[4363] 自己ベストを更新する

投稿:  著者:


《民主主義というより偶然性》

■装飾山イバラ道[202]
 自己ベストを更新する
 武田瑛夢

■Scenes Around Me[06]
 岡画郎の展示(2:1996年5月〜1996年8月)
 岡画郎、共同制作に向かう。
 関根正幸



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■装飾山イバラ道[202]
自己ベストを更新する

武田瑛夢
https://bn.dgcr.com/archives/20170613110200.html

───────────────────────────────────

桐生祥秀選手の100メートル9秒台を見たくて、緊急生中継の文字につられて夜寝ないで待った。9秒台の記録を持つ海外選手たちに囲まれて走る日本人の姿は果敢で勇ましかった。

その日の結果は向かい風で全員が10秒台だったけれど、いつかきっと日本人の9秒台が見られるだろう。

「今日はこの10秒ちょっとのために皆集まったんだね」

またそれぞれ次のレースまで調整の日々が続く。時間の使い方というのは仕事によって色々あるものだ。

私は大学で教養学部のデザイン学課程の一年生に、基礎の描写力や作品完成までのステップを教えている。デッサンや点描技法や色彩表現など、用いる方法は様々だけれど、自分の作品を完成させるまでに何をしたら良いかを、経験しながら知ってもらう。

絵は自分一人で描けるけれど、学校で同じ課題を与えられて取り組むことはとても勉強になるはずだ。自分のための一枚を見つめ続けて描いていると、煮詰まってしまうことがある。学校ではふと顔を上げれば、他の人の作品が見えてきて刺激を受けることもできるのだ。

前回は点描画の講評会だった。イラストボードに細いペンでトントンと描くタイプの点描画だ。モチーフは各自持ってきたサザエ(貝)で、細密描写の作品を二週間で完成させる。皆の作品はそれまでになく頑張っていて良かった。

ペンの点ひとつひとつは小さくて、描写するのに時間はかかるけれど、消せない点として必ず蓄積していくので、頑張りが結果に残りやすいのだ。形の正確さは直しが利きずらいけれど、ディティールの魅力が勝って素晴らしい作品がたくさんあった。

この作品に関しては、形の正確さはあまり厳密に言わないことが多いのだ。私は「みんなこんなに描いたことないんじゃないかと思うぐらいよく頑張ったね」と褒めた。実際に一枚にこれほど時間をかけて描いたのは初めてという人が多い。この場合、かけた時間については「自己ベスト」といって良いと思うのだ。

絵における「自己ベスト」は色々ある。自分でその時やろうとしたことができたかどうかの「自己ベスト」や、本当に今までの作品の中で一番良い出来という「自己ベスト」など、人に聞かれると照れて恥ずかしいような気がするけれど、自分で思うなら自由なのだ。

有名な話では、次の作品がベストであるように頑張るというのがあるけれど、多分それが気持ちの持ちかたとしては良さそうだ。すでに取り掛かっている作品があるのなら、完成させるまではこれがベストだといいと思うものではないだろうか。

完成してしまうとその一枚に納得せずに次のことを考えるけれど、仕上げる最後の最後までは、その作品がものすごく良くなる可能性を捨てたくない。それが今向き合っている作品に対しての礼儀のようにも思えるのだ。

浅田真央が引退記者会見でベストの滑りを聞かれて、最も印象に残っている演技として、ソチのオリンピックの時のフリーをあげていた。あの青い衣装の浅田真央には私も泣かされた。あの時素晴らしいベストを滑ることができて、それを皆が見ることができて本当に良かったと思う。

浅田真央がよく言う言葉で「自分がやろうと思ったこと」というのがあるけれど、それができた時もあれば、できなかった時もある。

私たちファンは、彼女がやろうと思ったことができたと実感している瞬間を見ることが、あの時にできたのだ。

真央ちゃんが「できた!」という達成感が、見ている人にあれほどはっきり届いた瞬間は今までになかったので、忘れられないものとなったのだ。現役は引退しても、また新しい活躍を期待している。

