[3661] UV硬化タイプの3Dプリンター所見

投稿:  著者:


《花粉症の皆さんへ!》

■歌う田舎者[54]
 違う違う そうじゃ そうじゃない
 もみのこゆきと

■3Dプリンター奮闘記[32]
 UV硬化タイプの3Dプリンター所見
 織田隆治

■どうしたらできるかな?[step:18]
 ひとりでできるかな? できました!
 平山遵子

--PR------------------------------------------------------------------
   ↓↓↓ デジクリ電子文庫第二弾! マイナビより発刊 ↓↓↓

    〜ヤマシタクニコのショートショート「午後の茶碗蒸し」〜
  < https://bn.dgcr.com/archives/20140130140100.html
>
  < http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00I38VYFQ/dgcrcom-22
/ >
───────────────────────────────────
◎デジクリ名物、関西風味のショートショート、ヤマシタクニコさんの『午後
の茶碗蒸し』が電子書籍になりました。不思議におかしいヤマシタWORLD を20
篇。トホホなへたうま漫画も収録。目茶苦茶・不合理・背理・悖理・不道理・
荒唐無稽・頓珍漢な世界観をお楽しみ下さい。デジクリ文庫はお笑いばかりか?
-----------------------------------------------------------------PR---


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■歌う田舎者[54]
違う違う そうじゃ そうじゃない

もみのこゆきと
< https://bn.dgcr.com/archives/20140320140300.html
>
───────────────────────────────────
3月のハローワークは、新年度から勤務開始の求人情報を求めて、求職者がわんさと押し寄せていた。カウンターで整理番号を受け取り、待合の椅子に座っていた女は、喧騒の中、思いつめた表情でぼんやりと天井を見つめ続けている。

「72番の方、どうぞ」

少々くたびれてはいるが、人の良さそうな初老の男性相談員が待合席を見渡す。天井を見ていた女が立ち上がり、相談ブースの椅子に静かに腰を下ろした。

「はい、72番の方ですね。整理番号の紙をくださいね……ええと、A社への応募相談ということで……」

「……はい」

蚊の泣くような声で答えた女は、小さく鼻を啜る。

「A社について何かお尋ねになりたいこととか、ご不安なこと、ありますか」

「……年齢制限は書いてありませんが……実のところは……どうなんでしょう」俯いた女の目から、ぽとりと涙がこぼれた。

「あっ、だ、大丈夫ですか? ええ、年齢は書いてありませんね。いや、でもこの会社は業務を遂行する能力があれば、年齢のことはおっしゃらないので、大丈夫だと思いますよ」

「……」

「元気だしてください。ええ、年齢でね、断るなんてひどい話ですよね。そういう目に遭われたことがあるんですね。わかりますとも」

「給料が安いのは心配ですけど……これからの生活とか考えると……」涙と一緒に盛大に鼻を啜った女は、真っ赤な目でまた天井を見つめた。

「ええ、わかりますとも。さ、涙を拭いてください」
相談員はティッシュを差し出す。

「まずは、今の生活を立て直すことが大切ですよね。月給が安いところでも、とにかく少しでもお金を稼いで、そして仕事をしながら、もっと条件のいいところを探しましょう。うん、それが一番だ。ね。元気をだそうね」

涙と鼻水でドロドロになった顔をティッシュで拭き取り、女はまた鼻を啜る。相談員は箱ごとティッシュを差し出した。

「さあ、どうぞ。いくらでもお使いください」

「す……みません……」

「人生いろいろですよ。あなたを雇用しなかった会社は、あなたの人生には不要な会社だったんです。きっと巡り会えます。あなたの会社に。子どもさんのためにもがんばらなきゃ。自分の力を信じて。さ、前を向いて頑張りましょう」

「あ、ありがとうございます」

相談員は、しゃくりあげる女に紹介状を手渡し、慈愛に満ちたまなざしでその背中を見送るのだった。人生に幸あれと、祈るように。

─了─

ハローワークのおじさまは本当に心優しい方ですわね。親切が骨身に染みましたわ。でも……。

♪違う違う そうじゃ そうじゃない♪

涙と鼻水はすべて花粉症のせいなのでございます。

わたくしの花粉症は、鼻水と涙が1、2、3、ダーーーッと出続けたかと思うと、粘膜がカラッカラに乾燥してかぴかぴするのを周期的に繰り返すのでございますが、家を出るときは、カラッカラの時間帯で、鼻の中は♪It’s so dry dry♪でございました。

