[4824] 腕時計のコマ不足◇Panasonicのビデオカメラ◇ハウス・ジャック・ビルト

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《まさか木星の衛星が写るとは》

■腕時計百科事典[81]
 腕時計のコマが足りないとき
 吉田貴之

■クリエイター手抜きプロジェクト[587]映像編
 初めてPanasonicのビデオカメラが素晴らしいと思った
 古籏一浩

■映画ザビエル[79]
 地獄の沙汰
 カンクロー




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■腕時計百科事典[81]
腕時計のコマが足りないとき

吉田貴之
https://bn.dgcr.com/archives/20190708110300.html

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腕時計のブレスレットを構成する部品を「コマ」と呼びます。アンティークやヴィンテージ、中古など、新品ではない腕時計を買ったときに気をつけなければいけないのが腕周りのサイズです。ブレスレット仕様の腕時計でコマが足りない場合、どのように対応すればよいでしょうか。

◎コマを見つけるのは難しい

まず最初に、腕時計のコマはそう簡単には見つからない、と覚悟しておきましょう。腕時計は時計本体だけでなく、ブレスレットでデザインを決め、使い勝手や使用感を調整します。同じブランドの同じモデルであっても、年代が異なれば違うブレスレットにしていることもあるでしょう。星の数ほど種類のあるコマの中から、自分が欲しいものを探すのは至難の業なのです。

◎時計店に頼る

まずは、近くの時計販売店に訪ねてみましょう。百貨店や路面店を構えるようなブランドであれば、それほど苦労せずコマを見つけることができるはずです。一方、街の時計店では、腕時計の購入者が不要なコマを置いていく場合があり、在庫している場合もありますので確認してみましょう。

◎修理店に頼る

次に可能性があるのが修理店です。電池交換を専門しているような修理店では難しいかもしれませんが、長く営業している修理店であれば、在庫のストックも多いはずです。アンティークやヴィンテージモデルでは、販売店よりも修理店のほうがみつかる可能性が高いかもしれません。

◎インターネットオークションやフリマアプリ

ヤフオクなどのインターネットオークションや、メルカリなどのフリマアプリは、「日本中のどんなものでも売っている」のがウリのひとつです。商品数が多いので、自分の希望する商品を見つけるのが一苦労ですが、型番やモデル名、年代をキーワードに探してみましょう。

どちらかといえば、現行品に近いモデルのコマがたくさん販売されているように思います。時計を購入したあとに、コマを売って少しでも費用負担のインパクトを軽減したい、という消費者心理の現れかもしれません。

◎海外のオークションやECサイト

日本国内で見つからなければ、eBayなどの海外オークションをあたってみるのも悪くないかもしれません。特に、古い国産の腕時計や、海外での方が人気のある老舗ブランドでは、日本よりも海外の方が部品の流通数が多いように思います。

ただし、送料などを踏まえると高額になってしまう場合もありますので、財布との相談が必要です。ちなみに、海外ではモデル名や型番が違っていることもありますので注意が必要です。

◎メーカーに頼る

どうしても見つからなければ、メーカーに直接尋ねるのも悪くないかもしれません。最初からこうすればよいのでは、との声が聞こえそうですが、これには理由があります。

腕時計メーカーは、個人の要求を丁寧に(そして迅速に)対応してくれることはほとんどありません。もちろんメーカーによるとも思いますが、そもそも問い合わせの窓口を探すことでさえ難しいのが現状です。他でいろいろ手を尽くしたあとにチャレンジすることをおすすめします。

◎それでも見つからなければ

それでも見つからない場合は、3つの選択肢があります。ひとつは、汎用のブレスレットに交換することです。デザインもクオリティも変わってしまいますが、腕時計が使えないよりはマシでしょう。また、革ベルトに交換する、という手もあります。

最後は奥の手ですが、もう一本同じ腕時計を買う、という手段です。2本めの時計をそのまま持っておくのもよいですが、2本めのブレスレットだけ所持しておき、本体は安価で売ってしまっても良いかもしれません。腕に着けることができて初めて「腕時計」です。費用をどこまでかけるかを決めたら、ベストな手段を選びましょう。


