[5098] ヒトとの接触を避けつつ少し遠出をしたの巻/エバンジェリストという仕事

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《謎だ。謎だ。謎だ。》

■わが逃走[268]
 ヒトとの接触を避けつつ少し遠出をしたの巻
 斎藤 浩

■もじもじトーク[137]
 エバンジェリストという仕事
 関口浩之




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■わが逃走[268]
ヒトとの接触を避けつつ少し遠出をしたの巻

斎藤 浩
https://bn.dgcr.com/archives/20201008110200.html

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無用な外出をなんとなく自粛していたら、半年も経ってしまった!

その間どっかに出かけたいなーと思ったときは、Googleストリートビューで行った気になっていたオレなのである。

わが愛車は平成5年式のマニュアル仕様なので、最近のクルマと比べ駐車中の電力消費量はとても少ない。3か月くらい放置しておいてもバッテリーはビンビンだぜ。

とはいえ、半年も遠出をしないとなると、心配になってくる。車も家も使わないとガタがくると聞く。

ヒトとの接触を避けつつ、ちょっとだけドライブでもと思い立ち、その日の朝、ボディに積もったホコリを洗い落としてから首都高に乗った。

目的地は群馬県の下仁田である。実はGoogleストリートビューで気になる物件を見つけたので、それを確かめに行きたくなったのだ。その物件とはコレだ。

https://bn.dgcr.com/archives/2020/10/08/images/001

この駐車場の看板。なぜか「場」だけ細長く見える。

ストリートビューは、いくつかの画像を組み合わせて生成されるので、素材となる写真の“つなぎ目”部分にきてしまった関係で、このように表示されているのかもしれない。

しかし、それにしては周囲に歪みもなく、とても自然に見えるのだ。

●まず、書体の作成について。

この看板書体は丸ゴシック体のアレンジのようである。書体を作成する場合、まず基準枠への収め方を考える。

日本字(ひらがな、カタカナ、漢字)の基準枠は正方形だ。ノートの中央に正方形を描き、その中に鉛筆でバランスよく文字を書いているところを想像してほしい。

それが書体の骨格=字体となる。字体をベースに太さを整えてゆく。はね、はらいなど部位によって強弱をつけつつ肉付けして、書体が完成する。

この正方形準拠で作成した書体プロポーションを「正体」と呼ぶ。「せいたい」と読む。「正体」を基準とし、幅を縮めたもの(タテナガの矩形に収められたもの)を「長体」、高さを縮めたもの(ヨコナガの矩形に収められたもの)を「平体」という。

この画像を見ると、「樋」から「車」までの7文字が正体、「場」だけが長体のようだ。

さらにこの「場」、幅が縮められているだけではなく、高さも伸ばされている点が興味深い。

正体に対し幅が90パーセントのものを「長1」、70パーセントのものを「長3」などと呼ぶが、この場合は「長5をかけた上で、ふたまわりほど拡大」と表現すべきか。

●こうなった理由を考えてみる。

1)一般的に考えると、取り付けていったら場所が足りなくなって、仕方なく最後の一文字のみ長体をかけた、という推測が成り立つ。しかし、そうだとしても文字と文字の間をツメればじゅうぶん設置可能である。謎だ。

2)そもそも設置する壁の面積はじゅうぶん。むしろ、なぜこの位置に最初の1文字を配置したのか。謎だ。

3)取り外しが困難なほど、ガッチリと固定していったのだろうか。その作業の途中で気づいたのだとしても、たとえば「駐車場」だけツメることもできる。

また、「駐」「車」「場」の3文字を「P」1文字としてもよかったはずだ。わざわざ他の7文字とサイズを変える手間をかける必然性とは? 謎だ。

●結論。

わからん。なので見に行く。

当日は連休ということもあり、想像以上の大渋滞に巻き込まれた。いったん所沢で高速を下り、一般道で東松山まで進んだ後、再度関越に乗った。

普段は1時間ちょっとで到着する道のりを4時間以上かけて、ようやく下仁田インターで下りる。周辺は車も少なく、ゆったりとした空気が流れていた。

早速目的地へ向かった。件の看板はすぐ見つかった。

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わ、ホントに長体かかってる!

壁面の波板とのコントラストも美しい。想像以上に風情があり、ペンキの筆跡も味わいがある。

ストリートビューにおける“つなぎ目”をリアルで見ているような錯覚もあり、下仁田駅へと通ずる脇道の雰囲気も相まって、異次元空間の入口のようである。

で、実物を目の当たりにして謎が解けたかといえば、解けなかった。しかし、理論で解明できないかわりに、より深い人間味を感じたのだった。

なんというか、“いい人そうな感じ”。

それって、ブランディングとしてものすごく成功してるってことだ。

“いい人そうな感じ”がしたのは、この物件だけではなかった。駅周辺にそこはかとなく漂う空気にも、それを感じずにはいられない。

少し散歩したのだが、とにかくこの辺りはワビとサビで構成されていた。上信電鉄下仁田駅は、文化財クラスの木造駅舎で、周囲は見事に昭和。

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かつて近くに鉱山があったとのことで、その玄関口として栄えたのだそうだ。最近はその地質や地形から「下仁田ジオパーク」として注目されているとのこと。