しかしながらハローワークに着いて待合席に座った途端に、鼻水が出始めました。し、しまったわ……かばんを探ったものの、ハンカチちり紙もろとも忘れていたのです。ああ、わたくしとしたことが。とにかく上を向いているしかありませぬ。

相談員に呼ばれ、確認用の登録票を机上に示されたので、下を向いたところ、天井を見つめてなんとかこらえていた鼻水がずるずると。同時に目からも涙がじんわりと滲んできました。

年齢制限について聞こうとしたら、溜まっていた涙がぽとりと落ち、ますます鼻水が止まらなくなりましてございます。このあたりで相談員の方は、わたくしについてこう思われたのでしょう。

生まれたばかりの乳飲み子を抱え、赤貧にあえぐ炭鉱暮らし。「あんた、なんであたしたちを残して死んだのよ……」炭鉱事故で死んだ旦那に恨みごとを呟きながら、途方に暮れてハローワークを訪ねた幸薄き女……。

いえ、赤貧にはあえいでおりますけれど、それ以外は ♪違う違う そうじゃ そうじゃない♪ のでございます。乳飲み子もおりませんし、戸籍にも一度だって×どころか○もついていないキレイな体のわたくしに、何を言ってるんだっつーのでございます。それもこれもすべて花粉症のせい。

これだけ鼻水が止まらないんだから、そろそろ執事の玉木宏がやってきて「お嬢様、その鼻水、たいへん見苦しゅうございます。パブロンを早くお飲みくださいませ!」とお盆に載せた薬を持ってきてもいい頃ではないかと思うのですが、そのような気配がちらとも見当たらないのはどうしたことでせう。いや、パブロンでは花粉症は治らないと、そういうことでございましょうか。

宏、遠慮しなくていいのよ。もしかしてあなた、ホントは「お嬢様、その鼻水、たいへん見苦しゅうございます。早く僕と結婚してくださいませ!」って言いたいんじゃなくて? 恥ずかしがらなくていいわ。さあ、ともに愛のカンタービレを歌いましょう。あ、ちょっとちょっと、どこいくの! 宏〜!! 

♪もう涙はいらない〜;;もう鼻水もいらない〜><

もとい、自慢じゃござんせんが、子どもの頃は今よりもずっと田舎町に住んでおりましたゆえ、花粉まみれで暮らしていたはずなのですが、なんともございませんでした。それなのに四十路を過ぎてから、愛は突然に、いや花粉症は突然に。

水温み花ほころぶ春になったというのに、外で桜など見上げていたら、鼻水と涙が止まらなくなって、桜の木で首吊りでもするんじゃないかと思われそうでございます。

体中の粘膜が花粉症に侵される季節が来るたびに思うのは、もし裸で歩いていたら、あのそのええと、あそこも花粉症に侵されてしまうのかということでございます。もう目は痒いし鼻の中も喉の奥も痒くなり、時には熱持ってるんじゃないかと思うくらいでございますが、ほら、一箇所だけ、外気に触れず、隠された粘膜があるじゃござんせんか。

原始少年リュウが生きていた時代だったら、パンツなんてものもなく、貫頭衣をかぶっただけで暮らしていたのではないかと推察いたします。そうなりますと、やはりそこもああなってこうなるんでございましょうか。……実験する勇気がない自分が悔しゅうございます。

そんなわけで、ただいま室内では、花粉症に効果があるといわれるユーカリ・グロブルスのアロマオイルを焚きまくっております。

花粉症の皆さん、お出かけの際は、ハンカチちり紙をお忘れなく。そして、体中の全ての粘膜に花粉がもたらす影響について、全裸で実験した勇者がおられましたら、ぜひとも結果をお知らせください。実験結果はまとめてネイチャーに提出いたしましてよ。

