メグマガ[05]日常が 冬の風のように 職を 失う
── こいぬまめぐみ ──

投稿:  著者:



東日本大震災以降、被災した人々の心のケアをするカウンセラーは、子どもたちに「つなみごっこ」という遊びを提案しているという。その名の通り、保育者や子どもたちが津波役に扮し、逃げ惑う役の人たちに襲いかかるこの遊びには、大人たちは不謹慎だとか教育上相応しくないだとか言って顔をしかめる。

しかし、この「つなみごっこ」には、恐ろしい体験をもたらした津波を子どもたち自身が遊びとして昇華することで、その傷を受け入れて癒す効果があるそうだ。

自分の将来の方向性を概ね決定し、それを言葉に、行動に表していくことを強いられる2016年、そこには漠然とした不安が隣り合っている。

けれど、その「漠然」のサイズを少しでも小さく、さらには少しでも目に見えるものにして楽しむことができたならば、少しだけ気持ちが軽くなるのではないかと思った。そこで思い立ったのが、「5W1H未来ゲーム」である。




まずは百円ショップへ行き、小さな封筒と無地の長方形のシールを買った。家へ帰り、A3のスケッチブックを一枚切り離し、そこに三センチ×三センチ角の正方形を四十個並べ、すごろくのマス目を描いた。

無地の長方形のシールを指の第一関節くらいの大きさで、たくさん切った。七つの封筒のそれぞれに、「いつ(When)」「どこで(Where)」「だれが(Who)」「なにを(What)」「なぜ(Why)」「どのように(How)」「どうした(Do)」と書いた。そしてサイコロを持って、東中野のカフェへ向かった。

「将来自分はこうなっていたいなとか、この人とこういうことしたいなとか、長い人生こんな出来事もあるかもしれないなとか、なんでもいいから未来に関することを5W1Hを入れて文章にするの。

それを5W1Hで区切って、このシールにひとつひとつ書いていって、たくさん書けたらそれぞれを該当するこの封筒に入れるの。そしてシャッフル。

各ターンのはじまりには、まず、「だれが(Who)」を引いて、その文章の主語を決めるのね。それからサイコロを振って、出た目の数だけ封筒からシールを一枚ずつ引けるの。それをマスに貼っていく。

たとえば、「だれが(Who)」で「めぐが」が出て、サイコロを振って四が出たら、「いつ(When)」「どこで(Where)」「なにを(What)」「どうした(Do)」で四つ、みたいにその文章を具体化するための要素を5W1Hの中から自由に選ぶの。大きな数を引くほど、より具体的な未来になるというわけ。

でもこれは明確なゴールがあるわけでも、正解があるわけでもないの。ただ未来を客観視しながらマスを進めていく、超人生ゲーム」

説明を聞いていた彼がぽつんと言った。

「あなた…すごいな……」

「よし、やろう」

──日常が 冬の風のように 職を 失う
「主語が意味わかんないけどなんか詩みたいだね」

──かおりちゃんが パパと 腹が立ったから 誘拐した
「これはダメなやつ」
「まさかよりによってかおりちゃんが……」

──めぐが 2016年2月 ジョナサンで お金が抑えられるから 寂しそうに つっ
ちーを 呼ばれる
「これは俗に言うATM」
「お金目当てだったのか……」

このシチュエーションありえるぞ、この時点でもう意味わかんない、どうしてこうなった? と一文一文を受け止めながら、ナンセンスな文章にお腹がよじれるほど笑った。

きっと2016年も、もっと先の未来もこんな風に、今このときは考えもしなかった出来事が起こり、それに私たちはあたふた対応していくのだろうなということに、このゲームを考えたときから気づいていた。

その際に、不安を感じることの多くは、選択を強いられる場面だろう。選んだ先で自分がどうなっているかなんてわからない。わからないから、今の自分が持っている選択肢の中から、今、何かを決めるしかない。それがずっと続くのだ。選ぶことを楽しみながら、変わっていくことを恐れない一年でありたいと思った。


【こいぬまめぐみ】
Facebook: こいぬまめぐみ
Twitter: @curewakame
BLOG: http://koinuma-megumi.hateblo.jp/


武蔵大学社会学部メディア社会学科在学中。宣伝会議コピーライター養成講座108期。現在、はてなブログ「インターフォンショッキング」にて、「おもしろい人に自分よりおもしろいと思う友だちを紹介してもらったら、13人目には誰に会えるのか」を検証中。