境界線の歩き方[08]kawaiiを世界に/出渕亮一朗

投稿:  著者:  読了時間:8分(本文:約3,800文字)


今回もまたまた「踊ってみた」ネタです。

ニコニコ動画を紹介している、ある英語サイトのチャンネル登録者を調査してみた。2011/9/26 23:46現在、登録者数10,008人だが、一日50人以上のペースで増え続け、見ているうちにもどんどん増えている急成長サイトだ。

調査方法は、チャンネル登録者のマイチャンネルを初めから、自己紹介写真がある人を100名選んで調べてみた。写真は自身でも絵でもなんでもよいのだが、これがない人は情報があまりない傾向にあるのではずした。人数は%にあたり、実際はその100倍いると考えられる。



まず年齢は、
10〜14(6人)15〜19(40人)20〜24(13人)30〜39(2人)40〜49(3人)不明(32人)、12〜24歳の間で17歳をピークに正規分布を描いた。最年少はアキバアイドルになりたいという12歳のアメリカの女の子。

性別は、男性(16人)女性(51人)不明(33人)、性別を表示する欄はないのだが、写真を載せている、自身の写っているムービーをアップしている、自己紹介文で述べているで判断した。その他、英語でも女性特有の書き方があり、(顔文字XDを多用とか)チャンネルの雰囲気で女性と判断されるものは女性にした。

次に国籍を多い順に、
アメリカ合衆国(23人)カナダ(9人)ドイツ(9人)日本(7人)イギリス(6人)スペイン(4人)メキシコ(4人)スウェーデン(3人)イタリア(3人)フィリピン(3人)不明(7人)その他。

1〜2人の国は、台湾、ベトナム、サウジアラビア、シンガポール、韓国、マレーシア、ロシア、オランダ、オーストラリア、ポルトガル、アイルランド、アルゼンチン、チリ、ブラジル、ベネズエラとなっている。

趣味は複数チェックありで多い順に、
ANIME(39人)ダンス(28人)J-POP(20人)VOCALOID(17人)MANGA(11人)K-POP(10人)コスプレ(7人)ゲーム(7人)楽器一般(6人)日本語(3人)だ。最後のものは日本語を勉強していたり、日本語のvlog(video log)をアップしている人だ。

そして、自分自身の「踊ってみた」映像をアップしている人は14人だった。全員女性、カウントしていなかったが、たぶんイギリスが一番多かったと思う。

こういった動画をチェックしているのは、日本ではおたくな男性と思われているフシがあるが、海外では17歳位を中心とした女の子が圧倒的に多いという事実を確認できた。

何度も書いてきたように、今現在、踊ってみたダンス映像やVOCALOID、J-POP、Manga、Animeといったサブカルチャーが海外のティーンエイジャーに浸透しつつあるようだ。ちょうど30年以上前、イギリスのパンクムーブメントや、アメリカのブラックカルチャーが世界中の若者に浸透していったように。

あるヨーロッパの女の子の書き込み:「外でダンスの練習していたら、オバチャンに『なんでそんな中国の音楽聞いてるの』って言われた。大人はアジアっていったらみんな中国だと思っているんだから!」

その時の大人がちょっと眉をしかめる、あるいは理解に苦しむものは、とんがった若者が飛びつくサブカルチャーの必要条件である。

こうした女の子の間でkawaiiという言葉が飛び交う。ちなみに、「かわいい」の英訳はcuteが浮かぶところだが、一番近いものは「adorable」のようだ。こういったサイトの書き込みで学んだ。

一般的に欧米で目指される女性像は「beautiful」なのだろうと思う。ミスユニバースのような感じだ。記憶に新しいところによると、世界陸上の棒高跳びのあの女王や、走り幅跳びのあの女性選手みたいな感じだろう。

しかし、もちろん誰もかれもそういう訳ではない。そこにkawaiiという別の価値観が現れた。ある種の女の子たちに、「そうか、私はbeautifulじゃないかもしれないけれど、kawaiiだったんだ!」と賛同を得ているのかもしれない。実際、「踊ってみた」映像を投稿している女の子はかわいい感じの人が多いようだ。