※「違う、そうじゃない」鈴木雅之
<
>
※「Dry Dry」鈴木雅之
<
>
※「もう涙はいらない」鈴木雅之
<
>
※「お嬢様、その鼻水、たいへん見苦しゅうございます」大正製薬・パブロン
<
>

【もみのこ ゆきと】qkjgq410(a)yahoo.co.jp

「花粉症で可愛さを演出する方法・6選」という記事を見つけた。
< http://howcollect.jp/article/3927
>

読めば読むほど「頭おかしいんじゃね? ネタ?」と思われる内容である。

簡単に言うと、(1)花粉症女子は、さりげなく鼻セレブのポケットティッシュを使うことで細部まで可愛さにこだわっている印象になり、(2)鼻をかむときは「やだ恥ずかしい耳ふさいで」と甘え、(3)可愛いくしゃみの仕方を練習し、(4)空間認知能力の優れた男子に「あーん目薬さして」と頼り、(5)だてメガネで知的雰囲気を演出しつつ、(6)鼻声をいじってもらうことで、花粉症女子の可愛さをアピールできるのだそうである。ああ、やっと最後まで辿り着いた。

ぷぷ。なんだそれ。ああそうかいそうかい。鼻声で歌うたえばモテ女になれるというんだな。

♪くれーだずぶーばぢのー ひかーりとーかげどーだかー
♪あいーするーあだたへー おくるーこどばー

やだ恥ずかしい!
これで宏ばかりか、世界中の男子がわたしに恋するんだな、ほんとだな!


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■3Dプリンター奮闘記[32]
UV硬化タイプの3Dプリンター所見

織田隆治
< https://bn.dgcr.com/archives/20140320140200.html
>
───────────────────────────────────
朝夜もかなり暖かくなってきました。まあ、暖かいってもまだちょっと寒いんですけどね。そろそろ春の足音が聞こえてきます。

実は、このテキストを書くちょっと前に、光造形式3Dプリンター「B9creator」の発送のメールが届きました。うう〜ん。惜しい! ファーストインプレッションは次回になります。

次回は「開封の儀」→「設置」→「初出力」でも書いてみましょう。まあ、うまく行けば良いんですが…。

ということで、前回の続きの「教えるという事(後半)」を書こうと思っていたんですが変更して、今回は主にUV硬化タイプの3Dプリンターについて、少し所見を書いてみようと思います。

まず、3Dプリンターを導入して、だいたい始めからうまく行くことはありません。高額なハイエンドプリンターなら、案外そつなくいけたりするものですが、デスクトップのプリンターの場合、そのプリンター独自の癖や設定を理解することから始めないといけないということは、これまで使ってきたプリンターから学びました。

買うとすぐにきれいなものが出来る! というのは、なかなか難しいものです。これは、製作機械やその他専門分野の機械にも言えることですね。

今回導入するプリンターは、光造形式3Dプリンターです。最近まで使っていた「objet24」も、同じ光造形式3Dプリンターですが、「EDEN/objet」シリーズのプリンターは、インクジェット方式でテーブルにUV硬化樹脂をプリントし、それに紫外線を当てて固め、積み上げて造形するタイプ。

一方、「B9creator」も同じ光造形式3Dプリンターですが、こちらは液体にプロジェクターやレーザー等を当てて、あたった所だけが硬化するタイプで、一般的には天井につり下げて造形していきます。

こういった具合に、同じ光造形式3Dプリンターなのですが、構造はかなり違ったものになります。

「EDEN/objet」シリーズのプリンターは、積み上げて行く方法上、必ず造形物の下にサポート材が必要になります。このことから分かるように、メインの造形材とサポート材の接している部分は、必ずザラザラした表面になり、ツルツルにはなりません。

プラモデルなんかの雑誌を見る人であれば、プラモデルメーカー等の試作品の表面がザラっとしている事に気がつきます。これは、「EDEN/objet」シリーズ等のインクジェット式プリンターの特徴でもあります。

大量の工業製品の試作なんかを行う場合には、出力時の安定性の面からも、この方式のプリンターが用いられる事が多いようですね。

そのものズバリを仕上げてフィギュアの原型等に使う場合には、かなりの表面処理が必要になります。そういう意味では、フィギュア等の原型制作にはあまり向いていないように僕は感じました。あくまでも僕の主観ですよ。念のため。

