気になるデザイン[44]紙でしかできないことっておもしろい!/津田淳子

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前回のコラムで、私が編集している『デザインのひきだし10』で凸版・活版印刷の特集をしている、ということを書かせていただきました。活版印刷の現状をご存知の方は、「名刺やカードとか、小さいものだけ、活版でやってるんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、いえいえ、そうじゃないんです。実は今書店で売られている本や雑誌の中にも、実は凸版や活版印刷されているものはあるんです。

その代表格と言えば、週刊マンガ雑誌。全部ではないですが、かなりの割合で凸版で刷られています。「活版輪転機」という、ロールになっている紙を使って、大量部数刷る場合に使われる印刷機はまだまだ大手印刷会社でたくさん使われていて、今でも毎日24時間、せっせと樹脂凸版を使って、マンガが刷られています(デザインのひきだし10ではその現場取材もしてますので、よろしければ立ち読みしてみてください!)。

でも、「活版輪転機」は、大量に刷るマンガ雑誌に使われているために残っているけど、一気に何十万、いや百万部以上刷る場合しか使えないんでしょ? と思われると思いますが、確かに活版輪転機(略して活輪=かつりん)はあまり少ない部数だと採算が合わないですが、平台(枚葉)の活版印刷機を使って刷られている本もまだまだあります。



例えば『この国のかたち』(司馬遼太郎著/文藝春秋刊)という本。これはもう15年以上前に出版されたもので、現在は文庫本も出ているのだが、ハードカバーの単行本もいまだに出版されて続けている(すばらしい!)。文庫本版の本文はオフセット印刷なのだが、単行本版の本文は樹脂凸版!

別にオフセット/活版・凸版、どちらがいいか、なんていう対立軸で話すことではないのですが(だって、どちらにもそれぞれのいい面があるのだから)、この壮大な考察が書かれた本には、個人的には活版・凸版の本文の方が、似合っているなと思う。試しに両方とも読んでみましたが、なんか受け取る内容とか本に対する自分の感じ方が違う気がしました。

他にもカバーに活版・凸版が使われていたり、詩集や句集の雑誌や単行本では、活字による活版印刷が残っていたりと、書店でもまだ少しそうした本を見かけることがあります。ほとんどの人にとってはオフセット印刷と活版印刷の本文ページの違いは「ほんのささやかなこと」だと思いますが、この「ささやかなこと」は、実は人の意識下に働きかける力は、予想以上に大きいんじゃないかな、なんて思っています。

「電子書籍」の話題を耳にしない日はないくらいの毎日ですが、そんな中で本をつくっている者として、紙の本をつくるのなら、「どうしてこの本は紙に印刷した本にする必要があるのか」ということを、自分自身で毎回しっかりと考えて、きちんと意味があるからつくる。そうしていかないとダメだなと常々思っています。紙の本をつくる、という理由のひとつに、前述したような「ささやかなこと」も入ってくるのだと思っています。

そうそう、紙でなきゃできないこととして、今回の『デザインのひきだし10』には、ちょっとおもしろい別冊付録がついています。その名も「スパイ・ノート」。スパイ活動に必要なアイテムを5つ綴じ込んでいるスペシャルノートなんですが(笑)、これこそ「紙」でなきゃ味わえないおもしろさを存分に味わっていただけると思います。

水に溶けて情報を敵に伝えない「秘密メモ」
筆記用具がなくてもコインで書ける「SOSメモ」
水の中でも破れず読める「どこでもメモ」
敵を欺く「変装用タトゥシール」
これでキミも今日からスパイ「スパイライセンス」

こんなものが入っています。「......ば、ばかばかしい!」と思わず、まあちょっと見てみて下さい。実際にやってみると、予想以上に心が沸き立ちますから(笑)!

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp
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