探しの参考にしてもらいます。とはいえ、希望の場所に行けば見つかる訳ではない。引き続き紹介された土地で条件に少しでも合致する物件は、週末、複数の不動産屋さんとアポをとり時間割のように細かくスケジュールを切って片っ端から見に行きました。でも、何が悪いという訳ではないけれど、どれも欲しいという気持ちにならない。ひたすら出口が見つからない迷路の中を彷徨っている気分でした。

※東京都渋谷区の都市計画図はPDFで閲覧することができます。
< http://www.city.shibuya.tokyo.jp/kurashi/machi/toshi_sodan.html
>

【いしはら・つよし】tsuyoshi@muddler.jp
息子カケルが、保育園で「坪単価がね」なんて保育士に向かって話をしているらしい。おかげで、パパ友ママ友、皆に家探ししていることが知れ渡った。
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