[4946] エースのジョーへの鎮魂歌◇HDDがほぼ全滅!

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《いくらなんでもそこまで壊れ尽くすか?》

■日々の泡[026]
 エースのジョーへの鎮魂歌
 【ギャビン・ライアル/深夜プラス1】
 十河 進

■グラフィック薄氷大魔王[642]
 パンドラの箱を開けちゃった(その2)
 HDDがほぼ全滅!
 吉井 宏




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■日々の泡[026]
エースのジョーへの鎮魂歌
【ギャビン・ライアル/深夜プラス1】

十河 進
https://bn.dgcr.com/archives/20200205110200.html

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イギリスの冒険小説家ギャビン・ライアルには、二作の名作がある。「もっとも危険なゲーム」と「深夜プラス1」だ。「もっとも危険なゲーム」は後に松田優作主演の殺し屋・鳴海昌平シリーズ「最も危険な遊戯」(1978年)にタイトルをパクられ、「深夜プラス1」は宍戸錠主演・鈴木清順監督「殺しの烙印」(1967年)にストーリーをパクられた。

不思議なことにギャビン・ライアルの小説は、まったく映画化されていない。どれも映画向きだと思うのだけれど、プロットが複雑すぎて観客に理解させられないと制作者は思うのかもしれない。しかし、ギャビン・ライアル自身は映画好きに違いない。でなければ「本番台本」(原題を直訳すれば「撮影台本」の方が適切だろう)なんて小説を書くはずがない。

「本番台本」はカリブ海の政情不安な国でハリウッドの撮影隊に雇われたパイロット(自身が戦闘機パイロットだったライアルはパイロットを主人公にすることが多い)、キース・カーが主人公である。ハリウッドの大スターとして出てくるのは、ジョン・ウェインやダグラス・フェアバンクスを彷彿とさせる人物だ。

僕が初めて日本で翻訳されたギャビン・ライアルの作品である「もっとも危険なゲーム」を読んだのは、ポケットミステリで出た頃だから、たぶん高校生だった。僕は「ゲーム」を文字通りの意味で受け取ったが、後に「獲物」という意味があると知って、「最も危険な獲物」と訳すのが正しいのだと思った。「最も危険な獲物とは、銃を持った人間」のことである。この獲物は撃ち返してくる。

その後、「深夜プラス1」がポケミスで出版され、僕はすっかりギャビン・ライアルの愛読者になった。処女作「ちがった空」に遡り、「裏切りの国」「死者を鞭打て」「拳銃を持つヴィーナス」と読み続けたが、「影の護衛」でつまずいた。なぜなら、「影の護衛」は三人称で書かれていたからだった。その後も僕はライアルの新作を買い続けたが、今も読めずに置いてある。

ギャビン・ライアル作品の魅力は、主人公の一人称にあった。レイモンド・チャンドラーの小説の魅力が、主人公フィリップ・マーロウの魅力に重なるのと同じである。僕は、ビル・ケアリもムッシュ・カントンもキース・カーも、同じキャラクターとして読んでいた。ライアルが創り出す魅力的な男たちである。

彼らは己のルールを持ち、独特のモラルで生きている。法を犯すことは多々あるが、自分の決めた規律はどんなことがあっても守り抜く。彼らの生き方に僕は多くを教えられ、「己に恥じることだけはしてはいけない」と、十代に学んだものだった。そういう意味では、ライアルの主人公たちは僕にとっての人生の師匠なのである。僕はライアルの初期四編は、英語版ペイパーバックさえ揃えた。

大沢在昌さんと話をしたときに(ふたりともかなり酒が入っていたが)、大沢さんは「僕は『もっとも危険なゲーム』の方がいいと思う。何と言ってもヒロインが魅力的だ」と言っていたけれど、それは僕も同感だ。僕も繰り返し読んだ回数は「もっとも危険なゲーム」が一番多い。しかし、ほとんどの人はライアルの代表作として「深夜プラス1」を挙げるだろう。内藤陳さんだって、酒場の名前を「深夜+1」にしたのだ。

「深夜プラス1」は、間違いなく傑作である。主人公のムッシュ・カントンことルイス・ケインのキャラクターもいいのだが、副主人公でアル中のガンマンであるハーヴェイ・ロヴェルがとにかく魅力にあふれている。警察と正体不明の敵に追われる大富豪と秘書をフランスの海岸からリヒテンシュタインまで送る仕事を引き受けた主人公は、護衛として元シークレット・サービスのアメリカ人ロヴェルを雇ってシトロエンDSでヨーロッパ大陸を走り抜ける。

