エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[20]城に泊まった話 一匹鰯のジョニー/海音寺ジョー

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◎城に泊まった話

今年の2月、東京に行って城に泊めてもらった。城は城でも、砂の城という、新宿歌舞伎町俳句一家屍派のアジトである。

城主は俳人の北大路翼さん。

昨年の12月に上梓された俳句アンソロジーの『アウトロー俳句』という本の出版記念パーティーに誘ってもらい、宴会後に泊めてもらったのである。

屍派は世界有数の歓楽街、新宿歌舞伎町で俳句を詠む一味で、元々は北大路翼さんと石丸元章さんの二人で始めた俳句の会に、共鳴する人たちが集まっていって一派を築いたのだそうだ。

結社なのかどうかはよくわからない。皆が北大路さんの人柄や言葉に惹かれて集まって来て、結社と呼ぶよりは俳句一家という名がぴったりだと、一夜をともに過ごして確信的に思った。





歌舞伎町のディープゾーンのオアシスという、大人数収容可能のバルで行われたパーティーの時から、バズーカ砲のような仰々しいテレビカメラが追ってた。NHKが北大路さんの長期取材をしているのだった。

砂の城は歌舞伎町の風林会館の近くのテナントビルにある。2階はバーで、3階がバーの休憩室的な絨毯敷きの小部屋、それが砂の城の全貌だった。

もともと美術家の会田誠さんが、前衛芸術会館として所有されてたスペースを、北大路さんが譲り受けられたらしい。

ビルのバーから上への階段はものすごく急だった。そこを登り切ると推定6畳の小部屋があって、ここが砂の城の天守閣なのだ。

天守閣の壁には句会で使ったらしい、ノートの切れ端に俳句が描かれた大きさバラバラの短冊がびっしりと貼られてあった。

その光景は昨年NHKエデュケーショナルのハートネットTVで放送されて、ぼくも昨年暮れにその再放送を、職場の介護施設のリビングのテレビで入居者の婆さんたちと視ていた。

その時から、屍派の句会に憧れを抱いていた。砂の城に行ってみたいと思った。

パーティーの後、二次会、その後わらわらと深夜族が砂の城に集まった。ぼくは長年屍派を撮り続けているカメラマンのレオさんに案内してもらって、早めに奥に陣取ったが、続々とその狭い室内に人が詰め寄せてきて14人ぐらい……もうギチギチだった。そこにNHKのバズーカのようなカメラも入ってきた。

NHKというと、最近は政権寄りの偏向番組ばかり流すのに辟易してたが、このような執念で密着取材を、連休の土曜をつぶして敢行しているセクションもあるのか、と少し見直した。

しかし、狭かった。

NHKの美人ディレクターが「句会しますか?」「句会しますよね」「ね?」と、艦隊司令官のような白装束に身を固めた北大路さんに促した。

パーティーと二次会で喋りまくって疲れてた北大路さんは、気乗りしなさそうだったが、ね、ねと押し込まれて、強靱なサービス精神で「じゃ、やろう!」と一決、句会が始まった。

お題は「歌舞伎町または新宿」だった。用意されてた短冊代わりの紙片が手渡しで配られ、めいめいがたった5分で数句(3〜5句)書き上げて、コンビニのビニール袋に突っ込んで回していき、その袋を渡された五十嵐筝曲さんが、滑舌よく朗々と読み上げていった。

五十嵐さんは俳句アンソロジー『アウトロー俳句』に入集してる句が最多の、アウトロー俳句の名手であった。句会の時は読み上手の筝曲さんが、皆の句を発表するのがならわしなのだった。

それに北大路翼さんが素早く的確な評をして、「はい、この句は誰の?」と手を挙げてもらい、短冊を返していって、全部返されたところでお開きとなった。

その後歓談、というか宴会になり、午前一時前にNHKのカメラが降ろされ取材班が撤収した。酒盛りは続いた。

酔った勢いで、酒が床にこぼれても気にしない。下ネタが主な話題だった。好きな人のウンコは食えるか? というテーマで延々と議論が交わされた。

北大路さんは疲れに負けず、場を盛り上げるサービス精神を漲らせていた。時にはBGMの演歌に合わせて歌い、(村田幸三がお好きらしい)時には書籍化したら発禁必至のジョークを連発し、時には俳句の真面目な話をしてくれた。

屍派の屍はホントに屍になるという意味ではなくて、屍からの再生をめざしてるんだ、と意味のことを北大路さんはハートネットのテレビ番組で話していた。屍という言葉に、そういう意味をかぶせてくるのは俳句だなあと思う。

俳句は、屍派にとって自分を解放するための手段なのだ。

始発の時間が来て、辞去した。16人がその時すし詰めになってて、内5人が寝てて、中央に飲み残しのロング缶と灰皿が置いてある以外、足の、爪先の踏み場すらなかった。起きてる方々は手を振って、またなあ、と言ってくれた。

泊めてくれて有難うございます、とたどたどしく告げて砂の城を後にした。

途中でビニール傘を忘れたことに気づき、引き返した。


◎一匹鰯のジョニー

鰯というのは本来群れで回遊する魚であって、独断で泳ぎ回ることはありえないのだが、鰯の世界にもはぐれ魚(もの)がいて、それがジョニーだった。

ジョニーは海藻やプランクトンを喰らいつつ、細々と生きていたが、そんなヤサ鰯(おとこ)のジョニーには何匹もの固定ファン、グルーピーが存在してて、ジョニーが不定期に訪れる磯酒場カサブランカには、いつもジョニーへの伝言がぶら下がっているのだった。

カララン・・・コロロロンとドアベルが鳴り、久しぶりにジョニーがカサブランカに顔を出した。グラスを拭いていたマスターが、魚眼レンズでジョニーを一瞥してつぶやく。

「よう、ジョニー。まだ生きてたのか?」

ジョニーも鰭(ひれ)を翻(ひるがえ)しながらつぶやく。

「ああ、お互いに長生きしているよな、マスター」

「さっきカタクチ鰯のマリが一時間待ってたって、伝えてくれってよ」

そうかい? とジョニーはマルボロを口に銜(くわ)え、プクプクと煙を鰓(えら)から吐いた。

ジョニーは魚眼を涙で曇らせたが、海中なので誰も気づかなかった。


(付記)北大路翼さんが編纂した『アウトロー俳句』、現在河出書房新社から発売中です。アウトローをテーマに選ばれた、屍派の魅力的な俳句が108句収録されております。もし宜しかったら読んでみて下さい。
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309026411/

【海音寺ジョー】
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