《萌えるのではない。燃えるのである。》
■わが逃走[107]
トリエンナーレトヤマの巻
齋藤 浩
■電網悠語:HTML5時代直前Web再考編[192]
アイデアの紡ぎ方
三井英樹
■ローマでMANGA[53]
イタリアにMANGA 〜カッパボーイズ誕生物語
midori
■わが逃走[107]
トリエンナーレトヤマの巻
齋藤 浩
■電網悠語:HTML5時代直前Web再考編[192]
アイデアの紡ぎ方
三井英樹
■ローマでMANGA[53]
イタリアにMANGA 〜カッパボーイズ誕生物語
midori
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■わが逃走[107]
トリエンナーレトヤマの巻
齋藤 浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20120621140300.html
>
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3年ごとに開催される国際コンペ、世界ポスタートリエンナーレトヤマ(IPT)は今年で10回目を迎え、その歴史も30年に及ぶ。今ではワルシャワ、ショーモン等と並んで、世界5大ポスター展に数えられ、世界最大の応募数を誇るに至った。
第一回の開催は、たしか高校生のときだったと思う。雑誌で見た入賞作品に度肝を抜かれ、オレもデザイナーになったら絶対出品してやるぜと心に誓ったことを思い出す。
そして、初めて応募したのが今から12年前。以来3年に一度のデザイナー検定!みたいなつもりで毎回チャレンジしている。
春に入選通知が来たときには「た、たすかった...」。腰が抜けた。ひょうきん族の神様の前に額突くような緊張感からの解放であった。
大きな組織に属するでもなく地道に仕事をしていると、いま自分のいる場所がどこなのだかわからなくなってしまう。IPTの入選通知は、そのままグラフィックデザインの世界における方位磁針であり、「あなたのデザイナーとしての考え方はアリですよ」を意味するのだ。
北陸の飾らない美しい文化に魅力を感じ、富山にはここ12年間何度も通った。またトリエンナーレの年には必ず行くことにしている。
地元の友人も増えたので、ここ何回かは前日のレセプションに出席し、夜まで飲んで、翌日は美術館で授賞式に立ち会ってから展示を見て、旨い寿司を食べて夕方の列車で帰ってくる。
そして落ち着いたころに再度訪ねて、富山の変わったところと変わらないところをじんわりと味わう、という旅が定番化している。
今回もオープニングに合わせて、まず6月の8、9日で一泊旅行だ。ホテルの予約もとり準備万端である。で、明日は富山だという6月7日木曜日の夕方に電話が鳴って、銅賞受賞を知った。
受賞作品は『タイポグラフィ・エクスプレス/北陸』。
< >
B部門(オリジナル新作ポスター)へ出品した2点シリーズのうちの1点だ。富山のためのポスターを、ということで今年の1月に自主制作したもの。同シリーズの『鮨』に全神経を集中させたため、どちらかといえば肩の力を抜いて楽しく作った。
< https://bn.dgcr.com/archives/20120329140300.html
>
今はなき上野発金沢行きの寝台特急北陸号へ想いをはせつつ、どちらかといえば「そのまんま」定着させた。しかし、これが国際展という舞台においては功を奏したらしい。「言われてみればそうだね」。まさに目からウロコである。
IPTのような公募展の良いところは、まさにここなのだ。自分では気づけなかった自分の仕事のよいところとダメなところを指摘し、これから先のデザイン界における身の振り方を通信教育してくれる。
つまり、落ちたら落ちたで何故落ちたかを考えることになる。そして、どのようなものが評価されたのかを知ることにより、これから2年後、3年後に求められる表現についての手がかりを得ることができるのだ。
また、入ったら入ったで自分の考えと評価ポイントとを対比し、自分に不足していた点や認識の誤りなどを洗い出すことができる。
そして、何よりも世界の超一流デザイナーの仕事と並べられることにより、皆の本気度に背筋を凍らせつつも燃えてくるのだ。萌えるのではない。燃えるのである。
これらを情報としてでなく、経験として得られることこそデザイナーにとって宝であり、またこの仕組みを提供し続けることこそIPTの重要な役割と言えよう。そういった意味からも富山には足を向けて寝られないのである。
みなさんもこの夏は是非、富山へ。そして県立近代美術館へ。
< http://www.pref.toyama.jp/branches/3042/3042.htm
>