先日亡くなった「エースのジョー」こと宍戸錠の殺し屋映画としては、「殺しの烙印」が最高傑作だと僕は思う。「拳銃(コルト)は俺のパスポート」(1967年)支持派と意見は分かれるところだと思うが、僕は「殺しの烙印」派である。なぜなら「殺しの烙印」には、甘さがまったくないのだ。後半、真里アンヌに惹かれる宍戸錠の甘さは、「殺し屋ナンバー1」によって完全に粉砕される。

「殺しの烙印」で印象的なセリフは「ナンバー1は誰だ」というものだが、これは「深夜プラス1」が発想の元になっている。ハーヴェイ・ロヴェルはヨーロッパでナンバー1のガンマンで、ナンバー1と2のガンマンは敵方に雇われ、彼らに襲われて倒したためロヴェルはヨーロッパ・ナンバー1のガンマンになる。その発想が「殺しの烙印」の殺し屋ランキングにつながるのだ。

「殺しの烙印」の前半のストーリーは、ある人物(南原宏治)を海岸で拾い信州の高原ホテルまで送り届ける仕事を殺し屋ランキング3位の花田(宍戸錠)が引き受けるところから始まる。運転手の春日(南廣)はかつて殺し屋ランキングに入っていたが、今は酒で身を持ち崩しランク外に落ちている。殺し屋ナンバー2のコウ(大和屋竺)に襲われ、「近寄らないと当たらなくなった」と言って春日は銃をかざして坑道を走り抜けコウと差し違える。

「殺しの烙印」では、「深夜プラス1」の描写そのままの襲撃シーンを再現してくれる。山道で車を止められ、両側から狙撃され、昔のトーチカ陣地での攻防が繰り広げられる。宍戸錠は「深夜プラス1」に書かれている通りにガソリンタンクをトーチカの小窓から投げ入れ、銃撃して火を点ける。トーチカ内にいた殺し屋は、火だるまになって飛び出してくる。

この前半だけでまとめていたら「殺しの烙印」はもっと一般的な支持を受けたと思うが、後年「ツィゴイネルワイゼン」(1980年)を作る鈴木清順監督は訳の分からない世界に入っていく。つまり、「生きている人間は死んでいる。死んでいる人間は生きている」という清順思想が前面に押し出されてくるのだ。ということで日活の社長に「訳の分からん映画を作る監督はいらん」と首にされてしまった。

「殺しの烙印」は清順監督の初めての自主企画であり、オリジナル脚本だった。シナリオは具流八郎。清順監督、大和屋竺など八人が参加したという。僕は昔、その中の一人だと言われていた石上三登志さんこと電通の今村さんに会ったときに、「『殺しの烙印』の前半は、『深夜プラス1』ですよね」と訊いたことがある。「『深夜プラス1』って、ひたすら車で走る話だよな」と、石上さんは曖昧に答えた。

清順監督は「殺し屋の映画を作るんだ」と、「殺しの烙印」公開時に特集を組んだ「映画芸術」の記事の中でつぶやくように取材に答えていた。その清順監督は、宍戸錠のもう一本の代表作「野獣の青春」(1963年)も監督している。亡き実弟・郷□治(ちあきなおみの夫)がブラモデル好きのおかしな殺し屋役で印象に残るし、若き宍戸錠の動きがシャープで見事なアクションを見せてくれる。こちらの原作は大藪春彦。ちなみに「拳銃(コルト)は俺のパスポート」の原作は藤原審爾です。 注/□は金へんに英(えいと読む)

【そごう・すすむ】
ブログ「映画がなければ----」
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■グラフィック薄氷大魔王[642]
パンドラの箱を開けちゃった(その2)
HDDがほぼ全滅!

吉井 宏
https://bn.dgcr.com/archives/20200205110100.html

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前回のあらすじ:昨年末から2台のHDDが連続して壊れた。それで、たくさんある古いHDDから新しいポータブルHDDにファイルを移動することにした。しかし、作業1台目にして絶不調。「First Aidsプロセスを完了できません。可能ならバックアップしてください」。ってことは、3台連続で故障。どうなってるんだ?
https://bn.dgcr.com/archives/20200129110200.html


●HDD、ほぼ全滅!

