気になるデザイン[62]朝日出版社の二冊の本にノックアウト/津田淳子

投稿:  著者:  読了時間:5分(本文:約2,400文字)


昨日は、とある紙の加工会社に行ってきました。その会社は、折りと製本を得意としています。機械自体はさほど他社と変わったものがあるわけではないけど、その使い方、組み合わせ方を多種多様に工夫することで、「これ、機械で折ってるの?」「どうやってつくってるの?」と、驚かされるものをたくさんつくっていました。その機械を熟知し、使い方がよければ、すごいポテンシャルを発揮するものなんですね。勉強になりました。

さて、こうして紙や印刷に関する工場にお邪魔する毎日ですが、そんな中で気になるデザインの本を二冊ご紹介します。

まず一冊目は、『社会は絶えず夢を見ている』(大澤真幸著/朝日出版社/1800円+税)。ブックデザインは鈴木成一デザイン室。
< http://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255005836/ >
< http://asahi2nd.blogspot.com/2011/04/ohsawa01-311-311-311-311-311-311.html >

これは残念ながらWebサイトで画像を見ても、その良さは全然伝わらないと思います。ぜひ書店店頭で実物を見ていただきたい本です。



というのも、カバーに表された美しい模様は、印刷ではなく、半透明になっていてなおかつ部分部分、ピカッと光沢のある表現。そこから表紙の渋いオレンジが少し透け出ているのです。書店店頭で見たときに、これは紙で作られた本なのだろうかと、少し躊躇してしまうような美しく不思議な質感を醸し出しています。

実はこれ、カバーにOKフロートという、熱と圧をかけると半透明化するという特殊な紙を使っていて、そこにこの模様が加熱型押しされているわけなのですが、でもそれだけだと、型押しした部分はこんなにピカッとしないはず......。

と、疑問に思っていたところ、この加工を手掛けたコスモテックという箔押し会社の青木さんに、答えを教えてもらいました。OKフロートにマットPP貼りをして、そのあとで加熱型押しをしているそう(マットPP貼りとは、マットな質感のポリプロピレンフィルムを紙に貼り合わせる、本のカバーなどによく行なわれる加工)そのPPフィルムが加熱型押しの熱で溶けて、ピカッとしたグロス感を出しているんですね。いやぁ、おもしろい。

カバーはもちろんですが、本をめくると、薄めの黄色い本扉が現れ、居住まいを正す感じがして、これまたいいアクセントになっています。内容は私にはちょっと難しめでしたが、それでもちゃんと最後まで読むことができました。

ちなみにAmazon上から入れる文芸サイト「マトグロッソ」で、ブックデザイナーの鈴木成一さんが、「鈴木成一 装丁を語る。」という連載をされていて、先々週の連載でこの本の装丁について書かれていました(もう消えてしまっていて読めないのですが......)。その連載によると、カバーの絵柄は童話で有名なアンデルセンが1864年に自身で作った切り絵とのこと。こんな切り絵をつくっていたのかと、それにも驚きました。

そして、OKフロートとの挌闘(というか、印刷会社との挌闘?)について書かれていました(最初、頼んでいた印刷会社ではうまくいかず、さんざん探しまわってコスモテックと出会った、という話です)。このコラム、新しいものがアップされるとバックナンバーが消えてしまうので(私の探し方が悪いだけ?)、みなさんに読んでいただけないのが残念......。

今回の二冊目は『新編 チョウはなぜ飛ぶか』(日高敏隆著/海野和男写真/朝日出版社/1900円+税)ブックデザインは祖父江慎さん、吉岡秀典さん(コズフィッシュ)。
< http://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255005843/ >

これも、本書の良さは実物を見てもらわないと......(まあ、このコラムで紹介する本は、すべてそうなんですが)。

なんといってもカバーの写真がいい!(同じ写真だけど、表紙の写真はもっといい!) このチョウの飛ぶ姿と息を合わせるように配された、帯の惹句のレイアウトがまたすばらしい。なんとも躍動感あるカバーで、つい手に取ってしまいました。

そして手に取って気になったのが、あれ? 帯が部分的にピカッとしてる......。よくみてみると、帯には斜めの太いストライプでニスが塗られています。そして本を開くと、見返しも扉も、本文の写真が入らない一部分にも、同じようにニスでピカッとストライプが。

印刷加工好きの私としては、こうした細かいギミックに心惹かれるんですが、でもこの本の一番の素晴らしさは、やっぱり写真の美しさではないでしょうか。ガッツリ、インキが乗って、迫力満点の写真が刷られています。89ページの写真なんか、なんたる立体感。うーん、すばらしいなぁ。

この本は、著者も写真家ももともと好きな上に、こんなすばらしいブックデザインと印刷。もう買わない訳にはいかない! という、完璧な一冊なのでした。

と、ここまで書いてはたと気づいたのですが、今回はどちらも朝日出版社の本でした。こうしたうっとりさせられる本づくり、私もしたいものです。ふぅ。

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp  twitter: @tsudajunko
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