かわいいとは身も蓋もなくいうと、哺乳動物において親が子供を守り育てるように起こさせる感覚で、大きな目や大きな頭、つたない動きとかにかわいさを感じるのだ。

しかし踊ってみたを見ていて、ダンスにおいては意外というかあたりまえの法則を見つけた。それは、かわいい≒笑顔である。

この30年間、ダンスといえばHip Hopかそれを基本としたものを指していた。笑顔で楽しく踊るという基本をみんな忘れていたようだ。マイケルジャクソンが笑顔で踊るところは想像できない。そもそも、これらはバトルというブラックカルチャーから生まれたものであり、つまり踊ることは戦いだったからだ。だから皆、挑戦的かすました顔とかで踊ってきた。

にゃんたろというダンサーは、ポッピングやアニメーションの即興ダンスを笑顔で踊る。これはかなりのインパクトである。男性で彼以外にこのジャンルを笑顔で踊る人を見たことがない。ダンスは練習すればうまくなる。しかし笑顔で踊れるというのはまさに天性のものだ。できる人にはなんでもないことだが、なかなかできない人には練習しても難しいと感じる。

kawaii男の子は今のところ日本特有のもののようだ。踊ってみた動画を海外に紹介するサイトで、例えば、海辺で一人でずぶぬれになりながら踊っている男の子を見て、「なんでここオランダには彼みたいな男の子がいないのかしら」みたいなつぶやきがある。おお日本男子モテてるねと思うけど、言われた本人はだぶん気づいていないだろう。

内輪で盛り上がっているつもりが、実はガラス張りで外から見られていていろいろ言われているけど、その言葉は相手に届いていないという構図だ。だいたい、20歳前後では自分を思い出してみても、英語はなんか小難しいもので、英語サイトの書き込みを読む人もそういないだろうし。

まあ、海外から注目されているよとか言われるとええっと恐縮してしまうか、逆に天狗になりすぎるかのどっちかの人も多いので、この微妙な関係性がちょうどよいのかもしれない。

あるデパートの食器売り場にて、女の子たちが「かわいー」と黄色い声をあげていた。そこには猫とか動物を模したカラフルな食器が並んでいた。周りを見回すと95%は普通の無機質な食器だ。かわいい食器の値段は倍以上。彼女たちはそれを買うことはないだろう。

考えてみると、人類の半分は女性でたぶんかわいいもの好き、男性にも隠れかわいい好きが多いはずなので、世界の少なくとも半分の人はかわいいもの好きなはずである。だとしたら、ニーズに答えてかわいいデザインのものがもっと世界に溢れていていいのではないか? そうならないのは彼女たちがサイレントマジョリティだからであろう。

ニーズは確実にあるのだから、例えば大学で「kawaiiデザイン学科」みたいなのを設立して、かわいいデザインとはなにか? みたいなのを研究してもいいのではと思う。

そうしたら、世界はもっと、きゃりーぱみゅぱみゅみたいになっていくのかな? まあ、そうはならないだろう。なぜならkawaiiは永遠のサブカルチャーだから。

参考:

【にゃんたろ】A Song I'd Like To Sing うたうたいのうた踊ってみた【第十
弾】
< >
アニメーションダンスを笑顔で踊るのは、他には名前は忘れたけど、あの「軟体少女」がいますね。

【わた】Gravity=Reality踊ってみたた。【夏】 ニコ動
< >
笑顔のかわいい女性ダンサーはたくさんいますが、今回はわたさんを代表で選んでみました。

きゃりーぱみゅぱみゅ - PONPONPON
< >
おなじみの動画。海外で非常に評判がよい。

World is mine Miku Hatsune 39's Giving Day live concert HD with
English/ Japanese sub
< >
USAでのトヨタのCMに使われた初音ミクのライブ。ちょっと目を離しているうちにこんなに進んでいたんだって、初めて見たとき正直感動した。

Kawaii Computer Animations vol.1
< >
私が以前担当したある美大のVGの授業での課題作品集。作者は全員女性です。課題の評価は普通に完成度、技術力、アイデア・オリジナリティで採点していたのだが、数年後に見直した時に、彼女たちは別の基準で作っていたのではないかと気づいた。それは「かわいい」だ。試しにその基準で選んでみてちょっとまとめてみたものです。

【出渕亮一朗】ryoichiro.debuchi(a)gmail.com
コンピューターグラフィックス、インタラクティブアート分野のアーティストグラフィックス分野のプログラマー
< http://www.debuchi.com >