[3373] デジタルフォトガジェットを考えてみた

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《最近はね、もうメバじゃないの! ギバなんだよ!》

■わが逃走[115]
 父の思い出 の巻 その2
 齋藤 浩

■デジクリトーク
 デジタルフォトガジェットを考えてみた
 出渕亮一朗




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■わが逃走[115]
父の思い出 の巻 その2

齋藤 浩
< https://bn.dgcr.com/archives/20121115140200.html
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前回父の話を書いたところ、まだまだ書きたりないということに気づき、今回はその続編です。

他人の父の話などどうでもいいとお思いでしょうが、そもそもこの『わが逃走』自体が、どーでもいい話の積み重ねというコンセプトなので、何卒そこんとこよろしゅうに。ってこの前も言ったっけか。

さて、前回語りきれなかったこととに順番をつけるとすれば、まず筆頭にくるのは彼の言語感覚についてである。

あのおかしな言語感覚は、やはり脳の障害なのか?
「スキャナー」を「キャスナー」、「ハットトリック」を「トックリハット」、「トリカブト」を「カブトリコ」等、初めて覚える言葉の前後が入れ替わってしまう現象については前回書いたとおりだ。

そういえば、ランランが死んだ後にやってきたメスのパンダ"ホアンホアン"のことを「アホンアホン」と呼んでいたことを今思い出した。

ランランやカンカンに比べて言いにくい名前かもしれないが、どう考えてみても「アホンアホン」の方が言いにくいと思うのはオレだけではなかろう。

おそらく彼の脳内では「ランランでもなくカンカンでもなく、ホとかアとかで構成されている複雑な音を二度繰り返す」と記憶しているのだと推察される。

そんなに難しく考えるよりも「ホアンホアン」と覚えてしまった方がラクだと思うんだけどなあ。理解に苦しむところである。

まあその程度なら周りもだいたい何のことだか察しがつくのであたたかく見守ってくれようが、困ったことにそれがどんどん複雑化していったのだ。

オレが中学生の時だったか。ある朝、親子三人で朝ごはんを食べていたところ、父は新聞のテレビ欄を見ながら「今日、カネダノキヨスクやるよ」と言った。

一瞬何のことかわからず顔を見合わせた母と私であったが、二人ともすぐに「ああ、今夜テレビで『犬神家の一族』を放送するんだ!」と理解し、長年父と暮らしていると、複雑な暗号のような言葉もわかるようになるんだねえと妙に感心したもんだ。

カネダとは金田一耕助、キヨスクとはスケキヨ(犬神佐清)を意味する。父は金田一耕助のことをずっと"カネダ"だと思い込んでいた。

会話の中で「カネダみたいだ」などという表現があった場合、オレはすでに「ああ、金田一耕助と印象が似ていると言いたいんだな」と瞬時に理解する癖がついていた。あとは"キヨスク"に似た音の何かが登場する物語を探せばいいのだ。

その夜、居間で『犬神家の一族』を見ていると隣から父は「これさっきの人?」「この人さっき出てきた人?」と3分に一度くらい聞いてくる。父は人の顔を覚えられないのだ。

オレもその血を受け継いでいるので気持ちはわかる。AKBなんてグロスでしかわからないしな。とはいえ、さすがにドラマを見ていればだいたい理解できると思うのだがなあ。

『鬼平犯科帳』を見ているときだってそうだ。ちょんまげだとより一層みんな同じに見えるらしく「この人鬼平?」「佐島だよ」「この人悪者?」「密偵だよ!もう黙っててくれ!」

ああ、思い出しただけでも腹が立つぜ。おっと今は言語感覚の話をしてたのだった。

そしてそれから約10年後。母方の親戚がうちに遊びに来てくれたことがあった。父は、当時普及して間もないデジカメ(130万画素)を自慢したくてしかたがない。それを察してか、叔母が「あら、めずらしいカメラですね」と語りかけると、待ってましたとばかりに解説を始めた。

「このデジカメはね、メモリーが8バカなんですが、16バカまで拡張できるんですよ」「あらすごいわねえ。まあ、そうなんですか」

これはほんとにスゴイと思った。「メガ」をよりによって「バカ」と覚えてしまったこともスゴイが、二人はこのデジカメというプロダクトの何たるかをまったく理解していないにもかかわらず、ちゃんと会話が成り立っているのがスゴイ。