【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/
>
1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。
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■電網悠語:HTML5時代直前Web再考編[192]
アイデアの紡ぎ方
三井英樹
< https://bn.dgcr.com/archives/20120621140200.html
>
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いつでも何やら色々と考えてる。それでもアイデアの良い発想法に出会えていない気がしないでもない。未だ出会えていないだけなのか、私が愚鈍すぎるのか。でも、手塚氏も言っている。やはり選ぶ手間は省けない。
弘法筆を選ばずとも、ペンと紙とはよく選べ。
手塚治虫「ぼくは漫画家」漫画家十訓
< http://amzn.to/Lksbn4
>
●アイデアの出し方
基本的には情報収集から始まると思っている。何もないところから、アイデアをひねり出せるほど賢くないので、諸々頭の中にちょっとでも入るような工夫をする。朝何を食べたのかさえ定かに答えられない貧弱なメモリだが、下手な鉄砲も数撃ちゃあ、ということで、最近はRSS+Evernote。記事の見出しを見るだけでも、何かの弾みで思い出せる場所まで記憶が散歩してくれる。
次は、批判精神。体系的に勉強した訳ではないけれど、基本的には「6つの帽子」的なアプローチだと思う。下記の6つの帽子をかぶって、物事を見る:
白い帽子(中立的視点:事実やデータ)
赤い帽子(感情的視点)
黒い帽子(批判的・消極的視点)
黄色い帽子(希望的・積極的視点)
緑の帽子(創造的視点)
青い帽子(冷静的・思考プロセス的視点)
決断の時に役立つ「6つの帽子のテクニック」:[lifehacker日本版]
< http://www.lifehacker.jp/2008/11/post_368.html
>
デボノ博士の「6色ハット」発想法:E. デボノ・松本道弘
< http://amzn.to/LDI2tV
>
常に6つの視点でモノゴトを見つめるのも厳しいので、今は「赤」、次は「黒」という具合に順繰り見つめる。更に進めば、下記のように、発明を体系的に生み出せるのかもしれない(本まで買ったけれど、未だ身につかず)。
TRIZ/TIPS
< http://www.iteq.co.jp/TRIZ.html
>
< http://ja.wikipedia.org/wiki/TRIZ
>
●情報整理
次は、基本「KJ法」。考えを絞り出し、グルーピング化して、言語化する。基本的には、一人100本ノックをしなければ、と思ってしまう。100本絞り出す事は最近はしないけれど、見逃した視点がないかは、整理しながら気をつける。
KJ法 - Wikipedia
< http://ja.wikipedia.org/wiki/KJ%E6%B3%95
>
ツールは、だいぶmindmap系に移って来た。最近使っているのは、これ一本。
App Store - SimpleMind+ (mind mapping)
[無料版]< http://bit.ly/KTUGW2
>
[有料版]< http://bit.ly/MFv6pT
>(600円)
他と何が違うかは、全部を見た訳ではないので、直感に近いかもしれないけれど、ポイントとしては下記:
1)見た目:基本はこのUI → < http://bit.ly/MM0DTR
>
2)操作感:とにかく楽(入力、再整理=移動や離縁や再婚的な操作)
3)連携性:pdf/mail/txt/pngなどの形で出力+Mac(PC)に転送
→ Mac/PC版もあります:
SimpleMind Desktop for Mac OSX | simplemind
< http://www.simpleapps.eu/simplemind/desktop/osx
>
使っているのは、iPod touchとMacBook。でも9割はtouchで操作している。とにかく何処ででもアイデア絞り出しが、再利用可能な形で実現できるのが嬉しい。会議やイベントのメモも、基本的にはこれで済ます。
但し、メモ用として使う時は、お話のテーマによって使うかどうかを決めている。スマホ(touch)なので、基本的にブラインドタッチは不可能。なので、使われる単語への親和性が鍵。よく知っている単語が殆どで、それらの組み合わせ方や再整理といったテーマの場合は、これでOK。
