[5151] 作業スピードがイメージに合わないと苦痛/トンという名の作家

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《焦らずゆっくり描く!》

■グラフィック薄氷大魔王[684]
 作業スピードがイメージに合わないと苦痛
 吉井 宏

■日々の泡[48]
 トンという名の作家
 【彼岸花/里見弴】
 十河 進




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■グラフィック薄氷大魔王[684]
作業スピードがイメージに合わないと苦痛

吉井 宏
https://bn.dgcr.com/archives/20210120110200.html

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ラフとか絵コンテとか、「人に見せるための、ある程度わかりやすく整理された線画」を、ちゃっちゃと描くのがホント苦手。一枚をじっくり描くならそこそこできると思う。しかし、何十枚も残ってて、この先かなり長いとわかってる状態で、冷静にじっくり描くなんて、せっかちの僕には相当むずかしい。

こういう作業を年末年始ずっとやってた。そんなとき、たまたまSNSに流れてきた富岡聡さんのイラストメイキング動画をいくつか見て、ちょっと気がラクになった。


というのは、富岡さんですら、線をいっぱい描いては消したり選択して移動したり、すごい時間をかけて下書きし、さらに同じ線で清書してるんだなあって。本人に聞いたら「液晶タブレット使用で約2時間」とのこと。

他にもYouTubeにいろいろある。

「INAZMA DELIVERY 公式チャンネル」
https://www.youtube.com/channel/UCPLFjLN2Y9tNpR2lt5VObvw/videos


この「じっくり落ち着いて描けない問題」。以前から薄々気がついてたけど、「所要時間や作業スピードがイメージに合わないと非常に苦痛」に関係してる。

大昔、マンガを描いてたとき、やたら時間がかかって苦しかったけど、「石森プロ(手塚プロだったかな)でも一枚の原稿が仕上がるまでに何人もの手を経由し、合計8時間はかかってる」と知ってから気分がラクになった。

日本最高のマンガプロダクションで一枚に8時間もかかるなら、素人が一枚に何日かかろうが当たり前だよね。

絵コンテなんか1コマあたり数10秒で描けるイメージ(間違ったイメージだけどw)。だから、5分もかかるとウンザリしてくる。こんな時間かけてたんじゃいつまでたっても完成しないぞ、って。そうやってウダウダやってると、何も進まないまま平気で一週間くらいたっちゃう。

1コマあたり一時間かけてじっくり描けば、100コマでも一週間できっちり仕上がるのにね。時間かかることを納得した上で、じっくり描けばいいのに。焦らずに時間をかけるほうが、結局時間かからない。

僕の中で「線画イラストってどのくらいのスピードで描くものなのか?」のイメージのルーツは、「テレビで見た、手塚治虫が聴衆を前に、マジックで大きな紙に10秒くらいで鉄腕アトムとかブラックジャックとか描くところ」なんだよなあw そのイメージは特殊ってこと納得しないと。

プロのアニメーターが原画を鉛筆でトレースする動画を見たことがある。線画のプロがシャカシャカどんどん描いていくイメージとぜんぜん違って、じ〜〜っくり、ゆ〜〜っくり描いてた。一日に何枚描けるのか心配になるほどの。

絵具を使ってた頃は一枚に一週間どころか一か月、最高で半年かけて描いてた。しんどいし、すごい時間がかかるのが当たり前だった。ところが、MacとPainterを導入したら、一日とか数時間で描けるようになったときのスピード感といったら!

そういえば、立体制作も「作業時間イメージ錯誤」の塊だな。3日くらいで仕上がりそうなのに、実際やってみると2週間かかったりする。塗装など、CGなら5分で塗り終わるような箇所に丸一日かかったりする「落差」が非常にツライ。

同じ2週間でも、「2か月かかると思ったら2週間で出来た!」ならスピード感が心地いいんだろうなw やっぱイメージが重要。

今年の目標、「焦らずゆっくり描く!」

●渋谷の画材ウエマツのショーウインドウの展示に参加してます。
「渋谷&YouTube 春の呼吸アート展 ~牛とアマビエでコロナを撲滅~」
1月いっぱいやってます。
https://kirasuma.info/20210102_art_1/