それに、これらのインクジェット型の光造形プリンターは、樹脂(液体)自体が高額なものなので、気軽に出力するわけにも行きません。

「B9creator」や「Form1」「MiiCraft」のような「つり下げ造形」をするプリンターは、サポートとメインの造形に使用する素材は同じものになり、サポートと造形物の接点を極限まで減らすことで、後加工が楽になります。

しかし、造形したものを「つり下げる」ことで、設定次第ではテーブルから落下したりする問題もあるようです。また、サポートをどこにどう付けるかも、ある種のコツが必要になりますね。

これは、ローエンドの素材を熱で溶かして積層するタイプの3Dプリンターにも必要な知識です。いかにサポートを減らしつつ、きれいな造形物を積層するか、ということが、3Dプリンターを使用する上の重要なノウハウとなります。

すべてのタイプの3Dプリンターにも言えることですが、出力する部品の配置の仕方も、いかに早く、無駄なく、きれいな造形物を製作できるか、ということに直結します。

それから、つり下げ型のプリンターの素材なんですが、前記したインクジェット型の光造形プリンターの素材から見ると、素材の費用は半額以下くらいになっています。同じ光造形で使用するプリンターですが、そういう面でも、かなりの値段の差があります。

僕が実際に3か月使ってみて気がついたことですが、「EDEN/objet」シリーズのようなインクジェット型の光造形プリンターで製作した造形物は、薄い所や細い所もかなりの強度を持っています。アクリルライク、ということですが、まさにそんな感じですね。

しかし、アクリル用の溶剤等では素材は溶けないので、アクリルやプラ用の接着剤は使用出来ません。接着は主に瞬間接着剤でした。

一方、「B9creator」や「Form1」「MiiCraft」のような「つり下げ造形」をするプリンターで出力した造形物を触ってみると、薄い所や細い所はかなりの弾性があり、どちらかと言うと、やわらかい触感を持つ素材だと思います。やわらかめの塩ビかABSといった触感ですね。

そこで、表面処理をする際の、ヤスリを当てた感触を比べてみようと思って、「Form1」「MiiCraft」で出力したサンプルを入手して削ってみましたが、その感覚は、不思議とアクリルライクと言われる「EDEN/objet」シリーズと似たようなものでした。

柔らかい素材の場合、ヤスリを当てた時に表面がケバ立って、処理しにくいのが普通です。この「つり下げ造形」をするプリンターで出力したものは、案外表面処理がやりやすいように感じました。

僕のような、3Dプリンターを「プロトタイピング」(試作)以外に使用することが多い者にとっては、どちらかと言うと「EDEN/objet」シリーズのようなインクジェット方式よりも、「つり下げ造形」をするプリンターの方が向いている感じがします。

これは、使う側の用途により、マッチしたプリンターを選定する上でも、かなり重要な要素と言えます。

今後、インクジェット方式のプリンターにも、もっと面白い機能を持った機種も出てくるかもしれませんので、楽しみにしています。

これは、僕が使用している「BFB 3D TOUCH」や、「CUBE」、最近ではかなり安価な物が出てくるようになった、熱で素材を溶かして積層するタイプのプリンターにも言えることですね。

ということで、今回はさらっとUV硬化タイプの3Dプリンターについて、でした。さて、次回は「B9creator」のファーストインプレッションを中心に書いてみます。

【織田隆治】FULL DIMENSIONS STUDIO(フル ディメンションズ スタジオ)
< http://www.f-d-studio.jp
>

最近あったかくなったので、電車の中の暖房は低めにしてほしい…と思うオッサンです。暑いっちゅうねん…(´・_・`)


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■どうしたらできるかな?[step:18]
ひとりでできるかな? できました!