若い人がそのピークに刻む「自己ベスト」は、鮮やかで華やかで素晴らしい。しかし実はもっと大人になっても、結局はいつも「自己ベスト」を出したくて頑張っているのが私たちではないだろうか。

アスリートのようにはっきりとその場を離れる職業ばかりではないので、緩やかにつながった道の中でもっとすごい何かをしたいと皆が思っている。いろいろな形のベストを更新したくて生きているような気もする。

学校で人の作品に対して言葉を選ぶというのも難しいけれど、もっと伝わる言い方はないかいつも考えている。本当に思ってることを言えばいいらしいことはようやくわかってきたけれど、「思い」というものを言葉に変えることは容易くはないのだ。

今こうして文章を書きながらも、指が入力する文字が本当の思いに近いのかどうか、私には確信がない。読み直してちょっと手を入れるぐらいでは、ベストに化ける可能性はないのかな。


【武田瑛夢/たけだえいむ】eimu@eimu.com
装飾アートの総本山WEBサイト"デコラティブマウンテン"
http://www.eimu.com/


私は猫を飼っていない猫好きなので、いつも猫動画のお世話になっている。猫飼いさんたちの猫自慢は羨ましいし悔しいけれど、やっぱり見せてくれてありがとうなのだ。

そんな気持ちがピークに達したのか、変な夢を見てしまった。夢の内容は、うちのマンションにネズミが大量発生したので、駆除のために一部屋あたりに二匹の子猫を配ると発表されたというもの。

なぜ二匹なのか、なぜ子猫の必要があるのかまったく覚えていないけれど、自分がすごく喜んだのは覚えている(笑)。多分願望がそのまま、どうしようもない理由となって夢に出たんだな。ネズミ駆除なら大人の猫だろうに(というか、今どき猫でもないだろうに)。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
■Scenes Around Me[06]
岡画郎の展示(2:1996年5月〜1996年8月)
岡画郎、共同制作に向かう。

関根正幸
https://bn.dgcr.com/archives/20170613110100.html

───────────────────────────────────

岡画郎の展示一覧

1995〜1996年
https://c1.staticflickr.com/5/4189/34612848691_9572798a75_c

1997年以降
https://c1.staticflickr.com/5/4195/33935170013_de058d31c6_c



前回に続き、岡画郎の展示についての話になりますが、開郎一周年を迎えた頃から、展示内容を定例会に集まった人たちの話し合いで決める(共同制作)という方針に変わって行きました。

ここでも、やはり、ミニコミ「ラ・岡っぷり」第8号の記事を参考にしますが、展示によっては自分が見聞きしたことに応じて手を加えています。

・1996年5月 池澤雪子(原案)「バードウォッチング」

池澤さんは、「バードウォッチング」というタイトルで、生きた鳥ではなく鶏肉を窓に置いて腐っていく様子を観察するという展示を提案したところ、当然のことながら岡さんにダメを出され、展示を降りてしまいました。

そのため、バードウォッチングをテーマに定例会で展示内容を週替わりで決めることになりました。

写真記録に残っているのは、道向かいに設置された双眼鏡に鳥のおもちゃをくっつけるという案ですが、私の記憶が正しければ、それ以外に決まった案は展示に結びつかなかったかも知れません。

3月の「休郎展」も作家が見つからず休郎するところを、休みをテーマに展示内容を決めることにしたこともあり、6月に岡画郎の展示方針について会議が開かれることになりました。

・6月「OKサミット」
4月に提案された「OKアート宣告」を討議しました。岡画郎の周辺に双眼鏡を100個設置したのですが、大半はすぐに紛失しました。

定例会は週替わりでゲストを呼んで、組織をテーマに話し合いを行いました。

6/1 園子温:東京ガガガ(都合により欠席)
6/8 だめ連(神長恒一 小倉虫太郎):ミルプラトー
6/15 小沢剛:相談芸術
6/22 小川てつお:ロシアノーパンギャルズ
6/29 荒木瑞穂:きんじハウス(京都大学におけるスクワット)等

