[5174] 「Spotifyとセサミストリート」/執念で完成させた大河小説

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《昭和史の裏面にも詳しくなる》

■グラフィック薄氷大魔王[689]
 「Spotifyとセサミストリート」他、小ネタ集
 吉井 宏

■日々の泡[50]
 執念で完成させた大河小説
 【満州国演義/船戸与一】
 十河 進




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■グラフィック薄氷大魔王[689]
「Spotifyとセサミストリート」他、小ネタ集

吉井 宏
https://bn.dgcr.com/archives/20210224110200.html

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●Spotifyとセサミストリートの復活

元iTunesのApple Music、いつからこんなに重くなった? 使い勝手は悪いし、プレイリストに追加したアルバムは、収録曲ごとに分裂して独立したアルバムになってどんどん増殖するし。検索もちゃんと出てこないし。

はっきり言って、Apple Musicで検索するの嫌だし時間もかかる。YouTubeで探すほうがぜんぜん早くてラクっていう……。

そもそも仕事中に音楽もポッドキャストもほとんど聴かなくなったし、Apple Music自体やめちゃって、他配信サービスに乗り換えてもいいかな(この「元iTunes」をなんて呼べばいいのか? からしてホント困る)。

とりあえず、Spotifyを超久しぶりに開いたところ、以前登録したセサミストリートのアルバムが一枚お気に入りにあって、ついでに検索したら大量のセサミストリートのアルバムが配信されてる!

セサミストリートのアルバムって、Apple Music、Spotify、Amazon Musicから完全消滅したんだよ。2018年に。それでしかたなく中古CDを買ったりした。もしかして! と思ったらやはりApple Musicにもセサミストリートが復活してた(Spotifyほど多くはないけど)。

セサミストリートの曲があちこちで消滅した件を書いた回
・グラフィック薄氷大魔王[576]「板タブが苦手な自分のための注意事項」他、小ネタ集
https://bn.dgcr.com/archives/20180829110100.html


たしか、Spotify無料版には時間制限があるのが面倒。調べたら、「一ヶ月あたり15時間の制限」が撤廃されてる! もうSpotifyでいいじゃん!
https://japanese.engadget.com/spotify-060049978.html


●マスキングシートが廃番になるそう

文房堂「廃番のお知らせ」


これ、35年ぶりくらいに思い出した。今までずっと売られてたんだなあと感慨。学生時代〜デザイン事務所でポスターカラーを使う時には重宝した。アクリル絵具の厚塗りと相性が良くなく、剥がした境界部分がベロベロするのが苦手。

密着しすぎてベリベリと紙ごとはがれたこともあったようなw マスキングテープと同じく、ドライヤーで温めながら剥がしたっけ。アクリル絵具のマスキングを温めて剥がすと、ベロベロ具合がひどくなるんだよなあ。冷やして剥がすとスパッときれいな境界。

マスキングシートくらい幅広で低粘着の紙のマスキングがあったな。何だっけか? 教えてもらった。そう、スワンペーパー。一度使ったきりだけど。結局、マスキング苦手。

●ジェットストリーム余談

先週、ジェットストリームボールペンについて書いた時、Wikipediaや開発ストーリーに気づいてなかった。「油性ボールペンの短所をすべてつぶすこと」を目標として開発、2006年に発売とのこと。ボールペンの世界で「ジェットストリーム以前/以後」的な製品だったらしい。へ〜! 知らなかった。

ジェットストリームといえば……。僕的には80年代、デザイン事務所で「間に合わないから、今日は泊まりで作業!」で、午前0時を回るとFMラジオから聞こえてくる、城達也のアレ。「帰れなかった、チクショー」という敗北感といっしょに記憶されてるw


【吉井 宏/イラストレーター】
http://www.yoshii.com

http://yoshii-blog.blogspot.com/


11月後半からやってた仕事が一段落。いろいろストップしてたことを再開。なんかようやく2021年が始まるような気分。

○吉井宏デザインのスワロフスキー

・十二支(丑年)OX
https://bit.ly/37gbNEN



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■日々の泡[50]
執念で完成させた大河小説
【満州国演義/船戸与一】

十河 進
https://bn.dgcr.com/archives/20210224110100.html

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満州国のことを調べる必要があり、参考のために船戸与一「満州国演義」全九巻を一気読みした。

船戸さんは初期作品の「山猫の夏」に感心したが、その後の作品にはなかなかなじめず、完読できたのは一冊くらいで、どちらかと言えば苦手な作家だった。

「山猫の夏」を読んだのは刊行されてすぐのことだったから、もしかしたら三十五年近く前になるだろうか。ダシール・ハメットの影響を強く感じたものだが、後に「チャンドラー読本」に寄稿した文章を読んで、船戸さんがチャンドラーよりハメットを高く評価していることを知った。

