晴耕雨読[32]共謀罪のなにが問題なのか
── 福間晴耕 ──

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この記事が出る頃には、既に共謀罪(テロ等準備罪)が国会で決着がついているだろうか。なぜ共謀罪がここまで騒ぎになっているか、わからない人もいると思うので、大雑把に説明する。

共謀罪は他の罪と違い、ある特定の犯罪を行おうと、具体的・現実的に合意することによって成立する罪だからである。

つまり、ざっくり言うと共謀罪では犯罪行為を行ったり準備したりするのではなく、それについて計画しただけで罪に問えるのだ。

これは非常に強力な法律で、上手く使えばこれまで対応が難しかった暴力団や悪徳商法、国際テロ組織などを有効に取り締まることが出来る反面、悪用すれば国民の一般的な社会活動(デモや集会)などでさえも取り締まりの対象にすることが出来てしまう。

そのせいもあって、過去三回も提出されながらもすべて廃案になって通らなかった先例がある。つまり、それくらい強力な反面危険な法律なのである。





さてその共謀罪が今回、テロ等準備罪という名称で国会に提出された。今回は過去の反省も踏まえて、悪用されないよう対象をテロ行為に限定するという事で、名称も変えて出されたわけだが、実はその危険性はなくなっていない。

例えば、今回対象となる犯罪行為を676個上げて出したものの、あまりに対象となる犯罪が多すぎるということで277個に減らされたが、その中には著作権侵害などかなり微妙なものまで入っている。

実は今回のテロ等準備罪は平成12年11月に国連総会で、効果的に国際的な組織犯罪を防止し戦うために協力する事を目的とする「国際組織犯罪防止条約」に日本も加盟するための条件に、共謀罪も含まれている。

その中にICPO・インターポール(国際刑事警察機構)からの勧告で模倣品や海賊版の売上げの一部は、組織やテロ組織の資金源となっている可能性があると警告を受けているのと、国際組織犯罪防止条約が「長期4年以上の自由を剥奪する刑又はこれより重い刑を科することができる犯罪」を共謀罪の対象犯罪とすることを義務付けている為に、一絡げに対象となる犯罪行為を入れているからこんなことになっているのである。

よく共謀罪は現行の法令により許容された範囲内で捜査を尽くすから安心してほしいとか、暴力団、詐欺集団、テロ集団のような犯罪集団が共謀しない限りは適用されないから大丈夫と言う意見もある。

しかし、法律は文面に書かれたものがすべてなので、大丈夫と言うからには法律の文面で書かれていなければならない。

そうした観点から見ると、実は今回の法案は反社会的集団の資金源、海賊版定義が現行法で明確でないので、リスクをはらんだものだと言うことがわかるだろう。

噛み砕いて言ってしまえば、コミケの二次創作物のようなものでさえも、共謀罪の対象になる危険性は残っているのである。

また、共謀罪には他にも著作権法違反などの親告罪の対象が、非親告罪化になってしまう問題もある。親告罪とは対象者が親告して始めて罪に問える犯罪なのだが、共謀罪の対象になればこれらは親告罪の対象ではなく、非親告罪の対象になる(さもなければ警察が捜査できない)。

これのなにが問題かというと、多くの二次創作物やパロディは権利者の暗黙の了解で成り立っているのだが、これらもまた権利者の暗黙の了解があろうとも処罰の対象に(法律的には)なってしまうのだ。

たかが二次創作物が、テロ等準備罪に問われるわけはないだろうと思う人も多いかも知れないが、法律的に罪に問えるとなると、第三者の告発があれば一応警察は動かなくてはいけないので、単なる嫌がらせの為に警察に通報しまくるだけで、現場を萎縮させるには十分効果があるのだ。

このように、共謀罪(テロ等準備罪)は強力かつ非常に危険性も高い法案なのだ。法案が通るのか通らないのか、この記事を書いた時点では分らないが、いずれにせよ細かいところも含めた国会での審議が今後も必要で、懸念点は条文上で担保されるようにしなくてはならないのである。


【福間晴耕/デザイナー】

フリーランスのCG及びテクニカルライター/フォトグラファー/Webデザイナー
http://fukuma.way-nifty.com/


HOBBY:Computerによるアニメーションと絵描き、写真(主にモノクローム)を撮ることと見ること(あと暗室作業も好きです)。おいしい酒(主に日本酒)を飲みおいしい食事をすること。もう仕事ではなくなったので、インテリアを見たりするのも好きかもしれない。