気になるデザイン[81]変わったスピンに胸キュンの二冊/津田淳子

投稿:  著者:  読了時間:5分(本文:約2,400文字)


本のカバーも表紙も、本文の質感も書体も、あらゆるところに興味を持って、いつも書店店頭で本をじろじろ見、すりすり触って、いいブックデザインに出会うとニヤリ、そそくさ本を買い込んでいる訳ですが、本のパーツの中で特に溺愛している部分がある。それが「小口」と「スピン」だ。

小口というのは、本の断裁面のことで、その部分に印刷がされていたり、ちょっとした仕掛けで絵や文字が見えたり、また箔押しされていたりと、何か装飾がなされていると、もうキュンとしてしまう。小口好きが高じて、仕事で編集している『デザインのひきだし14』では「小口の美」と題して特集までしてしまった。

スピンは、本についているしおり紐のこと。ちょっと横道にそれるが、なんで「スピン」っていうのかと調べてみたが、定説となる語源は見当たらず。背骨のことを「SPINE」と綴ることから、背に貼付けるしおり紐なのでスピンと呼ぶとか、英語の「SPIN」が「繊維を紡いで糸にする、蜘蛛の巣を張る、カイコが糸を吐く」などという意味の動詞で、そこから由来しているのでは......? などと書かれているものも見受けられたが、どれも定かではない。

閑話休題。そのスピン、通常は艶のある薄っぺらいぴらぴらの紐が使われる。これはあまり厚いものや丸い麻ひものようなものを使うと、本に挟んでいるときに紙に後がついてしまうなどの理由から、非常に薄っぺらいものが使われているのだ。

通常は、スピン専用の薄い紐が一本、本についているが、中には非常に変わったスピンを持った本もある。そのひとつが、『愛だからいいのよ』(内田春菊著/講談社)。ブックデザインは野田凪さん。
< http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062114011/dgcrcom-22/ >




この本、カバー正面には、著者である内田春菊さんのアップの写真がつかわれている。そしてその髪の毛の色に合わせたスピンがついているのだが、その本数が尋常じゃない。なんと20本! 一冊にですよっ!!

まるで本から髪の毛が生えているような、ホントに変わった本なのですが、驚くのはこれだけではない。なんとこの本、内容は同じもので、装丁違いのものが全部で4種類あるのだ。

先ほどのURLで書影を見ると、カバー写真の内田春菊さんの髪の毛は黒。スピンもそれに合わせて黒いものが20本ついている。だがそれ以外に、ブラウン、ブロンド、ホワイトと、髪の毛の色がそれぞれ違う写真がカバーに使われ、スピンもその髪の色に合わせたものが。

聞くところによると、ブロンズは、既存のスピンにはない色のため、白いスピンをブロンズに染めたそう。うひゃー! すごい手間ひま。

もうここまでやれば、文句なし。本文は一言一句同じですが、もちろん4冊とも買いました。それにしてもこの本、もう10年も前に出た本だったんですね。発売当時に喜び勇んで4冊とも買い、それ以来、本棚にしまい込んでしまっているが、非常なるインパクトの本だったので、実物を取り出してこなくても、仕様をこんな風にホントによく覚えている。

もう一冊、スピンの変わったものをご紹介するが、これは前述した本と違って、いまでも毎月のように新刊がでて、書店に並んでいる文庫本。えー! 文庫本にスピンがついてるのって、新潮文庫だけじゃないの!? と言う人は、文庫通! 

以前は確かに新潮文庫だけだったが、最近は他社のものでもいくつかついているものがある。またまた横道にそれるが、どうして文庫についているものが少ないかというと、実はスピンは、基本的には上製本(ハードカバー)につけるもので、文庫本などの並製本は、通常の製法ではスピンはつけられないのだ。

本は製本され、最後に「化粧断ち」といって、背以外の三方を断裁して、きれいに仕上げる。そのとき、スピンがついていると一緒に断たれてしまうのだ。上製本は一度本体を化粧断ちしたあと、ハードカバー部分をくっつけるため、その時にスピンを入れることができる。

こうした文庫本などの並製本にスピンをつける際は、最後の化粧断ち時に天地小口の三方を断裁するのではなく、スピンがついている天部分は断裁せず、他の二方だけ断裁して仕上げるのだ。

とまあ、前置きが長くなったが、文庫本にスピンがついているというだけでも胸キュンなのに、そのスピンが通常のものではなく、細いブルーのリボンに、ロゴが白で印刷された特注品が使われているのが、星海社文庫。
< http://sai-zen-sen.jp/editors/blog/day/post-60.html >

文庫本って、あまり造本に特徴を持ったものは多くないが、これは「小さな愛蔵版」と銘打つだけあって、スピンにまでこだわる様はすばらしい。書店に行くたびに、今月の新刊もあのスピンだよね......と開いて確認しては、キュンとしているのでした。

他にも、色違いのスピンが複数本ついていたり、細いレースがスピンに使われていたり、凧糸みたいのもの、スピンが異常に長いものなど、スピンコレクションは数多あるが、私が知らないすてきスピンがついた本がまだまだあるはず。みなさんがご存知の変わったスピンの本があったら、ぜひおしえてください!

【つだ・じゅんこ】tsuda@graphicsha.co.jp  twitter: @tsudajunko

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