後になって推察するに、おそらく父はMBをKBと間違えて覚えてしまい、さらにKとBを前後逆に、つまりBKと覚えてしまった。だから"16バカ"(16BK)となる。

その後数か月、面白かったのでとくに訂正せず「8バカ」とか「16バカ」とか言わせていたのだが、さすがに外で言われちゃ恥ずかしいと思い、「父さん、バカじゃなくてメガだよ」と言ったところ「メガバイトだろ。知ってるよ」なんて答える。

「なんだ、わかってんじゃーん」と言ってみたものの、一抹の不安も感じていた。その日の午後、メモリーを買いに行くというので近所の量販店まで一緒に行ったところ、「このカメラの16バカ...じゃないや、メバ! メバちょうだい」。

対応した店員はすぐに理解できたらしく、16MBのメモリーを用意してきた。さすがプロである。オレにはできねえ。

それからしばらくして、一人暮らしを始めた私に父から電話があり、外付けハードディスクが欲しいので一緒に店まで来て選んでほしいという。

父に会うと開口一番「最近はね、もうメバじゃないの! ギバなんだよ」。

想像どおりである。ギバって柳葉敏郎か。いまにきっとテバとか言い出すに違いない。

「父さん、メガバイトはメガ、ギガバイトはギガって略すんだよ」とオレが言うと瞬時に「ふーん、そう」と答えたので、絶対聞き流していると思った。

そして店に入るとすぐに店員のいるカウンターで斜に構えつつ「ギバある?」。案の定ってやつである。

さすがにこのひと言では店員は理解できなかったとみえ、聞き返してきた。すぐにオレが横から「Mac対応の40GBのHDDを探しているのですが...」と言うと、売り場へ案内してくれたのだった。つづく。

【さいとう・ひろし】saito@tongpoographics.jp
< http://tongpoographics.jp/
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1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。

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■デジクリトーク
デジタルフォトガジェットを考えてみた

出渕亮一朗
< https://bn.dgcr.com/archives/20121115140100.html
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写真のアナログなフィルムと印画紙は消えつつあり、デジタルカメラとデジタルデータにほぼ移行した現在であるが、写真の閲覧という意味では、まだまだ移行期にあると思う。

自分が友人達と飲んでいる時とか、あるいはレストランで隣の陽気におしゃべりしているグループを横目で見ると、何か面白いネタがあったんだろう、スマホを取り出して覗き込むように向かい合わせの人が小さな画面を見ている。

これなら、焼き増ししてもらった写真を回して見せていた時代のほうがまだ勝っていたと思う。

スマートフォンやタブレット的なもので写真を見たり整理したりするのは、時代の流れであることは間違いない。

保存場所の節約、紙資源の節約、劣化耐久性、持ち運び、見せる時のスマートさ、反射光でなく自己発光による美しさとメリットは数多い。

クラウドにして写真データを共有して〜とかいうやり方も当然あるが、話が盛り上がっている時に「じゃあ、いまからこの設定で写真を共有してね」とか言ってると話の流れを止めてしまう。

そこで写真を見る/見せるための、デジタルフォトガジェットを考えてみた。大きさはiPad-miniくらいでよいと思う。薄くて軽量、値段は2万円以下。

閲覧専用ということで電子書籍リーダーに機能統合してもよい。なぜ今のタブレットではいけないかというと、データにプライバシーがないからだ。

先に話したように、スマホを見せるときに相手に渡したりはしない。それはいろいろ大事なデータがあるからだ。

メールを見られたり、悪意があれば消されたり、勝手にメールを送られるかもしれない。twitterのTLやブラウザの閲覧履歴を見られるかもしれない。

このガシェットの売りは、他人に手渡して見せることができることだ。参考となるのはUNIXだ。このOSは、その昔コンピュータが高価で一台を複数の人が使うことを目的に考えられたものだから、ファイル、フォルダーごとに個人専用か公開かの設定が細かくできる。

まず、個人モードと公開モードが切り替えられるようにする。個人モードでは普通に使えるが、公開モードでは指定されたホルダーしか開くことができず、写真を見ることはできるが消すことはできない。

モードの切り替えはパスワードを入れるのが常套だと思うが、けっこう面倒だ。そこで指紋認証機能を付けるというのはどうだろう? 登録された本人のタッチは管理者操作と認識し、それ以外の人のタッチ操作は公開専用機能しか使えないとすればよいはずだ。

指紋認証は詳しくないが、もしスキャナー機能を付ければよいならば、スマフォやタブレットに+αで付け加えるべき機能があるとしたら、スキャナーが挙げられると思うのでちょうどよいかも。