メモるのは、基本的には「単語」のみ。助詞とかは使わない。文書化しようとも思わない。ただただ単語を掴んでは、他の単語との関係性にのみ気を使う。どれとどれが親子関係で、どれが兄弟で...、というイメージ。
だから単語自体が未知のものが多い場合には、変換でイライラして、話を聞き逃してしまうので、紙とペン派。あと、スマホ系だとどうしても画面を見てる時間が多くて、demoなどが主体の場合も、殴り書き手書きの方が効率が高い(私には)。ちなみにペンは下記。久々に最後まで使い切って、更に買い直したペン。
Amazon.co.jp: 三菱鉛筆 ジェットストリーム 3色ボールペン 0.7mm
【グリーン】SXE3-400-07: 文房具・オフィス用品
< http://amzn.to/MgMDCS
>
●半分清書モードの再整理
ここで大きくツールが分かれる:
1)Adobe Illustrator
2)Microsoft Powerpoint
▼1)Adobe Illustrator
より視覚的に、InfoGraphics的にしたい場合や、あまりに込み入っていて、図として試行錯誤が必要な場合は、こっち。でも、必須なのが以下:
イラレで便利 for Adobe Illustrator - アドビ・イラストレーターの
ツール集
< http://d-p.2-d.jp/ai-js/
>
→ イラレで便利: テキストでちょっと便利
< http://bit.ly/X91WC
>
この中の「テキストばらし」が必須。文字列を、改行コードで切り離してくれるもの。流れ的には、SimpleMind+で下記貯めたアイデアを、テキストで持ち込んで、これをバラバラにして、再整理。Illustratorのキャンバスを全部使って、再整理します。広いお部屋で片付けしている見たいで壮快。無論CS6でも動いています。
▼2)Microsoft Powerpoint(使っているのは2003ですが...)
もう一つが、パワポ。以前は大分嫌いなソフトだったけれど、最近は手軽さが気に入っている。気に入った理由は下記:
A)テンプレートを正しく作れば、中々ちゃんとしている
defaultが異常に残念なのだが(売る気ないとしか思えない)、ちゃんと
フォーマットを作ってやると、後作業が凄く楽。
B)印刷系が楽:特にWindows環境では、図の拡大とか考えなくて良いので楽
とにかくペタペタと図をコピペすれば良くて、これも快適。
特にブラウザの画面キャプチャが多発する資料は、他で作る気しない
C)整理:左右揃えボタンなどをキャンバス下に配置したので超快適
参考)オートシェイプを揃える方法 - パワーポイントの使い方
< http://powerpoint.pc-technique.jp/autoshapes/autoshapes_01.html
>
D)テキストの流し込みが可能
参考)アウトラインの作成 - パワーポイントの使い方.com
< http://ppt.jissen-p.com/knowhow/knowhow_021.html
>
TABのない10行のtxtファイルからは、10pのパワポができます。
これの何が嬉しいかというと、TABでインデントされたテキストが、
2段落目としてインポートされます。勿論TABが2つだと3段落目。
ページタイトルとそこに書くべき内容をTAB付きで書けば骨子完成。
E)目次が生成可能
参考)目次スライドの作り方:PowerPoint パワーポイントの使い方
< http://www.relief.jp/itnote/archives/000128.php
>
※正しくテンプレートを作る必要があります
要は、テキストさえTAB付きで出来ていれば、サクッと「形を整えられる」。テキストを見ながら、自分がプレゼンしている姿は想像し難いので、プレゼン画面に一回変換しなければならない、パワポはそこ辺りが楽。
ちなみに、テキストの流し込みを検索すると、ワードから云々というのがやたら増えてます(昔はあまりなかった気がする)。私にはワードでアウトライン考えられる人がよく分からない。いらぬおせっかいが多すぎて、全然集中できないため。ちなみに愛用のテキストエディタは、これ。社会人になった時から、これ。
ViVi web site
< http://vivi.dyndns.org/
>
●膨らませながら、再々整理
で、骨子ができ、更にイラレであろうとパワポであろうと、「画面」という形まで整ったので、あとは肉付け。自作の絵も使うけれど、Web屋なので、やはり画面キャプチャの方が多い。ブラウザは、そのためにある気がする程。で、こちらも諸々機能拡張をする。あ、今はGoogle Chromeがメイン。
A)画面キャプチャを楽に入手する