「OKアート宣告」については、写真をご覧ください。

https://c1.staticflickr.com/5/4254/35135292916_6a204ba224_c

この写真は、私の撮影ではなく、展示の記録をしていた本多晃子さんの都合がつかず、私のカメラで岡さんが撮影したものです。

窓ガラスの反射を避けて、斜め下から撮影したものを、読みやすくなるように歪みを補正しています。

討議は7月に入ってからも続き、「OKアート宣告」は採択され、岡画郎の翌月の展示のテーマや内容を、定例会で集まった人たちが出したアイデアの中から、話し合い(多数決)で決めることになりました。

岡画郎が共同制作に向かったのは、展示のアイデアを出すのに一個人では限界があると考えられたことや、定例会にやって来る人の関心を展示に向けさせようとした面もありました。

ですが、月ごとに展示する作家を見つけるのが難しくなってきたことがいちばんの要因だったように思います。

実際、これ以降の展示の発案がすべて共同制作によるものだった訳ではなく、半数の展示は個人の発案によっています。

また、多数決によって展示を決めるにしても、それが民主主義的だったかと言われれば、必ずしもそうではありませんでした。

つまり、定例会の参加者は一定しておらず、翌月の展示が決まるまで少なくとも四回の定例会があったため、定例会を重ねる中で前の週の案が覆ることも多く、展示直前の定例会にたまたま参加した人のアイデアが展示案として採用されることもありました。

なので、民主主義というより偶然性によって展示が決まる側面が大きかったとは思います。

・7月「あさがお日記」
「OKアート宣告」の会期が延長されたので、7月後半のみの展示でした。窓にあさがおを置き、みんなで観察し日記をつけたとありますが、期間が短く、気がつくと終わっていました。

・8月 広瀬勉「Hey!帳」
ブロック塀の原寸大の写真に穴を開け、すだれのようにして展示。台風で作品が飛ばされる事件も。

広瀬さんは今年(2017年)の3月に私が個展を行なった、高円寺の写真Bar「鳥渡」のマスターです。当時の話を伺ったところ、国内数か所で同時に写真展を行う計画があり、その東京会場が岡画郎だったとのこと。

そのため岡画郎の展示が間に合わず(広瀬さんは帰京できなかった)、1週目は定例会で帳(とばり)をテーマに話し合い、カーテンを窓の外に吊るすという展示案が採択されました。

その展示は大家のクレームにより即日撤去され、2週目以降は上述の様な写真展になりました。

●○

https://c1.staticflickr.com/5/4208/35044607841_be0413ca24_c

今回は、1996年8月後半に岡画郎で広瀬さんの展示「Hey!帳」を撮影した写真を紹介します。

定例会の後で岡画郎に泊めさせてもらった翌朝、写真に開いた穴を日の光が通過する様が美しく、撮影しました。

この写真も記録行為を始める一つのきっかけにはなりましたが、前回書いたAKIRAさんとの関わりが本格化するのが、1996年の後半から1997年にかけてになるので、このあとしばらくは岡画郎の展示の写真は撮影しませんでした。


【せきね・まさゆき】sekinema@hotmail.com
http://www.geocities.jp/sekinemajp/photos


1965年生まれ。非常勤で数学を教えるかたわら、中山道、庚申塔の様な自転車で移動中に気になったものや、ライブ、美術展、パフォーマンスなどの写真を雑多に撮影しています。記録魔。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
編集後記(06/13)

●ようやく「貞子VS伽椰子」を見た。2016年の映画で前々から気にはしていた。貞子は「リング」系で、何本か見た記憶があるが、伽椰子は「呪怨」系で、こっちはビジュアルが嫌いだから一本も見ていない。貞子のビジュアルだって決して好ましいとは思っていないが、プロ野球の始球式での振る舞いはカワイイ。

