気になるデザイン[54]やっぱり「紙」は、やめられぬ。
── 津田淳子 ──

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知らぬ間に1月も後半に突入し、なんだか夢を見ているような気分です......。今年初めての当番ですので、ご挨拶をば。

昨年は、原稿を何度か落としてしまったのが、大きな反省です。今年は休まず書かせていただきたいと思いますので、おつきあいのほど、どうぞよろしくお願い致します(こんなことを書いたらいいのに、とか、聞いてみたいことなどあれば、メールくださいませ)

年末年始は、2月頭発売予定の『デザインのひきだし12』の締め切りに追われ、久方ぶりに70時間以上寝ないで過ごす、などという日々でした。そんな中で書いた、ひきだしの編集後記が、我ながら思っていることを短くまとめられたと思うので、少々加筆して、みなさまにもお読み頂ければと思う次第です。



昨年、今年と「電子書籍についてどう思うか」「紙の本だからこそできることってなんでしょう?」といった取材のお話をいくつかいただいた。そんな中で一貫してお話ししたことは「電子書籍vs紙の書籍」とは、思ったこともないということ。

私は本誌を始め、デザイン関連書籍をつくっているわけですが、それは「電子書籍に負けないように」と思ってつくっているわけではない(「内容を伝えるために、紙の本としてつくるのが、今一番いい形態か」ということは考えます、もちろん)。というのも、私にとって「電子書籍」は、なんというか、ゲームや映画をつくるというように、媒体として別の世界のもののように感じているからです。

人によっては、それは同じ世界のことで、アウトプットする形態が違うだけ、という考えもあるでしょう。でも私にとっては、その「アウトプット形態」が重要で、そこが「紙の本である」ということに、無上の喜びを感じているんです。まあ、簡単に言うと、紙の本、印刷物が好きなんで、それを、より良くつくれるために役立つ本をつくっていきたい。そんな感じです。



逆に言えば、今ある電子書籍は、たとえば紙の本をめくるかのようなインターフェイスがありますが(近い未来になくなっているでしょうが)、従来の本を基に電子書籍を考えると、あんな風になるんでしょうねぇ。でも紙の本を基にせず、「小説を読む」ということに一番適した電子書籍のインターフェイスはどんなものかを考えてデザインすると、電子書籍ならではの良さが出てくるんじゃないでしょうか。

私が唯一、電子書籍に対して否定的なことを言うとすれば、電子書籍の可能性を追求し、それで新しい本をつくっていこう、ということに積極的になれない、ということでしょうか。それより紙の本の可能性を追求する方がおもしろいので。

アウトプットする形態によって、できること、できないことが違うわけで、そのアウトプット形態の特性を知って、できうる限り、その本の内容にふさわしいものにしていく、ということは、それが紙の本であっても電子書籍であっても、またWebや他の形態であっても、みんな同じことなんですよね......。

私のことを「紙原理主義」みたいに思われているかもしれませんが、そんなこともなくて、編集者がゲームを企画したりもするように、電子書籍でやってみたいことがでてくれば、やってみようと思う。でも今のところは、伝えたいことが伝わるメディアは、紙の本、印刷されたもの以上にはないなぁ、といったところです。



私はいつもあまり難しいことを考えず、心の趣くままにのうのうと生きているので、「好きだ」とか「こうしたいんだ!」という単純な思いで動いていることが大半です。紙や印刷物が好きだ、本は紙の本をめくって読むのがおもしろいんだ。そう思う心は、しばらくは変わりそうにないので、今年も紙や印刷物がもっともっとおもしろくなるような本を、つくっていきたいと思います。

どうぞよろしくお願い致します。

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp  twitter: @tsudajunko

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