平山遵子
< https://bn.dgcr.com/archives/20140320140100.html
>
───────────────────────────────────
卒業展示会の部屋割りが決まりました。私はある教室の半分を使用することになりました。正直、一人でできるのだろうか。不安でグシャグシャな頭の中を整理するために、まずは部屋のレイアウトを作成します。部屋の見取り図に机や椅子、照明、ノートPC、ぬいぐるみの置き場など、詳細を書き込みました。

ここにはオリジナルキャラクターたちのぬいぐるみを置き、向かいにはオーダーメイドのぬいぐるみを置き、導線は出入り口のドアから入り右側から回ってことにして……。何度も何度も描き直し、ようやく納得のいくレイアウトが完成しました。そして展示会で販売するキャラクターグッズのリストを作成し、無事期日までに大学側に提出できました。

あとは展示物の用意です。なにせ40体以上のぬいぐるみ。それを飾るための小道具やポスター、販売するキャラクターグッズ。展示スペースに置くチラシやイラストを入れた額縁など、一人の展示なのに荷物は山のようにあります。

それを自宅から2時間以上かかる大学まで、数回にわけて一人で運びこみます。宅急便などを使えばいいのに、とか思いますよね。でも、当時は学生でお金もあまりないので、展示が終わり大学から自宅に荷物を送る時に宅急便を利用したかったので、最初は節約、最後に少しだけ楽をするやり方を選びました。

実行委員会の仕事もあり、大学にちょくちょくと行く度に荷物を少しずつ自宅から運びだし、とりあえず大学の作品保管庫へ置いておきました。実行委員会委員長のわたしは、今回作品を一時的に保管できる保管庫を確保しておきました。私みたいに荷物の多い人、作品のスケールが大きい人などは、搬入で色々と苦労も多いかと思ったからです。この保管庫、そんな学生たちからも大好評でした。

実行委員会の仕事も一区切りがつき、いよいよ展示準備期間に突入。展示準備の予定表を作成しました。展示準備期間は3日間。以下の行程で動くことに。

一日目:展示室の掃除/長机、椅子の配置/ポスターとイラストの配置
二日目:小物、オリジナルキャラクターのぬいぐるみの配置/物販スペースにキャラクターグッズの配置
三日目:オーダーメイドキャラクターのぬいぐるみとノートPCの配置

一人で不安でしたが、きちんと予定表を作成することで、何とかなりそうだという希望が見えました。そして、一日目。まずは部屋の掃除です。教室は思った以上に汚かった……。まずほうきとちりとりで教室中のゴミを集めて捨てました。床を見ると、マスキングテープ、100円と書かれた値札シール、絵の具と思われるしみ、その他もろもろ、さすが美大らしいというか……。

もう少し、きれいに使って欲しいよね。まったく。自宅から雑巾とマジックリンを持ってきて正解だよ。プリプリしながら、私は一人で床と壁をゴシゴシと拭きまくりました。時々友達が私の部屋に遊びに来ると「うわっ、遵子さん、掃除してるの、ていうかこの教室めちゃくちゃきれにになってる」という声。

そうです、私はずれクジを引いてしまったんです。この教室は汚いし、掃除するの大変だから、絶対に303教室だけは嫌だなと思っていたのですが、ズバリ私の展示部屋に。黙々と掃除をすること2時間以上。ようやく汚い部屋がきれいになりました。壁も拭いたので、最初に比べ、電気を付けた時の明るさが増しました。

さすがに疲れて一休み。その後、一人で重い長机、椅子を運び込んで部屋に配置。この長机にきれいな布を敷きぬいぐるみたちを並べる。そう思うと疲れもあまり感じません。とりあえず夜の9時半まで頑張って無事一日目が終了。

そして、二日目、三日目も黙々と一人で頑張りました。何もなかったあの汚い教室がどんどん賑やかになっていく。私の展示部屋が形になっていく。友達も定期的に私の部屋を覗きに来ては「うわっ! すごい!」「これだけよく一人で並べたね!」「おっ、また部屋が賑やかになってる」。この友達の反応が、一人で作業する私の励みにもなりました。

三日目の夜の9時過ぎ。私の展示部屋が完成しました。明日から2日間の卒業制作展がとても楽しみです。沢山の人に見てもらえたらいいな。完成した展示部屋を何度もぐるぐる見て回り、ルンルン気分で大学を後にしました。

展示会初日、午前中はあまり人の出入りは多くなさそうなので、友達の展示部屋を回りました。30分ぐらい経って自分の部屋に戻ると、中央の休憩スペースの机の上に紙が置いてありました。「とてもかわいい作品ばかり素敵です。良い作品を見せて頂きありがとうございました。」