Awesome Screenshot - Capture, Annotate and Share
< http://awesomescreenshot.com/
>
色々と試した結果、今はこれに落ち着いている。小さいエリアの切り取り
に難があったり諸々あるけれど、最後のファイルに落とす寸前で右クリッ
クでクリップボードにコピーできる(=このままパワポに貼れる)
Macでは、スクロールで見えないとこまで撮らないならこっち:
Apple - Downloads - Dashboard Widgets - Screenshot Plus
< http://bit.ly/IJwh
>
B)サイトのtitle/urlを楽に入手する
Chrome ウェブストア - Copy Title+URL to clipboard
< http://bit.ly/mnQEBo
>
Google短縮URLが機能しなくなった気がするのだが、右クリック系よりも、
ボタンの方が好きなので、こちらを愛用。
C)HTML/CSS/JSコードを楽に見る
Chrome Web Store - View Selection Source
< http://bit.ly/jTYH73
>
ちょっとしたものなら、これで対応。
D)サイズを測る
Chrome Web Store - ruul. Screen ruler
< http://bit.ly/nLq0Mg
>
実用性より使い心地的に。
E)画面サイズを楽に統一する
Chrome Web Store - Resolution Test
< http://bit.ly/jTaNIj
>
考えてみれば、AddOnを育てすぎて、Firefoxからは抜け忍できないと思っていたのに、申し訳ない程にChromeに移ってしまった。それはともかく、これで画面キャプチャーから出典の記述や、サイズも含めた統一感支援もできたことになる。あとは、どの画面を撮るか。
そこで役立つのは、再びRSS+Evernote。過去に気になったものが検索対象になるので、気に入った情報に再会する可能性が高まる。
●貯める+再再々チェック
で、Dropbox。作成した資料のほとんどは、基本PDF化して蓄積。お客さんとの兼ね合いで、全てをDropboxに置けるわけではないけれど、自習用の自作資料は、どこかに置いて、そこからiBooksで開いて、指で拡大しつつ再チェック。これも、touchで。
Dropbox へのご招待です。 - Dropbox
< http://bit.ly/N8xit4
>
結局、一巡して来た感じがする。touchという小さなデバイス上で、大切な情報が回っている。そして、使う側は無理していない。トイレですら出来ることが、情報閲覧だけでなく、書く事も、整理する事も、小さなアイデアを育て上げる事すらにも広がって行く。
「ソーシャル」や「クラウド」という言葉の裏で、様々なコトガラが、目の前ではなく、「あちらがわ」で処理できるようになり、回るようにサイクルが成立しはじめた。
ツールが発達した程に、私は賢くなったのだろうか。筆すら選ばなかった、弘法大師は、この便利さの洪水を前に、何を思うのだろう。より良くを求めすぎて、何かを失っているのかも。怖い程に便利。
【みつい・ひでき】@mit | mit_dgcr(a)yahoo.co.jp
・DropboxからPublicが消える、かなりの痛手。
Dropboxが既定Publicフォルダを廃止。8月以降の新規アカウントから。
共有リンク機能に移行 - Engadget Japanese < http://engt.co/LPq7U7
>
・結局またツール紹介になってしまいました...。
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■ローマでMANGA[53]
イタリアにMANGA 〜カッパボーイズ誕生物語
midori
< https://bn.dgcr.com/archives/20120621140100.html
>
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「カッパボーイズ」なんて聞くと、妖怪のカッパの少年が歌ったりしてるところを想像する方もいるかもしれないが、そうではないので悪しからず。
イタリアにMANGAカッパが生まれた話だ。70年代の終わりに日本のアニメがイタリアに登場し、それから10年経ってアニメを見ていた子供が成長して就職する年齢になった。日本のアニメが好き! というのを高校生になっても、高校を卒業して仕事を探す年齢になってもやめない子たちも出てきた。