駅前で昭和の風情などと喜んでいたら、一気に数千万年前の歴史も学べる懐の深さとな! これはまた来ねば、と思うのだった。


【さいとう・ひろし】
saito@tongpoographics.jp
http://tongpoographics.jp/


1969年生まれ。小学生のときYMOの音楽に衝撃をうけ、音楽で彼らを超えられないと悟り、デザイナーをめざす。1999年tong-poo graphics設立。グラフィックデザイナーとして、地道に仕事を続けています。


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■もじもじトーク[137]
エバンジェリストという仕事

関口浩之
https://bn.dgcr.com/archives/20201008110100.html

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こんにちは。もじもじトークの関口浩之です。さて、今日のテーマは「エバンジェリストという仕事」のお話です。

●エバンジェリスト(伝道師)とは?

僕は、FONTPLUSというWebフォントサービスのエバンジェリストをしています。

日本では10年ぐらい前から、IT業界を中心に、肩書きに「エバンジェリスト」と書かれた名刺を見かけるようになりました。

「エバンジェリストってどんな仕事する人?」って思った人もいるかもしれません……。

本来、エバンジェリスト(Evangelist)という言葉の意味は、キリスト教における伝道者のことで、エヴァンジェリスト、エヴァンゲリストと表現することもあります。

「なんか、エヴァンゲリオンみたいで面白い!」「変わった肩書きですね!」って言われることがよくあります(笑)

エバンジェリストの役割ですが、最新のテクノロジーなどを多くの人に分かりやすく解説したり、新しい分野の概念や楽しさの普及活動したりすることが一般的です。

とは言え、会社としての活動ですので、イベントやセミナーを通じて、その会社の製品やサービスのプレゼンテーション活動を行い、成果を出さないといけないわけです。

●活字や文字の普及活動

10年前に「Webフォント」という概念と新しい技術を使ったサービスが、日本でも誕生しました。

そのひとつのサービスが、僕が担当している「FONTPLUS」だったわけです。フォントワークスやイワタ、モトヤ、白舟といった複数のフォントメーカー書体が、ウェブサイトで使えるという画期的なサービスだったのです。

今では、Monotype、SCREEN、砧書体制作所、大日本印刷、凸版印刷、昭和書体、方正(中国語)、Yoondesign(韓国語)、Fontrix(韓国語)、Jungle SYSTEM(タイ語)も加わり、14フォントメーカー3,632書体が使える百貨店型のWebフォントサービスになり、ウェブ業界では誰でも知っているサービスになりました。

でも、サービスを開始した10年前は、「どう使ったらいいの?」「これを使ったら何がうれしいの?」など、インターネットで調べてもほとんど情報なかったので、普及活動から開始しようと思ったのです。

テレビCMや雑誌広告、インターネット広告とかで、広く宣伝するのも良いのですが、けっこうお金が掛かるのです。

そこで、全国の主要都市で開催されているウェブ系セミナー「まにまにフェスティバル」「CSS Nite」「WCAN」「リクリセミナー」などとコラボレーションさせていただき、年間30回ぐらいのセミナーを行なうようになりました。

今思えば、10年前に、アップルップル・山本一道さん、スイッチ・鷹野雅弘さん、かぷっと・川合和史さん、バスタイムフィッシュ・村岡正和さん、スワールコミュニケーションズ小山瑞穂さんをはじてとして、多くの皆さんとの出会いがあり、全国各地のセミナーイベントでご一緒させていただきました。

それらの出会いがなければ、いまの「フォントおじさん」は誕生してなかったわけで、本当にありがたい出来事でした。もじもじトークを書くきっかけになったのも、かぷっとの川合さんと濱村さん(デジクリのデスク)なのです。

●活字や文字の文化や歴史の普及活動

もともと、看板文字やロゴ、レタリングが好きだったこともあり、フォントに関する仕事をするようになってから、文字の歴史や、活字文化をさらに深く知りたくなりました。

また、文字を実際に制作するフォントデザイナーにお会いする機会が増えて、フォントの奥深さを知ることになったのです。

そんな活動をしているうちに、「フォントの新技術やサービスを説明するだけでは、何か、物足りない」と思ったのです。

Webフォントの伝道師は、「日本における文字や活字の歴史、そして、フォントの文化を伝承することまでしないと、本物の伝道師ではない」と思ったのです。

4年半前に、FONTPLUS DAYというセミナーを主催・開催することを決めて、昨日の『FONTPLUS DAYセミナー Vol. 28[欧文のお作法]』で28回目の開催になり、毎回、200名以上の方にご参加いただくようになりました。
https://fontplus.connpass.com/