さて、「満州国演義」は敷島四兄弟を狂言まわしにして、昭和初期の満州事変の前から書き起こし、日本敗戦後の中国共産党と国民政府との内戦の始まりまでを描いた大河小説だった。昭和初期からほぼ二十年近くにわたる歴史が描かれる。調べるのは大変だっただろう。最終巻の末尾に掲載された参考資料の膨大さに圧倒される。

船戸さんは四兄弟を様々な世界に配置する。長男は外交官で満州の高級官吏となるため、政治的な分野の情報が出せる。次男は十九で満州にわたり馬賊の頭領になり無頼の生活を送るから、その世界が描けるし、三男は関東軍憲兵隊の将校なので軍部の歴史を語ることができる。実在の人物が多く登場し、昭和史の裏面にも詳しくなる。

昭和三年に大規模な左翼狩り(共産党員の大量逮捕)があるのだが、その頃、四男は早稲田に通い左翼劇団に所属して活動している大学生である。彼は波乱に充ちた流転の人生みたいなものを送るのだが、後には満州映画協会にも深くかかわる。戦後、たったひとり生き残り、三男の兄から託された満蒙開拓団の少年を広島の郊外に暮らす祖父の元に届ける。

全九巻はさすがに読み応えがあり、「船戸さん、完成させることができてよかったですね」と言いたくなった。船戸さんには、一度だけ会ったことがある。二〇一二年の早春、目白・椿山荘で行われた内藤陳さんの「お別れの会」のことだった。北方さん、大沢さん、佐々木さんなど、陳さんゆかりの作家たちが大勢集まっていた。

その「お別れの会」で船戸さんの姿を見たある作家は、数日後、ブログに「船戸与一が生きている。びっくり」と書いた。船戸さんは、その数年前にガンであることを公表し、数年の余命だと言っていたからだ。しかし、その夜、船戸さんは元気そうに会場内を歩いていた。三年後、船戸さんは亡くなった。

「お別れの会」の四年前になるのだろうか、二〇〇八年三月の日本冒険小説協会第26回全国大会のことだった。熱海で行われる全国大会には大勢の会員が集まるのだけれど、僕は前年に映画コラム集「映画がなければ生きていけない」で特別賞をいただいた関係で、作家部屋へ通されていた。

その作家部屋でひとりでいると、佐々木譲さんが新潮社の編集者と現れた。そのときの大賞は佐々木さんの大作「警官の血」だったのだ。僕は小説家になったばかりの頃の佐々木さんと酒席を共にしたことが一度だけあり、挨拶の後でそのことを話すと、しばらくして「沖野?」と譲さんは口にした。

沖野さんは僕の大学の先輩たちの芝居仲間で、僕も学生時代に一緒に飲んだりしていたが、大学を出て舞台照明の会社を興していた。その沖野さんが佐々木さんと知り合いで(たぶんゴールデン街つながり?)、大学の先輩の谷合さんが小説を自費出版してパーティを開いたときに佐々木さんを呼んだのだった。

その夜、僕は作家部屋で佐々木譲さんとふたりだけになり、翌朝もしばらくふたりで話をした。そのときに船戸与一さんの話が出たのだ。「船戸さん病気でね、今、書き続けている『満州国演義』を完成させる前に死んだら『譲ちゃん、あと書いてくれないか』と言われた」という。そのとき、初めて僕は船戸さんの病気のことを知った。

その話を聞いて僕は、船戸さんと佐々木さんが仲がいいことがちょっと意外だった。無頼っぽい船戸さんと真面目人間のような佐々木さん。外見から受ける印象は正反対だし、書く作品も何となく正反対の気がする。そのとき佐々木さんは「完成させるまで引き受けてもいいですけど、文体が変わっちゃいますよ」と答えたそうだ。

「満州国演義」を読み続けている間、僕は「ベルリン飛行指令」の文体で書かれていたらどうだろう、と思い続けていた。船戸さんの文体は、文章が短く簡潔で、ハメットのように非情である。ウエットさはなく、乾いた文体だ。佐々木さんの文体もウエットではないけれど、乾いたというより正確無比という感じがする。船戸さんに比べると、どこかに情感を感じるのだ。

さて、「満州国演義」はいろいろ参考になったけれど、僕が読んだ昭和史の文献とは異なる解釈の部分もあった。五味川純平原作・山本薩夫監督の大作「戦争と人間」も満州の雰囲気を知るには役に立つ映画だが、赤い山本監督だから歴史認識が中共やソ連(映画に協力してもらったし)寄りの部分があり、やはり様々な資料に当たらないといけないなと感じたものだった。

ちなみに「戦争と人間」は日本の敗戦までを描く予定だったそうだが、ノモンハン事件で日本軍が敗走するところで終わっている。北大路欣也が演じる五代家の次男が敗残兵として歩いていると、彼を慕い満州まで流れてきて娼婦になっている夏純子が水を与える印象的なラストシーンだ。昭和十四年のノモンハン事件で終わっているのは、製作費が途絶えたからだという。できれば、昭和二十年夏まで描いてほしかった。