【吉田貴之】info@nowebnolife.com

イディア:情報デザインと情報アーキテクチャ
https://www.idia.jp/

腕時計ポータルサイト:腕時計新聞
https://www.watchjournal.net/


兵庫県神戸市在住。Webサイトの企画や制作、運営を生業としながら、情報の整理や表現について研究しています。


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■クリエイター手抜きプロジェクト[587]映像編
初めてPanasonicのビデオカメラが素晴らしいと思った

古籏一浩
https://bn.dgcr.com/archives/20190708110200.html

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●ビデオカメラ遍歴

今回は、ようやく購入できたビデオカメラの話です。ビデオカメラの話といっても、プロではない上に詳しく学んだわけではないので、単に使ってみたけどこんな感じだった、といった軽いノリで読んでもらえばOKです。ついでに言うと、カメラやビデオカメラは趣味でもありません。

ビデオカメラは8mm(Hi8)の時代より前に、仕事で関わっていました。関わっていたと言っても、バッテリーとライト持ちなので、ビデオカメラそのもので撮影したことはありませんでした。

実写とCG合成も他の女性がやっていて、映像に関しては本当にバッテリーとライト、よくてレフ板持ちでした。部署が違うからというのが大きな理由で、印刷関係だったのですが、人員が不足するとかり出されるというパターンでした。

自分用のビデオカメラを買ったのは、1998年頃です。Hi8のテープがまだありますが、ビューファインダーを覗かないと、撮影した映像を見ることができませんでした。まあ、テレビにつなげば当然見ることはできますが。

その後、miniDVテープが登場したので、SONYのハンディカムを買いました。テープが小さくなり使いやすくはなったのですが、画角が狭くて風景を撮影するには不向きでした。

ワイコン(ワイドコンバージョンレンズ)でもつければいいのですが、しばらくするとNTSC DVサイズ(当時のテレビサイズ)から、ハイビジョンサイズへとビデオカメラが対応していきました。

ビクターのGR-HD1というカメラが、miniDVテープでハイビジョン撮影を可能にしました。このカメラがきっかけで、その後miniDVにハイビジョン映像を記録する規格ができあがります。

GR-HD1は発売日あたりに買ったのですが、当時としてはきれいでした。何と言ってもハイビジョンなので。ただ、ダイナミックレンジが狭く、日中で花とか撮影すると、すぐに白飛びしたりしてしまっていました。

ということで、次はminiDVテープでハイビジョン記録できる規格で撮影できる、SONYのHDR-FX1を買いました。このカメラは非常によくて、空気感は出るし、高精細だし、当時はまったく文句なしのカメラでした。これで撮影して稼ごうということで、2台買いました。

しかし、使っていくうちに内部のセンサーか何かが劣化していって、あまり鮮明に写らなくなってしまいました。2台で同じものを撮影しても、精細度が違いました。ということで、1台を売却しキヤノンのXH-A1にしました。

キヤノンと言えばDIGIC。撮影した映像はSONYとは違い、素人受けするきれいさがありました。いかにもキヤノンといった感じで撮影できました。ただ、このカメラは細かいほこりまで撮影されてしまうので、気遣いが必要なカメラでした。

そして、この後に購入したのがPanasonicのAG-HMC45です。初のPanasonicのビデオカメラを購入、ということで期待しつつ撮影したのですが、緑に弱すぎて森とか自然風景の撮影には向いていませんでした。ベタっと潰れちゃう上に、黒く沈んでしまいます。

ということで、このカメラはあきらめて、次のカメラを探すことにしました。前々から知っていたけど、高額すぎて手の出なかったカメラがありました。それはREDの4Kカメラです。

・RED Digital Cinema Campany
https://www.red.com/


24フレーム撮影できるRED Oneが以前から出ていましたが、今度は4K/30fps撮影できるRED Scarlet-X、4K/60fps撮影できるRED EPICが販売されるとのこと。RED EPICは5Kまで撮影できますが、さすがにそこまでは必要ないので、結局のところRED Scarlet-Xを購入しました。

