デジタルちゃいろ[25]ウナギと地域文化の狭間
── browneyes ──

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季節感とかお構いなしの我が家ではここ数年、そもそもウナギを手に取ることも口にすることもない状態なので、個人的にはあまり関係がなかったのですが、今年の夏はウナギ高騰でとんでもなかったようですね。一度だけスーパーで蒲焼きの値段を目にしてびっくりしました。

この町に暮らしはじめてほぼまる6年。近隣とのお付合いもほとんどない......のにも関わらず、どこからともなく耳にしていた「ウナギの漁」。想像ではなんとなく、どじょう掬い的なイメージでしたが、どうやら実態はちょっと違うらしい。

......というのを知ったのは、(ワタシが、じゃないのですが)ひょんなコトから今年の冬、漁業許可を得て、ちょっと試してみることになったから。会社を離れて一年半、自営で本格始動を始めて約一年、まさか季節労働の、しかも、なんちゃって漁師もどきなナニカにまで関わるとは、予想もしてませんでした(笑)。まぁ、ワタシはこの件は、基本的には外野として見るだけですけどね。




●謎多きウナギ事情

ウナギの、特に産卵から稚魚に至る生態というのはまだ色々と謎が多く、Wikipedia先生に尋ねてみても、21世紀に入ってから「◯◯は△△らしい」レベルにやっと少しずつ解明が進み始めてきたのかな、という印象。

深海で産卵・孵化をして、稚魚としての最終形態(?)のシラスウナギになった頃、淡水にやってきて成魚に育つ、「降河回遊」というのを行う淡水魚なのですね。しかも川の遡上の際、流れが激しい所だと、川岸から水際を這うこともある......ってシーラカンスか!

食物として日本で流通しているウナギは大別すると、天然ものと養殖ものとに分かれますが、養殖といってもどうやら「完全養殖」ではないらしい。上述のとおりで、生態自体に謎が多かったせいか、人工孵化の技術がまだまだ商業ベースに乗れるフェーズではないらしい。研究としてお金かければ何とか、という状態。

そのため、稚魚のシラスウナギを人力で捕獲して、養殖所で成魚に育てたのが現在の養殖ウナギなのですね。という理由で、主に太平洋に面した全国の沿岸部では、毎冬、シラスウナギ漁が行われます。はい、ウチの地元にある、ふたつの大きめな河口でも。

●地場限定・季節限定の漁

とはいっても、シラスウナギ漁は、いつでも誰でも出来るわけではない。冬場の決められた数か月、きちんと各自治体の漁業組合に許可をもらって行います。

ウチの地元での申請資格は、後にも先にも「市民である」こと。市民であれば、シーズン前の一定期間中に許可申請をしてはじめて漁ができます。たまたま今回、諸事情が重なり、今シーズンの申請最終日に許可申請をすることに。

漁の解禁は12月から。なのでまだ「実務経験」はありません。そもそもはじめてすぎて、解禁されても暫くは、様子見から始まるコトになるでしょう。

●不漁と乱獲と水面下の異変

......などと、天真爛漫に言ってはいるものの、ウナギの高騰と背中合わせに、乱獲は予想以上に深刻な問題にもなっていて、成魚のウナギもシラスウナギも漁獲量制限や禁漁など、近い将来、方針が決められていくことになりそうです。

□ニホンウナギ「絶滅危惧種」に 乱獲、禁漁求める声 :日本経済新聞
└< http://j.mp/SGS01O
>

実際、シラスウナギ漁について書かれているブログ等を見ていると、2000年頃までは、景気のよさそうな話題も多く、ちょっとしたゴールドラッシュみたいな時期もあったようです。が、10年前後前くらいから徐々に、全国どこでも不漁続きに。実際に激減してきている様子が各地のブログから伺えました。

加えて、近年、ウナギの生態自体にも結構な異変が起きている様子。遡上のピークが何故か半年もズレているらしい、ということ。この半年ズレの原因もそれなりに生態に大きな影響はありそうですね。

冬遡上と夏遡上って、水温も潮の流れもだいぶ違うんだから、海中の環境も大分変わるだろうし、夏と冬の気温差なんて、どんな生物にとっても生活行動が変わるくらい大ごとですよね。ウナギに限らず、文字通り「水面下」で大きな変化が起きてたりするんでしょうか。