以下ネタバレあります。というお断りを入れるほどのものではないが。

貞子・呪いのビデオを見てしまった大学生・夏美と偶々見なかった有里、お約束通りに夏美に電話がかかり、呪われてやがて死ぬ。オカルト研究の大学教授と一緒に除霊に行くが、女子二人以外は怪死。一方で、高校生・鈴花一家が引っ越して来た家のそばにあるのは有名な呪われた家。四人の小学生が怪死する。

異端の霊能者・常盤経蔵が盲目の霊感少女・珠緒とペアで登場、彼らは呪われた家の由来を知っていて、家の裏にある古井戸(って、まことにご都合主義)に注目、これを使って貞子と伽椰子を封じ込める作戦を立てる。夏美もビデオを見てしまうが、電話は経蔵が破壊する。でも呪い不成立ではないと思う。

予想通り鈴花は呪いの家に足を踏み込む。助けに来た父母は、伽椰子と息子の俊雄にとり殺される。じつに気味悪い母子キャラである。貞子のようなアイドルにはなれまい。鈴花は経蔵に助け出される。有里・鈴花・経蔵・珠緒のチームは、貞子と伽椰子の呪いを解くだけでなく、両者を消滅させる方法を考える。

有里と鈴花は呪いの家に入る。有里には伽椰子の呪いがかかる。鈴花は家の中で呪いのビデオを見れば貞子の呪いがかかる。二人にはそれぞれ貞子と伽椰子の呪いがかかった。拮抗する力を持つ呪いはお互いに食いあって、やがて消滅するだろう、二人は助かって呪いの広がりも消える、と経蔵が言うのだが。

貞子と伽椰子の戦いは激化するが消滅はしない。共食い作戦は失敗した。井戸のそばまで逃れた四人。貞子と伽椰子が迫る。有里が囮となって井戸の縁に立つ。彼女をめがけて左右から貞子と伽椰子が飛びかかる。一瞬早く有里は井戸の底へ飛ぶ。貞子と伽椰子が激突し、塊となって井戸の底に落ちていく。

これで終わりならいいが、井戸の蓋を吹っ飛ばして現れたのが、貞子と伽椰子が混ざった醜悪な化け物だった。人間チームは全員死亡。エンドロールの最後の“ニュー呪いのビデオ”に、貞子と伽椰子が合体したお化け出てくる。これからなんて呼ばれるんだよ。この複合お化けじゃ使い道がないのではないか。

やっぱり日本映画の若い俳優たちの発音が聞き取れない。端役の女高生なんか何言ってるのかサッパリわからない。有里役の山本美月はなかなか好感度の美人だ。鈴花役の玉城ティナは異様にでかい目、病人みたいなメイクでかわいそ。日本ホラー史上最大の歴史的プロジェクトなんて胸を張られてもなあ。 (柴田)

「貞子VS伽椰子」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B06WVDHRBB/dgcrcom-22/



●ダイエット続き。これを書いているうちに、朝ウォーキングは卒業できた。息が苦しくない程度に、約6kmを45分ぐらいかけて、ゆ〜〜っくりジョギング。

スタートから3kmまでは下りが多く、残り3kmはほぼ上り。スタートが下りだと頑張れる(笑)。1年半前は8〜9kmを気持ち良く走れていたので、まだまだ。

メインとなるコースは数パターンあるが、欲しいポケモンが出やすい公園に寄り道するため、2週間ごとに微妙に変わる。

隔週木曜日の朝9時に、公園に出やすいポケモンが変わるの。今はシェルダーの出やすい公園を一周してからコースに戻る。ゴプラ大活躍。明後日には変わるので、またコースの微調整をする予定。

朝5時〜5時半頃に目を覚まし、「Sleep Cycle alarm clock」を止め、心拍数を測り、睡眠グラフやいびきを確認する。その後、そのままiPhoneで天気を見る。前日夜の天気予報は見ているが、梅雨だし、もしやと雨を祈るが、雨の日でも早朝は晴れていることが多い。 (hammer.mule)