なんで購入できたのかというと、民主党のおかげで「円高」だったためです。米国のカメラなので、今と比べても2/3程度の金額で購入できました。安倍政権になってからは円安にされているため、もう海外のものはあきらめました。

高額なRED Scarlet-Xですが、これまでの国内のビデオカメラとは比較にならない性能でした。とにかくダイナミックレンジが広く、何と言ってもRAWデータで記録されていくため、後からいかようにでも調整がききます。

つまりREDは、失敗する可能性が低いカメラです。Wikiを見ると、戦隊モノなどの特撮も結構多く撮影されています。5K/120fpsとかで撮影しておけば、後々の編集でどうにでもなるので、気が楽なのかもと思ったりもしますが、本当の理由はわかりません。合成しやすいのかもしれませんし、前々からHDR撮影できるからかもしれません。

https://ja.wikipedia.org/wiki/レッド・デジタル・シネマカメラ・カンパニー


高性能で素晴らしいREDのビデオカメラですが、いかんせんRED Scarlet-Xは古くなり、カードなども製造されなくなりました。REDのビデオカメラは8KでRAW撮影できるので、お金があれば欲しいところですが、あいにくと長年の円安で貧乏になりました(円安になると生活コストが上がるため)。

RED Scarlet-Xは4K/30fpsしか撮影できません。現在求められているのは、最低でも4K/60fps(4K/60p)です。

過去にも4K/60pビデオカメラが必要だろうと、SONYのビデオカメラを購入したことがあります。が、やはり出井伸之体制からの長年の失敗が続いたせいか、あまりに駄目すぎる画質に数か月と持たずに売却しました。

カードも特殊で、まあどうしようもない。もうSONYは駄目だ、ということで他のメーカーを探すことにしました。キヤノンも4K/60pのビデオカメラがありますが、いかんせん高額だから無理。

ビクターもビデオカメラを出していますが、さすがにビクターを選択するというのは冒険すぎるので、それはありません。他にはBlackmagicという選択肢もありました。でも、過去に買って失敗した人がいるので、これも選択肢から外しました。

・Blackmagic Design
https://www.blackmagicdesign.com/jp


●消去法で買ったAG-CX350だったが

こうなると、残ったのはPanasonicしかありません。4Kではないハイビジョンカメラに関しては、Panasonicのは何台も買っています。TM700/750、HC-V600M、HC-X900M、HC-X920M。このうち、HC-X920Mは大変いいビデオカメラでした。性能も使い勝手も文句なしでした。

その後、Panasonicもハンディカムタイプの4Kカメラを出してきます。が、これは30fpsしか撮影できません。試しに買ってみて撮影したのですが、4Kなのにビットレートの関係(実際にはSDカードの都合)で、とても満足できるものではありませんでした。仕方ないので、今は車につけてドライブレコーダーとして使っています。

Panasonicは4K/60pのカメラで低価格なものを販売しており、知人が購入したので実機を見せてもらいました。う〜ん……やはりPanasonic画質で、空気感がなくペラペラな映像(パナソニックならぬペラソニック)。結局、そのカメラも選択肢から外しました。

ということで、ちょうどいいビデオカメラが何もなくなってしまいました。そんな時に発売されたのが、AG-CX350です。価格もそこそこで、安価なSDカードにHEVC(H.265)で記録できるというのも重要でした。

SDカードは大量生産されるため、待てば安くなるシロモノです。コスト面でも悪くありません。SDカードなら他の用途にも転用できます。

AG-CX350は欲しくて買ったわけではなく、消去法で仕方なくといったところです。どのみち、今年の秋には8Kカメラが安価で出てくるので、そっちを狙った方がいいのは確かです。でも、4K/60Pの業務用ビデオカメラがないと、やはり困ります。

消去法で買ったAG-CX350ですが、実際に使って見ると実にいいビデオカメラです。こんな感じに撮影できます。ボケ具合も、けっこういい感じになります。

http://www.openspc2.org/HDTV/Panasonic/AG-CX350/0

HC-X920M以来、初めてPanasonicのビデオカメラが素晴らしいと思いました。ただ、このカメラの性能を発揮するには、高速書き込みができるV90のSDカードが必要です。ところが、これが高い……。

