[5194] 苦手なマスキングを克服したい/国民作家の伝奇小説【吉川英治
── 鳴門秘帖】 ──

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《気になる段差を……》

■グラフィック薄氷大魔王[693]
 苦手なマスキングを克服したい
 吉井 宏

■日々の泡[52]
 国民作家の伝奇小説
 【吉川英治/鳴門秘帖】
 十河 進
 



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■グラフィック薄氷大魔王[693]
苦手なマスキングを克服したい

吉井 宏
https://bn.dgcr.com/archives/20210324110200.html

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マスキングが苦手。段差がイヤ。マスキングテープの断面近くに絵具が溜まって、厚みが変わるのが許せない。ヘタクソな筆塗りの塗り分けのほうが、「味わいがある」と言えるだけマシ。

あと、マスキング切り抜きは一発勝負すぎる。筆塗りなら何度も塗り分けを整えつつ、完璧なカーブにできるのだが、マスキングだと切り抜きのチャンスは一回限り。不器用にギザギザっぽくなってしまう。マスキングを剥がした後は段差があるから、修正すると見苦しくなるし。

とはいえ、面倒な塗り分けをハズキルーペ越しに全部筆描きするのはめちゃくちゃしんどいし、時間かかりすぎる。塗装を「イヤな作業」と思いたくない。

とりあえず、段差を見えなくするには、ニスを厚く塗る手がある。不器用なギザギザは、ゆっくりやれば何とかなる。マスキングに不向きなリキテックスで、マスキング塗装が鑑賞に耐えるものになるのか、テストしてみた。

・厚紙にマスキングして塗り分けテスト
http://www.yoshii.com/dgcr/3dp-IMG_3132

右はリキテックスの保護ニス「ハイグロスバーニッシュ」を一度塗っただけ。左、ファレホのバーニッシュを何度も塗って分厚くしたら、確かに段差が消える! バーニッシュの表面で光が反射するので、下の絵具の反射が目立たなくなる。トップコートを分厚く吹けば大丈夫かも。

・次に、立体に試してみる。普通にマスキングして、リキテックス塗り分け(雑w)。
http://www.yoshii.com/dgcr/3dp-IMG_3126

境界に絵具がたまらないように多少は気をつけても、やはり段差が目立つ。で、細かいスポンジサンドペーパーで、境界の段差を中心に軽く磨いてみると……段差がほとんど気にならなくなった!

リキテックスは粘り気が強くて削りにくいけど、アクリルガッシュを混ぜれば削りやすい。磨いた部分が擦れて白っぽくなってたりするけど、トップコートすれば平気。

以前、ラッカーで同じように段差削りを試したことあったけど、塗膜が薄くてすぐ下地が出てしまい、まったくダメだった。リキテックスの場合、塗膜が分厚いから削っても下地が出ない。もし削りすぎても、ザッと上塗りすればいいし。

・トップコートを吹いてみた。
http://www.yoshii.com/dgcr/3dp-IMG_3139

段差、ほとんど消えた。水性プレミアムトップコートスプレーを、7回くらい吹いた。4回くらいだと、マスキング段差がちょっと浮く。ピンク部分の紫色の汚れは、サンドペーパーした粉を拭き取ったときに染まったもの。本番では修正上塗りするから問題ない。

イケそうだ。

突然、何を始めたのかというと、立体をどんどん作りたいのに、時間がかかりすぎるのが苦痛。筆で塗り分けするこだわりを捨てて、マスキングを取り入れたら、1週間かかる下地作り〜塗装を2〜3日でできるようになるんじゃないか? っていう期待。

他にもいろいろ材料を取り寄せ中。リキテックスの新製品や、画期的なニスなど。


【吉井 宏/イラストレーター】
http://www.yoshii.com

http://yoshii-blog.blogspot.com/


ニスとバーニッシュって、どう違うんだろ? ……Wikipediaによれば、「英語の『Varnish』が日本語に移入される際に『ワニス』と訛り、さらにその語を短縮して『ニス』と呼ばれるようになった。」!!

バーニッシュとワニスとニスは、同じだった!

ワニスは絵画修復で剥がしてたりする油絵を保護するやつで、ニスが工作に使う安いやつ、バーニッシュはその高級なやつ、というイメージだった。知らんかった〜!w

「トップコート」も同じく表面保護の透明塗料。検索すると、主にマニキュアやネイルの上塗り材として出てくる。

○吉井宏デザインのスワロフスキー

・十二支(丑年)OX
https://bit.ly/37gbNEN



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■日々の泡[52]
国民作家の伝奇小説
【吉川英治/鳴門秘帖】

十河 進
https://bn.dgcr.com/archives/20210324110100.html

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九十五歳になる父母がいるので、退職以来六年間、四国高松の実家と千葉の自宅をいったりきたりしているけれど、このところ高松にいる期間が増えている。さすがに父母が衰えてきたのだ。母は要介護1で、先日、父の介護申請をして要介護3に認定された。

