気になるデザイン[76]触ってドキッ、見てドキッとした二冊の本/津田淳子

投稿:  著者:  読了時間:6分(本文:約2,600文字)


同じように思っている方も多いと思うのですが、私は気に入った書店というか、いい本に出会える書店というのがいくつかある。それは大書店ばかりでなく小さな書店でも。お店のスペースが小さければ置ける本の数も限られてくるのに、どうもいい本に出会える。そんなお店には、ついふらふらと鴨葱状態で立ち寄ってしまいます。

この前の日曜日、所用があって(後述します!)大阪に行き、時間があったので、以前から行ってみたかった「スタンダードブックストア心斎橋」という書店へ伺いました。

ここは「本屋ですが、ベストセラーはおいてません。」という刺激的なコピーが忘れられない本屋さん。お店の中は、見たことのない本がいろいろあり、非常におもしろく、その後仕事だというのにまた本を買い込みました。こうした「意思のある」本屋さんは、本当にすばらしいですね。




さて、そんな書店通いの毎日のなかで目にした、気になるブックデザインの本をご紹介。まず一冊目は『田中慎弥の掌劇場』(田中慎弥著/毎日新聞社刊/1,260円)ブックデザインはAlbireo。
< http://books.mainichi.co.jp/2012/04/post-6534.html >

この本は、書店で手に取ったときに違和感が、もう気になってしょうがない。私の少ない語彙で伝えるのは難しいのだが、ヌメっとゴムのような引っかかりのある質感。手が本に吸い付くような独特の感じがします。

真っ黒いに白と黄色の文字のみで構成されたカバー/帯ともに同じ質感。触った人なら誰しも「なんだこれは!?」と思うことでしょう。

これはカバー、帯ともに、通常の白いコート紙に墨と黄色を刷り、その上から「ベルベットPP」というフィルムをラミネート加工してある(実は最初触ったときは「スカッフフリーマット」というフィルムを貼ってあるのかと思ったが、少し別のフィルムのようでした)。

このフィルムは、ヌメッとした独特の質感がおもしろいのはもちろんなのですが、私がそれ以上にすばらしいと思う点が、「傷がつきにくい」というところです。

本書のカバー(と帯)は文字以外のところがすべて真っ黒。通常、こうした真っ黒い印刷や紙の上にマットPP加工をすると、爪でちょっと触ったりするだけで、すぐに傷がつき目立ってしまいます。そうなるとカバーを交換して......という無駄な作業が多くなってしまいがちですが、このフィルムは傷がつきにくい(目立ちにくい)ので、その心配が軽減される。

「怖ろしい。あり得ない。しかも美しい─。あらゆる感情が味わえる37篇の掌の小説」という内容に合った「ヌメッとしたあり得ない質感」を実現し、かつ機能的にも配慮された加工。いやー、すばらしいデザインだと思いました。

そしてもう一冊は、うって変わってタレント・優香さんの写真集『優香グラビア 特装版』(著:優香/写真:菅野ぱんだ/講談社/3,675円)ブックデザインはえぐちりかさん。
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062176491/dgcrcom-22/ >

正直、グラビア写真集に興味はあまりないのですが、非常に大胆な写真トリミングに驚き、かつ特装版は、表紙にドンと載っているフリフリのパンツのひもが、片側だけ本物のリボンになっており、それをピーッと引いてほどいて本を開くというしかけ。

そして、本書と同時に『優香ボディー』という著者のエクササイズやダイエット中の食事日記、レシピ集などが掲載された本が発売されている。こちらの本は著者のバスト部分の写真がカバーに使われていて、先ほどの『優香グラビア』と並べると、体が繋がるというしかけになっている。
< http://www.asahi.com/photonews/gallery/yuka_gravure_041212/cover.html >

私の好みのブックデザインとは言い難いものの、やはりこの大胆な写真の使い方にはドキッとさせられたので、今回ご紹介しました。

さて、最初に書いた「所用で大阪に行った」ということについて、ちょっと書かせてください。大阪の梅田に「MARUZEN&ジュンク堂書店 梅田店」という大きな書店があり、その7階のイベントスペースで「『デザインのひきだし』の押し入れ展」という展示が昨日から始まっています。その搬入で日曜日夕方に伺っていたという次第でした。

この展示は、過日、東京の青山ブックセンターで開催した展示の巡回で、『デザインのひきだし』創刊5周年の感謝のしるし(といえるか微妙ではありますが......)として、今までのさまざまな印刷加工の試作や校正、使った型などを展示しています。東京よりスペースが広いこともあって、今回初披露のものも展示しています。

5月12日(土)まで開催していますので、お近くに行かれた際にはぜひご覧ください。

●「『デザインのひきだし』の押し入れ」展
場所:MARUZEN&ジュンク堂書店 梅田店 7Fイベントスペース
日時:2012年4月23日(月)〜5月12日(土)無休
   10時〜22時(最終日は撤収のため15時頃まで)
※もちろん無料です。自由にお持ち帰りいただけるおみやげも用意して置いてありますので、ぜひお持ち帰りください。

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp twitter: @tsudajunko

デザインのひきだし・制作日記 < http://dhikidashi.exblog.jp/ >

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