ということで、性能の半分程度のビットレートで記録することに。半分と言ってもHEVC(H.265)なので、H.264での2倍の記録能力があります。HEVC(H.265)で200M記録なのですが、これはH.264での400Mに相当します。

これだけあれば、水面も申し分なく記録できるはずです。水面はブロックノイズが発生しやすいので、波打つ水面を撮影すれば性能がわかります。で、撮影してみましたが、まったく申し分ありません。ブロックノイズはほとんど出ませんでした。せっかく買ったので月面も撮影しましたが、ふと見ると隣に木星がありました。

試しに木星も撮影してみるか。やってみてビックリ。実際の映像をAdobe Premiereに読み込ませて、100%サイズにしたものを画面キャプチャーしました。

http://www.openspc2.org/HDTV/Panasonic/AG-CX350/1

中央の明るい星が木星です。そして、そのまわりに4つの小さい点があります。天文に詳しい人なら、すぐにわかるでしょう。そう、ガリレオ衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)です。

一応天文関係のページで衛星の位置も確認しました。

http://www.openspc2.org/HDTV/Panasonic/AG-CX350/2

何とAG-CX350は、4K/60p映像で木星の衛星が写ります。撮影時は液晶画面でも確認できるほどです。暗いところにはめっぽう強いカメラですが、まさか木星の衛星が写るとは思ってませんでした。久々に感動しました。ハイビジョンサイズにして30fpsにまで落とせば、もっと明るく写るのかもしれません。

金星も満ち欠けが映せそうな感じですが、スタッフに渡してしまったので、手元にビデオカメラはありません。何らかの機会があれば、金星の撮影にもチャレンジしてみたいところです。

AG-CX350は、いいビデオカメラですが、思わぬオチもあります。実際にたくさん撮影してみると、ピント調整(フォーカス)が怪しく、真っ青な空や単色ものの物体を撮影するとピントがずれてしまいます。カメラを動かし終わった後などに結構発生します。インターバル(タイムラプス)撮影でも発生します。

ここらへんは、フォーカスはマニュアルロックするスイッチがあるので、それでロックしてくれということなのかもしれません。ただ、デフォルトの状態ではマニュアルロックできず、PDFの説明書を読みつつ設定しました。

二か所くらい設定しないと、期待する動作にはなりませんでした。というか、デフォルト設定のままでは駄目で、いろいろ設定してから使うのが安全です。他にも単色っぽくなると、自動ホワイトバランスがおかしくなる、という問題もあります。

それでも、価格に見合った十分なビデオカメラじゃないかなと思います。


【古籏一浩】openspc@alpha.ocn.ne.jp
http://www.openspc2.org/


でも、最新のiPhoneやAndroidの方がきれいだったりする、というオチも。それでも、ズームとかいろいろビデオカメラならではの機能を使う場合、やはり業務用でないといけないかな、というのが実感です。

・InDesign自動化サンプルプログラム逆引きリファレンス上/下
https://www.amazon.co.jp/dp/4844396846/

https://www.amazon.co.jp/dp/4844396854/


・創って学ぼうプログラミング
https://news.mynavi.jp/series/makeprogram


・みんなのIchigoLatte入門 JavaScriptで楽しむゲーム作りと電子工作
https://www.amazon.co.jp/dp/4865940936

[正誤表]
http://www.openspc2.org/book/error/ichigoLatte/


・After Effects自動化サンプルプログラム 上巻、下巻
https://www.amazon.co.jp/dp/4844397591

https://www.amazon.co.jp/dp/4844397605


・IchigoLatteでIoT体験
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http://digiconcart.com/dccartstore/cart/info/2561/218591


