[5189] ペンタブ形状の不満について/作品と作者

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《あ〜、このメーカーもわかってないんだ》

■グラフィック薄氷大魔王[692]
 ペンタブ形状の不満について
 吉井 宏

■万年思春期[008]
 8話目「作品と作者」
 木村きこり
 



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■グラフィック薄氷大魔王[692]
ペンタブ形状の不満について

吉井 宏
https://bn.dgcr.com/archives/20210317110200.html

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何度か書いてるけど、ペンタブレット(主に板タブ)の不満について。今回はFacebookで「そうそう」と共感してくれる人がいくらかいたので、自信を持って書くw

この記事がきっかけだった。

「元ワコムスタッフらが作ったXencelabsのペンタブが発売」
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1309774.html


「そして競合――名指しはしていないがワコムのことと思われる――がプロ向けペンタブレットの新製品を5年以上も出していないといった不満がユーザーから出ている」

……今の形のIntuos Proの発売は2017年夏なので、5年以上ってことはない。それでも4年近く出してないのは事実だけど。

WACOMの独占状態かというとたぶんそんなことはなく、例えばAmazonで「液タブ」や「板タブ」で検索すると、XP-PEN、HUION、GAOMONなど、他社製品ばかり出てくるくらい、活況ではあるんだけどねw

少なくとも、格安液タブに対抗してWACOMも廉価版液タブをリリースしなきゃいけないくらいには競争状態。まあ、知的財産権を侵さない限り、メーカーが競いあうのはいいこと。

ただ、このXencelabsの製品写真をひと目見て、「あ〜、このメーカーもわかってないんだ」と残念に思った。

フチが狭すぎるし、特に手前の傾斜がダメ。手がずり落ちるんだよ〜! 傾斜面に掌がかかると、描画面とペンの角度が変わってしまって描けない。WACOM製品も同じ問題がある。

左右のフチを狭くして、製品をコンパクトにしたいのは理解できなくもない。しかし、手前の傾斜に何か特別な人間工学的な意味があるのなら、説明してほしい。(手の置き場所問題、まったく気にならないって人も多いから、僕が特殊なのかもしれんけど)

以前のIntuosの幅広の傾斜にくらべれば、現行のIntuos Proは大きな傾斜ではないものの、それでも1.3cmくらい傾斜してるフチがある。この問題を理解してたら、傾斜で1.3cmもムダにするより、平面を1.3cm延長した上でスパッと断ち落とすはず。1.3cmの余裕ってかなり貴重。

僕的には摩擦調整と完全平面の実現の意味で、カッティングマットを乗せてるけど、カッティングマットの厚み3mmはジャマくさい。傾斜とフチの問題がなければ、コピー紙でも敷いておけばOKなのに。

ユーザーの好みに合わせたペンタブ筐体を、ゼロからの開発じゃなく既存のユニットを使って、どんどん作ればいいのにな。ガワだけならリリースしやすいと思うんだけど。

もうひとつ、人間工学的問題。もう普通に不思議とも思われず定着しちゃって久しい件(こちらも個人差大きいけど)。WACOM標準ペンのあの太い「グリップペン」って、ドクターグリップをお手本に作られたそう。

リリース当初からずっと言い続けてるんだけど、ドクターグリップはノートなどに小さい文字をしこたま書くためのボールペン/シャープペンなので、指先を大きく動かせない。絵を描くための形状じゃないと思う。

僕はもっぱら、以前のIntuosペンの流れを汲むClassicペンを使ってる。数年前に「Pro Pen slim」という細身のグリップペンも出たけど、僕的にはまだClassicペンのほうが好き。

Mac内を検索したら、21年前、2000年秋のメールのやりとりに「プロフェッショナルペン」という名前でリリースされたペンについて書いてるな。

「性能は普通のintuosと同じですけど、ゴムのグリップ付きでしっかり持てて疲れないです。ただし、僕には太すぎる~~。UDシリーズの細いペンくらいにしてほしい~~。その点、VAIOに付いてるペンはintuosのより細いので描きやすいです。」だってw