【吉井 宏/イラストレーター】
http://www.yoshii.com

http://yoshii-blog.blogspot.com/



◯写研がついに!
「モリサワ OpenTypeフォントの共同開発で株式会社写研と合意」
https://bit.ly/3nXj0xW


「2024年より順次リリース」だそう。えええ! 遅すぎる! いや、それでもちょっとうれしい。僕的には、1992年にMacを導入して「あれ? 写研の書体が売ってないや」と思って以来、32年ぶりに発売されるということかw

◯ところで、NHK「ねほりんぱほりん」でも話題になってた「コタツ記事」。ネットメディアがブログ記事等を量産する必要から激安発注する、取材無しでネット上の他記事を元にコピペを駆使してでっち上げられる「コタツから出ずに完結できる」記事。

……僕が書いてるのと、コタツ記事とどう違うんだ?? って、衝撃を受けたw

もちろんコピペも剽窃もしてないけど、ネットのニュースや記事に対する感想やお手軽レビュー的なものは多いし、取材だってしてないし、仕事部屋のMacの前で完結する記事。

知ったこと、感じたこと・考えたことを文章にまとめるのが好きだから書いてるんだけど、これって自主的に無料でコタツ記事を書いてるようなものなのか??

一応、「作る人」として、何かをやってみたり検証してみたこと、体験したり感じたことを「しつこく何度も自分に取材」して書いてる記事も多いから、それだけはマシなのかもしれんけど……。

○吉井宏デザインのスワロフスキー

・十二支(丑年)OX
https://bit.ly/37gbNEN


・三猿 Three Wise Monkeys
https://bit.ly/2LYOX8X


・幸運の象 LUCKY ELEPHANTS
https://bit.ly/30RQrqV



【吉井 宏/イラストレーター】
http://www.yoshii.com

http://yoshii-blog.blogspot.com/



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■日々の泡[48]
トンという名の作家
【彼岸花/里見弴】

十河 進
https://bn.dgcr.com/archives/20210120110100.html

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小津安二郎監督の作品群の中でとりわけ評価が(世界的にも)高いのは「東京物語」(1953年)であり、続いて「晩春」(1949年)「麦秋」(1951年)と続くのは衆目の一致するところらしい。

ただ、僕は昔から晩年の作品「秋日和」(1960年)や「秋刀魚の味」(1962年)が好きだった。どちらもカラー作品である。小津作品がモノクロームからカラーに変わったのは、「彼岸花」(1958年)からである。

その後、「お早よう」(1959年)「浮草」(1959年)「小早川家の秋」(1961年)を含めて六本だけだ。「浮草」は大映で撮り(名キャメラマン宮川一夫と組んだ)、「小早川家の秋」は東宝作品(森繁が出ている)である。

ある本によると「彼岸花」で大映の山本富士子を借りたので、お返しに「浮草」を監督し、「秋日和」で東宝の司葉子を借りたため「小早川家の秋」を監督したという。スタッフはそれぞれ大映、東宝だったから松竹のスタッフに慣れていた小津は戸惑ったのではないだろうか。

先日、「秋日和」を見ていたら「秋刀魚の味」と共に僕が気に入っている理由がわかった。クスクスと笑える喜劇的なシチュエーションが多いのだ。その場面を担っているキャラクターが岡田茉莉子である。当時の言葉で言えば、「おきゃん」な娘役である。

「彼岸花」は「晩春」の母子版だ。母(原節子)と娘(司葉子)がいて、死んだ父の友人たち(佐分利信、中村伸郎、北竜二)がいる。父の友人たちは会社の重役、大学教授など帝大出のリッチなエリートである。彼らは、友人の娘の司葉子を結婚させようとする。

しかし、母がひとりになるからと結婚を渋る娘の言葉を聞いた佐分利信たちは、母親を再婚させればいいと考え、男やもめの北竜二との再婚を思いつく。それを知った娘は「不潔だわ。汚らしい」と言い出し、母親に反発し親子の仲が怪しくなる。