昨年は二月の四週間だけ自宅に戻り、六月には義母が亡くなり一ヶ月だけ自宅に戻った。以来、七月からずっと高松にいる。自宅に二ヶ月、高松に十ヶ月という計算だ。高松にいる間は僕が昼食を作り父母と食べ、病院や外出のときに付き添っている。両親は朝食は自分たちで作り、夕食はワタミの宅食にしている。

かみさんとは「遠距離結婚」あるいは「卒婚」状態だが、僕は料理が好きで炊事洗濯なども苦にならないので、実家の裏の借家でのひとり暮らしは、ある意味で快適でもある。訪ねてきた友人が「きれいに住んでるな」と驚き、キッチンに下がっている鍋や調理道具を見て目を丸くする。

そんな生活だが、一昨年十二月には友人夫婦たちと京都で会うことになり、かみさんと京都駅で待ち合わせた。五組の夫婦十人が集まるのだが、そのうち七人が高校の同級生、三人が関学の同級生である。まあ、同窓会みたいなものである。

かみさんは東京駅から新幹線で京都に入るが、僕は高松から京都までの長距離バスで京都駅に向かった。四国の高速道路を通り、鳴門大橋を渡り、淡路島を抜けて明石大橋を渡る。その後、神戸から京都へというコースで、三時間ほどで着く。

高松の中央インターから鳴門まではほぼ一時間。鳴門大橋から下を見ると、怖くなるほどの潮流である。大きな渦が巻いている。エドガー・アラン・ポーの短編を思い出しちょっとゾッとしたが、その後、「鳴門秘帖」というタイトルが頭の中に浮かんできた。

「鳴門秘帖」は、僕にとって謎の物語だった。小学生の頃にマンガで読んだのだが、それはかなり短縮されたダイジェストだったらしく、様々な謎を僕に残した。要するに、幼すぎて理解できないことが多かったのだ。だから、「鳴門秘帖」のことがずっと気になっていた。

中学生のときだと思う。「鳴門秘帖」がテレビの連続ドラマになった。その頃には、僕も「鳴門秘帖」が国民的作家・吉川英治の代表的な伝奇小説だということは知っていた。吉川英治の少年向けの小説「神州天馬峡」が、少年雑誌に絵物語として改めて連載されていた頃だったと思う。

「鳴門秘帖」は、主人公の法月弦之丞が若き高橋悦史だった。姉御タイプのヒロインである見返りお綱は、扇千景(今や自民党の大物政治家)だった。純情お嬢様タイプのヒロインお千絵は評論家・村松剛の妹である村松英子が演じていたと思っていたが、僕の記憶違いであるらしい。

ネットで調べてみたら、「鳴門秘帖」のキャストに扇千景と並んで市川和子の名前が出てきた。市川和子はテレビ時代劇「新選組血風録」で沖田総司(島田順司)の姉の役をやった人だ。市ヶ谷(四谷だったかな)の職人の家の離れで寝ている総司を見舞い、何かと世話を焼く。

さて、僕は半年に及んだその連続時代劇を見て、ようやく「鳴門秘帖」の全容を知ったのだった。それでも、きちんと読まねばならんと決意して、僕は講談社から出ていた吉川英治文庫の「鳴門秘帖」を買った。分厚い文庫本だった。

「鳴門秘帖」を読んで、僕は時代伝奇もののパターンを「鳴門秘帖」が作ったのだと思った。まず、主人公は虚無僧姿で剣の達人。ヒロインはふたり。ひとりは女スリで海千山千だが、純情な心を持ち、ただひたすら主人公に想いを寄せる。もうひとりのお姫様タイプの純情可憐なヒロインは、たいてい主人公と相思相愛になる。

また、悪人の屋敷にいって立ち回りなどをやっていると、悪人が天井から下がっている紐を引く。すると、主人公が立っていた床が割れ、落とし穴に落ちる。主人公には岡っ引きか盗人の町人が子分のようになり、そんな窮地に陥った主人公を救い出す。

「鳴門秘帖」は、阿波の蜂須賀藩の秘密を探るべく潜入した幕府隠密がことごとく行方知れずになることから始まる。隠密の娘であるお千絵のために法月弦之丞が鳴門の渦潮を渡り阿波徳島に潜入し、四国随一の難所である剣山の洞窟に作られた牢に幽閉された隠密を見つけ出す。

一九二六年に新聞連載された時代伝奇小説の嚆矢のような作品だから、昔から何度も映画化されてきた。連載中に人気を博し、さっそくマキノ映画が映画化した。戦後も市川右太衛門や長谷川一夫、鶴田浩二などが映画化している。