□ウナギ稚魚の回遊時期に異変 :セピアおじさんのランダム・ストーリー
└< http://j.mp/SGx3nO
>

●終わりゆく地場文化

今年これだけ世間でも話題になったウナギ高騰で、しかも、乱獲が原因の大きな部分を占めているのは明白な感じもするこのタイミングで、シラスウナギ漁に参戦、というのは、ちょっと躊躇しないでもないのですが、この漁自体、既にこれから消えゆくものリストの上位に挙げられているもののような気がしています。

ウチの地元ではみなさん、頭にLEDランプを付けて網を持って、身ひとつで河口に入ってチマチマ漁をするようですが、地域によっては冬の川の風物詩として幻想的な光景のようですね。

□GANREF | 幻想漁
└< http://j.mp/SGY2j3
>

現代においての乱獲→絶滅危惧の流れは実際問題、深刻。それは否定しない。反面、それが故に、半世紀近くは続いていた、こういった各地の季節の風景も終わりを告げる、もしくは縮小されていく。

昔あったものが時代の流れでなくなっていくコトは往々にしてある。街角のビルも、気がつくと看板が変わっていく。であれば尚、気が留ったものについてくらいは、感傷的にではなく、それを機会に記録しておきたい、自分視点で。というのが、この狭間の時期にシラスウナギ漁を知ったワタシの今現在の気持ちかな。

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■今回のどこかの国の音楽

□Bol[Hona Tha Pyar Hua Mere Yaar] by Atif Aslam
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ワタシがこの夏......というか秋に最も心残りだったのが、IFFJ(Indian Film Festival Japan)で上映されたパキスタン映画「Bol」を見逃したこと。

印度映画祭なのにパキスタン映画? とよくわからないコトになってますが、国内諸言語でそれぞれ大盛り上がりの映画産業を誇る印度。文字こそ違えど、言葉はほぼ一緒の仲の悪い隣国、パキスタンはそこまで経済的に豊かでもないため、国内での映画も頑張ってはいるものの、質の高い娯楽映画としては印度から人気がやってきます。逆はほとんどなし。それが現地公開2011年のこのBolというパキスタン映画、娯楽作品ではなく、社会派作品ですが、印度でも異例の大ヒットになったという。それが今年、上述のIFFJと、あと、ほぼ同時期開催の福岡国際映画祭で日本語字幕付き。

ストーリーは、父殺しで死刑を執行される直前の娘の告白で明かされていく家族の真実。タイトルのBolはSay。邦題は「声を上げる」となったようだった。衝撃の、とよく言われる結末まで、もう薄々は知ってるが、いつかはきちんと見たい。

しかも字幕は、常々Twitter上でワタシのトンチンカンなヒンディ・ウルドゥをよく指摘してくだったり、時折ヒンディ歌詞の邦訳をメールで教えてくださったりする、元東京外大の麻田豊先生の訳。

先生は日本語訳の際の日本語の表現にも、いつも物凄い神経を使われている。日本ではマーケットに乗った訳ではないので、今後、先生の邦訳で見るチャンスがあるかどうかはわからない。そんな丁寧な日本語字幕がほんの少しの機会にしか公開されないというのも非常にもったいない。

【browneyes】 dc@browneyes.in
日常スナップ撮り続けてます。アパレル屋→本屋→キャスティング屋→ウェブ屋(←いまここ)しつつなんでも屋。
□立ち寄り先一覧 < http://start.io/browneyes
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□デジタルちゃいろ:今回のどこかの国の音楽プレイリストまとめ
└< http://j.mp/xA0gHF
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急激に寒くなった先週の日曜日、やっと衣替え開始。開始早々に腰に違和感。以来未だに歩くのにすら難儀をする状態。実は学生時代、成長期のせいなのか、水泳(平泳ぎ)のせいなのか、スキーのせいなのか、腰椎のひとつがダルマ落とし状態という、腰の地雷を抱えてる。リハビリやら何やらで、長いこと上手に付き合ってたが、そろそろ肉体が何もせずに支え続ける若さを失いつつあるのかもしれない。うっ、ツライ......。