電子書籍に前向きになろうと考える出版社[22]緊デジ事業で中間交換フォーマットを見送ったことについて
── 沢辺 均 ──

投稿:  著者:


「緊デジ事業」というのがある。経済産業省の補助金事業で、中小出版社が電子書籍を制作する際に、その制作費の1/2、東北関連の出版社の本・東北関連の内容の本の場合は2/3を補助するもの。そして、その制作をできるだけ東北でおこなうことを条件としている。僕はそのフォーマット策定などに関わっている。

緊デジとは(緊デジ.jp)
< http://www.kindigi.jp/about/
>




●緊デジでの電子書籍フォーマット

フォーマットは、フィックス型とリフロー型の2種類で、フィックス型ではドットブック+XMDF+EPUB3、リフロー型ではドットブック+XMDFで制作することにした。

それぞれ、今後別なフォーマットへの変換用の作業ファイル一式(アーカイブ用中間作業ファイル)と、実際に配信するためのビルドした電子書籍ファイル(配信用電子書籍ファイル)の制作をすることにした。

電子書籍制作仕様書の確定版を公開しました(緊デジ.jp)
< http://www.kindigi.jp/info/20120510a/
>

第一次素案の段階では、リフロー型の作業用ファイルとして、中間交換フォーマットでの制作を依頼して納品してもらうことにしていたが、最終的にはドットブックとXMDFのソースファイルであるTTXと記述ファイル(XMDFのソースファイル)にした。中間交換フォーマットでの保存をやめたわけだ。

そもそも、アーカイブ用のファイルも配信用とは別にわざわざ保存することにしたのは、今後の新しいフォーマットへの変換を視野に入れたからだ。その新しいフォーマットというのは、もちろんEPUB3に他ならない。

EPUB3はその日本語版の基準の合意が形成されていないし、電子書籍書店での採用は進んでおらず、ビュアーでの対応も数少ない。しかし、いずれこうした問題は各社の努力で解消されて利用が拡大することは、ほぼ間違えないだろうと思う。だから、EPUB3への変換の準備は、この段階で必要なことである。

●中間交換フォーマットの採用を見送った理由

採用を見送ったイチバン大きな理由は、実際の制作経験が電子書籍制作現場になかったことだ。そのため、制作各社での作業ワークフロー構築が困難だと判断した。これは、第一次素案の段階でもわかっていて当たり前のことだったのだから、まったく僕の見通しが甘かったとしか言いようがない。

また、ツールなどがなくて、制作現場では一括置換などをそれぞれが準備するなど、多くの手間がかかることになり、それは必然的にコスト増を招く。実際に、制作会社からは「中間交換フォーマットを制作するためのツールなどはないのか?」といった問合せが寄せられたりした。

横道にはいってしまうけれど、「三省デジ懇」では基準策定や調査研究が多くて、実際にその成果を生かすための後始末が足りないように思う。この中間交換フォーマットでは、ツールの作成公開までサポートして欲しかった。

●中間交換フォーマットが果たした役割

ところで、こうした検討をしてきたことで、改めて中間交換フォーマットの果たした役割を確認することができた。一つ目は、中間交換フォーマット策定が行われたことによって、ドットブックとXMDFの仕様がなかば「公開」されたことだと思う。

たとえば、ドットブックの仕様自体は公開されていない。ネット上を検索すれば、ドットブックの仕様が貼付けられているサイトを見つけることができる。これを利用して個人的にドットブックを作ることはできるだろうが、あくまで「個人的につかう」だけである。

もちろん、ボイジャーとサポート契約をすれば仕様書などを一式提供されるので、入手も難しくないわけだ。だが、たんにドットブックを制作するために利用することはともかく、たとえばドットブックとXMDFの交換ツールをつくるって商売するには、あらためて両社と契約しなおす必要がある。この仕様は、ドットブックとXMDFとの間で変換するための利用を前提に提供されるわけではないからだ。

中間交換フォーマット策定という場に、ボイジャー、シャープ両者がつくことによって、変換のための仕様交換が実現した。これが、中間交換フォーマットの果たした第一の役割だ。

二つ目がより重要だと思うのだが、ドットブックだけができること/ドットブックもXMDFもできること/XMDFだけができること、が明確に整理されたことだ。実際「ドットブックもXMDFもできること」がイチバン多いわけだが、やはりそれぞれでしかできないことは残る。

「ドットブックだけができること」と「XMDFだけができること」があるということは、それを修正しない限り変換は終了しない。で、このことはEPUB3への変換を想定した場合に、同じことがおきるということだ。

単純にいえば、「ドットブックもXMDFもできること」の範囲であれば、ドットブックとXMDFからEPUB3への変換がかなり問題なくできる。汎用性のあるファイルであるからだ。

よく、「紙の本で実現してきた体裁すべてを電子書籍に求めるべきではない、別なものなのだから」といった意見を聞くことがある。基本的には僕もそれに同感である。「ドットブックだけができること」と「XMDFだけができること」は、紙の本で実現してきた体裁を電子書籍に求めた(求めすぎた)場合であることが多い。

今回の緊デジの仕様で、中間交換フォーマットを採用することができれば(採用する環境が整っていれば、あるいは整えられれば)、EPUB3へ問題なく変換できるであろう「ドットブックでもXMDFでもできること」で、多くの保存用ファイルを制作できたと思う。

そのことを先送りしてしまったのが、今回の中間交換フォーマットでの保存用ファイル制作をあきらめたことの意味することだと考えている。

【沢辺 均/ポット出版代表】twitterは @sawabekin
< http://www.pot.co.jp/
>(問合せフォームあります)

ポット出版(出版業)とスタジオ・ポット(デザイン/編集制作請負)をやってます。版元ドットコム(書籍データ発信の出版社団体)の一員。NPOげんきな図書館(公共図書館運営受託)に参加。おやじバンドでギター(年とってから始めた)。日本語書籍の全文検索一部表示のジャパニーズ・ブックダムが当面の目標。