その中に、後のカッパボーイズになる子たちもいたというわけだ。1990年にできたGranataPress社は、そういう若い子たちで作り上げた出版社で、MANGAを掲載するという勇敢な仕事をした。
アニメーションは子供のものという空気の中、大人になってもアニメ好きをやめなかった勇気もそうだし、イタリアでは知られていなかったMANGAを発行する勇気もそうだ。
この出版社から8タイトルの雑誌が生まれては消え、その活動中、「北斗の拳」「バオー来訪者」「機動警察パトレイバー」「サンクチュアリ」「スプリガン」「ガンヘッド」「アップルシード」「マクロスII」「アリタ」「ジェノサイバー」「リカントロープ レオ」「うる星やつら」「ランマ1/2」「カムイ」「UFOロボ グレンダイザー」「デビルマン」「キャプテン ハーロック」を雑誌に掲載した。
選択はすべてSF系(カムイは違うか)という、かなり偏ったものになっている。憶測だけど、アメリカ経由で、つまり、日本の出版社と直接やり取りしないで、アメリカの出版社から出版権を買って(原稿反転、彩色済みのもの)出版したせいだと思われる。アメリカ好みの選択だ。そして、どれも全編掲載し終わってないようだ。
そして......6年間頑張ったGranata Pressは1996年に閉じた。
●危機をチャンスに
悪いことは良いことも連れてくる、というような意味のことわざがイタリアにある。後のボーイズは仕事していた出版社の解散を、一歩前進の機会に替えたのだ。Granata Pressにいたアンドレア、マッシミリアーノ、もう一人のアンドレア、バルバラの4人はGranata Press解散を、アメリカ、フランス経由ではなく、自分たちが選んだMANGA作品をイタリアで出版する契機とした。この熱というものは人を動かす。だが、4人の青年は、熱はあっても懐は寒い。
同じボローニャで、80年代の終わりにスターコミックスという出版社が現れた。アメコミを出版する意思で設立され、それなりに順調にやってきていた。4人は一回りも二回りも上の社長に向かって、MANGAの素晴らしさを説いて、「私にはMANGAの良さというのは分からないが、君たちがそんなに勧めるならやってみたらいい」といわせてしまったのだった。
つまり、スポンサーが付いたわけだ。日本の出版社にも「MANGAを出版したいアンドレアです」と言うより「ボローニャの出版社、スターコミックスです。アメコミ出版の実績があります」という方が信頼を持ってもらえるに決まっている。そして、スターコミックスの衣を着て、講談社にたどり着いた。
●MANGAがイタリアへ入る瞬間
もっとも、たどり着いたのはファックスで、話し合いには講談社がイタリアへやって来た。当時国際室と呼ばれていた部署の安藤さんという才媛。安藤さんは英語ペラペラだけど、アンドレア達の英語がどうも...ということで、私が通訳に呼ばれ、日本のMANGAが出版社から直接イタリアへ渡る瞬間に同席することになった。
安藤さんはローマの出版社とボローニャにあるスターコミックス社とアポを取って、どちらに講談社のコミックスの出版権を売るのかを決めるために来伊した。それぞれの会社へ訪問し、ローマの出版社は社長と秘書役の女性、スターコミックスでは社長とアンドレ達4人の若者と話をした。
この話し合いで二社の性格の違いがはっきりした。ローマの出版社は、結局のところMANGAが売れそうだから出版したいという、まぁ、株式会社のあり方としては正しい姿なので悪いとは言わないけれど、二者択一の場合、何かが足らない。
スターコミックス社では、まず社長と挨拶し、先に書いた「私にはMANGAの良さというのは分からないが、君たちがそんなに勧めるならやってみたらいい」というエピソードを披露し、その後はその場にはいたけれど話し合いは若者4人に任せた。筆頭のアンドレアは1968年生まれ。御年28歳のことだ(今、調べてみて発見。イタリア人には珍しく童顔なので、もっと若いと思ってた)。
4人はMANGAのことをよく知っていて、ぜひとも自分たちが講談社のMANGAを出版したいのだという熱意もよく伝わってきた。たとえば、Granata Pressで「AKIRA」を出版したが、アメリカ経由の彩色を施したもの。この4人は、オリジナルの白黒の方が美しいと思うという、MANGAに対する深い造詣があることを思わせる発言をいくつもした。
そして、二社ともミーティングの後夕食に招待してくれた。ローマの出版社は、テスタッチョという、ローマの下町にある1887年からやっているトラットリア。東京築地の魚市場にある寿司屋のように、かつて中央屠殺場だったところで、そこで働く人を相手に肉や臓物を使って食べさせる食堂が起源の、由緒ある、その味には定評がある店だ。今は息子の代の高級レストラン。