じゃあ、無事に新しいポータブルHDDにデータコピーできる古いHDDは、何台あるのか?

2006年頃〜2014年のむき出しの3.5インチHDD、14台。以前TimeMachineとして使ってたもの。「不要」や「不調」の付箋を貼ってある、穴あけ処理サービスに出す予定だったのもふくめて、クレードルでMacに接続して確認してみたところ……。

なんと、14台中13台がダメ!! 古いポータブルHDDも昨年末からの3台に加え、もう1台もダメ。

マウントしないもの、中身が表示されないもの、「First Aidプロセスを終了できません」が出るもの。 First Aidプロセスが「問題ありません」は、たったの1台(2014年頃に短期間TimeMachineで使用したもの)。

いくらなんでも、そこまで壊れ尽くすか?? もちろん、10年も前のは壊れてて当然と思ってるけど、5年前でもあやしいんだ。ほとんどが5年〜10年ぶりの接続だから、それも原因か?

いやしかし、8年前に購入のHDDクレードルが原因の可能性もある。クレードルを新調して再度確認するか? と思ったけど、大丈夫なHDDもあるし、ポータブルHDDでも同じ状況だから、クレードルが犯人とも言いにくい。

何より、むき出しHDDが1個もなくなっちゃうのに、クレードルを新調するってのもねw

HDDが壊れる主な原因は電源ONの瞬間の負荷らしいけど、オンにしないわけにもいかないし、オフにしないわけにもいかないw 内蔵にくらべて外付けSSDがやたら壊れるのも同じく。

クレードルがあやしいとしても、むき出しHDDもクレードルも全廃止にできるんだから、今の心境としては壊れてるほうがサッパリするw

以前、ソフマップのHDD破壊サービスが始まったとき、まとめて持って行ったことがある。もう11年前か。当時読めなかったり古いHDDは全部破壊。その時に残したHDDも、今回読めなくなってる。

5年くらいですっかり入れ替わるくらいに、交換していくのがベストかな。

グラフィック薄氷大魔王[202]ハードディスク破壊サービス/吉井 宏
https://bn.dgcr.com/archives/20091202141000.html


↑読んでびっくり、11年前に破壊サービスに持って行ったのも14台だった!

●寿命とダイエット

HDDの寿命は5年程度と思ってたけど、こんなきっちりダメとはw 中身は現役で使用中のHDD(バックアップ含め計7〜8台)や、BD-Rにあるものばかりなので心配ないのだが。

検索してみると「一般的にHDDの寿命の目安は平均3年~4年程度(時間換算で約26,000~35,000時間)と言われています。」だって。まあ、そんなもんか。壊れて当たり前なんだ。まだ新しいと思ってたHDDも2〜4年たってるし、移し替えを考えないと。

多数のむき出しの3.5インチを、大容量ポータブルに移し替えしようと思ったのに、一部は移したもののほとんどのHDDがダメってことで、移し替えしなくてよくなっちゃったw 棚の一番下の段をむき出し3.5インチとクレードルが占領してたけど、ガラ空きに。

定期的なHDDの移し替えと、重要ファイルをBD-Rと複数のクラウドに退避。クラウドだって正体はHDDだけど、データ失ったら面目丸潰れな各クラウド会社に、メンテナンスもバックアップも交換もおまかせすれば大丈夫。

それでも何TBもあったら扱いが重すぎる。やっぱデータファイルを整理して、ダイエットしないとね。

とりあえず、新しいポータブルHDD(4TB)に、今現役で使ってるHDDの中身をコピーした。

……この後、「手元に保存するにはやはり光ディスクが安全」と、数百枚のDVD-RやBD-Rの整理を始めたら、思わぬ方向に転がり始めてしまうのだった。


【吉井 宏/イラストレーター】
HP  http://www.yoshii.com

Blog http://yoshii-blog.blogspot.com/


フリクションのインクを使ったプリンタがあったら便利かも。紙にスケッチ描いてスキャン、Photoshopで粗く整え、プリントして紙で加筆修正するとき消せるとありがたい、というニッチな用途だけど。

○吉井宏デザインのスワロフスキー

・三猿 Three Wise Monkeys
https://bit.ly/2LYOX8X


・幸運の象 LUCKY ELEPHANTS
https://bit.ly/30RQrqV


・SCS ペンギンの赤ちゃん PICCO
https://bit.ly/2JStbC4



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編集後記(02/05)

