エセー物語(エッセイ+超短編ストーリー)[62]中国語の話 その2
── 海音寺ジョー ──

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◎エッセイ

中国語の話 その2

昨年の秋ぐらいか。テレビが映らなくなったので、ジョーシン電機で録画機能付きテレビを新しく買った。今まで、ビデオのない生活だったので、いきなりテレビライフが充実した。

録画機能を使い『探偵ナイトスクープ』を、約20年ぶりに視聴したら、ほとんど配役が入れ替わっていた。でも相変わらず面白かった。芸能人の俳句のランキングを決める『プレバト!』という番組も、たまに職場で遅番仕事の時にリビングで視る程度だったが、このマシンのおかげで最近は毎週録画して視ている。

金曜深夜ドラマ『恋する母たち』『NHK俳句』『NHK短歌』なども録画して、視てる。『恋する母たち』は終了し、次番組の『俺の家の話』をやはり録画して視ている。ドラマ内でも、登場人物は外に出る時マスクしてて、もうテレビドラマでも、そうしとかないとリアルじゃないんだなーと思った。

テレビで中国語、というEテレ(昔で言うところのNHK教育テレビ)の番組も、自分の中国語学習の一環として良いかも、と録画して視ている。





以前『中国語のはなし』というエッセーを書いた時に、中国語検定3級、次回こそとったる、みたいなことを書いたような記憶があるが、いまだに取れておらず、3級のために今もだらだらと学習を続けているのだった。

中国語に限らず、近年のNHK語学講座はゲスト(生徒役)にタレントを起用していて、かつては外国語に堪能な芸能人をブッキングし視聴率爆上げを狙っていた。その効果があったのかは不明だが、タレントを起用するという路線は継続中のようだ。

今放送してるテレビ中国語講座は、稲葉友さんというハンサム青年がゲストである。友の中国語読みがヨウだからであろう、番組内ではヨウヨウというニックネームで呼ばれている。講師は往年の実力コーチ、陳淑梅(ちんしゅくばい)さんである。

かつてラジオ中国語講座は、頓挫を繰り返しながらも、間欠的に聴き続けてきたので陳淑梅さんの声だけは知っていた。ほぼ初めて視るテレビ講座は、フリートークが多くて、陳淑梅さんの軽快な喋りが随所に織り込まれて、こんな話術の巧みな人だったのか、という発見があった。

ラジオ講座では贅肉を削ぎ落したビンビンの語学指導に徹してて、その魅力に気付けなかった。

さらに意表を突かれたのは、ヨウヨウの不真面目さ加減である。これは視聴者サービスとしての面白さを狙った演技からもしれず、それだったら自分の感想は失礼極まるので反省せねばならない。

陳淑梅先生が「これは来週までの宿題にしますね」と番組をまとめ、次週放送分でヨウヨウが全然覚えて来ておらず「よ、ヨウヨウ、宿題はやりましたか?」と淑梅先生がうろたえながら確認すると、「すみません、全然やってませんでした!」と素直に白状するくだりがあり、ヨウヨウの学習意欲の低さに、いよいよ確信を抱いたのだった。

さらにヨウヨウがやいのやいのと、陳先生やサブコーチの王陽さんに勉強してなさを責められて、「もう、そんなら次回からメモを持ってきておいて、ちゃんと書いておきますよ!」と叫ぶ場面もあり、ヨウヨウが番組収録の時間内においてだけ中国語に触れてるらしいことがその台詞から汲み取れ、語学講座生徒役ゲストとしてヨウヨウよ・・・ホンマに、ホンマにヨウヨウ、それでいいのん? と心配になったほどだった。

しかし、出来の悪い中国語学習者のぼくにとっては、ヨウヨウは極めてありがたい存在であった。かつて、ラジオ講座にも中国語学習中の学生さんが、夏休み特集で臨時に出演することがあったのだが、生徒役として模範的な語学力を有しており、「全然勉強できるやん、この人」と講師の出すテストで5問中5問正解をたたき出す生徒さんに、嫉妬心しかなかった。

ヨウヨウには、ぜひ今のままで貫いてほしい。

番組後半は、色んなミニ企画を展開してて、この前は東京の女装バーへの潜入ルポだった。中国の厳格な家庭で教育を受けた中国人ビジネスマンが、女装することで精神の自由を得るという趣旨だったが、もう中国語とか関係なく、めちゃめちゃ面白いやんと思った。

かくして、テレビ中国語講座がこのような劇的進化を遂げていることが、録画機能付きテレビ購入のおかげで判明したのだった。高い投資だったが、買って良かった。『テレビで中国語』、もし良かったら、読者の皆さんのその目で確かめてみて下さい。関西の方は、『探偵ナイトスクープ』もね。 おわり


◎超短編

テレフォンコール

未練未練、未練未練と着メロが鳴り、受話器をとると12月からだった。

「早いよ、まだ早いよ、原稿がまだ書けてないんだよ」

12月はそんなこと言われてもなあ、と不満げだった。僕は締め切りが気になってしょうがなかったので、12月に僕は間に合わせることが出来たのかよ? と訊くが、12月はだんまりを決めこんで電話を切っちまった。

僕は僕というやつは本当に自分のことばっかりだなあ。たまには相手のことも思いやらないとなあ、とげんなりとした気分になった。待ってたけれど、もうコールは鳴らなかった。

うだつの上がらない日々。出口の見えないトンネル。突破口をきょろきょろと探し続ける執着。もう寝る。翌朝、劫初劫初とLED電球が点滅していて、永遠からの着信履歴だった。


【海音寺ジョー】
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