・みんなのIchigoJam入門 BASICで楽しむゲーム作りと電子工作
http://www.amazon.co.jp/dp/4865940332/


・Photoshop自動化基本編
http://www.amazon.co.jp/dp/B00W952JQW/


・Illustrator自動化基本編
http://www.amazon.co.jp/dp/B00R5MZ1PA/


・4K/ハイビジョン映像素材集
http://www.openspc2.org/HDTV/


・クリエイター手抜きプロジェクト
http://www.openspc2.org/projectX/



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■映画ザビエル[79]
地獄の沙汰

カンクロー
https://bn.dgcr.com/archives/20190708110100.html

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◎作品タイトル
ハウス・ジャック・ビルト

◎作品情報
原題:The House That Jack Built
公開年度:2018年
制作国・地域:デンマーク・フランス・ドイツ・スウェーデン
上映時間:152分
監督:ラース・フォン・トリアー
出演:マット・ディロン、ブルーノ・ガンツ、ユマ・サーマン、
シオバン・ファロン、ライリー・キーオ

◎だいたいこんな話(作品概要)

1970年代のアメリカ、ワシントン州。エンジニアであるジャックの夢は、建築家になること。それを叶えるために、所有する土地に自ら設計した家を建てようとしていた。ある時、山道で車が故障し立ち往生していた女性との出会いから、殺人に没頭するようになる。

彼が5つのエピソードを通して案内人ヴァージに明かした、シリアルキラーとしての12年間の軌跡を辿る。

煉瓦造りでも木造でも、納得が出来ずに途中で取り壊したジャックの家は、はたして完成するのか。

◎わたくし的見解/トリアー的シリアルキラー研究発表

主人公のジャックが、ヴァージなる人物の質問に答える形で、5つの殺人について回想していく。そのやりとりは、まるで死刑判決が確定した囚人に対して行われるセラピーや、精神分析の権威が論文ために凶悪犯をインタビューしているようでもある。

何故なら、ヴァージはジャックの犯したおぞましい殺人の数々について、さほど断罪する様子もなく淡々と「それで君はどういう人間なの」と問い続けていくからだ。声を荒らげたのは、その残忍性に対してではなく、ヴァージにとって最も崇高である「芸術」を、ジャックが引き合いに出してきた時だけだった。

5つのチャプターの間ヴァージの存在は声のみで、エピローグで初めて観客はその姿を目にすることとなる。語り草から想像したとおりの老紳士は、精神科医というよりは(宗教の特定が出来ない)聖職者のような佇まいで、初対面であるはずのジャックも、不思議と言われるがままに暗がりを進む他なかった。

ヴァージは地獄の案内人だった。「神曲」の中で、ダンテを地獄と煉獄に案内する詩人ウェルギリウスがモチーフになっている。ジャックはダンテのように天国を見ることはない。一通り地獄を案内され、行く先は最下層から二つ上の場所だと教えられる。

劇中でヴァージも口にしているが、殺人者は「意外にも」最下層ではないのだ。しかしジャックは些細な好奇心から、生前の罪で決まった場所とは別のところに行くことになる。なかなか興味深い展開だ。

アメリカでカットされた部分は子供が殺された場面で、(すべての殺害シーンがそもそも残忍すぎるので)他のシーンと比べて格別グロテスクな訳ではない。アメリカでは、大人がそのように殺される映像に規制はかからないが(年齢制限がされてもカットはされない)、子供の場合は途端にタブー視される。

このタブーへの意識が強い人たちが、おそらくカンヌ映画祭でも途中退場した人たちと同じなのだと思われる。彼らにとっては、いくら表現の自由を認めても受け容れ難いのが本作なのだろう。

皮肉なもので、ラース・フォン・トリアー監督はタブーも含めた既成のものを、ひたすら壊していきたい人なので、認められないという反応も彼の思惑に収まるものだ。

私としては、度肝を抜かれるという点においては監督のこれまでの作品の方が圧倒的だったように思われた。この人の映画には、今まで散々な目に遭ってきた。嫌な気分に陥らなかったことなどない。しかし、それだけでは終われないのだ。

つまり、鑑賞後かなりの時間それについて考えを巡らせることになってしまうからだ。自分が不快に感じた理由も含めて、この物語は一体何なのだ、と。その上、どれほどの胸糞悪さも超越(帳消し?に)する程、必ず映像作品としての圧倒的なパワーがある。