●偏屈BOOK案内:高濱賛「日本人が知っているようで知らないアメリカ」

40年以上アメリカを追いかけた在米ジャーナリストが見た、「本当のアメリカ」を描いた本だという。「世界最高の論客」と目されているのが、米MITのノーム・チョムスキー名誉教授だ。2016年にトランプが大統領選に勝利したときに彼は、ナチス・ドイツに相通じる「野蛮性への堕落」そのものだと論じた。

「世界の知性」が、なんと「銃文化」「トランプ大統領」「プアーホワイトの短寿命」とを結びつけている。驚いた筆者がその一つひとつをファクト・チェックしてみると誤りはなかった。教授は「野蛮性への堕落」の元凶が「銃文化」にあると大胆に言い切る。アメリカ人はその銃を捨てることはできない。むしろ未来永劫、銃を保持し続ける公算大だ。アメリカの野蛮性は銃文化にある。

米国憲法修正第2条がアメリカ国民は誰でも銃を保持し、自らを守る権利を保障している。普通の人が、銃なしには安全を保たれない、と普通に言う。銃は自己防衛としての道具と言うほか、狩猟など多くのリクリエーションを提供してくれる、だから憲法修正第2条は堅持すべきだという。銃を捨てれば殺人はなくなるなんて理想論を言ってもダメだという。日本人には理解できないが。

日本人の尺度で測っても、全くグローバルな視点でものを考えていない「田舎者」=「ヒルビリーなアメリカ人」はそこら中にいる。日本人はアメリカ人というと英語をしゃべる白人という先入観があるが、まずそれを捨てよ、アメリカ人と付き合うには色盲になれ、肌の色や人種で差別しないことが肝心である。

日本人の多くは「グローバルな国民」だ。それが「ヒルビリーなアメリカ人」とどう付き合ったらいいのか。日本人の方から歩み寄らねばならない。相手は世間知らずで、それでいて独りよがりで傲慢で居丈高ときている。筆者がつくづく感じるのは、自身が「真実のアメリカ」について何も知らなかったということ。じつはホントのアメリカなんて、アメリカ人自身がわからないようだ。

「傲慢で、おしゃべりで、陽気で、お節介で、自分の考えていることだけが唯一正しいと思いこむ人が多いアメリカ。それでいて、おっちょこちょいで、まるで捕った鮭を笹竹に吊して歩いている熊が獲物をぼとぼと落としているようなアメリカ」とはうまい喩えだ。そのアメリカも2045年には「白人国家」ではなくなる。ラティーノや黒人、アジア人が全米人口の半分以上になるからだ。

この本を書いて、筆者は本当のアメリカについて何も知らないことがわかった。その話を在米40年の中国人文化人類学者にすると「別におかしいことじゃないよ。本当のアメリカ人なんて、アメリカ人自身だってわからないのだから。アメリカ人はアメリカについて聞かれると、すぐフランス人のアレクシ・ド・トクヴィルを持ち出すんだ」と慰められたそうだ。だれ? そのフランス人。

初めて聞いた名前。1831年にアメリカで9カ月間の視察旅行を行い、このときの体験をもとに『アメリカのデモクラシー』を書いた人。アメリカの政治家はしばしば、演説で本書の一節を引用するんだって。アメリカ大統領選の投票日まであと9か月、めんどうくさそうな選挙システムが稼働中。わたしは、独りよがりで傲慢で居丈高な、本当は超頭脳派のトランプが大好きだ。(柴田)

高濱賛「日本人が知っているようで知らないアメリカ」2018 海竜社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4759316418/dgcrcom-22/



●胃カメラ続き。終了し、片付けタイムに、ひとりの看護師さんが「血圧がえらく低い」と言い、先生を呼びに行った。そのうち血圧と脈拍を表示しているモニターのピコーン音が、ピコココーンに変わり、点滅しているランプが黄色くなった。

腕が痺れ、目の前は軽い貧血のように少し暗くなっていた。終わったという安堵感からだろうと、本人はまったく気にしていないのだが、モニターを見つめていた看護師は少しピリッとしていた。とはいえベテラン。笑顔で大丈夫ですよ〜と、こちらを落ち着かせようとする。

最初に測った時は上は120台、下は70台ぐらいだった(健康診断の時は106と68だからちょっと高い)。ピコココーンになった時は上が70台。後から考えたら、最初の下ぐらいなんだな。そりゃ低いかも。(hammer.mule)