晴耕雨読[41]漫画村が閉鎖されない仕組みを技術的に解説する
── 福間晴耕 ──

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少し前に、著作権を無視して漫画を掲載する「海賊版サイト」対策として、政府がブロッキングをするという報道が話題になっていたが、多くの人は「問題があるサイトなら、どうして閉鎖させられないのだろう」と思っているのではないだろうか。そうした疑問について、主に技術的に説明していきたい。

まず前提から言うと、このサイトは完全に著作権法に違反しているのだが、簡単に摘発されないように多くの工夫が行われている。

例えば、このサイトは漫画をアップしているのではなく、ネット上に散らばっている漫画の画像を引っ張って表示する仕組みになっている。これはGoogleの画像検索に近い仕組みと言えば解りやすい。

しかも、Googleと違い、違法にアップされている画像だろうがお構いなしに収集し、更にそれを読みやすいように整形して、あたかもオンラインブックのように見せているのだ。





そうした仕組みのために、違法サイト本体は日本の法律でいえば、著作権法第四十七条の六(送信可能化された情報の送信元識別符号の検索等のための複製等)、アメリカではフェアユース(公正使用)として直接罪に問うことが出来ないのである。

とはいえ、あらゆる画像が罪に問われない訳ではなく、児童ポルノや麻薬取引などは違法となる。また直接罪に問うことは出来なくても、著作権に違反した画像はDMCA(デジタルミレニアム著作権法)で検索から外すことが出来る。

その為に、漫画村に作品がアップされていても、個々の削除はリンク先の個々のサーバーに対して行う必要があり、簡単に削除できない仕組みになっている。

また検索対象から著作権違反の画像を外すことが出来るDMCAは、すべての国が加入しているわけではないので、サーバーをDMCAの影響の及ばない国に置けば、こうした申請からも逃れられる。

このように、法律的にもさまざまな抜け穴を駆使して、簡単に閉鎖できないようになっている訳だが、更に厄介なのは技術的にも簡単に潰されないように、さまざまな仕掛けが駆使されている点である。

漫画村のサイトは、DDoSからサイトを保護するサービスであるCloudflareが提供するリバースプロキシによって、物理的なサーバーの位置を隠しているが、現在はWebCare360という海外企業が提供する防弾ホスティングサービスを利用し、ウクライナにサーバーを設置している。

つまり、物理的な攻撃に対しても極めて堅牢に出来ているのだ。

まずCloudflareの提供するサービスであるが、最もポピュラーなサイバー攻撃であるDDoS攻撃対策が施されている。その能力は毎秒500ギガビットという、国家レベルのサイバー攻撃を軽減出来るという。

更に、サーバー本体の代わりになって外部とのやり取りを行い、サーバー負荷の軽減や、防御などを行うリバースプロキシ機能や、サーバーの住所ともいえるDNSの変更、マルウェアの自動削除などのサービスを提供している。

つまり、このサービスによってDDoS攻撃だけでなく、ウィルスを送り込む攻撃や、現在話題になっているサイトのブロッキングに対しても強い抵抗力を持っている訳だ。

また、本体が置かれている防弾ホスティングサービスであるが、これは匿名化されたホスティングサービスで、外部(政府機関からも含む)の問い合わせに対して利用者の情報を提示しない、極めて匿名性の高いサービスを提供しているのだ。

さらに、公的機関からの捜査要求や、サーバーの閉鎖要求に対しても、著作権やサイバー犯罪に対する法律が整備されていない国にサーバーを置くことで、これらから逃れている。

もちろん、テロ組織の情報や麻薬取引・人身売買などの重大な犯罪であれば、捜査や閉鎖は可能だが、そのためには確実にそのサーバーが関与している証拠を集める必要があり、簡単にはいかない。

こうした防弾ホスティングサービスは、本来は政府機関からの検閲から逃れる通信の自由を提供すると言うものだったが、実際にはIPアドレスの偽装、不正アクセス、迷惑メールの大量送信、機密情報の流出など、コンピューター犯罪に使われることが多く問題になっている。

簡単に解説するつもりが、ずいぶん長くなってしまった。そんな訳で漫画村は
法的にも物理的にも、なかなか潰すことは難しいのが実情である。

追記:この記事を書き終えた途端に、漫画村がアクセス不能になったというニュースが入ってきた。一時的なものなのか、恒久的なものなのか判らないが、運営していた犯人が捕まらない以上、勝ち逃げされたと言っても過言ではない。

また、これと並行してGoogleの検索結果からも削除されたようだが、こちらはハーレクイン社が著作権侵害を申し立てたためらしい。上にも書いたように、漫画村はDMCAに対しても様々な対策を行っていて、なかなか削除するのは難しいので、今回はどうして上手く行ったのか良く判らない。

なお、アクセス不能になったのは、漫画村のセキュリティを担っていたspimgの日本国内にあるキャッシュが、すべて削除されたからではないかという推測が流れている。

spimgは現在、著作権侵害の幇助にあたるという判決が米地裁から出ている他にも、幾つかの著作権侵害の疑いで厳しい追求を受けている。今後はspimgを使った著作権侵害サイトの運営は難しくなるのを見越しての閉鎖かも知れない。


【福間晴耕/デザイナー】

フリーランスのCG及びテクニカルライター/フォトグラファー/Webデザイナー
http://fukuma.way-nifty.com/


HOBBY:Computerによるアニメーションと絵描き、写真(主にモノクローム)を撮ることと見ること(あと暗室作業も好きです)。おいしい酒(主に日本酒)を飲みおいしい食事をすること。もう仕事ではなくなったので、インテリアを見たりするのも好きかもしれない。