本作でも、そのパワーは健在だ。ただ、物語については案外シンプルで頭から離れなくなるほど考えることはない。(衝撃映像が頭から離れなかった人は多いかも知れないが)。とは言え、監督の力量には相変わらず感心させられた。

二つ目のエピソードで、ジャックがターゲットの女性から信用を得て家に入るために、初めは警察だと名乗る。女性は不審に思い手帳の提示を求めるが、当然そんなものを持っていないジャックの返しが素晴らしい。「手帳はない。私も見てみたい」たった、この一言で精神的な破綻が垣間見え不気味さは一気に加速する。

女性はさらに訝るが、その後も苦しい言い訳を繰り返し、年金額が増える手続きをしてやるからという口実で、やっと家の中に入る。とにかく会話の支離滅裂さがジャックの異常性を際立たせていた。突如、態度が豹変し女性との力関係が逆転するくだりは傑作と言ってよい。

また、殺人を始めた頃のジャックは強迫性障害(例えば鍵をかけたか不安で何度も家に戻って確かめなければ気が済まず、それを繰り返すうちに、深刻化すると家から出られなくなるようなもの)が強く、かなり犯罪の足枷になる。

そのような障害を抱えながらも殺人衝動も抑えきれない葛藤などを観ていると、監督がいかにシリアルキラーについて調べ尽くしたかが窺える。強迫性障害については監督自身にも覚えがあるものなので、まるで「ドリフ大爆笑」のコント、もしもシリーズのように「この問題を抱えて殺人を犯すと、こんな風になるのでは」という経験者ゆえの茶化しが効いている。

ジャックの犯罪は常にスマートさに欠け、不謹慎ながら実に滑稽だった。幸運だけで12年間捕まることなく、それゆえに犯行はより大胆に大雑把になっていく。カウンセラーのごときヴァージによれば、ジャックが早く自分の罪を見つけて欲しい、誰か捕まえて欲しいと無意識に願っていたからではないかと分析する。

他にも様々なシリアルキラーへの考察が披露される。しかし、その再現性の高さが、監督らしい既成概念の破壊を緩めてしまったのではと感じられた。シリアルキラーもののジャンル映画としては、いくらか型破りかも知れない。エッジの効いた音楽とスタイリッシュな映像、反感を買うほどのグロテスクな殺害シーン。ところが連続殺人鬼の人物像は学術的なものと、ほぼ一致している。

決して新鮮味に欠けた訳ではない。もしかしたら、トリアーの作品に少し耐性が出来てしまったのかも知れない。残忍な部分だけでなく、息をのむ程美しい場面も含めて映像は衝撃的だった。それと比べると内容が弱く思えたのだが、では何が違ったのかなと結局考える羽目になっている。したがって、今後もこの人の映画から目が離せないと言う結論に至ってしまった。


【カンクロー】info@eigaxavier.com

映画ザビエル
http://www.eigaxavier.com/


映画については好みが固定化されてきており、こういったコラムを書く者としては年間の鑑賞本数は少ないと思います。その分、だいぶ鼻が利くようになっていて、劇場まで足を運んでハズレにあたることは、まずありません。

時間とお金を費やした以上は、元を取るまで楽しまないと、というケチな思考からくる結果かも知れませんが。

私の文章と比べれば、必ず時間を費やす価値のある映画をご紹介します。読んで下さった方が「映画を楽しむ」時に、ほんの少しでもお役に立てれば嬉しく思います。


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編集後記(07/08)

●偏屈読書案内:金田一春彦「美しい日本語」 角川ソフィア文庫

金田一春彦は有名な言語学者、国語学者である。父・京助、次男・秀穂は言語学者、長男真澄はロシア語学者である。私立探偵・金田一耕助は横溝正史が拵えた架空のキャラクターである。この本を書くため、過去の著作を読み返すと言葉足らずだったり、筆が走りすぎていたり、まさに汗顔の至りだったという。こういうことを言える謙虚な学者さんはいいな。しかも言語学者だもの。