その経緯を聞いた司葉子と仲のよい同僚(岡田茉莉子)は、佐分利信たちのところに乗り込んで抗議する。勝ち気で、はっきりしていて、言いたいことはキチンと言うキャラクターであり、社会的地位のある中年男たちもタジタジとなる。

「秋刀魚の味」でも、岡田茉莉子は似たようなキャラクターで登場する。岩下志麻の兄(佐田啓二)の妻である。佐田啓二が同僚から譲り受けるつもりで持って帰ったゴルフクラブを、「あんたなんかに贅沢よ」と返品させようとするシーンのおかしさは絶品だ。

当時、松竹の看板女優だった岡田茉莉子は、「『青衣の人』より離愁」「班女」「女舞」「熱愛者」といった、井上靖、円地文子、中村真一郎などの小説の映画化作品で、憂いを秘め、笑顔を見せることなどないヒロインを演じており、その路線は彼女の最高傑作「秋津温泉」(1962年)へと到る。

だから、「秋日和」「秋刀魚の味」の岡田茉莉子のキャラクターは貴重なのである(木下恵介監督の恋愛コメディっぽい「今年の恋」のヒロインのキャラクターが近いけれど、小津作品でのコメディエンヌぶりに比べるとおとなしい)。

さて、「晩春」の原作者が広津和郎であるように、「秋日和」の原作は里見弴である。里見弴は「彼岸花」の原作者でもあるが、鎌倉文士だった里見は小津安二郎とも親しかったし、「早春」(1956年)以降の小津作品のプロデューサー山内静夫は里見の四男だった。

里見弴は本名を山内英夫といい、有島武郎の弟だ。有島家の四男として生まれたが、母方の家を継ぐために山内姓となった。ただし、有島家で他の兄弟姉妹と共に育っている。長男の有島武郎とは十歳違い。有島武郎は大正12年に45歳で波多野秋子と軽井沢で心中した。

僕の持っている文藝春秋社発行「現代日本文学館15」は、「有島武郎・里見弴」集である。僕は日本文学史上重要な位置を占める有島武郎の「或る女」は若い頃に読んだが、里見弴は長く「白樺派の作家ね」とバカにしていた。志賀直哉の小説には里見と思われる人物が登場する。

ところが、「彼岸花」「秋日和」の原作者であることで気になりだし、三十半ばの頃に本棚に並んでいた「有島武郎・里見弴」集を読んでみた。その結果、白樺派というよりは永井荷風に近いのだとわかった。自身の性的放蕩を題材に、私小説的世界を展開していたからだ。

ただ、「彼岸花」を書いたときは70歳。枯れた作風になっていたのだろう。年譜には「昭和33年、小津安二郎らに依頼され、映画化する予定で『彼岸花』を発表」とある。同じく、昭和35年8月には「秋日和」を発表している。

だが、里見弴は1983年に94歳で亡くなるまで、この後、30年近く生きる。兄・武郎の倍以上の人生だった。ちなみに黒澤明監督「羅生門」や溝口健二監督「雨月物語」の名優・森雅之は有島武郎の息子であり、里見弴の甥に当たる。


【そごう・すすむ】
ブログ「映画がなければ----」
http://sogo1951.cocolog-nifty.com/

「映画がなければ生きていけない」シリーズ全6巻発売中
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編集後記(01/20)

●偏屈BOOK案内:出口治明・鹿島茂「世界史に学ぶコロナ時代を生きる知恵」文藝春秋 2020
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文春ブックレット。近ごろ稀に見るお粗末過ぎる装幀である。「カギは昭和おじさんの文化からの脱却にあり」とかいうキャッチフレーズ(?)がオレンジで配され、二人の並ぶ(合成か?)モノクロ写真にもオレンジが被さる。72歳の二人の視線はバラバラで、一人は横目遣いのにやけ顔。ありえない! みっともない。とにかく文字の配列や空間のとり方が、ハンパなく拙劣なのである。