●文字まちもじ特集イベント

先々週の9月25日(金)に、「FONTPLUS DAY スペシャルライブ 2020秋」という生放送番組を配信しました。10月15日(木)までの期間限定の再放送(アーカイブ)をやっていますので、もしよかったら、見てくださいね!
https://www.facebook.com/fontplus.jp/videos/388103705916844


●ポッドキャスト「Automagic」に出演

ウェブの仕事をしている人で、アンテナ感度の高い人ならご存知と思いますが、ぼくも大好きな長谷川恭久(ヤッシー)さんという方がいらっしゃいます。

今年6月に還暦を迎え、その記念に長谷川さんが行なっている「Automagic」(ポッドキャスト)という番組に出演しました。

ラジオ番組みたいなノリなので、よかったらBGMとして聞いていただけるとうれしいです。
https://automagic.fm/


では、また、お会いしましょう。


【せきぐち・ひろゆき】sekiguchi115@gmail.com
関口浩之(フォントおじさん)

Facebook
https://www.facebook.com/hiroyuki.sekiguchi.8/

Twitter@HiroGateJP
https://mobile.twitter.com/hirogatejp


1960年生まれ。群馬県桐生市出身。1980年代に日本語DTPシステムやプリンタの製品企画に従事した後、1995年にソフトバンク技研(現SBテクノロジー)へ入社。Yahoo! JAPANの立ち上げなど、この25年間、数々の新規事業に従事。現在、活字や文字の楽しさを伝えるフォント伝道師(エバンジェリスト)、フォントおじさんとして活動。


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編集後記(10/08)

●偏屈BOOK案内:藤原智美「この先をどう生きるか 暴走老人から幸福老人へ」文藝春秋 2019
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163909559/dgcrcom-22/


現在の筆者(小説家)は「還暦をすぎて、老後一歩てまえの、さしずめ『老前』とよべるような歳になりました。かつては遠い存在であった老人に、まさに自分がなろうとしている」状態だ。その歳のせいか、一度封印したはずの「孤独で不幸な暴走老人」というイメージが頭から離れなくなったという。

「やがて老人となった私は、いとも簡単に暴走したり、たえがたい孤立に追い込まれたり、生きがいのないつまらない生活をおくるようになるかもしれない。そんな不安をどこかで感じていました」。でも、いつまでもそんな不安や戸惑いに怯えているわけにはいかない。筆者はいろいろな人に会って話を聞き、それをもとに「どうしたら生きがいのある老後を過ごせるか」をまとめた。

序章は現代の神話化した「人生百年」の実像と平均寿命のカラクリについて。一章はネットやスマホとの距離をたもつということについて。二章はコミュニケーションのとり方、生き方の正しい方法について、三章は世の中に流布する「孤独感」を整理して、その中で老人がおちいりやすい孤立と孤独について。

四章は老人をとりまく社会のまなざし、同調圧力に影響されない自立した生き方について。五章はセカンドライフのための意識の大転換に必要な「リボーン・ノート」について。六章は価値ある「暮らし」を再構築することについて。これはまえがきにある説明だが、なんか憂鬱になりそうなメニューではないか。

これから老年期まで、持続できる「生きがい」や「充実感」のある人生を、いったいどうしたら送れるのか。それがこの本で筆者が考えてきたことだ。出した答えは、シンプルに言うと、「上下の話法」から「対等の話法」への切り替え。「目的の価値化」から「行為の価値化」への思考の転換。虚栄心を捨てて謙虚な自尊心に立ち返ること。孤独のなかでは「書くこと」で自分とのつながりをはかり、持続的な自己対話をはかること。

う〜〜、南海ホークス(わたしが常用する難解な事態に陥ったときのツブヤキ)。これらはセカンドライフを送る上での基本的な姿勢である、といわれてもなあ。この本をちゃんと読んでこないと、サッパリわからんでしょう。私はナナメ読みしてきたので、ほぼわからん。わかったのは、孤独のなかでは「書くこと」で自分とのつながりをはかり、持続的な自己対話をはかること、という基本的な姿勢を保てということだった。

しかし、「これとは別にもう一つ強固でゆるぎない、人がよって立てるもの」が必要だという。それは「人生の土台」といってもいいようなもの。結局行きついたのは、セカンドライフの表舞台である「暮らし」だった。日々の生活である。日常こそがメインの世界なのだ。なんかあてが外れた気もするが、それが「人生の初期化」という提案であるらしい。南海ホークス……。(柴田)


●NFCタグシール使ってみたいの続き。LINE送信もできる。帰宅する前、カードにiPhoneをかざせば、「今から帰る」メッセージが送れる。オートメーション自体、場所をトリガーにできるので、使わなくてもいいかもね。

IoTなモノがあれば、それも操作できるよね。電灯とかエアコンとか。かざすだけで、複数のことをやってもらえる。

NFCタグ側に何も書き込めなくても、やれることいっぱいあるんだなぁ。NFCタグシールをそれぞれオートメーションに登録して、違うことを実行するようにし、使う場所に貼っておけば便利そう。続く。(hammer.mule)

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