< http://www.checchino-dal-1887.com/
>
出席者は社長、奥さん、秘書、社長の息子二人とその奥方そして安藤さんと私だった。イタリアの会社は中小企業が多く、そのほとんどが家族が役員をやっているから、この出席者の構成は不思議ではない。ただ、食事の間、家庭内の話題に終始した。安藤さんはそれなりに面白がっていたし、食事は誠に美味しかったけれど、それで終わった。
スターコミックスの方では、どのレストランで何を食べたのか覚えていない。覚えているのは食事の間中、ずっとMANGAの話をしていたということだ。
出版社の規模も、これまでの出版内容も質もそれほど大きな差がないのなら、講談社の決定は自ずと明らかだ。
安藤さんはスターコミックスを選び、帰国前に更に細かい内容を決めた。講談社のMANGAを集めた雑誌形式にすること。その雑誌名には講談社という社名につながりのあるものを採用すること、という条件を出した。
雑誌名に関しては、安藤さん帰国後ゆっくり結論を出してくれれば良いということだったが、4人は顔を見合わせてアンドレアがおずおずと、「Kodanshaの頭文字のKを使い、イタリア語読みの『カッパ』を使えばいいと思う。『カッパ』っていう発音、日本の妖怪の名前だし...」このネーミングには安藤さんも異存なく、あっけなく決まった。
こうして、安藤さん来伊の翌年、1992年7月、「攻殻機動隊」「3X3Eye」「ダーティペア」「ああ!女神様」の4作品と読物を掲載して月刊「Kappa Magazine」第一号が発行になった。
< http://www.sinet.it/baroncelli/manga/km_01.htm
>
この雑誌の創設者の4人は「カッパボーイズ」と名乗るようになり、コミックスフェアで姿を現すと歓声が上がったりして、ちょっとしたアイドル的存在にまでなった。
< >
「Kappa Magazine」は2006年11月173号で廃刊になるまで、実に14年間頑張った。当初は講談社アフタヌーン編集部とコラボして、カッパマガジンを通してアフタヌーン四季賞に応募できるという企画もあった。実際には、賞に応募できるほどの質を持った作品が集まらず、ウヤムヤのうちに消えていった。
その代わり、1995年にKappa Edizioniという独自の出版社を創設し、主に、イタリアの作家を掲載する「mondo naif」誌を創刊し、現在、日本の作家や他のヨーロッパの作家を含む本を14の項目に分けて出版するほどに成長した。
< http://www.kappaedizioni.it/index.php
>
4人とも「ボーイズ」と呼ぶにはちょっとはばかられる年齢になったけれど、MANGAをイタリアへ入れた功績とともに、しっかりとMANGAとマンガの世界で人生の地盤を固めた。拍手。
【みどり】midorigo@mac.com
主に料理の写真を載せたブログを書いてます。
< http://midoroma.blog87.fc2.com/
>
違法ダウンロード法案が可決されたそうですね。違法ダウンロードは万引きと同じ、という考え方だけで行くと、インターネットのあり方と相容れないのではと思う。何を違法とするのか、どのように摘発するのか、問題は山積みのままではないかとも思う(たとえば、これを書きながら久石譲さんのYouTube動画を集めたものを聞いているけれど、これも違法になるということかな)。
情報を共有する、ということで、「これいいと思う!」と、映画のトレイラーを引っ張ってきたり、「見てきた!」とコンサートの様子を撮影したものをアップしたくなるけど、それは著作権と相容れない。
国会審議の中で、キャラクターのTシャツを着たわが子を写真に撮ってそれを個人ブログにアップするとそれは違法になるのか、ともやってたけどそうなると行き過ぎ管理社会と言わずにいられない。むしろ、宣伝してやったから報酬をくれ、と言いたくなってくる。息子のTシャツで何か儲けたわけでもないし。
違法ダウンロード法案で守りたいものは、今のところ割と簡単にDLできてしまう音楽、映画の著作権(製作者の利益、要するにDLしないでCDやDVDを買ってよ、ということ)だと思う。
一つの傾向として、19歳の息子は音楽も映画もCDやDVDというモノで持つことに興味がない。音楽はiPodに、映画はPlayStationに入れてしまう。ディスクではどこにやったかと探すのがめんどくさいという(整理整頓がヘタなことはさておいて)。私は自分で撮った写真を半年ごとにCDに焼いて、自分で作った画象とロゴを表面にプリントして悦に入っているが、息子は学校で遠出した時の写真なども自分では撮らずに、友達が撮ってFaceBookにあげたものを共有しておしまいだ。