2020年4月、7月、8月「週刊文春」で掲載された3回の対談に大幅な増補を施したものだという。本文はとても読みやすい。新型コロナ対策において、あまり政府を批判してもしょうがない。政府の専門家を信じて、右往左往しないのが一番いいと、二人の意見は一致する。新型コロナウイルスと戦うにあたり、常に参照すべきは、およそ100年前に世界的に大流行したスペイン風邪だという。

日本のスペイン風邪の流行は1918年(大正7年)から1920年まで三波にわたり、死者は関東大震災の10万人強を超える40〜50万人とみられる。最初の感染者はアメリカから出たから、本当はアメリカ風邪だったのに、第一次世界大戦の交戦国はみなこの新型インフルエンザの流行を発表せず、中立国だったスペインでの流行が世界中に報じられ、感染源のように思われ不名誉な名前が歴史に残った。

戦争中の軍隊は、病原菌やウイルスにとっては最大のクラスターになっている。第一次世界大戦の独軍と英米仏軍が塹壕に入って睨み合っていた西部戦線では、両軍とも半数以上がスペイン風邪に感染した。狭い塹壕の中は「究極の三密」だ。どの戦争でも歴史上のパンデミックで病原菌やウイルスの温床となったのは、兵営と刑務所。戦争をしないうちに病気やトリアージ(同時に多数の患者が出た時に、手当ての緊急度に従って優先順をつける)の執行で死者が出た。

スペイン風邪の第二波は名古屋、大阪、兵庫へ。興味深いのは、どの地方でも最初に倒れるのがなぜか郵便局員であること。ウイルスが郵便物で運ばれた? 第一次世界大戦を実質的に終わらせたスペイン風邪とともに、世界史を変えたパンデミックは14世紀のペストだ。中央アジアで発生して、モンゴル帝国滅亡の原因となり、ヨーロッパに蔓延、西ヨーロッパの人口の1/3から1/2が死んだ。

明日死ぬかも知れない状況では、逆に今の人生の「その日を楽しめ」という享楽的な考えからが生まれる。これがルネサンスを準備する。ボッカチョ「デカメロン」にその雰囲気が描かれていて、ペストの症状や伝染の様子も分かる疫学的にも貴重な史料だそうだ。ルネサンスはギリシア・ローマ文明の復興ということになっているが、キリスト教文明との最大の違いは性愛の肯定だ。

そこから近代が始まった。疫病が人間の考え方の根底を変えてしまった。ルネサンスがなければ宗教改革も起こらず、ジョン・ロックもパスカルも、デカルトも生まれなかった。ということは、合理主義も生まれなかった、ということになる。現実問題として、人口が1/3から1/2も減っているのだから、性愛を肯定しないと人類は滅んでしまう。これは自然の摂理でもあるわけだ。

人類全体の集団としての知恵である。性愛の肯定というのも、自分たちで考え出したわけでなく、種としての命令が来ていたのだろう。死亡率と出生率には密接な関係があり、いま日本は少子化で困っているが、出生率が下がるのは死亡率が高いからだ。このあたりは人間全体の種としての思考が働いているのではないか。といったディープで興味深い対話が続き面白いのなんの。装幀がトンデモだから、本文92ページと薄い本だからと、舐めていてすいません。いい意味でトンデモ級の対談本であった。(柴田)


●曇り止めの続き。防汚処理のしてあるレンズなので、バスルームの鏡のように、石けんをつけて曇り止めにすると、防汚効果が薄れるかもしれない。

Amazonで探してみたが、どれがいいのかわからない。レビューを読むと、評価がまちまちなのだ。餅は餅屋だろうと、眼鏡量販店のサイトで検索する。レビューはないが、質の低いものを取り扱うはずはないだろう。

JINSでは『JINS ANTI-FOG(メガネ用くもり止めスプレー)』という、メーカー名つきの商品があった。これは品質に期待できるぞと、近くの店舗の案内を見たら在庫ありになっていたので、買いに行ったら売り切れ。

「少し前まであったんですが、急に売れ始めて……。次はいつ入るかわからないんです。」とのこと。みんな考えることは同じだな。続く。(hammer.mule)

JINS ANTI-FOG(メガネ用くもり止めスプレー)300円
https://www.jins.com/jp/item/C0030.html