電子書籍に前向きになろうと考える出版社[02]デジタルクリエイターの商売の狙い目/沢辺 均

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日本雑誌協会が、以下の実験を行っている。
(1)発売同日電子雑誌配信(紙の雑誌を電子化して同じ発売日に販売サイトで公開する)実験
(2)アクセシビリティ(読み上げへの対応)実験
(3)海外配信(翻訳して海外版を配信する)実験
2月1日から数百人のモニターに利用してもらう予定だ。

この実験で、紙の雑誌のためのデータ=inDesignファイルから、PDFとタグ付きテキストをつくるサポートを、深沢英次さん(元「ワイアード」日本版のテクニカルディレクター兼副編集長・@pictex)と一緒にやっている。

ネットワークは出版サイドの人間も使っているわけだし、電子書籍・雑誌はいやおうなく近づいてくるから、出版を生業とするならこれらに対応できるようにしなければならない(もちろん紙は絶対に生き残るという信念があるなら対応する必要はないだろうけどね)。

そういう状況だから雑協が実験をしている。そのサポートをしていて、私が今考える出版業の最大の弱点は、デザイン+DTPの作業がすべて外部にまかされている、ということだ。一部の出版社を除いて。



第一に、inDesignファイルのデータを開くことが難しい。アプリ=inDesignがない/あっても、フォント環境をデザイナーやオペレーターや印刷所と同じにするのが大変。ご存知のように、紙の雑誌をつくる過程で、何度か校正=赤字を入れて、それをinDesignに反映させる。最終の原稿はinDesignファイルでしかないのだ。だからinDesignファイルを開けなければ、最終原稿のデジタルデータを手元におけない。

第二に、全て外部に任せているところがほとんどなので、inDesignファイルのこと、そこからPDFにするための準備などのノウハウが一部の人を除いて社内でわかる人がいない。inDesignファイルからPDFファイルにするのも、フォントの埋め込み、埋め込めるフォントのフォーマットから、画像のことなど、必要な条件や、その知識も外部にある場合が多いようだ。これでは、電子雑誌をつくろうと言っても、また外部に依存せざる得ない。

第三に、DTP工程のほぼすべてを外部に依存しているので、そのデータの所有権があいまいなまま。つまり最終の文字原稿や、写真・イラストのデータが出版社側には保存されていないということ。印刷所に「現物」のデータがあるが、出版社がいつでも電子化に向けて利用する状態にはないのだ(筆者/カメラマン/イラストレーターとの著作物利用の権利をめぐる問題は除いておく)。

出版業界紙に弁護士が、フィルム→刷版時代のフィルムの所有権は印刷所だという判例があると書いていたのを読んだ記憶があるけど、それが本当だとしたら、データだって印刷所のものという裁判結果になる可能性が高い。まあ、印刷所がデータをどういう状態で保存しているのかは薮のなかで、今は私にはよくわからない。

「なんちゃってPDF」という、全部アウトラインをかけたPDFで印刷をするって話をしてくれた人がいたし、実際に、実験のためのテストで提供されたPDFのなかにそのようなものがあった。

アップルがiPadを下請け工場に投げてつくれるのは、ハードウエアもつくっていた時代に、つくるノウハウ(徹底した設計図・指示書をつくる)があってそれが残っていたからだ、という見方があるということをある人から聞いた。日本のメーカーは工場の現場が優秀なので、少々不都合がある設計図でも工夫してつくれる。それが逆に、設計などの部門がちょっといい加減でも製品をつくれる理由だ、という話だった。

編集者やデザイナーの指示がいい加減でも、印刷所の現場が気をきかせてリッパな印刷物にしてくれている、禁則を知らなくても写植オペレーターが、そこをふまえてちゃんと印字してくれる、って話とパラレルじゃないか。

ネットワークと、電子書籍・雑誌が登場してこなければそれでよかったんだと思う。だけれど、もうそれでは持たないだろう。電子をつかった新しい「カタチ」を生み出すためには。

そんでもって、デジタルクリエイターの話。私は、出版社の人に向かっては「制作部隊を社内に持たないと、再利用やデジタルでの活用ができない」と言っているのだけど、デジタルクリエイターが相手なら、出版社に代わってデータの保管や、デジタルデータの活用のノウハウをキチッと持ってしまうのがいいと思うよ、と言いたい。

そのためには、inDesignの段落スタイルをちゃんとアテておくとか、いまさらCIDフォントはないでしょうとか、イラレでページつくるのはヤメなきゃまずいんじゃないとか、ってところから、入稿用PDFまでつくらなきゃ、などなどと思うのです。

そこらあたりにデジタルクリエイターの商売のネタがあるんじゃないかって思う、今日この頃。

【沢辺 均/ポット出版代表】twittreは @sawabekin
< http://www.pot.co.jp/ >(問合せフォームあります)
ポット出版(出版業)とスタジオ・ポット(デザイン/編集制作請負)をやってます。
版元ドットコム(書籍データ発信の出版社団体)の一員。
NPOげんきな図書館(公共図書館運営受託)に参加。
おやじバンドでギター(年とってから始めた)。
日本語書籍の全文検索一部表示のジャパニーズ・ブックダムが当面の目標。

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アーカイブやtogetterもあります。
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パーソナリティ:沢辺均(ポット出版/Twitter:@sawabekin)