つまり、バーチャルだけで所有することに何の違和感もない世代が出てきている。もう一つは、たとえば、ネットがなければ私は久石譲さんを知らなかっただろう。つまり、制作と流通の側でありかたを考えなおす時期にあるということだ。
この審議で参考人として呼ばれた津田大介氏の意見にほぼ同意。
< http://www.nicovideo.jp/watch/sm18139054
>
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編集後記(06/21)
●ソフトバンク新書「心を癒すクラシックの名曲」(山崎潤一郎著/南ゆうき監修/CD-ROM付き)を読んでいる。この本は、「こんなシチェーションではこの曲を聴いてもらいたい」という観点で作品を整理し、101曲を紹介している。たとえば、心地よい睡眠を演出する安らぎのクラシック、通勤中にオン・オフを切り替えるクラシック、カタルシスへ誘い心を洗うクラシック、一日の疲れを一掃! バスタイムに聴くクラシックなど8分類、番外に「商談・プレゼン前に聴いて気持ちを高める"勝負"曲」といったように、非常にうまい構成だ。それぞれの曲の解説はお堅いものでなく、曲のもたらす癒しの感覚や効果、聴きどころ、作曲家のトリビアなどとても楽しく読める。
CD-ROMにはMP3ファイルで101点を収録している。総時間384分である。長い曲でも3〜5分で完結するよう、有名メロディーやパートを抜き出し原典の曲想を尊重しつつ再アレンジを加えた音源が中心だ。フェードイン・アウト処理はしていないから、聴後感も極めて自然だという。iPhoneやiPodなどにMP3ファイルを転送して聴くためのCD-ROMであり、オーディオCDとして使用するとダイジェスト版しか再生しない。それでは、Mac miniのiTunesに入れてみるかと、CD-ROM(80mm)をフロントのスリットに差し込もうとした。待て、なんか胸騒ぎがする。
サポートコミュニティのページを見たら、80mm CDは非対応、挿入したらとんでもないことになる、最悪の場合内部の駆動回路を損傷する可能性があるからダメ、もし入れてしまって取り出せないときは修理に出すしかないがメーカー保証はきかない、などとあって、ああ危なかった(冷や汗)。それじゃどうやってMP3ファイルを取り出すんだ。いまは休眠中のポリタンクG4のトレイなら80mm CD載るのかな。でもコード類全部とりはずしてしまっているから、起動するにはけっこう手間がかかる。いまやる気はない。夏休みまで待つか。勝負曲のひとつ、モーツァルトの交響曲第41番(ジュピター)第一楽章、たしかに大いなるパワーを感じる。妻との舌戦の前に聴くか......。(柴田)
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4797367970/dgcrcom-22/
>
→アマゾンで見る(レビュー3件)
●齋藤さんの写真とポスターとでは印象が違う。同じ人の感性なのに。何故なんだろう。/三井さんのツール話も好きだ。知らないこといっぱい。/「違法ダウンロード法案」の詳細を知らないまま。/大阪マラソン落選。チャレンジランだったけどさ。去年も落ちたから、今年こそはと思っていたのだ。
iPadアプリの「ShowMe」。描画しながら録音でき、公開できる。遠隔地での説明に良さげ。私は一人会議に使ってみた。頭の中にこびりついて離れない懸念事項があると、堂々巡りになって、他のことが手につかなくなる。やりたいことより、しなきゃいけないことを優先する時もそう。やりたいこと=気持ちの問題の時もあるし、こっちを先にする方が効率が良いはずなのに、という場合もある。ぐるぐるまわっていると、つい、まったく違うことをしてしまったりもする。一人会議で吐き出してみたら、心底納得しているわけではないのだが、少しだけマシになったよ。(hammer.mule)
< http://itunes.apple.com/gb/app/showme-interactive-whiteboard/id445066279?mt=8
>
ShowMe
< http://ohst.jp/nissi/?tag=ipad
>
ShowMeを使っている人
< http://web-tan.forum.impressrd.jp/e/2010/04/16/7316
>
リンク切れやHTMLなどのクオリティ自動チェックツール8選
< http://matome.naver.jp/odai/2133851408093621601
>
タモリに学ぶ!会話を盛り上げる7つのルール