ある施設で働く女性の方からの手紙でした。30分の間、私は友達の作品を見に回っていたので、その方とお会いすることはなく少々残念でもありましたが、とても嬉しい気持ちでいっぱいでした。この手紙を読んだあとは、私はこの部屋から離れず、来た人みんなに会おうと決めました。その後、沢山の人たちがこの部屋を訪れてくれました。

美術高校の先生、画廊の方、大学近所の方、大学の先生や友達、大学の警備員の方、作品を通して知り合った観光組合の山本さん、小さな子供達などなど。一人で二日間、朝の10時から夜の9時まで立ちぱなしで、来た人一人一人に挨拶をしました。

展示部屋に付きっきりで疲れてふらふら。友達の作品も全部は見て回れませんでしたが、その分、来た人たちの感想や声が聞けて私にとって本当に励みになり、とても充実した嬉しい二日間でありました。

「これ、すごくいね! よくここまで爆発させたね!」
「きみの展示が一番楽しくて、人を引き付けるいい展示だと僕は思いました」
「遵子さんの展示がとてもよかった! とツイッターでつぶやいている人がいたよ」
「わぁ〜この部屋すごいわ! ポップだわ!」
「え〜これかわいい。ねぇ、お父さん、この象さんの巾着欲しい。買って!」
「本当にあなたの部屋は面白いですね。二日間きても飽きませんよ。」
「これ、本当に全部一人で作ったんですか。すごい、それにかわいいですね」
「展示が終わったらこの部屋片付けちゃうのもったえないよ」

ここでは書ききれないほど、たくさんの人の感想を聞けて、喜ぶ顔が見れて、たくさんの人の笑顔を見ることができました。私にとって本当に貴重な体験ができた、素晴らしい二日間でした。

当初はぬいぐるみも裁縫もまったく駄目。本当に出来るのか、不安だらけのゼロからのスタートでしたが、今回の体験でわかったのは「やろうと思う決意があればなんでもできる」ということでした。

展示会のようす
< http://www.j-allstars.com/gallery.html
>

大学を卒業したわたしは、現在もぬいぐるみを作り続けています。以前よりも縫い方も上手くなってきました。ただ、まだ上手く行かないのは「どうしたらビジネスに繋がるか?」です。これがわかったらだれも苦労はしませよね……。大学時代と変わらず、今も二足の草鞋です。会社で働きながら、休みの時間を見つけてはぬいぐるみを作っています。時には仕事でヘトヘトになってしまうこともありますが。

夢は「世界一楽しいぬいぐるみ」を作る!
ぬいぐるみで誰かを笑顔にしたい!

長い間お付き合いいただき、ありがとうございました。

【平山遵子・ひらやまじゅんこ】
J★(Junko allstars)〜思い出を形に未来につなぐハンドメイド〜
< http://www.j-allstars.com/
>
夢は「世界一楽しいぬいぐるみ」を作る!


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
編集後記(03/20)

●四方田犬彦「日本の漫画への感謝」を読む(潮出版社、2013)。四方田による記号学的な分析「漫画原論」、巨匠のモノグラフ「白土三平論」に続く三冊目は、学術論文ではなくプライベートなエッセイである。前二作はいささか難解で手に余ったが、今回は1950年代から60年代、わたしの幼少期の漫画がテーマだからよくわかる。取り上げられた漫画家は25名、原作者が1名で、わたしが読んだことがある作家は大友朗以外の24名だから、自慢していいほど立派な漫画マニアであった。有名な作家もいれば、今では知る人が少ない作家もいて懐かしい。四方田が論じておかなければすっかり忘れ去られてしまうだろう。まことに意義ある企画だ。そして面白くて懐かしい。

名前を挙げてしまおう。掲載順に、杉浦茂、上田としこ、わちさんぺい、前谷惟光、水木しげる、益子かつみ、伊藤あきお、大友朗、楳図かずお、平田弘史、堀江卓、手塚治虫、横山光輝、桑田次郎、石森章太郎、藤子不二雄、水野英子、梶原一騎、関谷ひさし、ちばてつや、影丸譲也、沼田清、山上たつひこ、政岡としや、楠勝平。手塚をさしおいて杉浦茂を最初にもってきたのが筆者の真骨頂というか、へそ曲がりというか。