僕は知らなかったのだが、三年前にもNHKがBS時代劇で映像化していた。主演は山本耕史だったらしい。九十年以上経っても、テレビドラマ化されるのだから名作なのであろう。今読めば、文章の古くささもかえって味わいがあるかもしれない。


【そごう・すすむ】
ブログ「映画がなければ----」
http://sogo1951.cocolog-nifty.com/

「映画がなければ生きていけない」シリーズ全6巻発売中
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編集後記(03/24)

●偏屈BOOK案内:川北義則「ボケの品格 清く、気高く、いさぎよく」徳間書店 2019
https://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4198650004/dgcrcom-22/


この本は5183号(3/5)でも紹介している。「せっかく認知症になれたのだから」と、ボケ指南の本を書いたというのだが、ホントにご自身で書いているのか。それはわからない。何しろ筆者は84歳だもの。

43のコラムで構成され、それぞれ文末に一言のまとめがある。これが要領よく書かれていて、なかなかいいが、なかなか変なのもある。もちろん、編集者の仕事だろう。その中から、なるほどね〜と思った一言を拾い出してみよう。

・怒りを制御できないボケは悲しい。生の怒りの垂れ流しは、周囲を不快にするだけだ。いつか誰にも相手にされなくなる。……わたし、できます。いまのところ。

・「見ないようにする」ができなくなったらボケが進んでいる証拠。「自分以外のもの」への無遠慮な視線はときに暴力となる。……気をつけよう。

・ボケると「あれ、アレだよ」と言葉を思い出せなくなる。あわててはいけない。間違えるよりは思い出せないほうがいいこともある。……あるある。

・他人への無神経なコメント、詮索をしていないか? 自分の「言葉の暴力」に気付かないボケもある。注意しよう!……ボケる前から、わたしにはそういう傾向にあった。ばかはしななきゃなおらない。

・「ちょっと変ですよ」といわれ、認めなかったり、腹を立てるのは、自分のボケが進んでいると考えたほうがいい。これは思いやりの言葉である。……そう言われてもなあ。言われたくないなあ。

・脳のメンテナンスを怠ると「廃用性萎縮」がどんどん進む。使えるうちは意識的に脳を使うことを忘れてはならない。……なにをえらそうに。

・「終活」よりは好奇心を優先させて生きたほうがいい。「あとを濁す鳥」でもいいではないか。……いい加減なことを言うな。「終活」って言葉も定義も最悪である。抹消すべき言葉といえる。

・「ありがとう」をスマートに言える高齢者は、周りから慕われる。言えない高齢者は周りから疎まれる。……この頃、言えるようになりました。

・無表情、無感動はボケはじめ。笑顔のスイッチをいつでも「ON」に。……してません。

・不機嫌でいて得することはない。心地よいことは引き寄せ、不愉快になりそうなことは極力遠ざけるようにする。……務めてそうしてます。

・怒りは脳の老化が原因。脳のメカニズムを知っておいたほうがいい。……と言われてもなあ。脳のメカニズム? 本文に何と書いてあったかは忘れたが、無茶言うよな〜。メカニズムとやらを学べば、怒りが収まるのか。そんなわけないだろう。

・高齢者が他人の迷惑に気付かないのは、悪いボケ方だ。……確かにその通りだ。

・身につけるものを甘く見てはいけない。生き方、人間関係に深く関わっている。……これは失格だ。つい同じものを着ている。

・「今」を生きることは難しい。過去を振り返らず、未来に幻想を抱かず、ただ今だけに力を振り絞るためには、人間力が求められる。……意味不明。だって、人間力って何よ?

・「老人力」という言葉の本来の意味は、老いて力が衰えることを意識的にアピールすること。命名者の赤瀬川源平氏がそう喝破している。さすがである。……さすがであります。

・新聞は毎日「楽しく脳を使う」にはもってこい! いろいろな情報に触れることで、ボケ対策に有効である。……私と妻はしっかり読んでいるが、いい歳になった息子も娘も、新聞を購読していない。だめだ、こりゃ。

・認知症である人と、そうでない人とのはっきりした区別などない。……そうだろうねえ。若い頃からわたしは「へんなひと」と言われ続けてきた。(柴田)


●同じだったなんて!

/東京オリンピックの外国人観客の受け入れ断念のニュースを見た。開催は強行するだろうけど、観客は制限しそうだなぁと、昨年に思ってはいた。

観戦チケットを持っていた。ホテルや新幹線の予約などの手続きや、新型コロナのこの時期の移動や滞在はしんどそうで断念し、払い戻しをしていた。

当選した時は嬉しかったんだよ〜。東京近郊在住なら観戦すると思う。今年の夏は涼しいといいなぁ。

2025年大阪・関西万博はどうなるんだろう。あと1〜2年で世界中にワクチンが行き渡り、薬が開発されますように。(hammer.mule)