一人の人を相手に説明するコツがある。難しい込み入ったことを説明する場合にもきっと役に立つ。1)相手の知識をなるべく活用すること 2)相手の知っているほかのものに結びつける 3)相手の知らないものについて言ってはゴタゴタするだけである 4)目に見えるように話すこと 5)あまり一度に多く言ってもムダであること 6)第一印象というものを重んじること

説明にはいろいろ方法があるが、相手の親しいもので、それに似たものを考え出し、あれのようなものだと言うのが一番いいことがある。渋沢秀雄が来日したばかりの外国人を連れて歌舞伎へいったところ、演目が「勧進帳」だった。外国人はいろいろ尋ねてくるが、説明しにくいので思いついて「これは昔パスポートなしで税関を通り抜けようとしている話だ」と言ったら理解したという。

新潮社が叢書「日本文化シリーズ」を企画し、執筆予定者を一堂に招集した。編集部が企画を説明し、自分の得とするものを書いてほしい、課した題は参考程度にと言ったが、集まった人たちの中にはなかなかすらっと飲み込めない人がいる。大宅壮一が「つまり、デパートではなくて名店街のようなものにしたい言うんやね」という念押しで、執筆者一同も趣旨を飲み込むことができた。

文法の中で、日本語の特筆すべき点を上げると、「が」の存在である。筆者は日本語の中で一番自慢できるのは「が」だという。主格を表す「が」を持っている言語は日本語だけらしい。日本語は主語を表す「が」と「は」があって区別が難しいという外国人がいるが、正しくは主語を表すのは「が」の方だ。

「働く」という字は国字、つまり日本製だ。一般に国字は訓読みだけで音読みはない。しかし「働」は「ハタラク」という訓と「ドウ」という音読みを持つ。いかに日本人がこの国字を重要視しているかがわかる。中国では「勤」「労」「務」などの漢字をあてる。どの字も義務的にいやいやしかたなく、という語感が漂う。それに対して「働く」は、人がいきいき動いている感じがする。

現在はこの国字が中国に逆輸入されて使われている。「働く」は英語ではworkになるが、日本語のほうが語義が狭く、使い方がやかましい。「働く」は自分のために何かをすることではなく、何かほかの人の利益になることをいう。反対語は「遊ぶ」だが、playとはちょっと違い、何も役に立つことをしないことで、あまりいい意味ではない。いまのわたしの立場を表しているようである。

忘れて欲しくない日本語に「いそしむ」がある。英語では「励む」endeavorになるが、意味が違うだろう。「励む」はがむしゃらに働くことだが、「いそしむ」は働きながらそこに喜びを見出しているというニュアンスがある。日本人は働くことをことのほか愛する。だからこのようなステキな言葉ができた。

英訳が難しい日本語がある。「気にする」「気が置ける」「気がね」などの言葉に出てくる「気」や、「義理」「厄介」「人情」「迷惑」など独特の雰囲気を含んだ言葉だ。「今年もどうぞよろしく」「日頃お世話になっております」「つまらないものですが」など、直訳では相手の外国人は意味がわからないだろう。日本語は面白い。日本語は美しい。日本に生まれてよかった。(柴田)

金田一春彦「美しい日本語」 角川ソフィア文庫 2016
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4044002312/dgcrcom-22/



●iPhoneを路上で拾った、の続き。ただし、「アクティベーションロック遠隔解除サービス」なるものは存在する。「ユーザから送られてきたiPhone、iPad、iPod TouchのIMEI情報などを使ってリモート操作でアクティベーションロック解除を行います」。一端末あたり数万。

「このサービスの利用者で最も多いのは、『オークションサイトや中古iPhone販売店から購入した端末にアクティベーションロックがかかっていた』というケース」とのこと。

善意の第三者の立場での依頼に対応するというスタンスで、グレーゾーンではある。「IDやパスワード忘れの際には、Apple側で無償対応してもらえる」とも書いてあって、本人が数万払って利用するとは思えない。続く。
(hammer.mule)

iPhoneのアクティベーションロック遠隔解除サービスとは?
https://saiyasu-syuuri.com/blog/iphone-activation-unlock-service/