気になるデザイン[93]鈴木久美さんのお仕事
── 津田淳子 ──

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私は書店で気になるブックデザインの本があると、それがどんな内容の本でも買ってしまうという悪癖を持っている訳ですが、そうして買った本には、変わった造本や印刷加工のものが結構多くある。

やはり、自分が『デザインのひきだし』というデザイン・印刷・紙・加工に関する本をつくっているということもあって、そういう本は「資料だし!」と自分の心に言い聞かせて、より財布のひもが緩くなるという傾向があるようだ。

でも、造本自体は一般的なものでも、そこに刷られたタイトルや絵柄、選ばれた紙など、その佇まいがすてきで買ってしまう本もたくさんある。

今回ご紹介する本も後者タイプの本で、カバーに刷られた装画が、どうにもどうにも気になって、書店で三度目に出会ったとき、ついに購入してしまった。

それが『はだかんぼうたち』(江國香織著/角川書店刊/1500円)。ブックデザインは鈴木久美さん(角川書店装丁室)。
< http://www.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=201002000127
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< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4041104106/dgcrcom-22/
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とにかくこの装画のかわいさたるやっ! キジトラの猫が、首に王子様が付けるような蛇腹の襟をつけ、二本足ですっくと立ち、手(前足っていうのかしら)には赤ワインを持っている。

そんな堂々たる姿なのに、猫のお腹は一部、毛刈りがされて、そこには大きなガーゼの絆創膏......。何かけんかして怪我した後なのか、もしくはおできでもできて薬塗られたのか、とにかく間抜けなお腹をしているのだ。

裸の王様じゃないけど、立派ぶってるのに実は間抜け。そんな猫の絵は、この『はだかんぼうたち』のために描かれた絵ではなく、元々ありものだったそうですが、本書を読んだ後、「なんてぴったりな......」と思ってしまう絵でした。主人公を含め、登場人物の長編恋愛小説なのですが、どの人たちも「はだかんぼう」で恋愛に突き抜けて行く様が、この猫に通じるようで。

最初は、単にこの装画のかわいさで買った本でしたが、読んでみると、この猫のかわいさだけでなく、本書にぴったりな装画・装丁に、改めて「うん」とうなずくのでした(なんか私えらそうだな......)。

ちなみに、この本の装丁をされた鈴木久美さんは、今年の3月で角川書店を辞めた。というか、角川書店装丁室が解散となったのだ。

いつも気になり、何冊も鈴木さんの装丁された本をジャケ買いしてきたので、その話を聞いたときはすごく寂しい気持ちになりましたが、鈴木さんは来月から新しい会社でまた装丁を続けていく、という話を聞いて、「おお、そうなれば私も装丁をお願いできるではないか!」と、現金にもうれしくなったのでした。鈴木久美さんのこれからの仕事に、また目が離せないです!

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp  twitter: @tsudajunko

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デザインのひきだし・制作日記 < http://dhikidashi.exblog.jp/
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