わが逃走[107]トリエンナーレトヤマの巻
── 齋藤 浩 ──

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3年ごとに開催される国際コンペ、世界ポスタートリエンナーレトヤマ(IPT)は今年で10回目を迎え、その歴史も30年に及ぶ。今ではワルシャワ、ショーモン等と並んで、世界5大ポスター展に数えられ、世界最大の応募数を誇るに至った。

第一回の開催は、たしか高校生のときだったと思う。雑誌で見た入賞作品に度肝を抜かれ、オレもデザイナーになったら絶対出品してやるぜと心に誓ったことを思い出す。

そして、初めて応募したのが今から12年前。以来3年に一度のデザイナー検定!みたいなつもりで毎回チャレンジしている。

春に入選通知が来たときには「た、たすかった...」。腰が抜けた。ひょうきん族の神様の前に額突くような緊張感からの解放であった。

大きな組織に属するでもなく地道に仕事をしていると、いま自分のいる場所がどこなのだかわからなくなってしまう。IPTの入選通知は、そのままグラフィックデザインの世界における方位磁針であり、「あなたのデザイナーとしての考え方はアリですよ」を意味するのだ。

北陸の飾らない美しい文化に魅力を感じ、富山にはここ12年間何度も通った。またトリエンナーレの年には必ず行くことにしている。

地元の友人も増えたので、ここ何回かは前日のレセプションに出席し、夜まで飲んで、翌日は美術館で授賞式に立ち会ってから展示を見て、旨い寿司を食べて夕方の列車で帰ってくる。

そして落ち着いたころに再度訪ねて、富山の変わったところと変わらないところをじんわりと味わう、という旅が定番化している。

今回もオープニングに合わせて、まず6月の8、9日で一泊旅行だ。ホテルの予約もとり準備万端である。で、明日は富山だという6月7日木曜日の夕方に電話が鳴って、銅賞受賞を知った。




受賞作品は『タイポグラフィ・エクスプレス/北陸』。

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B部門(オリジナル新作ポスター)へ出品した2点シリーズのうちの1点だ。富山のためのポスターを、ということで今年の1月に自主制作したもの。同シリーズの『鮨』に全神経を集中させたため、どちらかといえば肩の力を抜いて楽しく作った。
< https://bn.dgcr.com/archives/20120329140300.html
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今はなき上野発金沢行きの寝台特急北陸号へ想いをはせつつ、どちらかといえば「そのまんま」定着させた。しかし、これが国際展という舞台においては功を奏したらしい。「言われてみればそうだね」。まさに目からウロコである。

IPTのような公募展の良いところは、まさにここなのだ。自分では気づけなかった自分の仕事のよいところとダメなところを指摘し、これから先のデザイン界における身の振り方を通信教育してくれる。

つまり、落ちたら落ちたで何故落ちたかを考えることになる。そして、どのようなものが評価されたのかを知ることにより、これから2年後、3年後に求められる表現についての手がかりを得ることができるのだ。

また、入ったら入ったで自分の考えと評価ポイントとを対比し、自分に不足していた点や認識の誤りなどを洗い出すことができる。

そして、何よりも世界の超一流デザイナーの仕事と並べられることにより、皆の本気度に背筋を凍らせつつも燃えてくるのだ。萌えるのではない。燃えるのである。

これらを情報としてでなく、経験として得られることこそデザイナーにとって宝であり、またこの仕組みを提供し続けることこそIPTの重要な役割と言えよう。そういった意味からも富山には足を向けて寝られないのである。

みなさんもこの夏は是非、富山へ。そして県立近代美術館へ。
< http://www.pref.toyama.jp/branches/3042/3042.htm
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【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。