【そごう・すすむ】
ブログ「映画がなければ----」
http://sogo1951.cocolog-nifty.com/

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編集後記(02/24)

●偏屈BOOK案内:安野光雅・半藤利一「三国志談義」平凡社 2009
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「三国志」と一概にいうが、実は史書の場合と小説の場合とがある。史書の方は晋代の歴史家・陳寿が書いたもので、「史記」「漢書」「後漢書」に次ぐ四番目に古いものだ。小説の方は羅貫中「三国志演義」である。

演義とは史実に基づきながら、闊達奔放に脚色を施したフィクションという意味だという。この本(対談形式)はできる限り陳寿に則しているが、名場面などは羅貫中の「演義」からも引いている。

三国志が今も人気があるのは、とにかく登場人物のキャラクターが立っているからだ。ゲームにもマンガにもなっている。この対談では「将」について、各人物のさまざまな資質を、「正史」も「演義」も「独断」も「偏見」もミックスして、知将度、優将度、仁将度、政将度にわけて点数をつけている。

知将度とは戦闘にあたって多少インテリジェンスがあった、ということ。優将度とはたいへん勇敢に戦った、ということ。仁将度とは部下に対して人情深いとか、公私があまりないとか、政将度は戦略や謀略が上手いか、ということ。かなりお気楽なおいしい設定だ。

安野のほうが評価は厳しい。合計すると、両者ともトップに立つのは曹操である。2位は関羽、3位は趙雲、以下孫権、劉備、袁紹、張飛と続く。

安野が「曹操はもう少し高くつけようと思いながら『このやろう』ということもあるので(笑)あえて」と言い、「それは若い時『演義』を読んだからですよ」と応じる半藤。彼が最近あらためて思うのは、まず三国志の時代は日本の幕末と似ているということ。どういうことだ?

この時代、後漢の古い権威が崩壊したが、何をもり立てればいいのか、新しい権威ができていない。幕末も同様に幕府が崩壊しても天皇がまだ出て来なくて、次の権威がなかった。

二つ目に、漢代の社会規模や価値観がすべて崩壊して、必然的に道義の退廃をきたした。そして、社会の下積みの名もない連中がぐんぐんと歴史の舞台に乗り出してきたということ。もうひとつ、一般庶民には大迷惑であった。なるほどね。本当に乱世だもの。

曹操は「演義」では蜀を正当なものとするため、相対的に悪玉にされた。「演義」は小説だから、極端な悪玉善玉がいたほうがわかりやすい。「正史」では曹操を絶賛また絶賛。文武両道、知勇兼備のマルチ人間で、人物を見る目が素晴らしい。リーダーシップがあるからいつも陣頭指揮の人。何事も自分一人で決めたという。

半藤は「だからいい武人がたくさん集まる。欠点と言えば、猜疑心がやや強いのと権謀術数の人というか」。安野も「そこに少し溺れている感じがありませんか」と応じる。半藤「最後にもう一つほめておくと、これほど立ち直りが早い人もいません」。たしかに赤壁の戦いのあともそうだった。

さらに曹操は「孫子」も「呉子」も読んでいる。武将ではこの人だけではないか。曹操は孫子の兵法の解説を書いて、おかげで「孫子」が残ったとも言われる。好敵手である諸葛孔明も「智計は人に殊絶して、その用兵は孫呉(孫子と呉子)を髣髴す」とほめている。それほどの人物だったのか。

「演義」でいやというほどほめられたから、劉備くらい悪口言うのが難しい人はいないようだ。半藤がうまいことを言う。「この人は言ってみれば、名家の出だと自称して資本金ゼロで株式会社を興した人。しかも商売のやり方が下手だった(笑)。

それでも会社をつぶさなかったのが不思議です。(略)ふつう、こんなだらしない大将だったら、前途がないと離れていくでしょう。ところがそうはならない。要するに、あの集団は清水次郎長一家だと思うんです」。そうきたか。こんなたとえは初めて聞いたよ。つづく、かも(柴田)


●『ジェットストリーム』聴いてた! 思い出すだけで眠くなる〜。

/作業サポートアプリ『アヴェ・クラシック』続き。立ち上げるとイケメンキャラがいて説明してくれる。私は指揮者らしい。時間を設定し、クラシック音楽をBGMにし(無音にもできる)、スマホの画面を消せと。

ポモドーロアプリのように休憩時間までは設定できないが、とにかく設定した時間中はスマホを触らなかったらキャラとの親密度が上がり、会話やエピソードが増えるらしい。

時間が来ればBGMが消え、通知が来る。そしてキャラが笑顔で褒めてくれたりする。ほほう。でもこれ残念ながら文字だけなんだよね。声が出たらいいのになぁ。設定時間を覚えてくれたらいいのになぁ。あとBGMもフェードアウトしてくれたらいいのになぁ。ブチッと切れる。続く。

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