杉浦茂の最も重要なことは、手塚よりはるかに早くから漫画にたずさわり、杉浦の漫画だけが流行やイデオロギーと無縁で、超然と自分の世界を築きあげてきたことだという。手塚が偉大なる啓蒙家であり、白土が煽動的な思索家であったとすれば、杉浦は偉大なる魔術者であったという指摘にわたしは満足する。子供の頃どれだけ杉浦漫画を模写したことか。杉浦漫画の目と口の描写について触れているところもツボにはまる。

「ガロ」誌上で白土と水木がそれぞれの作品を通し、相手の批評(からかい)を行っていた。これはわたしも気がついていたが、四方田もちゃんと押さえていたのがうれしい。堀江卓の魅力は、漆黒の闇、登場人物の奇抜な変装と珍発明の武器、荒唐無稽な舞台のトリックという三要素だという。これにも大納得だが、わたしが発見した「堀江のアクションのポイントは掌の表現にあり」は触れていない。といっても、誰もわからないだろうなあ。手塚作品はけっして「ヒューマニズム」といった美辞麗句によって簡単に説明できるものではない。「鉄腕アトム」でも「どろろ」「バンパイア」「0マン」でも「アドルフに告ぐ」でも、手塚が本当に問いたかったのは「差別」であったという指摘には恐れ入りました。

語りの能率のよさ、節約ぶりにおいて、横山光輝は白土どころか、手塚よりはるかに熟達した手腕を見せていて、その対極が水木というのに同意。日本の漫画とアニメの中核をなす巨大ロボット物語の祖は「鉄人28号」、同意。少女漫画の世界に社会階層という問題を持ち込んだ最初の漫画家がちばてつや、同意。白土三平の後継者は誰か。小島剛夕ではない。小山春夫でも谷郁夫ではない。楠勝平こそは白土のただ一人の弟子であった。激しく同意。しかし「カムイ伝」第一部を完結してまもなく30歳で病死、惜しい人を、と思った記憶がある。四方田の漫画への情熱は、いくら引用しても尽きないのでこのへんで。

わたしの数年後に生まれた四方田は、「ああ、漫画が咲き誇る文化大国に生まれ育って、本当に運がよかったなあ。これがわたしの人生をめぐる、忌憚ない感想である」とあとがきで書く。嗚呼、本当にそうだよ。ほとばしるように同意。今回の後記、何いってるか分からなかった読者多いだろうな。(柴田)

< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4267019614/dgcrcom-22/
>
四方田犬彦「日本の漫画への感謝」


●「あっち向いててと言ってから、鼻をかもう」って、自分が後ろ向くべきなのではと思ってしまうんですが。/平山さん、ありがとうございました! ぬいぐるみ作り続けてらっしゃるのですね。

続き。便利すぎるのも何よね、と言いつつ検索。情報がばーっと出てきて、ざっと比較する。機能、サイズ、デザイン、価格、発売日など。こっちの商品はここが便利だけど、オプションが少ないとか、あっちの商品はオプションが多いけど機能はどうかしらとか、迷いが出てくる。ランキングを気にしたり、人に聞きたくなる。

ということで、今度はレビューを読んでしまう。サクラと思しき持ち上げ過ぎなもの、落とし過ぎなものを省き、ここがこうならいいのに、というようなものを読む。つまりそこを不便に思うってことだから。

脱線するけど、レビューってピンキリだよね。たとえばアマゾンだと、本の目次まで書いたり、類似本を勧めている人がいる有益なものがあるかと思うと、梱包や中の書き込みについて書かれてあって、それはアマゾンやマーケットプレイスの話でしょと突っ込みたくなる。

たまに「ここはヤフオクか!」というお礼の文言(また機会がありましたらお願いします)が書かれてあったり、著者への個人的なメッセージ(また飲みに行きましょう)があったり。頼むぜ、義務教育! あ、あと個人ブログへの誘導なんかもあったりするなぁ。(hammer.mule)