印刷物の記録は、カメラでは歪んだりライティングがうまくいかなかったりしてイマイチだ。タブレットの上に印刷物を裏向きに置いて、サイドのボタンを押すだけ。

または、自宅ならばPCからコントロールして普通のスキャナーのように画像確認しながらスキャンができる。たとえば、名刺をもらったらポンとスキャンして、デジタルデータとして保存整理しておくとか。まあ、大きなものはダメだけどね。

お・ま・け

スマフォの欠点のひとつは文字入力だと思う。私の場合、あいぽんでキー入力すると打ち間違えるのがデフォだ。音声認識もあるけど人に聞かれるのが恥ずかしい。

そこで第三の入力装置として、カメラを使って読唇するというのはどうだろう?個人に合わせてキャリブレーションをしっかりやって、音声認識の予測機能を使えばなんとかならないかな?

お・ま・け2

iPhone専用アプリ 見てる女やさかい。< http://watching.jp/
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10年位前に作った3Dチャットボットと同じ喋り方をしたので笑った。やっぱりこうなるのかな。しかし、いきなり「私の好きなガンダムのキャラクターは○○よ。」は購買層を決めつけすぎ。

もうひとつ

先日のD.E.K.A.二人展(出渕亮一朗×金箱淳一)「机上の音像」のPVです。
<
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【出渕亮一朗 でぶち りょういちろう】
ryoichiro.debuchi@gmail.com
< http://www.debuchi.com
>

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編集後記(11/15)

●「宇宙戦争 ファイナルインパクト」DVDを見る。〈H.G.ウェルズ「宇宙戦争」再映像化 新世代SFパニックアクション・スペクタル!〉というコピーといかすビジュアルに惹かれたのだが、こんな派手なシーンがあるかというと、もちろんありません。BC級映画DVDパッケージの常套手段である。

また、断じてH.G.ウェルズ「宇宙戦争」再映像化ではない。スピルバーグ「宇宙戦争」の3本足のトライポッド似の物体が動き回るというほかに「宇宙戦争」を思わせるシーンはない。原題は「ALIEN DAWN」だし。「宇宙戦争」のタイトル借用はほとんど詐欺に近い。

amazonの商品説明では「独自の新解釈でこのSFの古典に挑み、火星人の総攻撃開始からの10日間を描写する」と書かれているが、全然違うって。正規の軍隊の戦闘シーンは一切ないし、始めのうち逃げ回る人たちの姿も少し描かれるが、ほとんどが女1+男2の3人しか出てこない。

主役の女(美人)がスマホのカメラを自分に向けて状況を解説するのがいま風。最後は手製爆弾で反撃し成功をおさめる(って話かな)。そんな弱いエイリアンだったら最初に撃退できただろうが。ともかく退屈で死にそうになるトンデモ映画だった。予想通りで満足だけど。

海外BC級SF映画DVDの販売の手段、つまり偽装パッケージ(実際にはない、おいしいシーンを堂々とパッケージで描く)という方法は、マニフェスト詐欺をやらかした民主党にそっくりである。それでもDVDならたいした被害はない。だが、インチキ政権がもたらした国家的被害は甚大なものがある。

ようやく政権を投げ出したが、次の選挙ではどんな疑似餌を出してくるのか。ま、だまされる方もじゅうぶん悪いんだけど。提案する。マニフェストとかアジェンダとか、わけのわからん無責任な言葉は禁止して「政権公約」とせよ。はっきりと有権者に「約束」しろ。(柴田)

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●iPhone版、Mac版アプリの『Due』を使っている。リマインダーとしてとても有名なアプリ。堀正岳さんと佐々木正悟さんの『iPhone習慣術』を読んだ時に買った。本の内容は「Book」データベースによると「正確に時間を計る(iPhoneなら時間に正確)、いつも記録を取る(アプリで記録を自動化)、定期的に振り返る(ライフログから次の計画を)。仕事も早起きも学習もダイエットも確実に身に付く3つのコツをiPhoneと実践。」だ。

『Due』はしつこい。何時から何々を始めようと決め、入力しておく。鳴る。iPhone版だと設定にもよるが、1分ごとに「まだか〜、まだやらないの〜?」とばかり繰り返し音が鳴る。まだ実行できない時なら、5分後、1時間後、一日後への先送りがツータップで選べる。で、またその時間になると、「まだか〜、まだやらないの〜?」と音が鳴る。音を風鈴にしているのがせめてもの救い。寒いのに涼やかな音色が、延々と聞こえるよ。続く。(hammer.mule)

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