Xencelabsの板タブにはグリップペン的なペンに加え、細いペンも付属してるのが良い。

ただ、こんな意見もあったのね。「初期のIntuosは筆圧強めで描く必要があり、力の入れやすい太めのグリップペンがユーザーからの要望で生まれた」、と。

『プロ待望の細ペン登場 refeia先生が「Pro Pen slim」を試したよ』
https://www.itmedia.co.jp/pcuser/articles/1905/27/news030.html


◯おまけ「Huion Inspiroy KeyDial KD200」

キーボードの左半分がくっついた、小型ペンタブレット。主なキーボードショートカットが使えるようにか、おもしろい。右利き専用ではあるものの。あるいは、キーボード右半分を右側につけてくれてもいいな(フチに関してはほぼ無いがw)。

https://www.huion.com/pen_tablet/InspiroyKeydial/kd200.html



【吉井 宏/イラストレーター】
http://www.yoshii.com

http://yoshii-blog.blogspot.com/


映画「2010年」を36年ぶりに配信で観たんだけど、最も時代感覚が混乱した映画かもしれない。なにしろ、2001年を描いた1969年の映画の続編として作られた、2010年を描く1985年公開の映画を、2021年の今、観たわけで。

1985年の25年後の未来世界が、2021年からは11年前の過去。ロイ・シャイダーがApple IIc(1984年発売)を2010年に使ってるし、ソ連も健在。ずいぶん違った未来に来ちゃったなあw

○吉井宏デザインのスワロフスキー

・十二支(丑年)OX
https://bit.ly/37gbNEN



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■万年思春期[008]
8話目「作品と作者」

木村きこり
https://bn.dgcr.com/archives/20210317110100.html

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実は今月の10日から、「gallery美の舎」という根津にあるギャラリーにて、私は作品を5点、展示させて頂いている。「portrait」展と名付けられたそのグループ展で、私(木村有輝子)を含めた10人の作家が、各々「portrait」について考え描いた意欲作を出している。

http://binosha.jp/exhibition.html


会期は20日まで。絵が売れてほしいと思う気持ちがないわけではないが、何とか展示までに作品を仕上げられたことに、今は胸をなでおろしている。

そんな中、初日に友達が来ると連絡があり、久々に会いたいと思ったのでギャラリーに在廊させてもらった。友達が去った後、ギャラリーでボーッとしていると、今回の展示に参加されている作家の方が一人いらした。

奥からオーナーさんが出てきて、私の絵の前で「この絵を描いた方なんですよ」と紹介して下さったのだが、そこでまた、いつも言われる言葉を聞かされてしまった。

「作品と作者のイメージが違いますね」

色んな人から言われる言葉の一つに、「作品から受ける印象と作者の印象が違う」がある。作品だけを見た人が私のことを想像すると、「髪の毛をトサカに刈り上げピンクに染めた人」などを連想するらしい。要は「パンクな人」だ。

しかし私自身といえば、髪の毛は黒いし、お洒落でありたいと思って服などは選んでいるが、パンクファッションにはあまり興味がないため、そのような服は着ない。だからなのだろうか、絵とイメージが違うと言われる。

だが、絵を描くに至ってもパンクを意識しているわけではない。漫画作品についても、そう思われることが多い。持病である統合失調症についてのエッセイ漫画が出版されているが、知り合いが初めて読む時、「こんな絵柄だとは思わなかった!」と、よくびっくりされる。私はそのような言葉がなんだか腑に落ちない。

だいたい、作品と作者のイメージが合致するとは、どのようなことなのだろうか。そもそも合致させることは難しいと思うし、そうあるべきだとも思わない。人間の中身と外見が違うように、人と人の考え方が違うように、表現は多様だと思うからだ。

作品を創る上での考えや哲学が、外見と合わないことだってよくあることだろう。しかし、人は色んなことを好き勝手に言う。それは仕方がないことだと分かっているのだが、なんだかそのことにムカムカしてしまう。器が小さいと、自分でも思う。

きっとこれから自分の表現を突き詰めていくほど、私自身から受けるイメージと作品は乖離していくのだろう。それでも模索しながら向上心を持ち、前を向いて進んでいくしかない。

