電子書籍に前向きになろうと考える出版社[16]アマゾンで電子書籍を売ってもらうとしたら
── 沢辺 均 ──

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アマゾンで電子書籍を売ってもらうとしたら、どんな契約をしたいんだろうか、オレ......。

ネットでは、アマゾンの契約内容が明らかにされたりしててにぎわってる。イチバン具体的なのは『「こんなの論外だ!」アマゾンの契約書に激怒する出版社員 国内130社に電子書籍化を迫る』かな?
< http://news.livedoor.com/article/detail/5977004/
>

それについて思うところを何点か書いておくことにする。

「共通の書面で契約を迫っている」って完全に狂ってるでしょう。ここまで予断をもって書くライターの気が知れない(安藤健二〈BLOGOS編集部〉っていう人らしいけどね)。

だって、郵送で、契約書と、契約して下さいって案内文くらいじゃないの? 送られたのは。郵便で送るなんてこと、取次だってするよ。たとえば、東北大地震の書店店頭にあって津波かぶった本の返品を、現物ないけど、マイナスで受け入れてってのも、郵送で来たよ(メール便だったかもしれないけどね)。それをよんでだれも「取次が書面でマイナス返品を迫っている」って書かないものね。

それとも案内状がついてなかったとかなのか?



「10月31日までに返答せよ」ってほんとうにそう書いてあったのかな? せめて「10月31日までに返答してください」くらいにはなってたんじゃないの?

いやもし本当にそう書いてあったのなら、この疑問は撤回するけど。
なんで、こういう話になっちゃうのかな?

契約なんだから、納得できなければ契約しなけりゃいいだけの話じゃない。その程度は、本当に各社の意思を自由に決められるんじゃない? アマゾンの書籍の市場占有率は(ボクの理解では)せいぜい10%前後じゃない?

その程度の占有にアタマを押さえつけられるほど、不自由なのか? 日本の出版社。もし、10%前後でもアタマを押さえ込まれるんなら、日販やトーハンなんかにはすべて言いなりになるしかないじゃん。

で、じゃ我が社(ポット出版)はどういう契約がいいのかなー、って想像してみた。以下は、ほんとうにこれでアマゾンに契約を「迫る」なら、もう一度良く考え直すし、独禁法とかもちゃんと調べねばいかんけど。

まず基本は、アマゾンへの販売金額の考え方。希望小売価格×70%(実は80%がいいけどね)か、○○円という方式のどちらかがいいのかと思う、我が社的には。いずれにしても、販売金額は固定だな。

もし、販売価格をアマゾンが下げたとしても、まあしょうがないか? って思う。そのかわり、あまりに低すぎる販売価格で売るようなら、アマゾンへの販売は中止すればいい。いや、その前に、交渉はしますよ、もちろん。

値引き販売の話でなく、正味=45%という出版社の取り分の話がいいとか悪いとかになってるけど、こりゃ低すぎるだろ、って思う。

第一に、コンテンツそのものをつくるより、ダウンロード販売するほうが全然コスト安いでしょ、って思う。

第二に、これアメリカってのの基準のような気がしてならない。ポット出版の本で日本語の横にすべて英文を対訳にして並べたことがあって、それをアメリカの書店に売ろうとしたときのこと。「定価」の50%位のことを平気で言われた。でもアメリカって「定価」ってないでしょ。希望小売価格しか。

で、そのメーカーの希望小売価格に20%とかなんとかの割引して売るらしいから、50%って言っても書店からいえば、80%で売って、30%くらいの粗利を出したいって話なんだかからしょうがないか? って思ったんだ。日本の書店と取次って30%ちょいってのがその取り分だしね。

「カスタマー対応のために、データを返却しない」って話はちょっとすぐに解決不可能だな。なにせ、今の著者との契約って基本的に期限のある契約なんだ。これを実現させるとしたら、著作権(財産権のほう)を買い取るしか思いつかない。うーん、ただちにそういう契約にするのって、無理じゃないかな?

アマゾンは実際ポット出版に契約書を送ってきてないし、ネットに書かれてることが本当かもわからないけど、万一本当だとしたら、アマゾンが焦りすぎてるのか、日本の市場なんてどうでもいいと思っているのか、これを機会に日本の書籍市場に革命を起こそうとしてるか、くらいにちょっとクビをかしげる契約ではある。

ここ数年のアマゾンって、日本の書籍市場のありように対して、原則(考え方)を保ちつつも折り合えるポイントを探そうって感じに見えてたんだけど、それってオレの勘違いなのかな?

PS 出版デジタル機構(仮称)って株式会社を20社でつくることに合意。
ときどきサイトも見て下さい。
< http://www.shuppan-d.info/
>

【沢辺 均/ポット出版代表】twitterは @sawabekin
< http://www.pot.co.jp/
>(問合せフォームあります)

ポット出版(出版業)とスタジオ・ポット(デザイン/編集制作請負)をやってます。版元ドットコム(書籍データ発信の出版社団体)の一員。NPOげんきな図書館(公共図書館運営受託)に参加。おやじバンドでギター(年とってから始めた)。日本語書籍の全文検索一部表示のジャパニーズ・ブックダムが当面の目標。