ブックガイド/「基本 日本語活字見本集成 OpenType版」

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豊かな日本語組版のための見本帳決定版。640ページの大ボリュームで日本語
OpenTypeフォント18社1650書体を収録。本邦初の書体分類試案にもとづく多彩
な組見本で掲載。丁寧で詳細な技術・用語解説も完備。すべてのデザイナー、
編集者、出版関係者必携の綜合見本帳です。

……という本。とにかく大きい、厚い、重い。225(横)×296(縦)×34(厚さ)、640ページ、一部2色刷り、ソフトカバー、重量約1900グラム。電話帳かい? と言いたくなるボリュームである。この本、わたしも編集に参加したから内輪誉めっぽくなるが、ちょっと内容を紹介したい。


タイトルが、「フォント」ではなく「活字」という理由はなにか。ふつう活字というと金属書体を思い浮かべるが、いまでは写植書体やデジタルフォントを含めて「活字」と総称するのが適切である。活字の条件は、一字種一字形であって、どこに使われようとも何回使われようとも字形は同じであること。そして組み替え自由であること。この二点が基本条件である。というわけで、今後は「活字」と呼びたいという気持ちを込めたものである。

さて、640ページの約8割が活字の見本集である。それならこういうやり方が考えられる。デザインの仕様を設けて、メーカーに仕様通りに組んでもらう。さらにアウトラインデータ化してもらい、それをネットで送ってもらう。編集はそのデータを、スタイル別、メーカー別などに編集して配置していく。この方法は以下の点で安全である。メーカー自身がつくったデータだから間違いがない。アウトラインデータだから、文字が化けたりする危険性がない。ずいぶんメーカーに依存してしまうが、メーカーも宣伝になることだからよろこんで協力してくれるはずだ。

ところが、この本ではその方法はとらない。メーカーの協力も得て、すべてのフォントを入手している(1社1グループをのぞく。このふたつ分は簡単な数文字サンプルを掲載)。だいたい1,400ものフォントが、この本の構成・組版担当の向井裕一さんのG5に格納されたわけだ。実際に文字組みしたときの体裁が一目でわかる、というのが最大の特長であるから、この本では本当にすべてを向井さんが(ひとりで!)組んでいるのだ。

各書体のデザインがよくわかるように、ほぼすべての活字で、両仮名(清音)のすべて、漢字20数文字、約物10種程度を32〜40Qで掲載している(かな書体は漢字はない)。さらに、和文に英数字もまじった280字〜300字程のサンプル組版が、サイズをいくつか変えて、縦組み、横組みで掲載されている。とくに基本書体である明朝体、角ゴシック体、丸ゴシック体、ミックスタイプのパートでは、これでもかというくらいつめこまれているのは圧巻である。

向井さんによれば、「これでもページが足りなかったのですべての太さ(ウエイト)の組見本の掲載はあきらめて、一部の太さに的を絞ってできるだけたくさんのサイズを掲載できるように務めました。基本書体では『本文』での使用が予想される太さを中心に組んでいます」とのこと。実際に組まれた状態を比較対照するのが容易であり、使い勝手が非常にいい。

もちろん、伝統書体、ファンシー書体、ニュースタイル、学参書体においても同様で、書体デザインや組んだときの体裁がよくわかる見せ方になっている。だから、ユーザーの好みにもよるが、いい書体、よくない書体がはっきりとわかる。とても使えそうにない書体がある一方、いままであまり知られていない書体で意外にいい組版ができるものもある。とにかく、文字を扱う人、文字が好きな人なら見ていて飽きないだろう。

活字の見本以外の記事も充実している。巻頭は、小宮山博史さんによる「日本語書体の分類」である。これは、いままで誰もやらなかった試みである。その分類にしたがって、この本は構成されている。また、60ページほどを使った「デジタル活字の基礎知識」(小形克宏さんと直井靖さん)では、OpenTypeの機能と仕組みの解説、デジタル活字を理解するための基本用語の解説、Adobe-Japan1-5の詳解などが納められている。

しかも、その本文までも組見本になっているという徹底したつくりなのだ。たとえば、「日本語書体の分類」では、本文がイワタ明朝体オールド、モトヤ明朝2、A1明朝、本明朝- L、リュウミンR-KO(漢字はリュウミンR-KL)、ヒラギノ明朝Pro W2、小塚明朝 Pro R、S明朝ハード W3、FOT-筑紫明朝Pro R、游明朝体Std M、築地体前期五号仮名(漢字はリュウミン R-KL)などで組まれた本文が次々と出てくる。キャプションも同様に、色々な書体が試されている。

巻末は、書体名一覧、メーカー別活字一覧で、ここから各書体の本文掲載ページとリンクしている。また商品情報、販売形態、連絡先などの情報もここにある。これにより、日本語OpenTypeフォントの全体像を鳥瞰することができるわけだ。

活字なんかどれを使っても同じだとか、差がわからないというデザイナーは、ぜひこの本を見て欲しい。美しい活字を選んで、美しい日本語組版を目指してもらいたい。PDF入稿により、かつてのように、最終出力の現場に同じフォントがないから、デザインの現場で好きなフォントを使えないということはなくなったのだから。しかも、フォントは驚くほど安価である。以上、もちろん、OS X、OpenType環境での話。(柴田)

【目次】
・書体分類一覧
・日本語書体の分類……小宮山博史
・活字・組み見本
 基本書体/伝統書体/ファンシー書体(装飾書体)/ニュースタイル/学参
 書体
・デジタル活字の基礎知識……小形克宏・直井靖
・Adobe-Japan1−5 Character Collection for CID Keyed Fonts
 ……解説・直井靖
・メーカー別活字一覧
・書体名一覧

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誠文堂新光社 定価4,410円(税込み)
< http://www.idea-mag.com/cgi-bin/book/catalog.cgi?language=jp&item=021 >

※写真で見る「「基本 日本語活字見本集成 OpenType版」
< http://www.dgcr.com/kiji/20070423/ >