その時に何と言われようと、私は私の表現でもって出来た作品を大切にしていきたい。「あなたから受けるイメージと違う」と言われようとも。そんな自戒を込めて、今日も作品を創っていこうと思いながら、ワープロを打つ朝なのでした。それではまた。


【木村きこり】漫画家/美術家
ツイッター:chara_334466
インスタグラム:kikori_k_1112

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統合失調症日記
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編集後記(03/17)

●偏屈BOOK案内:播田安弘「日本史サイエンス」蒙古来襲、秀吉の大返し、戦艦大和の謎に迫る
2020 講談社ブルーバックス
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筆者は長年、造船会社で船の設計に関わる仕事をしてきた。だから、蒙古が大船団を組織して最初に日本を襲った文永の役で、いまも「謎」とされていることについての従来の論証を読んで、「ちょっと待った」と手を上げた。これでは謎はますます深まるばかりだ。そこで、自分で検証してみようと思いたった。

文永の役当時のデータをできるかぎり集め、気象や物理にしたがって分析し、シミュレーションも試みて、一つひとつ「通説」とされていることの真偽を確かめた上で謎解きをしてみた。とりあげるのは、次の3つの謎である。

1・文永の役で圧倒的に優位だった蒙古軍はなぜ一夜で撤退したのか
2・羽柴秀吉の「中国大返し」で2万人集団の220km走破はなぜ成功したのか
3・戦艦大和は本当に時代遅れの「無用の長物」だったのか

1の分析は80ページに及び(2も3も60ページ超)、微に入り細にわたる分析が圧倒的だ。一回目の「文永の役」では、蒙古軍はなぜか進撃の途中で船に撤退した。そんなことをしなければ暴風雨に遭うこともなく、日本侵略に成功していたのではないか。

とすれば、日本にとってこのときが、国家最大の危機だった。なぜ撤退したのか、いまだに結論は出されていない。蒙古撤退の合理的な説明をするために頭を悩ませた歴史家たちは、蒙古軍は台風を警戒して引き返したという「台風説」を採用し、一時はこれが定説になった。

気象学者の荒川秀俊が、元寇の時期には台風は来ないと発表し、やがて台風説は消滅した。蒙古撤退の理由を探す歴史家は、そもそも本格的な侵略戦ではなく「威力偵察説」であったから、戦果はあげたものの深追いはせずに撤退したのだという。

筆者は文永の役を物理と地理・気象をもとに検証した結果、以下のように推定した。これまでいろいろな説を読んできたが、いちばん納得できる。

1)蒙古軍は一日で全軍が上陸できなかった
2)上陸地は博多市街から遠い百道浜だった
3)日本武士団の集団騎馬突撃に進軍を妨げられた
4)想定外の被害が出たため早期の太宰府攻略を断念し、天候急変を警戒して撤退を決定するも、その夜に強い北西風により遭難した。

この本で取り上げられた「蒙古」「秀吉」「大和」は、いずれも国難の時期にあたっている。そして、ものづくりが興した奇跡をみごとに描いている。

筆者は感動させようとして書いているのではない。リアリティの欠如、目的のために最適化されない手段という日本人の問題は、未だ解決していないということを憂えているのだ。(柴田)


●TVerドラマでもう一つ好きだったのが、『夢中さ、きみに。』。これもマンガが原作だった〜。第24回手塚治虫文化賞 短編賞、第23回文化庁メディア芸術祭 マンガ部門 新人賞だって。

読書好きの女子高生がSNSに投稿した読書感想に、同じ本が好きだというメッセージが来る。その人の書き込みは画像が数枚のものばかり。画像は看板などを撮影した文字で、繋げると単語になり、彼女はそれらがしりとりになっていることに気づく。

ここから恋愛物語になるんだけど、この女の子の雰囲気と声と距離感が、いかにも文学好きの女子高生って感じで、見てると私は甘酸っぱい気持ちになるのだ。続く。(hammer.mule)

夢中さ、きみに。
https://www.mbs.jp/muchusa_kimini/


原作マンガ
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4047357189/dgcrcom-22/

2019年8月発刊で、評価1,095。トータル星5(89%)って凄すぎる……
星1は「佐々木倫子そっくり」とのこと。