気になるデザイン[77]やっぱり特殊印刷が好き/津田淳子

投稿:  著者:  読了時間:6分(本文:約2,600文字)


先週は、引っかかっていた本がようやく校了し、2か月ぶりくらいに書店をなめ回すように、心置きなく時間をかけられる至福のときが続いています。うふ。

そんな中、もうたまっていたストレスを発散するがごとく本を買いまくっていますが、そうして買った本から気になるブックデザインの本を二冊、今日もご紹介します。

120522_102229.jpg一冊目は『悲鳴伝』(西尾維新著/講談社/1300円+税)
カバー&表紙デザインは坂野公一さん(welle design)、ブックデザインは熊谷博人さん、釜津典之さん。
< http://www.bookclub.kodansha.co.jp/kodansha-novels/1204/nisioisin/ >

新書なのに、なんて贅沢なカバーなの!!! 最初見たときに、もう驚きました。カバーのベースは白、そこにシルバーの線がランダムに走り、タイトルはレッドメタリックの箔。そのタイトルはもちろん、著者名や他の文字などもすべてエンボス加工が施され、とにかく「力入ってる!」というパワーみなぎるカバーなのです。

私の文章じゃ伝わらないので(開き直り)、写真も付けてみました。このタイトルや著者名のぷっくり感、すてきです。




通常、こうした銀や他のメタリック色がいろいろ使われているカバーは、ベースの紙にメタリックペーパーを使い、銀や他のメタリック色に見せたいところだけを抜きにして、あとは白で潰し、上から色を乗せる、という方法でつくられることがほとんどだと思うのですが、この本は違う。

カバーの紙自体は、普通の白い紙。そこに「コールドフォイル」もしくは「インラインフォイル」などと呼ばれる加工を施すことで、銀や赤いメタリックを表現しているのだ。

このコールドフォイル、聞いたことがない方も多いと思いますが、オフセット印刷機で箔押しもできるという、なんともすごい加工。簡単に言うと、オフセット印刷機で糊を印刷し、そこに箔のシートを重ね、剥がす。すると糊がある部分だけ箔が残り、その後そこにCMYKなどの色を重ねて刷ることができるという技術。

普通の箔押しが、高熱で押すのに対して、こちらは熱はかからず糊で付けるということから「コールドフォイル」と呼ばれたり、オフセット印刷機の中で(専用の箔ユニットがついている印刷機じゃないとできないけど)箔が加工できるということで「インラインフォイル」と呼ばれたりしている。

5年くらい前から日本でも加工され始め、箔の上から印刷ができる。それも(色数次第ではあるものの)箔+色印刷が一度でできてしまうということで、今までの箔押しとは違った表現ができると、業界では話題になった。

ただ、従来の箔押しと違って、コールドフォイルは物理的に「押す」わけではないので、光沢感や平滑さは、従来の箔押しとは違った感じになる。

と、熱く加工を説明してしまったが、とにかく、銀と赤メタリックを同時の表現し、かつ白い部分は紙白のまま。その差が際立ち、パキッとソリッドなカバー。その上、細かなエンボス加工が(見当精度がすごいなぁ)スキなく入って、いやぁ、「生きることは戦いだ」というカバーに入ったキャッチコピーの世界観を、さらに高めている感じがめちゃくちゃ伝わってきます。うーむ、いい!

今回のもう一冊は、『三等星のスピカ』(イシノアヤ著/講談社/590円+税)装丁は吉永祐介さん(solla inc.)。
< http://kc.kodansha.co.jp/content/top.php/1000005902 >

先ほどの『悲鳴伝』とは真逆と言っていい本書のカバー。茶色い包装用紙(未晒クラフト紙)にマンガのコマが刷られたシンプルなビジュアル。でも、ここに装丁者のこだわりががんがんに見える。

ベースの紙が茶色なので、白を表現するには印刷で白を刷る必要がある。通常、オフセット印刷で白を刷ると、かなーりささやかな白しかでない。そこで、予算とか技術的な壁とかと戦いながら、できるだけ二度、できればそれ以上、白を刷り重ねて、白さアップさせたい、と思うのがデザイナーの常。でも、だいたいは予算と技術のハードルの前に、二度刷りできればいい方、という結果になる。

でも本書、確かめたわけじゃないけど、二度刷りではない。最低でも三度、それも通常の油性オフセット印刷ではなく、インキを紫外線を当てて乾かすUVオフセット印刷で白を刷り重ねているはず(一般的に、UVオフセットの方が、白が濃くなる傾向が強い)。

その刷り重ねのお陰で、まるでスクリーン印刷したかのような見事な白が表現されているのだ。

このカバーを見たとき、「おお、同志よ!」と思ってしまった。というのも、来月初旬に発売する『デザインのひきだし16』という、私が編集している本で、この白インキをさまざまにテストした特集「白オペークを極める」という記事を掲載しているのだ。

刷り重ねると本当に驚くべき白を表現できたりして、でもそれには技術の壁もあったりと、本当に「研究」と言えるような数か月間だったので、その後このカバーを書店で見つけたときは、感慨一入でした。この装丁家の方に、一度お目にかかってみたい。

というわけで、今回は、特殊印刷加工がされた本が目についた週でした。どちらもすっごくいいので、みなさんも書店に行かれた際には、ぜひ実物を見てみてくださいませ。

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp  twitter: @tsudajunko
デザインのひきだし・制作日記 < http://dhikidashi.exblog.jp/ >

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